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ナゾマー大森林編
第55話 スプリガンに会いに行く
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ジュウザの兵糧丸を、ナゾマーの民たちが食べて意外に好評だったりした。
「薬草の丸薬に、腹が膨れるものが混ざっている」
「こんなに食べやすいのは凄い」
「そうであろうそうであろう。拙者も味付けには苦労した」
打ち解けている……。
「ジュウザが凄く嬉しそう! 理解者ですもんねー」
こちらも、兵糧丸の味は分からないエクセレン。
世界は広いものだ。
ジュウザは兵糧丸のレシピを教える替わりに、ナゾマーの集落に伝えられている肉を使った丸薬のレシピを教わっていたようである。
魚でも代用できる、とか言っていた。
どうやら森では川魚もよく獲れるらしく、これを使って保存食としての丸薬にする。
薬草や香草と一緒に練りこめば保存も効くし、そのまま食べられる味付けにもなるんだそうだ。
これは美味しそうだな。ぜひ食べてみたい。
「そろそろいいか。スプリガンを見に行こう」
ウインドが出てきた。
彼は何やら、全身に袋を装備している。
「その袋はなんなんだ?」
「スプリガンが出てきたら、逃げられるようにするための備えだ。こちらは目くらましの妖精の粉。こちらは地面をぬかるみに変えるノームの粉。こちらは……」
どんどん出てくる、怪しい粉。
聞けば、ウインドはこういうのを作るのの専門家らしい。
もともとは古代に存在していた、エルフの魔法を研究していたそうだ。
だが、これを魔法として再現することが困難であることを実感。
次に、エルフの魔法は特定のモノを組み合わせることで再現できることを発見したそうなのである。
「面白いやつじゃのう! 全く魔法は使えないっぽいし、弓の腕も凡百くらいじゃと思っておったら、お前は錬金術師じゃったか!」
「錬金術師? よく分からないな」
ナゾマーの民には存在しない言葉だったらしい。
こうして俺たちは、ウインドに案内されて森の教会へ向かった。
ナゾマーの森はとても広い。
その広い森の中に、集落が幾つも点在しているのだ。
そしてどこかに、これらの集落を統率する存在がいるのだと言う。
彼が一声掛ければ、ナゾマーの民は一斉に動き出す。
幼い頃からそういう訓練をされている。
森の集落が王国と呼ばれていたのは、大森林を開拓しようと近隣の国家が攻めてきた時、民が一つになって撃退したからだそうだ。
統率の取れたその姿に、森の外の人々は森に王国があるのだと噂しあった。
「ひょっとすると、その統率者はエルフの生き残りかもしれんのじゃ。あやつら、寿命がないからの」
「ナゾマー大森林は不思議がいっぱいだな……。俺はちょっとワクワクして来たぞ」
「そうか、マイティは冒険者であったな」
ジュウザに言われて思ったのだが、このパーティーで冒険者らしい冒険者は俺だけじゃないか。
エクセレンは勇者で、魔王を倒すために旅をしているし、ジュウザは求道精神に満ちたニンジャだ。
ディアボラはそもそも旅をするタイプではない魔法使いだ。
「もともと、外の広い世界が見たくて村を飛び出したからな。いつからか、生活に追われて最初の頃の気持ちを失っていたよ。今は久しぶりにワクワクしている」
「ワクワクか。スプリガンは恐ろしいと言うのに、恐れ知らずと言うか、頼もしいと言うか」
ウインドが目を丸くしていた。
彼に案内されて森を駆けると、獣道ばかりの森林が、まるで舗装された道路のように歩きやすい。
民が歩いた跡があり、後に道を行く者も同じルートをたどるらしい。
そうして踏み固められた場所は、固くなり、歩くのが容易になる。
「周囲が草や腐葉土で覆われているから分からない。足を下ろすべき場所に置けば、森の中も歩きやすい」
ウインドはそう言いながら、一歩一歩、どこに足を下ろすかをレクチャーしてくれた。
レンジャーとしても能力があるんだろうな。
冒険者のセンスがあると思うのだが、どうだろう。
錬金術師でレンジャーなんて、森の中では半分もその能力を活かせないだろう。
「いたぞ」
「いるな」
ウインドとジュウザが同時に、そいつの存在を察知した。
森の中を縫うように、深緑色の影が歩いてくる。
蔦の這いずる甲冑に、苔むした肌をした岩石のような巨人。
あれがスプリガンか。
「あっ、なんかシンパシーみたいなの感じます!」
「エクセレンがそういうのを覚えるということは、神の眷属かも知れないな」
話せば分かるかも、と俺は考えた。
「よし、俺がエクセレンを連れて話に行ってみよう」
「危ないぞ!」
「ウインドが心配してくれるのはありがたいが、危険から遠ざかるようにばかりしていては魔王は倒せないからな! なので、明らかにヤバそうなことがあったら、俺は一歩前に踏み出すことにしている」
「そうです! マイティはすごいんです!」
「エクセレンもな」
「えっ、そうですか! えへへ!」
ということで。
二人で前に出ていくのだ。
スプリガンはすぐに俺たちに気付くと、唸り声を上げた。
「勇者です!!」
エクセレンが棍棒を掲げる。
そこから生える、神々しい二本のトゲ。
スプリガンは目を見開いてこれを見ていたようである。
『勇者か。では、力を試さねばならない』
