“ダメージはゼロだ”追放された最強タンクによる勇者育成記

あけちともあき

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ナゾマー大森林編

第56話 えいえい、が通じないだって?

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『勇者よ、力を示せ!』

 スプリガンが襲いかかってきた。
 手にしているものは、巨大な棍棒と盾。
 奇しくも、俺とエクセレンと同じ得物だな。

「いきますよー!」

 エクセレンが駆け出した。
 猪突猛進。
 危ない。

 俺は急いで彼女の後を追う。
 振り回されたスプリガンの棍棒をを、エクセレンは回避する。
 おお、実力が上がっているな。

「行きます! えいえい!!」

 エクセレンが棍棒を叩きつけた。
 神の力を宿した二つのトゲだ。
 地すべりを止めるほどの力を持つトゲが、今度はどんな効果を発揮するのだろうと見ていたら……。

「あれっ!?」

 棍棒のトゲが引っ込み、スプリガンのスネに当たってカツーンと跳ね返った。
 トゲがなくなった!?

「えいえい! だ、ダメです! なんだか通用しません!」

「危ないぞエクセレン! ふんっ!」

 俺はガードムーブで、スプリガンとエクセレンの間に割り込んだ。
 盾が、振り下ろされた巨大な棍棒を受け止める。

「よし。こっちは普通に防げるな。ダメージはゼロだ」

 かなりの衝撃だが、これならまだ全然防げる。
 スプリガンは何度か、俺の盾を棍棒で叩いた。
 そして俺が微動だにしないことを理解すると、巨体に見合わぬ速度で後退した。

 表情が無かったように見えたスプリガンが、俺の顔を目にした直後、驚きを露わにしたようだ。

『お前は……。そうか、奴の血を継いだ者か……! 今度はこちらにつくというのか……!!』

「何の話だ」

「やっぱりのう」

 ディアボラまで訳知り顔だ。
 俺が先代の魔王に似てるとか、そういう話だろうか。
 俺は先祖代々、田舎の村の農民だぞ。

 ひいひいひいひいひい爺さんまで農民で、少なくとも五百年は農民を続けている由緒正しい田舎農民なのだ。
 魔王とかは知らない。

「加勢するぞ! キエエエエエエエッ!!」

 飛び上がったジュウザからぶっ放されるクリティカルヒット。
 これを受けて、さすがのスプリガンも巨体を傾がせた。
 首は……飛ばない。

 こいつもボス級か。
 なるほど、クリティカルヒットは絶対じゃないんだな。

「こやつもか! いやはや、世界は広い! では拙者も、クリティカルヒットを応用した殺さぬクリティカルヒットを編みだす他あるまい!」

「深いことを言い出したな」

「クリティカルヒットは一撃にて断ち切る刃。だが断ち切れねば中途半端な威力の鈍器に堕する。であれば、打撃をクリティカルヒットの鋭さで相手の体内に叩き込むよう繰り出せば……これぞ、クリティカルヒットの先にあるクリティカルヒット」

 何か開眼したようである。
 ガード用に前進する俺と、俺の後ろから飛び出してはスプリガンに打撃を放つジュウザ。
 あるいは、横合いから走ってきてスプリガンのスネを叩くエクセレン。

『良いコンビネーションだ! だが、直接的に過ぎる! これならどうだ!』

 スプリガンの周囲から、風が巻き起こる。
 木の葉が浮かび上がり、それが俺たちの視界を奪うように動き出す。

「木の葉の刃か!! 侵入したものを切り刻むぞ!」

 ジュウザが警戒の声を発する。
 なるほど、これは難しい。
 俺ならガードしながら突っ込めるが、ジュウザとエクセレンがこの中で効果的な打撃を放つことは難しいだろう。

 スプリガンの動きを止めねばならない。
 ディアボラは何か魔法陣を書いているようだが、まだまだ時間は掛かりそうだ……。

「スプリガンのリーフブレードだな。こんなこともあろうかと、用意していていた。これだ!」

 誰もが彼の存在を忘れていた。 
 ウインドだ。
 ナゾマーの民ウインドが、袋の中から砂を掴みだす。

 放たれた砂は、乱舞する木の葉の中に叩き込まれた。
 

『ぬっ!?』

「森の腐葉土に鉄粉を混ぜたものだ。腐葉土は葉に近く、葉は重くなり力を失う。鉄粉は風を受けず、リーフブレードは地に落ちる!」

 ウインドの言葉通りの事が起こった。
 一瞬で、リーフブレードとか呼ばれた葉っぱの嵐が収まり、地面に落ちた土と鉄粉によって刻まれたのか、ボロボロになった葉の姿がある。

