“ダメージはゼロだ”追放された最強タンクによる勇者育成記

あけちともあき

文字の大きさ
上 下
19 / 108

第19話 タンクを囲んで盛り上がる会場と、壁の花……いやニンジャ

しおりを挟む
 舞踏会が始まった。
 俺は前々に言われていた通り、普段の装備である。
 鎧兜で口だけ出して飲み食いしている。

「マイティ殿はそのお姿でいられる方が、会場が盛り上がりますからね」

 ボーハイム氏がそんなことを言っていたのだが……。

「試合を拝見しましたわ! あのボーハイム様と互角に渡り合うなんて!」

「お強いんですのねえ。どちらで武術を学ばれましたの?」

 確かに!
 ご婦人方が俺を質問攻めにしてくる。
 みんな礼服とドレスという会場で、鎧兜はとても目立つからな……!

 きっと、檻の中の珍獣として見られているような状況であろう。
 先ごろの試合は、貴族たちの印象に残ったようだからな。

 適当に受け答えしながら、料理をもりもりと食らう。
 するとボーハイム氏が、アンジェラを連れてやって来た。
 アンジェラの横には、なぜかドレス姿のエクセレンもいる。

 あのスカートの内側にガイストサーベルが装備されているとは誰も知るまい。

「人気のようですねマイティ殿。そうでなくては」

「なかなか食事ができなくて参っていますよ」

「ははは、舞踏会でしっかり食べるのは難しいでしょうね。食事はパーティーが終わった後でしっかり摂るという者が多いようです」

 俺とボーハイムが会話を始めたので、注目の的になった。

 なんか貴族たちからは、「護衛に欲しい」「うちの騎士団に欲しい」とか声が聞こえてくる。
 なるほど、スカウトするつもりだったのだな。

「ところでマイティ殿。今後の身の振り方は考えておいでですか? 公爵家の騎士団には、実戦の経験者が少なくてですね」

「俺を勧誘しています?」

「いかにも。あなたほどの手練であれば、我がリューダー公爵家も安泰です。アンジェラもエクセレン殿と仲が良いようですし、どうです」

 エクセレンが不安げな顔をして、俺をじっと見つめてきた。
 俺は頷いて見せる。

「俺とエクセレンには、まだやることがありましてね。話を検討させてもらうのは、それが終わった後でいいですかね」

「もちろん。検討してくれるというのは良い知らせだ。諸君!」

 ボーハイムが振り返り、貴族たちに告げた。

「この偉大なる戦士との最初の交渉は、リューダー家が行うぞ! 我々が振られてしまったら、諸君の番が回ってくることになる」

 このジョークに、会場中がドッと笑った。
 社交的だし、俺みたいな下の地位の人間にも偉ぶらないし、ボーハイムは凄い男だな。
 俺は大変感心してしまった。

 エクセレンが言う魔王が現れて、それを倒したら彼の下で働くのもいいだろう。
 その頃にはエクセレンも、独り立ちできるくらいには強くなっているだろうしな。
 もしかしたら、タンクの後継者を見つけられるかも知れん……。

 人の輪の中で、どうにか食事をしていたら。
 壁際で所在なさげにしている者を見つけた。

 黒い頭巾に黒い礼服を纏った小柄な男だ。
 微動だにせず、腕組みをしながら壁にもたれている。

 ちょっと興味が湧いたので近づいてみた。

「ヌウッ」

 一歩動いただけなのに勘付かれたぞ。
 気配を察したな?
 かつてパーティーメンバーだった、シーフ職のローグみたいな男だ。

「お前さんも腕に覚えのある人間だな? シーフか」

 のしのし近づいて声を掛けてみた。
 すると彼は頭巾の奥で目を細める。

「お主……先程、公爵家の婿相手に手加減した試合をやってみせた男だな? 何度も仕留められるチャンスはあった」

「仕留めてどうする。その必要はないし、第一俺はタンクだから攻撃は専門外だ」

「ヌウー」

 また唸った。

「本来ならばお主のような男が護衛向きなのであろうな……。拙者にはこの護衛というのは性に合わん。こんな服など着なくてはならんしな」

「お前さん、誰かの護衛なのか」

「うむ。事情があってな。そこにいる商人の護衛をしてやって来た。だが、身を隠して護衛は許さんと言われてな。こんな窮屈な服を着せられている……。ふんどし一丁の方がよほど軽やかに動けるのだが」

 頭巾の奥で、目が困惑を告げている。
 こいつが何を言っているのかよく分からないが、嘘は口にしていないようだ。

「ああ、退屈でならぬ……! しかし荒事が起こることを望むなど、護衛にあるまじき思考。拙者はどうすれば良いのか」

 うんうん唸っている。
 唸りながら、ポケットから取り出した丸いものを口に入れてもぐもぐしている。

「なんだそれ」

「兵糧丸でござる。お主も食べてみるか」

「いいのか」

「お主からは敵意を感じぬ。試合と言えど、あれほど闘志を見せずに戦う姿は初めて見た。どれだけ手加減していたのだ」

「そこまで分かるのか。お前さん、かなり目がいいんだなあ」

「ニンジャ故な」

「ニンジャ!! レアな職業だ」

 俺の冒険者人生で、一度見たことがあるか無いか、くらいレアな職業なのである。
 確か、シーフを極めていくと転職できることがあったような……。
 それも条件が厳しかったんじゃないか……?