「あれ? 平和的に終わらなそうな予感です」
「ほらあー!」
キョトンとするエクセレンに、後ろからウインドの叫び声が聞こえてくるのだった。
「薬草の丸薬に、腹が膨れるものが混ざっている」
「こんなに食べやすいのは凄い」
「そうであろうそうであろう。拙者も味付けには苦労した」
打ち解けている……。
「ジュウザが凄く嬉しそう! 理解者ですもんねー」
こちらも、兵糧丸の味は分からないエクセレン。
世界は広いものだ。
ジュウザは兵糧丸のレシピを教える替わりに、ナゾマーの集落に伝えられている肉を使った丸薬のレシピを教わっていたようである。
魚でも代用できる、とか言っていた。
どうやら森では川魚もよく獲れるらしく、これを使って保存食としての丸薬にする。
薬草や香草と一緒に練りこめば保存も効くし、そのまま食べられる味付けにもなるんだそうだ。
これは美味しそうだな。ぜひ食べてみたい。
「そろそろいいか。スプリガンを見に行こう」
ウインドが出てきた。
彼は何やら、全身に袋を装備している。
「その袋はなんなんだ?」
「スプリガンが出てきたら、逃げられるようにするための備えだ。こちらは目くらましの妖精の粉。こちらは地面をぬかるみに変えるノームの粉。こちらは……」
どんどん出てくる、怪しい粉。
聞けば、ウインドはこういうのを作るのの専門家らしい。
もともとは古代に存在していた、エルフの魔法を研究していたそうだ。
だが、これを魔法として再現することが困難であることを実感。
次に、エルフの魔法は特定のモノを組み合わせることで再現できることを発見したそうなのである。
「面白いやつじゃのう! 全く魔法は使えないっぽいし、弓の腕も凡百くらいじゃと思っておったら、お前は錬金術師じゃったか!」
「錬金術師? よく分からないな」
ナゾマーの民には存在しない言葉だったらしい。
こうして俺たちは、ウインドに案内されて森の教会へ向かった。
ナゾマーの森はとても広い。
その広い森の中に、集落が幾つも点在しているのだ。
そしてどこかに、これらの集落を統率する存在がいるのだと言う。
彼が一声掛ければ、ナゾマーの民は一斉に動き出す。
幼い頃からそういう訓練をされている。
森の集落が王国と呼ばれていたのは、大森林を開拓しようと近隣の国家が攻めてきた時、民が一つになって撃退したからだそうだ。
統率の取れたその姿に、森の外の人々は森に王国があるのだと噂しあった。
「ひょっとすると、その統率者はエルフの生き残りかもしれんのじゃ。あやつら、寿命がないからの」
「ナゾマー大森林は不思議がいっぱいだな……。俺はちょっとワクワクして来たぞ」
「そうか、マイティは冒険者であったな」
ジュウザに言われて思ったのだが、このパーティーで冒険者らしい冒険者は俺だけじゃないか。
エクセレンは勇者で、魔王を倒すために旅をしているし、ジュウザは求道精神に満ちたニンジャだ。
ディアボラはそもそも旅をするタイプではない魔法使いだ。
「もともと、外の広い世界が見たくて村を飛び出したからな。いつからか、生活に追われて最初の頃の気持ちを失っていたよ。今は久しぶりにワクワクしている」
「ワクワクか。スプリガンは恐ろしいと言うのに、恐れ知らずと言うか、頼もしいと言うか」
ウインドが目を丸くしていた。
彼に案内されて森を駆けると、獣道ばかりの森林が、まるで舗装された道路のように歩きやすい。
民が歩いた跡があり、後に道を行く者も同じルートをたどるらしい。
そうして踏み固められた場所は、固くなり、歩くのが容易になる。
「周囲が草や腐葉土で覆われているから分からない。足を下ろすべき場所に置けば、森の中も歩きやすい」
ウインドはそう言いながら、一歩一歩、どこに足を下ろすかをレクチャーしてくれた。
レンジャーとしても能力があるんだろうな。
冒険者のセンスがあると思うのだが、どうだろう。
錬金術師でレンジャーなんて、森の中では半分もその能力を活かせないだろう。
「いたぞ」
「いるな」
ウインドとジュウザが同時に、そいつの存在を察知した。
森の中を縫うように、深緑色の影が歩いてくる。
蔦の這いずる甲冑に、苔むした肌をした岩石のような巨人。
あれがスプリガンか。
「あっ、なんかシンパシーみたいなの感じます!」
「エクセレンがそういうのを覚えるということは、神の眷属かも知れないな」
話せば分かるかも、と俺は考えた。
「よし、俺がエクセレンを連れて話に行ってみよう」
「危ないぞ!」
「ウインドが心配してくれるのはありがたいが、危険から遠ざかるようにばかりしていては魔王は倒せないからな! なので、明らかにヤバそうなことがあったら、俺は一歩前に踏み出すことにしている」
「そうです! マイティはすごいんです!」
「エクセレンもな」
「えっ、そうですか! えへへ!」
ということで。
二人で前に出ていくのだ。
スプリガンはすぐに俺たちに気付くと、唸り声を上げた。
「勇者です!!」
エクセレンが棍棒を掲げる。
そこから生える、神々しい二本のトゲ。
スプリガンは目を見開いてこれを見ていたようである。
『勇者か。では、力を試さねばならない』
「あれ? 平和的に終わらなそうな予感です」
「ほらあー!」
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