“ダメージはゼロだ”追放された最強タンクによる勇者育成記

あけちともあき

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第36話 田舎の村にてエクセレンはどうやらモテていたらしいぞ

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「あー、見えてきてしまいました。あそこがボクの村です」

「ほう、森の中の村か」

 森に包まれた小高い丘の上に村はあった。
 周囲は、獣の侵入を防ぐための柵で囲まれている。

 それなりに広い畑も柵で覆ってあるから、どうやら獣はしょっちゅう侵入して作物を食い荒らそうとするのだろう。
 そしてそれらを撃退するために、エクセレンは弓の腕を磨いたと。

 魔王が来るまでは平和な時代だったとは言え、獣や、たまにはモンスターだって襲撃してくるだろう。
 入口近くには見張りの櫓が設けられ、そこにいる村人が俺たちを発見したようである。

 カンカンカン、と鐘が鳴らされる音が響き渡る。
 襲撃だとでも思ったのかな?

「マイティは目立ちますからねー」

「うむ。フル武装の大男がやって来たら、誰だって警戒するだろうな」

「違いないのじゃ! じゃが、目立つからお前は盾に向いてるわけじゃしなー」

「そんなもんか」

 すぐに、武装した村人が柵の中から飛び出してきた。
 弓矢を俺に向けて構えているな。

「止まれ! 誰だお前たちは!!」

「俺たちは冒険者パーティーエクセレントマイティだ。うちのメンバーが里帰りするってんでついてきた」

「里帰り!?」

「ボクですけど」

 ちょっとむっとした感じのエクセレンが出てきた。
 こんな不機嫌そうな彼女は初めて見るな。
 故郷にいい思い出がないようだ。

「お、お、お前、エクセレンか!? えっ!? 生きていたのか! というか村を飛び出してから一回りくらい大きくなってない……!?」

「エクセレンが帰ってきた!?」

「こんないかつい仲間を連れて!?」

「いや、小さい女の子もいるぞ」

 小さい女の子呼ばわりをされて、ディアボラが「わしのことかーっ!!」と飛び跳ねて抗議した。

 しかし、流石は山奥の村だ。
 村人全員がエクセレンをすぐに見分けた。

 みんな顔見知りだものな。

「マジかよ……。エクセレン、お前やっぱり勇者なんてバカなものにはなれないと思って戻ってきたんだな……? えっ!?」

 エクセレンと同い年くらいの体格のいい少年が、弓を下ろしながら前に出てきた。
 そして目を丸くする。

「その凄い鎧なに……。なんで棍棒とか立派な弓矢とかすげえ槍とか背負ってるの……」

「ボクは勇者として絶賛活動中なの!! 今回は国の外に出るから、ついでで寄っただけ! すぐ帰るからね!」

 ですます口調じゃない!
 新鮮だ。

「お、おう……。そ、それで後ろの奴らがお前の仲間かよ?」

 少年は生意気そうな目を俺に向けてくる。
 エクセレンをちらっと見てから、俺を睨んでいるな。

「そうだよ! 特にマイティ! ボクを助けてくれたんだ。ボクの大切な恩人で、師匠みたいな人だよ!」

「はっはっは、それは買い被り過ぎだろう」

「ええー! マイティがいなかったらボクは死んでます! もうもう、全部マイティのお陰ですよー!」

 少年が、俺の腕に絡んできたエクセレンを見ながら、わなわなと震えた。

「お、お、お、お前ぇっ!!」

「なんだ?」

 人を指差しながらお前と呼ぶのはいかがなものか。
 大柄とは言え、俺より頭一つ小さい少年を見下ろす。

「エクセレンをたぶらかしやがったな! 都会には悪い男がいて、田舎から出てきた女を騙すって聞いた! お、お、俺と勝負だあ!!」

「いいぞ」

 俺は元気な少年は大好きである。
 力試しを所望するなら付き合ってやろう。

 ということで。

 エクセレンが帰ってきたということに、村人たちが驚く間もなく……。
 俺vs村の少年という試合が始まってしまったのである。

 俺はフェアに勝負するため、鎧と武器を脱ぎ捨ててある。

「あの少年はエクセレンの友達なんだな」

「友達なんかじゃありません! あいつはキョウって言うんですけど、ボクが勇者だって言ったら、『お前なんかに務まるもんか! 弱っちいエクセレンは村に残ってろ! ずっと俺が守ってやる!』なんてひどいこと言うんですよ!」

「ははあ」

「ほお」

「ふーん」

 エクセレントマイティの大人組三名が生暖かい目になるのである。

「なので、ボクはマイティに守ってもらえてるし、必要としてもらってるのでいらないよってさっき言ってきたんです!!」

「これは火に油を注いだな」

「色恋関係が勝負事になると、傍から見る分には面白いのじゃ!」

「だからマイティ、頑張ってください!!」

「おう。怪我をさせないように慎重にやって来るわ……。不憫なやつだなあ……」

 エクセレンの幼馴染のキョウと試合をする。

「よし、来い」

「お……おらああああ!!」

 キョウが突っ込んできた。
 大ぶりのパンチだ。
 俺はこれを、胸板で受け止める。

 ダメージはしっかりと受け流すので、当然のごとくダメージはゼロだ。

「ふ……太い木の幹を殴った時みたいだ……。俺の拳が割れるかと思った……」

 拳を抑え、青ざめて後退するキョウ。

「無駄な力が多いな。そんなんじゃ、盾を持ってない俺の皮一枚すら貫けんぞ」

「う、うるせええ!! このっ、このっ、このぉーっ!!」

 当たるに任せる。
 俺は無意識に、こういう攻撃を受け流す性質があるのだ。
 だから、どれだけ打たれても全くダメージにならない。

 人間の素手の打撃など、ジュウザくらいまで磨き上げられていなければ脅威になるはずもないのだ。
 モンスターとは違うからな。

 汗だくになったキョウは、最後のパンチをへろへろと俺の腹に叩き込むと、そのままぶっ倒れた。
 終わりか。

 村人たちがどよめいた。

「村でもかなり腕っぷしの強いキョウにあれだけ殴られてるのに!」

「あざ一つねえ!」

「汗もかいてないぞ……!」

「化け物か!」

 彼らに向かって、エクセレンはふふーんと得意げだ。

「どう? マイティはすごいでしょ!! すごいんだからね!」

 いや、今のは少年が未熟だっただけではないか……とは思ったが、口にはしないでおこう。
 彼にもプライドというものがあるだろうからな。
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