“ダメージはゼロだ”追放された最強タンクによる勇者育成記

あけちともあき

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第29話 星が落ちてくるだって?

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「大変じゃ大変じゃ! あの星が落ちてくるんじゃ!!」

 ボーハイム氏に送ってもらい、王都に帰ってきた俺たち。
 いつのも酒場の入り口で、おかしなことを騒いでいるのがいた。

 黒いローブをはためかせた、小柄な姿。
 炎のように真っ赤な髪を三編みにしていて、トンガリ帽子の下から覗く耳は尖っていた。

「お前ら何をしておるんじゃ! あの星はこの都を目掛けて落ちてくるんじゃぞ! 何をのんきにしておるんじゃ!!」

 ぴょんぴょんと飛び跳ねて叫んでいるのだが、みんな相手にしていない。

「うるせえガキだな」

 おっと、冒険者が邪険にその人物を押しのけた。

「ウグワー!!」

 派手な悲鳴をあげて、ごろごろ転がるその人物。
 なんだ、まだ子どもじゃないか。それも女の子だ。

「いけない! ボク行ってきます!」

 エクセレンがダッシュした。
 そして転がっている女の子を助け起こす。

「君、大丈夫ですか? 怪我はしてない? ちょっとの怪我なら、ボクのヒールで治してあげるから」

「おお、おお……。クソみたいな性格の人間しかおらんと思っておったが、優しい子もおるのう!! わし、危うくこんなクソ都市滅びろって叫ぶところじゃったわ」

「叫んではないが言ってるな。どうしたどうした」

 俺もしゃがみこんで、エクセレンの手助けをした。
 女の子の背中をつまんで、立たせてやる。

「こりゃ! わしを猫か何かみたいに扱うでない! ……ほえー、お前でっかいのう!! オーガか何かか? その物静かな視線と何者にも揺るがされぬようなどっしりとした佇まいに見覚えが……ハッ」

 彼女は突然目を見開いた。

「まっ、魔王様!?」

「えっ!?」

「なにっ?」

「ほう」

 エクセレンがびっくりし、俺が首を傾げ、ジュウザがちょっと笑った。
 エクセレントマイティの面々が顔を見合わせる。
 言葉をかわさなくても、思いは一つだ。

 即ち……。

 この娘、面白そうだから連れて行ってみよう、である。

 いつもの酒場のいつもの席。
 すっかり俺たちの固定席みたいになっている。

 誰かが利用していても、俺たちが姿を現すと、スッと席を空けてくれるのだ。
 ありがたい。

 ここに椅子を一つ追加してもらい、この面白い娘を座らせることにした。

「俺はマイティ。エクセレントマイティの、一応リーダーみたいなことをしている」

「マイティはリーダーですよね!」

「うむ。戦場すべてを見渡す大局観と、偏見を抱かぬ常在戦場の有り様。マイティ以外にリーダーはおらぬ。ああ、拙者はジュウザ。ニンジャだ」

「ボクはエクセレン。勇者だよ!」

「なぬっ、勇者!?」

 面白い娘が目を見開いた。

「自称勇者ではない? 本当に力を持った勇者? 千年間一度も姿を現さなかったのに今現れたと言うのか! それでは、あの落下してくる魔星は新たなる魔王そのものではないか! うぬぬぬぬ! こうしちゃおれぬぞ!!」

 娘は何か自己完結して、椅子からぴょんと飛び降りようとした。
 だが……。

「ご注文の鳥の揚げ物だよー」

 ウエイトレスさんが皿に山盛りの揚げ鳥を持ってきたところで、娘の動きが止まった。

「せっかくだ。食っていけよ」

「なにっ!! い、いいのか? わし、一文無しなんじゃが」

「金も無いのにどこでどうやって過ごしてたんだ。いいぞ。俺たちの懐は比較的温かいからな」

「すまんな!! お主、魔王様に似ているのは見た目だけじゃなく、心の広さまでそっくりじゃなあ! うひょー! 千年ぶりの娑婆の飯じゃあ!」

 娘は揚げ鳥を掴むと、むしゃむしゃ食べ始めた。
 揚げたてなので熱い。
 舌をやけどして「ふぎゃー!!」とか言いつつも、彼女は食べた。

 素晴らしい食べっぷりである。
 俺もエクセレンも触発され、揚げ鳥をもりもり食らった。
 ジュウザは油ものはあまり食わないらしい。

「ニンジャはボディバランスのコントロールが肝要ゆえな。蒸し鳥を頼んである」

 そして、すぐにやって来た蒸し鳥を、チョップスティックを自在に扱いながら食い始めるのである。
 食事時、エクセレントマイティはよく無言になる。
 みんな食うのに夢中になるからだ。

 揚げ鳥の山が消えた後で、やっと俺たちは人心地がついた。

「ふいー! 食った食ったのう!!」

 そこに運ばれてくる、エクセレンが頼んだミルクジョッキ2つ。
 ハッとする娘。
 ここは奢りだと目線で示すエクセレン。

「ありがたい!! ミルクの滋味が染み渡るのう!!」

 娘はミルクをグビグビ飲み始めた。
 あの小さい体のどこに収まっているのか。
 なんとも気持ちのいい飲みっぷりだ。

「ぷっはー!! 娑婆の飯は最高じゃのう!! 人間どもはいけ好かんが、飯だけは魔族では真似もできん至高の品ばかりじゃあ!」

 魔族ってなんだ?

「ご飯美味しいですよねえ。ところで君は誰なんです? どうして星が落ちてくるなんて言っていたんですか?」

「おう! 飯の恩義がお前たちにはあるからのう。教えてやるぞ。わしはずっと儀式魔法の研究をしとった。儀式魔法っちゅうのはな、魔法陣を書き、必要な供犠を捧げ、手順を踏んで強大無比な魔法を発動するやり方じゃ。じゃが、同僚連中は即物的な奴らばかりでの。わしの魔法なぞ実戦では遅すぎて使い物にならぬと馬鹿にしおった」

「むむっ、苦労したのだな」

 ジュウザが同情している。
 境遇は違うが、理解されなかったという点で、ジュウザは彼女に共感したのだろう。
 俺も気持ちはよく分かる。

「お前も優しいのう……!! いいやつらばかりではないか人間も! わしはな、魔王様が倒されて後も研究を続けたんじゃ。そして儀式魔法は一応の完成を見た! 久々に娑婆に出てきたわしが、空を見上げたら大変!」

 天井を指差す娘。

「赤い星が来るではないか! ありゃあ、魔王星じゃ! 新たなる魔王がこの星に降り立とうとしておるんじゃ!」

「魔王が!? それは大変です!! 絶対に星が落ちてくるのを防がないといけません!!」

 エクセレンが鼻息も荒く同意した。
 すると、娘がカチーンと固まる。
 そして、ギギギっと音がする感じでエクセレンを向き……。

「信じてくれるか……!! わしの、わしの言葉を!」

「もちろんです!! ボクは魔王を倒す勇者なので!!」

「そうか! そうじゃったな! 頼もしいぞエクセレン!!」

「はい! がんばります! それで君は誰なんですか?」

「おう、そうだそうだ。聞くの忘れてた。お前さんのことを教えてくれないか」

 俺もうっかりしていた。

 すると娘は、ニヤリと笑って腕組みをした。

「わしか? わしはな、千年前の魔王軍にその人ありと謳われた、大魔女にして星砕きの魔将、ディアボラじゃ!!」

 どーんと胸を張ったのだが、その勢いでするりと帽子が脱げる。
 あらわにかった彼女の頭には、小さなヤギの角みたいなものが一対生えていたのである。

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