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第18話 我慢してたら良かったのに、という姉の話
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「今宵行われる舞踏会は、わたしとボーハイムの婚約を大々的に発表するためのものなんです。次の公爵はボーハイムになります」
「お婿さんなんですねー」
公爵令嬢のアンジェラと、田舎出身の勇者エクセレンが仲良く話をしている。
不思議な光景だ。
アンジェラが分け隔てなく、様々な人間と偏見なく接するタイプだからかも知れない。
いや、どうやら俺たちエクセレントマイティのやって来た仕事が、名声としてある程度知られているということもあるようだ。
地味な仕事もコツコツやっていくものである。
世界を巡ったトラビアンという伝説的な行商がいて、彼もまた最初の一歩目から旅を始めたことから、『トラビアンの旅路も歩きださねば始まらぬ』ということわざがある。
まさにそれだ。
ボーハイムはあの場にいた貴族たちと、談笑をしている。
そして俺に向かって、何人かの貴族や商人らしき者がやって来て、勧誘してきた。
「うちで護衛をせんか」
「いやいや、うちで」
俺がこれほどモテモテになったのは生まれて初めてである。
だが、俺には果たさねばならない使命がある。
「すまないが、彼女を一人前の冒険者に育てねばならないのだ。申し出は嬉しいが今は受けられない」
俺の言葉に、勧誘してきた人々が「おおー」とどよめいた。
「無欲な」
「自らの誓いを果たすために誘惑を断ち切るか」
「これぞ騎士の鑑なり」
冒険者でタンク職の戦士なんだが。
妙に褒められて背中がムズムズするな。
もしかしてボーハイム氏の顔を立てたのがバレたか?
俺はその場をそそくさと離れた。
アンジェラ嬢が、エクセレンと一緒に城の中を見ていってと誘ってくれたからでもある。
借りていた鎧を返し、いつもの馴染んだ鎧を着込む。
これこれ、この重みだよ。
そして城の中を練り歩くのだ。
俺と遭遇した場内の人々は、一様にギョッとしていた。
見知らぬ人間がいると緊張するよな。
「マイティさんは常にそういう重装備なんですか?」
「お、これですか。ええ、俺にとって鎧は普段着同然なので」
「そうなのですか! やはり優れた戦士というものは違うのですね……。ボーハイムが言っていました。常在戦場という心持ちでいるからこそ、優れた戦士に隙はないのだと。まさにマイティさんは優れた戦士そのものなのですね」
「そんな大層なものでは」
「そうです!!」
俺の言葉を遮ってエクセレンが断定した。
俺は口をパクパクさせる。
「マイティはボクがピンチの時に颯爽と現れて助けてくれたんです! それに、ボクが強くなるためのお手伝いもたくさんしてくれます! もう、本当に理想の騎士様っていう感じの」
「キャーッ素敵! 吟遊詩人が語るような本物の騎士って、いたんですね……! ボーハイムも素敵ですけれど、マイティさんも素敵ですね!」
女子二人でキャッキャと盛り上がっているではないか。
俺は口を挟むのをやめた。
野暮というものだし、何より口で訂正できる気がしない。
途中、エクセレンは衣装部屋に案内され、可愛らしい青いドレスを纏って現れた。
本人は照れているようだが、なかなかどうして。
「似合っているじゃないか」
「え!? そ、そうですか!? ボク、ドレスなんて初めてで……むふふ。だけどなんだか武器が無いから、体が軽くて不安になりますね」
「おっ、ついにエクセレンもその境地に達したか。分かってくれるか」
「だめーっ! 女の子がその境地に達してはいけません!」
アンジェラ嬢に否定されてしまった。
だがまあ、武器が無いのは不安であろう。
なんとかアンジェラ嬢に頼んで、スカートの下にガイストサーベルだけを装備させてもらった。
「金属の重みが足に掛かって、落ち着きました!」
「だろうー」
「もうー。こう言う時くらい、常在戦場じゃなくていいのに!」
常に戦える状態だから常在戦場と言うのではないか。
その後、城のあちこちを案内してもらうことになった。
階段の踊り場に飾られた大きな絵は、今の公爵一家を描いたものらしい。
公爵と、公爵夫人と……おや?