「そんなニンジャがどうしてここにいるんだ」

「拙者はな、モンスターの大群と戦っている時、パーティ仲間の首も間違って飛ばしてしまってな」

「あー」

「拙者の慢心が招いたジェノサイドだった。お陰で拙者はあの地方では冒険者を続けられなくなり、こちらへ流れてきたのだが、伝手も何もなく。商人が護衛を募集していたので応募してこちらまでやって来たのだ」

「なるほど、お前さんは凄腕なんだな」

「お主も凄腕だな」

「うむ。お前さんの得意なのは、あれか? 大群の掃討?」

「十把一絡げの雑兵ならば、たちまち平らげて見せよう。反面、お主のような相手と正面切っての戦いは苦手だな」

 どこまでが本気かは分からない。
 だがこのニンジャ、エクセレントマイティに必要な人材かも知れない。

 うちのパーティーには、大群を相手にする能力が欠けているからな。
 今のところ、ボス戦特化みたいな感じだ。

「どうだ、この護衛が終わったらうちのパーティーに来ないか?」

「お主、正気か? 拙者の技は尖すぎて、不用意に味方の首まで飛ばすぞ」

「それは俺がタンクだから問題なくなる」

「ほう、拙者の攻撃を盾で受け止められると? ……できそうだな。よし、ちょっと庭でやってみよう」

「やるか」

 そういうことになった。

 だが、そのやり取りは成就しなかったのである。
 突然、舞踏会の天井が破られ、何者かがそこから降りてきたからだ。

 漆黒のドレスに、ブルネットの長い髪を揺らし、背には巨大なコウモリの翼。

『お待たせしましたわね! 舞踏会の主役がやって来ましてよ!!』

 なんだあれは。
しおりを挟む
感想 8

あなたにおすすめの小説

異世界に召喚されたが「間違っちゃった」と身勝手な女神に追放されてしまったので、おまけで貰ったスキルで凡人の俺は頑張って生き残ります!

椿紅颯
ファンタジー
神乃勇人(こうのゆうと)はある日、女神ルミナによって異世界へと転移させられる。 しかしまさかのまさか、それは誤転移ということだった。 身勝手な女神により、たった一人だけ仲間外れにされた挙句の果てに粗雑に扱われ、ほぼ投げ捨てられるようなかたちで異世界の地へと下ろされてしまう。 そんな踏んだり蹴ったりな、凡人主人公がおりなす異世界ファンタジー!

アイテムボックス無双 ~何でも収納! 奥義・首狩りアイテムボックス!~

明治サブ🍆スニーカー大賞【金賞】受賞作家
ファンタジー
※大・大・大どんでん返し回まで投稿済です!! 『第1回 次世代ファンタジーカップ ~最強「進化系ざまぁ」決定戦!』投稿作品。  無限収納機能を持つ『マジックバッグ』が巷にあふれる街で、収納魔法【アイテムボックス】しか使えない主人公・クリスは冒険者たちから無能扱いされ続け、ついに100パーティー目から追放されてしまう。  破れかぶれになって単騎で魔物討伐に向かい、あわや死にかけたところに謎の美しき旅の魔女が現れ、クリスに告げる。 「【アイテムボックス】は最強の魔法なんだよ。儂が使い方を教えてやろう」 【アイテムボックス】で魔物の首を、家屋を、オークの集落を丸ごと収納!? 【アイテムボックス】で道を作り、川を作り、街を作る!? ただの収納魔法と侮るなかれ。知覚できるものなら疫病だろうが敵の軍勢だろうが何だって除去する超能力! 主人公・クリスの成り上がりと「進化系ざまぁ」展開、そして最後に待ち受ける極上のどんでん返しを、とくとご覧あれ! 随所に散りばめられた大小さまざまな伏線を、あなたは見抜けるか!?

