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第38話 勇者の旅立ち、遠く山を超えて
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「エクセレン! なんでお前が勇者なんてことをしなくちゃいけないんだよ!?」
「ボクはもう勇者として活動しているので! その段階はかなり前に通過したので!」
キョウとしては、エクセレンを村に留め置きたいのだろうが……。
彼女が村を飛び出す前に捕まえておかなきゃいかんよな。
「少年、いささか遅かったな。人生ってのはそういう取り返しがつかないものが結構あるんだ。チャンスってのはな、大概自分にとってかなり都合が悪い時にやって来る」
「な、なんだよ知った風に!」
「俺はお前さんより多少年を食ってるからな。知ってることがちょっとだけ多いんだ。で、年は近くてもエクセレンはお前さんよりも先に行っちまった。まだまだずんずんと進み続けているから、追いかけるのはかなりきついぞ。頑張れ」
キョウの肩をバンバン叩いたら、彼がよろけた。
「く、くっそー! 絶対に見返してやる!!」
「その意気その意気。わはははは」
いい少年じゃないか。
男ってのはガキの頃、好きな女にわざと意地悪したりするからな。
だが、その時の汚名をさっさと返上しておかないと、意中の女に限って縁が無くなったりするものだ。
「早く行きましょ、マイティ! 次は山を超えるんでしょ?」
エクセレンは故郷を振り返りもしない。
そこには、彼女にとって必要なものがもう何もないからだ。
前だけ見て進んでいるな。
後ろを振り返ったり、懐かしく思ったりするのは、まああと十年経ってからでもいいもんな。
「じゃ、そういうことで。エクセレンは連れて行くぜ。魔王と手下のモンスターに気をつけるんだぞ」
俺の言葉に、村人たちが神妙に頷く。
崩れた教会から出てきたエクセレンが、棍棒に神の祝福を授かったのを目にしていたのである。
これで、村人たちはエクセレンが言っていたことが真実なのだと知ったのだ。
他の村人には一声も掛けないあたり、神様というのも気まぐれと言うか何と言うか。
「あまり美味いものはない村じゃったな」
「一般的な村というものはそういうものだ」
「お前さんたちもなかなか失礼な事を言っているな」
だが確かに、名物と言えるものは特に無い村だった。
丘の上にあるから、見晴らしがいいくらいだろうか。
ずんずんと丘を下り、遠くに見える山へと向かう。
その途中で、ディアボラが口を開いた。
「ところであの教会じゃが、恐らく千年前からある代物じゃな。似たようなものを真の魔王様のお供をしておった時、見たことがある」
「ほう! で、その真の魔王とは何だ」
「わしが仕えた魔王様こそが真の魔王様じゃ。今の魔王なぞ、ただの魔王で良いわ。それでな」
ディアボラは、空中にぐるぐると指で絵を書く仕草をする。
「あれは、神の加護が強いところでな。モンスターどもの攻撃では崩せんかったのじゃ。真の魔王様はなぜか、捨て置けと仰られてな。あれはつまり、未来のことを見通しておったのじゃろうかのう」
「よく分からんな」
「昔の魔王が、ボクに協力してくれたってことですか? マイティに似てたそうだし、不思議ですねー」
本当だよ。
というか俺に似てたってなんだそれは。
俺はエクセレンよりも田舎にある小さな村の、農民の息子だぞ。
フェイクは郷士の子だったから、俺よりは地位が高いのだよな。
「今となっては、その真の魔王もおらぬであろう。神ならぬ、魔王ならぬ拙者らには分からぬよ」
ジュウザがまとめて、この話は終わりになった。
そういう他愛もない話をしつつ、一度野宿をする。
やがて、越えるべき山が見えてきた。
「あっ、山の上に何かいますよ!」
エクセレンが指差した。
ほんとだ。
でかいのがいる。
