“ダメージはゼロだ”追放された最強タンクによる勇者育成記

あけちともあき

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第32話 レベルってのはなんだ?

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「お前たちに頼みたいのは他でもない! このライジングメテオの護衛をしてもらいたいのじゃ!!」

「護衛とな。だがディアボラ。ライジングメテオは魔法だろう。魔法の護衛をするとはどういうことだ」

 突然理解不能な事を言われて、俺たちは混乱する。
 これを、ディアボラは得意げに説明してくれた。

「簡単な話じゃ。魔王星を砕くために、『空に向かって落ちていく星』を召喚する魔法がライジングメテオじゃ。じゃが、これは星と星をぶつける魔法。さっきのように魔王星から迎撃のモンスターが出現し、ライジングメテオが破壊されたらどうする」

「ああ、なるほど! 魔王星を破壊しきれないくらい、勢いを殺されるかも知れないってことか」

「そうじゃ!!」

 ディアボラが俺を指差しながら飛び上がった。
 これは喜んでいるっぽい?

「ディアボラは感情表現が豊かで可愛いですね!」

「ちょいちょい! わしはお主よりも千年以上年上じゃぞエクセレン!」

「そうなんですね!」

「こりゃあー! 一緒になってぴょんぴょん飛び跳ねるでない!」

「微笑ましいものだ」

 俺もジュウザと同感だな!
 とても空から星が落ちてきて、王国ごと破壊し尽くされようとしている状況には見えない。

「おっとっと、こんなことをしている場合ではないのじゃった。お前、このニンジャが放ったクリティカルヒットをガードしたな? 常識外れな。お前があの時におったら、ヴォーパルバニーは即座に倒されておったじゃろうな。じゃが、クリティカルすらガードしきるその腕を買って頼みがある!」

「うむ。俺に、魔王星からの妨害をガードしろって言うんだろ?」

「物分りが早いのじゃ!」

「そりゃあ俺はガードしかできんからな。だが、ガードだったら相当できるぜ。任せてくれ」

「拙者はモンスターを掃討する役割か」

「ボクは? ボクは何かあるんですか?」

 エクセレンがハイハイ、と挙手した。

「うむ、お前は勇者じゃろ。なら、あの星には魔王が乗ってるから、魔王が出てきて手出ししようとしたらぶん殴るのじゃ」

「分かりました!」

 エクセレンは即座に鋼の棍棒を取り出すと、堂に入ったスイングを見せた。
 この攻撃の鋭さ。
 キャプテンガイストも、今のエクセレンの棍棒を受け止めるのは苦労するだろうな!

「何よりエクセレン以外のお前らはレベルが高い! どうしてこんな平和な時代にそんな高レベルになるんじゃ。千年生きた魔族のわしとは違うんじゃぞ」

 ディアボラが変なことを言い出した。
 レベル?

「なんだそれは」

「なんであろうな」

「なんでしょう」

「あー」

 ディアボラが察した顔をした。

「そうかそうか、今の時代の者にはレベルが見えぬのじゃな。これはな、強さの目安じゃ。わしが現役だった時代には、相手のレベルを調べて対策するのが必須じゃった。そういう昔の基準で言えば、お前らは強いぞ。とんでもなく強い。なるほど、慢心した新たな魔将どもが次々破られるはずじゃ」

 うんうん勝手に納得し始めたぞ。
 だが、俺たちも別にこの話題に興味があるわけではない。

 ディアボラは作業に戻り、俺たちは規定の位置……魔法陣の中心に立った。

「ところでマイティ。これはつまり何が起こるのだ?」

「これはな。巨大な何かを呼び出す魔法だ。それの上に俺たちが乗って、何かが魔王星とぶつかるまで護衛するんだな」

「なるほど分かりやすいな」

「脱出はどうするんでしょう?」

「さっきのディアボラの魔法があるだろう。あれを準備していくんだろう。俺たちが戦っている後ろで、ディアボラが脱出の準備をする。そういうことだ」

「本当にお前、作戦の飲み込みが早いのじゃ!!」

 最後の仕込みを行っているディアボラから、お褒めの言葉が飛んできた。

「よし、発動じゃ! これでいけるぞ! 魔王星撃退作戦開始じゃあ!!」

 ディアボラの言葉とともに、魔法陣が輝き出す。
 俺たちの周囲が、光に包まれた。

 一瞬、周囲の光景が何も見えなくなる……そう思った次の瞬間には、俺たちは空の上にいたのである。




 空から迫りくる、真っ赤な塊。
 これに気づいた時には、もう手遅れだった。

「あれはなんだ!?」

「月か!?」

「いや、月はあそこにもある。それにあれ、月よりももっとでかい!」

「ぐんぐん迫ってくる……。赤い月が迫ってくる……!!」

 王都は徐々に、恐慌状態に陥っていった。
 その大きさを増しながらどんどん迫ってくる赤い月。

 魔王星などという名は知らない。
 だがそれが、とんでもなく巨大で、落下した衝撃で辺り一帯が吹き飛んでしまうだろうということは、誰もが想像できた。

 わあわあと悲鳴を上げて逃げ惑う人々。
 先刻、あの赤い月の脅威を訴えていた娘がいた。
 それを邪険に扱った冒険者が、頭を抱えている。

「なんてことだ! ありゃあ本当だったのか! 俺はあの時、逃げるべきだったのか……!!」

 神ならぬ身には、空の染みとしか思えぬような大きさだった赤い月を、脅威と信じることはできまい。
 故に、魔王星の落下は狡猾な作戦だったのだ。

 逃げられる時点では脅威と分からず。
 恐ろしいものであると知れた時には、既に逃げる機を逸している。

 赤き魔王星の表面がひび割れる。
 それは笑みだった。
 人々を恐怖に陥れ、そのどん底で残らず消し飛ばす。

 そんな邪悪な愉悦に満ちた笑みにしか見えぬ、魔王星の表面である。

 再び星は眷属を吐き出していた。
 無数のガーゴイルである。
 言わばこの魔王星は、ガーゴイルと同じ素材によって作られた、超巨大ガーゴイルであるとも言えるのだ。

 何者もこれを防ぐことは敵わない……はずだった。
 突如、魔王星と王都の間にある空間が、光り輝く。

 出現したのは、空に浮かんだ光の魔法陣だ。
 そこから、青い巨岩がゆっくりと生まれていく。

 いや、あれは岩などではない。
 星だ。
 青い月だ。

 それが、魔王星を迎え撃つように上がっていくのだ。

「いやあ! 近くで見るとでかいな! 王都まるごとと同じデカさがあるだろう、これは!」

「モンスターどもめ、また湧いてきておるな。拙者に任せよ」

「わしは後ろで魔法陣を作っておるからな! あとは頼むのじゃー!!」

「行けますか、マイティ!」

 青い月の表面で、四つの人影があった。
 彼らは逃げる素振りもなく、迫りくる魔王星に向かって立つ。

 そのうちの、もっとも大きな影が宣言した。

「無論だ! 俺のガードを信じろ!」
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