アンジェラの隣に塗りつぶされているスペースがある。
「あそこには何が描かれてたんですか」
「はい」
アンジェラ嬢が悲しそうな顔をした。
「姉が……姉のデモネアがあそこに描かれていました。わたしよりもずっと綺麗で、頭も良くて、なんでもできる人だったのに……」
「ほう」
俺は空気を読んで、ここは何も聞かないことにした。
「何があったんですか!?」
「エクセレンは常に全力投球だなあ」
俺は大変感心してしまった。
他意のない、純粋な質問にアンジェラもちょっと笑う。
「有名な話なのですけれど、ご存知ないのです? ああ、冒険者であれば、日々が忙しくて貴族たちの間の話題など分からないのも当然ですよね。ですけれど、あなたがたが日常を守ってくださっているからわたしたちは元気でいられるのです」
本当にできた人だなアンジェラ嬢。
「姉は……デモネアは、第一王子と共謀し、次なる王妃となるべきお方に婚約破棄を仕掛けたのです。それが明るみに出て、第一王子ともども表の世界からは追放されることになりました」
デモネアは、あらゆる事に対する才能がある、いわゆる天才タイプだったらしい。
次なる公爵となるのも確実と言われていたが、本人は自らの才能があればもっと上に行けると考えていた。
第一王子ともウマが合い、王妃となって実際に国を動かすことを目論んだデモネアは、国家を巻き込んだ大事件を起こしたと。
だが、周囲はデモネアが思っていたほど馬鹿では無かった。
事件の真相は露見し、デモネアはこの城の監獄塔に永久に幽閉されることとなったとか。
「野心があっても我慢して、公爵になっていれば次の王の母になることはできたと思うのです」
「そんなことがあったのか」
聞けば、ここ数週間の話らしい。
俺とエクセレンが出会い、バリバリに仕事をしていた期間ではないか。
そりゃあ、この話題を知らないはずだ。
「だからわたしとボーハイムの結婚が早まったのですけれど……。複雑な気持ちである反面、ちょっと嬉しくもあるのですよね。姉に申し訳ない気持ちです」
「ボーハイムさん素敵だもんね!」
「ええ! それはもちろん!」
盛り上がる女子たちなのである。
仲がいいというのは素晴らしいことだ。
どうやら今回は仕事というほどのものでも無いようだし、羽根を伸ばさせてもらうとしよう。
「お婿さんなんですねー」
公爵令嬢のアンジェラと、田舎出身の勇者エクセレンが仲良く話をしている。
不思議な光景だ。
アンジェラが分け隔てなく、様々な人間と偏見なく接するタイプだからかも知れない。
いや、どうやら俺たちエクセレントマイティのやって来た仕事が、名声としてある程度知られているということもあるようだ。
地味な仕事もコツコツやっていくものである。
世界を巡ったトラビアンという伝説的な行商がいて、彼もまた最初の一歩目から旅を始めたことから、『トラビアンの旅路も歩きださねば始まらぬ』ということわざがある。
まさにそれだ。
ボーハイムはあの場にいた貴族たちと、談笑をしている。
そして俺に向かって、何人かの貴族や商人らしき者がやって来て、勧誘してきた。
「うちで護衛をせんか」
「いやいや、うちで」
俺がこれほどモテモテになったのは生まれて初めてである。
だが、俺には果たさねばならない使命がある。
「すまないが、彼女を一人前の冒険者に育てねばならないのだ。申し出は嬉しいが今は受けられない」
俺の言葉に、勧誘してきた人々が「おおー」とどよめいた。
「無欲な」
「自らの誓いを果たすために誘惑を断ち切るか」
「これぞ騎士の鑑なり」
冒険者でタンク職の戦士なんだが。
妙に褒められて背中がムズムズするな。
もしかしてボーハイム氏の顔を立てたのがバレたか?