『わーっはっはっはっはっは!! 俺様は山を支配するトロル! こんな時期に山登りをしようとする人間よ! 山崩れを起こして埋めてくれるわ!! そーれ!!』
常人の三倍くらいのでかさがある巨人は、大地を叩いた。
すると、山の外壁がガラガラと崩れ、こちらに向かって押し寄せてくる。
「これは少々まずいな! マイティ。お主、やれるか?」
「もちろんだ! これは割と慣れている方でな。ふんっ!!」
山崩れがぶつかってくる瞬間、盾を構えて踏ん張る。
すると、崩落してきた土や岩が俺の盾で分断された。
「ひょー! 山崩れが真っ二つになったのじゃ!」
「では進んでいくから俺の後に続いてくれー」
「はーい」
「山崩れを切り裂きながら突き進むというのは豪快なものだな……」
俺たちはずんずんと山を登っていった。
焦ったのは、トロルと名乗る巨人である。
『ば、バカなーっ!! 一体何をやっているのか分かっているのかお前ー!! たかが人間が大自然の脅威に盾一つで抗うとか! あり得ん!!』
「お前さんが起こした山崩れだろうが。ジュウザ、エクセレン、頼むぞ」
「心得た」
「行きます! シャイニングアロー!」
「キエエエエエッ!」
俺の肩に乗ったエクセレンが輝く矢を放ち、高く跳躍したジュウザが蹴りを放つ。
『ウグワーッ!!』
トロルの首が飛び、その頭には輝く矢が突き刺さって消滅させた。
頭部を失った胴体が、ずずーんっと倒れる。
「やりました!」
「やり過ぎなくらいやったな」
「いやいや。トロルは凄まじい再生能力を持っておるのじゃ。首を飛ばしても、夜になれば勝手にくっついておるのじゃ! 命を幾つか持っておるのじゃな。じゃが、こうして首を飛ばした上で消滅させてしまえば死ぬ。的確な対処方法なのじゃー」
エクセレンとジュウザに向けて、ディアボラが説明してくれた。
なるほど、恐ろしいモンスターもいたものだ。
ジュウザのクリティカルヒットでも、一撃では決定打にならないモンスターというわけか。
「世界は広いな……!」
ジュウザはとても嬉しそうに、目をキラキラさせているのだった。
さあて、障害は取り除いた。
サクサクと山越えしていこう。
「ボクはもう勇者として活動しているので! その段階はかなり前に通過したので!」
キョウとしては、エクセレンを村に留め置きたいのだろうが……。
彼女が村を飛び出す前に捕まえておかなきゃいかんよな。
「少年、いささか遅かったな。人生ってのはそういう取り返しがつかないものが結構あるんだ。チャンスってのはな、大概自分にとってかなり都合が悪い時にやって来る」
「な、なんだよ知った風に!」
「俺はお前さんより多少年を食ってるからな。知ってることがちょっとだけ多いんだ。で、年は近くてもエクセレンはお前さんよりも先に行っちまった。まだまだずんずんと進み続けているから、追いかけるのはかなりきついぞ。頑張れ」
キョウの肩をバンバン叩いたら、彼がよろけた。
「く、くっそー! 絶対に見返してやる!!」
「その意気その意気。わはははは」
いい少年じゃないか。
男ってのはガキの頃、好きな女にわざと意地悪したりするからな。
だが、その時の汚名をさっさと返上しておかないと、意中の女に限って縁が無くなったりするものだ。
「早く行きましょ、マイティ! 次は山を超えるんでしょ?」
エクセレンは故郷を振り返りもしない。
そこには、彼女にとって必要なものがもう何もないからだ。
前だけ見て進んでいるな。
後ろを振り返ったり、懐かしく思ったりするのは、まああと十年経ってからでもいいもんな。
「じゃ、そういうことで。エクセレンは連れて行くぜ。魔王と手下のモンスターに気をつけるんだぞ」
俺の言葉に、村人たちが神妙に頷く。
崩れた教会から出てきたエクセレンが、棍棒に神の祝福を授かったのを目にしていたのである。
これで、村人たちはエクセレンが言っていたことが真実なのだと知ったのだ。
他の村人には一声も掛けないあたり、神様というのも気まぐれと言うか何と言うか。
