“ダメージはゼロだ”追放された最強タンクによる勇者育成記

あけちともあき

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ナゾマー大森林編

第52話 ナゾマー大森林はとんでもなく広い

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 ライトダーク王国を旅立ち、一週間ほど旅をした。
 保存食なんて当然尽きるので、狩りをしながら過ごすわけだ。

 うちはジュウザがいるし、エクセレンが弓の扱いに長けているし、ディアボラは儀式魔法でパンを召喚するなどできたので、全く飢えることは無かった。
 便利過ぎる。

「よし、風呂を召喚したのじゃー!」

「うおー」

 風呂召喚魔法を使ってもらい、道端に風呂を作る。
 ここに交代交代で入るのだ。
 他の三人が見張りをしているので、危険もない。

 そういうわけで、森の王国へと向かう旅路は順調そのものだった。

「ああー気持ちいいですねえー」

 エクセレンが湯船の中で、とろけた声を出している。
 旅の途中だと言うのに、毎日風呂に入れる。
 儀式魔法様様だな。

「こうしてお湯に浸かって星空を眺めていると、なんだか不思議な気分になってきますねえ。こうやって勇者として旅をしてるのが、夢の中みたい」

「現実だからな。俺も、お前さんと出会ってからの日々が毎日楽しくてな。現実は捨てたものじゃないよな」

「ほんとです! あ、マイティも一緒に入ればいいじゃないですか! 一緒に星空見ましょう!」

「風呂のスペースがな! 俺が入るとぎゅうぎゅうだからな」

「そうですかあ、残念。今度はもっと大きいお風呂を召喚してもらおう……。……あれ? 星の数が減ってる」

 エクセレンが妙なことを言い出した。

「雲に隠れてるんじゃないのか?」

「いいえ。あれはほら、ディアボラが魔将星って言ってた星ですよ。確か八つあったのが、七つになってます!」

「ふんふん、じゃあ一個、地上に降りてきたのかも知れんな。案外、俺たちが行く先で出くわすかもしれないぞ」

「かもしれないですねえー」

 のんきな話をするのだった。
 その後、ジュウザが狩ってきた獣を焼いて食事にしたのである。

 これが五日目くらいのこと。
 そして一週間。

 とうとう、森が見えてきた。
 森と言うか、視界の隅まで木々がみっしりと詰まっている。
 木しか見えない。

「うわあ、広いですね!!」

「ナゾマー大森林だな。拙者もここから先に行ったことはない」

「物知りなジュウザが知らないということは、ここから未知の世界か」

「千年前もこの森はあったのじゃ! めちゃめちゃ広いから、魔将一人じゃ全然支配できなかったのじゃ」

「ディアボラは詳しいのか?」

「千年前も、ここに大きな王国があったのは覚えているのじゃ。森の王国とやらはそれと一緒なのかのう」

 よくは分からないらしい。
 ふむ、では入ってみれば分かるだろう。

 俺たちはナゾマー大森林に踏み入ることにした。
 まず最初に。

「暑い!」

 エクセレンの感想が全てを表しているな。
 俺を除く全員が、鎧や分厚い上着を脱ぐことになった。

「袖は長袖でいた方が良い。有害な虫などが多数存在しているはずだ」

 ジュウザの注意があるので、念のために長袖。

「マイティはよく鎧着たままでいられますねえ」

「俺は暑さや寒さもガードできるからな」

「相変わらず常識の域を越えたガード能力だ」

 ということで、俺の鎧にくっつきながら歩くとひんやりして涼しいということにみんな気付いたようだ。
 密集して、ナゾマー大森林を行くのである。

 森林は暑くて湿気が高く、そういう気候だからか多彩な植生を見かけることができた。
 食べられそうなものも多いんじゃないか。

「知識が無ければ、森の中などは緑の砂漠と言われるようなものだ。だが、知識と火があれば食べるものには困らなくなるであろうな」

「ほう、では食料についてはジュウザに任せれば」

「うむ。問題ない」

 頼りになる男である。

「ボクだって負けませんよ! 矢を何本か作っておいたんですから!」

「エクセレンの弓の腕もなかなかだもんな」

 野宿などにめっぽう強い俺たちなのだ。

「しかしまあ、明らかに道なき道じゃないか。こんなところに王国なんてものが本当にあるのか?」

「マイティ、よく足元を見てみるのだ。獣道に見せかけて、人が踏みしめて歩いた道になっている。拙者はここを選んで進むようにしているのだ。つまり、森の王国が定めたルールのようなものが分かれば、ナゾマー大森林を通過できるということであろう」

「なるほど……。俺はまた、森の王国はここに他人を入れたくないんじゃないかと思ってた」

「それはあるであろうな。故に、大森林を抜けた先にあるという橋の王国の話を聞くことがほとんどない。誰もそこまで辿りつかぬからだ。これは、森の王国が他人を歓迎しなくなったからなのかも知れんな」

 橋の王国があるってことは、そこを通ってノウザーム大陸へ旅する者たちがいたということだ。
 だが、その橋の王国の話が聞こえて来ず、俺もエクセレンも、ノウザーム大陸なんてものはほぼ知らなかったのを考えると……。

「森を抜けて橋の王国に向うルートは、今じゃ使われてないってことか」

「そうなる。それどころか、人はサウザーム大陸だけで暮らし、外の世界に出ることを止めていたことになるな。何故、森の王国は他者の侵入を拒むようになったのであろうな」

 色々と謎に満ちた話だ。
 だが、行ってみれば分かる。

 俺たちは危険なはずの大森林を、無尽の荒野を行くが如く突っ切って行っているからだ。
 森の王国の者が潜んでいるなら、俺たちを無視するはずがない。

 予想通り、反応がすぐにやって来た。
 横合いから、ヒュッと音がする。

「ふんっ」

 俺は音がしたものを受け止めた。
 矢だ。

「いきなり矢を放ってきたな。手荒い歓迎だ。だが、森の王国への案内人が出来たぞ。ジュウザ、頼む」

「うむ、捕まえて来るとしよう」

 我がパーティーのニンジャが駆け出した。

「森の王国ってどんなのなんでしょうねえ」

「美味しいものがあるといいのじゃー」

 もう完全に、森の王国に行くことが確定したノリでお喋りを始める俺たちなのだった。

 
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