“ダメージはゼロだ”追放された最強タンクによる勇者育成記

あけちともあき

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第25話 開戦と、冒険者はお呼びではない理由

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 本当に戦争だった。
 開戦である。

 ナンポー帝国はうちの王国と戦端を開き、国境付近でばちばちとやり合っているらしかった。
 国は騒然としているが、どこかお祭り気分。

 戦争で勝てば、相手国から賠償金やら領土やらをもらえるからだ。
 それに今回の戦争は、相手国が黒騎士によって王位を簒奪されているため、行う大義名分がある。

 王国側でも、帝国への侵攻を考えているという話だった。
 今の選王は好戦的だな。

 ちなみに俺たちはと言うと。

「戦争が始まったって言うのに、ボクたちはいつも通りですねえ」

「そうだな。冒険者の手は借りないらしいからな」

「無理もあるまい。我ら冒険者は、言うなれば個性的な人間の集まり。軍隊とはその逆なのだ」

 ジュウザがなかなか含蓄が深いことを言う。
 エクセレントマイティは、王国辺境に出現した大型モンスター討伐から帰ってきたばかりである。
 オウルベアというふくろうみたいな頭をしたクマだった。

 ジュウザがクリティカルヒットを封じ、ボスモンスターに通じる戦い方を工夫するいい訓練になったようだ。
 エクセレンも、ジュウザといい感じでコンビネーションが使えるようになって来ている。
 うんうん、俺たちもどんどん強くなっているじゃないか。

「ジュウザ、なんで冒険者が個性的だと、軍隊になれないんですか?」

「うむ。軍隊とはな、規律を重んじる。究極の没個性を要求してくるところだ。集団と集団がぶつかり合い、その戦いは指揮者が管理している。作戦を立てて、結果を想定しているのだ」

「ジュウザの説明は分かりやすいな」

「もともと拙者、小難しく物事を考えるたちゆえな。自分が理解できるように噛み砕くようにしているのだ」

 話をしながら、いつもの酒場の扉をくぐる。
 報酬はたっぷりもらったから、しばらくは仕事をしなくてもいい。

 俺は人数分の飲み物を頼んだ。
 俺はエール。
 ジュウザはお茶。
 エクセレンはミルク。

 そして肉とパンと漬物だ。
 
「結果を想定って、つまり……えーと、個性的なボクたちが勝手に動いたら、どうなるか分からなくなるからダメってこと?」

「理解が早いな。そういうことだ。それゆえに拙者らは軍隊に組み込まれることはない。そもそも、肌に合わぬであろうよ」

 軍人崩れの冒険者というのは何人もいるが、名のある冒険者から軍人になるというのは確かに聞いたことがないな。
 変な癖がついてしまうためかも知れない。

 パンに肉と漬物を挟んでもりもり食う俺たち。

「じゃあよ。戦争がどうなってるかとかは、結果が分かるまでは俺たちが知ることはできないということだよな。だが心配じゃないか」

「心配?」

「おう。むこうの黒騎士は魔王関係かも知れないんだろ? 魔王となったら、専門家は俺たちだろ。専門家抜きで、この間みたいなあれと戦えると思うか?」

 ジュウザはもぐもぐとパン挟み肉を食べながら、考えている。
 一般の軍隊が、この間のモンスター女と戦っている姿を思い描いているのだろう。

「勝てぬな。存在の道理が違いすぎる。軍隊とは人間同士の争いを解決するために生み出されたものだ。人間を超越した強大なモンスターを狩れるようにはできておらぬ」

「だろ? あいつ、無限に小さいモンスターを呼び出せるみたいだったし、クリティカルヒットが効かないってことは、生半可な攻撃も通用しないんじゃないか? 軍隊がみんな、それなりの強さの平均的な連中だったら、そんな攻撃通らないだろ」

「確かにその通りだ。この戦は負けるな」

 ジュウザが断言した。
 近くでそれを聞いてたおっさんやおばさんが目を剥く。

「お、おいあんた、とんでもないこと言うもんじゃない」

「ナンポー帝国は内乱で弱くなってるんだよ? 勝てるだろう?」

 その辺が、世間一般で言う今回の戦争イメージだな。

「負ける。相手は人間ではない。人間ではないものを相手に、軍隊は戦えぬ。並のモンスターであれば良い。だが、もっと高位の、存在の格が違うようなモンスターであれば、絶対に勝てぬ」

 ジュウザが断言した。
 おっさんやおばさんが絶句する。

 この間に、エクセレンがもむもむもむっとパン挟み肉を食べきったようだ。
 ミルクを一気飲みした後、バンとテーブルを叩いて立ち上がった。

「行ってみましょう、戦場!」

「ほう!」

「おっ!」

 ジュウザがちょっと嬉しそうな顔をした。
 俺も笑う。

「エクセレンが決断したか。いいぞ。行こうか」

「行きましょう!」

「うむ、行くか。我らが勇者の決断ゆえな」

 エクセレントマイティの次なる目的地が決定した。
 国境線の戦場である。

 仕事をしたので軍資金はたっぷりある。
 お弁当に保存食を買い込み、キャンプセットも用意した。

 戦場近くまでは乗合馬車で行けるが、その先からは通行止めなので、森の中を進むことになるだろう。

「楽しくなってきましたね!」

「うむ。これでこそ冒険者というものだ。権力が規定したものに逆らい、しかし権力が存在する国家を救う」

「英雄っぽいなあ」

 わいわいと談笑する俺たち。
 翌朝、予定通り乗合馬車に乗り込んだ。

 ここから国境線近くまでまる一日。
 王都と戦場が近いわけだから、まあまあまずい状況だよな。
 さて、戦争がどんな状況になっているのか、見に行ってみよう。
 
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