『見事……!』

 この瞬間、スプリガンの目はウインドに注がれていた。
 その頭部を目掛けてジュウザが、足を目掛けてエクセレンが攻撃を放っている。

「キエエエエエエッ!!」

「えいやーっ!!」

 ジュウザの打撃がスプリガンの首に叩き込まれ、その巨体を真横に吹き飛ばした。
 同時に、エクセレンの棍棒がスプリガンの足首を叩き折っている。

『ウグワー!!』

 スプリガンが大地に転がった。
 勝利である。

 首には深い亀裂が走っている。

「掴んだ! クリティカルヒットを撃ち抜かず、撃ちつける!! 名付けてフェイタルヒット!」

「開眼したか。それからエクセレンもよくやったなあ」

「はい! ええとですね、最近トゲとか光るのに頼り切りだったので、マジックミサイルで加速して思いっきり同じところを叩きまくったんです! やっぱり基礎は大切ですねえ……」

 エクセレンも着実に成長しているのだ。
 ディアボラは魔法陣完成前に何もかも終わったのだが、まだカリカリと魔法陣を描いている。

「何かに使えるかもしれんのじゃー」

「確かにな。それとウインド! お前さん、凄かったな!」

「ああ、いやいや。俺はスプリガンを調べてあったから、対抗策を用意していただけのことなんだ。物語を覚えていれば、伝説に備えられる、というやつだ。お前たちは本当に凄い。肉弾戦でスプリガンに勝ってしまうのだから。俺は足止めや妨害はできても、勝つことは叶わなかった」

「いや、凄い。お前さんは凄い実力を持っている。どうだ、俺たちと一緒に来ないか?

「俺がか……!?」

 ウインドは目を丸くした。
 だが、俺は本気でこの男を仲間にしたいと思っているぞ!


パーティー名『エクセレントマイティ』
ランク:A
構成員:四名

名前:エクセレン
職業:エクセレントファイター
Lv:33→35
HP:351→373
MP:260→276
技 :魔技ミサイルスピン クイックドロー バックスタブ パイルバンカーブロウ
エンタングルブロウ
魔法:マジックミサイル(中級):派生ドリルマジックミサイル(中級) ヒール(中級) ライト(中級)
覚醒:シャイニング棍棒 グランド棍棒インパクト2 シャイニング斬 シャイニングアロー
武器:聖なる棍棒(第二段階) 星のショートソード 鋼のトマホーク ハルバード
 ガイストサーベル 帝国の弓矢 魔王星の欠片
防具:チェインメイルアーマー(上質)


名前:マイティ
職業:タンク
Lv:87
HP:1250
MP:0
技 :ガード強化(特級) カバーガード(特級) エリアガード(特級)
   マジックガード(特級) マインドガード(特級) パリィ(特級)
   ガードムーブ(特級) ヘイトコントロール(特級) マッチング(中級)
   ベクトルガード(初級)
魔法:なし
覚醒:フェイタルガード ディザスターガード2
武器:なし
防具:熟練のプレートアーマー、??のビッグシールド、星のマント


名前:ジュウザ・オーンガワラ
職業:ニンジャ(オーンガワラ流アークニンジャ)
Lv:84
HP:680
MP:535
技 :クリティカルヒット(特級) デックスアーマークラス(特級) ラビットムーブ(特級) フェイタルヒット(中級)
   シュリケンスロー(特級) ハイド&シーク(特級)
魔法:カトン(特級) スイトン(特級) ドトン(特級)
覚醒:クリティカルヒット(極)
武器:投擲用ダガー、星のダガー
防具:なし


名前:ディアボラ
職業:アークメイジ
Lv:154
HP:490
MP:2600
技 :テレポート
魔法:(一部のみ記載)ヒーリングサークル ウォーブレス ステイシスサークル
 メテオフォール ライジングメテオ ボルカニックゲイザー 
 ツイスター メイルシュトローム ランドスライダー
覚醒:魔法儀式行使
武器:儀式用ダガー
防具:魔将のローブ(サイズSS)、星の帽子


名前:ウインド
職業:アルケミスト・レンジャー
Lv:41
HP:250
MP:0
技 :調合
魔法:なし
覚醒:なし
武器:弓矢 ダガー 小型ハンマー くさび
防具:レザーアーマー
道具:採集道具 調合道具 ウインドの記録帳
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