俺はその場をそそくさと離れた。
アンジェラ嬢が、エクセレンと一緒に城の中を見ていってと誘ってくれたからでもある。
借りていた鎧を返し、いつもの馴染んだ鎧を着込む。
これこれ、この重みだよ。
そして城の中を練り歩くのだ。
俺と遭遇した場内の人々は、一様にギョッとしていた。
見知らぬ人間がいると緊張するよな。
「マイティさんは常にそういう重装備なんですか?」
「お、これですか。ええ、俺にとって鎧は普段着同然なので」
「そうなのですか! やはり優れた戦士というものは違うのですね……。ボーハイムが言っていました。常在戦場という心持ちでいるからこそ、優れた戦士に隙はないのだと。まさにマイティさんは優れた戦士そのものなのですね」
「そんな大層なものでは」
「そうです!!」
俺の言葉を遮ってエクセレンが断定した。
俺は口をパクパクさせる。
「マイティはボクがピンチの時に颯爽と現れて助けてくれたんです! それに、ボクが強くなるためのお手伝いもたくさんしてくれます! もう、本当に理想の騎士様っていう感じの」
「キャーッ素敵! 吟遊詩人が語るような本物の騎士って、いたんですね……! ボーハイムも素敵ですけれど、マイティさんも素敵ですね!」
女子二人でキャッキャと盛り上がっているではないか。
俺は口を挟むのをやめた。
野暮というものだし、何より口で訂正できる気がしない。
途中、エクセレンは衣装部屋に案内され、可愛らしい青いドレスを纏って現れた。
本人は照れているようだが、なかなかどうして。
「似合っているじゃないか」
「え!? そ、そうですか!? ボク、ドレスなんて初めてで……むふふ。だけどなんだか武器が無いから、体が軽くて不安になりますね」
「おっ、ついにエクセレンもその境地に達したか。分かってくれるか」
「だめーっ! 女の子がその境地に達してはいけません!」
アンジェラ嬢に否定されてしまった。
だがまあ、武器が無いのは不安であろう。
なんとかアンジェラ嬢に頼んで、スカートの下にガイストサーベルだけを装備させてもらった。
「金属の重みが足に掛かって、落ち着きました!」
「だろうー」
「もうー。こう言う時くらい、常在戦場じゃなくていいのに!」
常に戦える状態だから常在戦場と言うのではないか。
その後、城のあちこちを案内してもらうことになった。
階段の踊り場に飾られた大きな絵は、今の公爵一家を描いたものらしい。
公爵と、公爵夫人と……おや?
アンジェラの隣に塗りつぶされているスペースがある。
「あそこには何が描かれてたんですか」
「はい」
アンジェラ嬢が悲しそうな顔をした。
「姉が……姉のデモネアがあそこに描かれていました。わたしよりもずっと綺麗で、頭も良くて、なんでもできる人だったのに……」
「ほう」
俺は空気を読んで、ここは何も聞かないことにした。
「何があったんですか!?」
「エクセレンは常に全力投球だなあ」
俺は大変感心してしまった。
他意のない、純粋な質問にアンジェラもちょっと笑う。
「有名な話なのですけれど、ご存知ないのです? ああ、冒険者であれば、日々が忙しくて貴族たちの間の話題など分からないのも当然ですよね。ですけれど、あなたがたが日常を守ってくださっているからわたしたちは元気でいられるのです」
本当にできた人だなアンジェラ嬢。
「姉は……デモネアは、第一王子と共謀し、次なる王妃となるべきお方に婚約破棄を仕掛けたのです。それが明るみに出て、第一王子ともども表の世界からは追放されることになりました」
デモネアは、あらゆる事に対する才能がある、いわゆる天才タイプだったらしい。
次なる公爵となるのも確実と言われていたが、本人は自らの才能があればもっと上に行けると考えていた。
第一王子ともウマが合い、王妃となって実際に国を動かすことを目論んだデモネアは、国家を巻き込んだ大事件を起こしたと。
だが、周囲はデモネアが思っていたほど馬鹿では無かった。
事件の真相は露見し、デモネアはこの城の監獄塔に永久に幽閉されることとなったとか。
「野心があっても我慢して、公爵になっていれば次の王の母になることはできたと思うのです」
「そんなことがあったのか」
聞けば、ここ数週間の話らしい。
俺とエクセレンが出会い、バリバリに仕事をしていた期間ではないか。
そりゃあ、この話題を知らないはずだ。
「だからわたしとボーハイムの結婚が早まったのですけれど……。複雑な気持ちである反面、ちょっと嬉しくもあるのですよね。姉に申し訳ない気持ちです」
「ボーハイムさん素敵だもんね!」
「ええ! それはもちろん!」
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