老女召喚〜聖女はまさかの80歳?!〜城を追い出されちゃったけど、何か若返ってるし、元気に異世界で生き抜きます!〜

二階堂吉乃
ファンタジー
 瘴気に脅かされる王国があった。それを祓うことが出来るのは異世界人の乙女だけ。王国の幹部は伝説の『聖女召喚』の儀を行う。だが現れたのは1人の老婆だった。「召喚は失敗だ!」聖女を娶るつもりだった王子は激怒した。そこら辺の平民だと思われた老女は金貨1枚を与えられると、城から追い出されてしまう。実はこの老婆こそが召喚された女性だった。  白石きよ子・80歳。寝ていた布団の中から異世界に連れてこられてしまった。始めは「ドッキリじゃないかしら」と疑っていた。頼れる知り合いも家族もいない。持病の関節痛と高血圧の薬もない。しかし生来の逞しさで異世界で生き抜いていく。  後日、召喚が成功していたと分かる。王や重臣たちは慌てて老女の行方を探し始めるが、一向に見つからない。それもそのはず、きよ子はどんどん若返っていた。行方不明の老聖女を探す副団長は、黒髪黒目の不思議な美女と出会うが…。  人の名前が何故か映画スターの名になっちゃう天然系若返り聖女の冒険。全14話+間話8話。

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

すべてをなくした、その先で。 ~嫌われ者の俺に優しくしてくれるのがヤベー奴らしかいないってどういうこと!?~

F.ニコラス
ファンタジー
なぜか人という人に嫌われまくる16歳の少年・フウツ。 親に捨てられ村では虐げられ無いものだらけの彼だったが、ついに長年の憧れであった冒険者になる。しかしパーティーの仲間は、なんとヤンデレ令嬢のみ!? 旅の途中で出会う新たな仲間も、病的なまでの人嫌い、戦闘狂の竜人娘、毒物大好き少年に、ナチュラル物騒な芸術家、極めつけは天災エセ少女や人間を愛玩する厄介精霊! 問題児たちに振り回されたりトラブルに巻き込まれたりしながらも、フウツはそんな日常をどこか楽しみながら過ごしていく。しかし―― 時おり脳裏に現れる謎の光景、知らない記憶。垣間見えるフウツの”異常性”。1000年の歳月を経て魔王が再び動き出すとき、数奇な運命もまた加速し事態はとんでもない方向に転がっていくのだが……まだ彼らは知る由も無い。 というわけで、ヤベー奴らにばかり好かれるフウツのめちゃくちゃな冒険が始まるのであった。 * * * ――すべてをなくした、その先で。少年はエゴと対峙する。 * * *

異世界の貴族に転生できたのに、2歳で父親が殺されました。

克全
ファンタジー
アルファポリスオンリー:ファンタジー世界の仮想戦記です、試し読みとお気に入り登録お願いします。

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

【完結】帝国から追放された最強のチーム、リミッター外して無双する

エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング2位獲得作品】  スペイゴール大陸最強の帝国、ユハ帝国。  帝国に仕え、最強の戦力を誇っていたチーム、『デイブレイク』は、突然議会から追放を言い渡される。  しかし帝国は気づいていなかった。彼らの力が帝国を拡大し、恐るべき戦力を誇示していたことに。  自由になった『デイブレイク』のメンバー、エルフのクリス、バランス型のアキラ、強大な魔力を宿すジャック、杖さばきの達人ランラン、絶世の美女シエナは、今まで抑えていた実力を完全開放し、ゼロからユハ帝国を超える国を建国していく。   ※この世界では、杖と魔法を使って戦闘を行います。しかし、あの稲妻型の傷を持つメガネの少年のように戦うわけではありません。どうやって戦うのかは、本文を読んでのお楽しみです。杖で戦う戦士のことを、本文では杖士(ブレイカー)と描写しています。 ※舞台の雰囲気は中世ヨーロッパ〜近世ヨーロッパに近いです。 〜『デイブレイク』のメンバー紹介〜 ・クリス(男・エルフ・570歳)   チームのリーダー。もともとはエルフの貴族の家系だったため、上品で高潔。白く透明感のある肌に、整った顔立ちである。エルフ特有のとがった耳も特徴的。メンバーからも信頼されているが…… ・アキラ(男・人間・29歳)  杖術、身体能力、頭脳、魔力など、あらゆる面のバランスが取れたチームの主力。独特なユーモアのセンスがあり、ムードメーカーでもある。唯一の弱点が…… ・ジャック(男・人間・34歳)  怪物級の魔力を持つ杖士。その魔力が強大すぎるがゆえに、普段はその魔力を抑え込んでいるため、感情をあまり出さない。チームで唯一の黒人で、ドレッドヘアが特徴的。戦闘で右腕を失って以来義手を装着しているが…… ・ランラン(女・人間・25歳)  優れた杖の腕前を持ち、チームを支える杖士。陽気でチャレンジャーな一面もあり、可愛さも武器である。性格の共通点から、アキラと親しく、親友である。しかし実は…… ・シエナ(女・人間・28歳)  絶世の美女。とはいっても杖士としての実力も高く、アキラと同じくバランス型である。誰もが羨む美貌をもっているが、本人はあまり自信がないらしく、相手の反応を確認しながら静かに話す。あるメンバーのことが……

処理中です...