「あまり美味いものはない村じゃったな」
「一般的な村というものはそういうものだ」
「お前さんたちもなかなか失礼な事を言っているな」
だが確かに、名物と言えるものは特に無い村だった。
丘の上にあるから、見晴らしがいいくらいだろうか。
ずんずんと丘を下り、遠くに見える山へと向かう。
その途中で、ディアボラが口を開いた。
「ところであの教会じゃが、恐らく千年前からある代物じゃな。似たようなものを真の魔王様のお供をしておった時、見たことがある」
「ほう! で、その真の魔王とは何だ」
「わしが仕えた魔王様こそが真の魔王様じゃ。今の魔王なぞ、ただの魔王で良いわ。それでな」
ディアボラは、空中にぐるぐると指で絵を書く仕草をする。
「あれは、神の加護が強いところでな。モンスターどもの攻撃では崩せんかったのじゃ。真の魔王様はなぜか、捨て置けと仰られてな。あれはつまり、未来のことを見通しておったのじゃろうかのう」
「よく分からんな」
「昔の魔王が、ボクに協力してくれたってことですか? マイティに似てたそうだし、不思議ですねー」
本当だよ。
というか俺に似てたってなんだそれは。
俺はエクセレンよりも田舎にある小さな村の、農民の息子だぞ。
フェイクは郷士の子だったから、俺よりは地位が高いのだよな。
「今となっては、その真の魔王もおらぬであろう。神ならぬ、魔王ならぬ拙者らには分からぬよ」
ジュウザがまとめて、この話は終わりになった。
そういう他愛もない話をしつつ、一度野宿をする。
やがて、越えるべき山が見えてきた。
「あっ、山の上に何かいますよ!」
エクセレンが指差した。
ほんとだ。
でかいのがいる。
『わーっはっはっはっはっは!! 俺様は山を支配するトロル! こんな時期に山登りをしようとする人間よ! 山崩れを起こして埋めてくれるわ!! そーれ!!』
常人の三倍くらいのでかさがある巨人は、大地を叩いた。
すると、山の外壁がガラガラと崩れ、こちらに向かって押し寄せてくる。
「これは少々まずいな! マイティ。お主、やれるか?」
「もちろんだ! これは割と慣れている方でな。ふんっ!!」
山崩れがぶつかってくる瞬間、盾を構えて踏ん張る。
すると、崩落してきた土や岩が俺の盾で分断された。
「ひょー! 山崩れが真っ二つになったのじゃ!」
「では進んでいくから俺の後に続いてくれー」
「はーい」
「山崩れを切り裂きながら突き進むというのは豪快なものだな……」
俺たちはずんずんと山を登っていった。
焦ったのは、トロルと名乗る巨人である。
『ば、バカなーっ!! 一体何をやっているのか分かっているのかお前ー!! たかが人間が大自然の脅威に盾一つで抗うとか! あり得ん!!』
「お前さんが起こした山崩れだろうが。ジュウザ、エクセレン、頼むぞ」
「心得た」
「行きます! シャイニングアロー!」
「キエエエエエッ!」
俺の肩に乗ったエクセレンが輝く矢を放ち、高く跳躍したジュウザが蹴りを放つ。
『ウグワーッ!!』
トロルの首が飛び、その頭には輝く矢が突き刺さって消滅させた。
頭部を失った胴体が、ずずーんっと倒れる。
「やりました!」
「やり過ぎなくらいやったな」
「いやいや。トロルは凄まじい再生能力を持っておるのじゃ。首を飛ばしても、夜になれば勝手にくっついておるのじゃ! 命を幾つか持っておるのじゃな。じゃが、こうして首を飛ばした上で消滅させてしまえば死ぬ。的確な対処方法なのじゃー」
エクセレンとジュウザに向けて、ディアボラが説明してくれた。
なるほど、恐ろしいモンスターもいたものだ。
ジュウザのクリティカルヒットでも、一撃では決定打にならないモンスターというわけか。
「世界は広いな……!」
ジュウザはとても嬉しそうに、目をキラキラさせているのだった。
さあて、障害は取り除いた。
サクサクと山越えしていこう。
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