“ダメージはゼロだ”追放された最強タンクによる勇者育成記

あけちともあき

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第16話 礼服とドレスと城の中の復讐者

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 ドラクオーン城というのは、リューダー公爵の城だ。
 王国一の貴族であり、選王を輩出する家柄の一つ。
 この間、なんかゴシップな話題があった気がするが、俺はあまり詳しくないから分からん。

「出席って言うことは、ドレスを着るんでしょうか!? ボク、ドレスなんか着たこと無いです……! 村のお祭り衣装しか……」

「俺もどっちかというとそっちの方が好きなんだが」

 俺も礼服着ないといけないのかあ。
 あれ窮屈なんだよなあ。

 かつてフェイクブレイバーズが王城に招かれたときも、礼服に簡易装備で城に上がった。
 装備が無いというのが、あれほど不安になるとは……。
 できればフル武装でお城に行きたいな。

 これはエクセレンも同じ気持ちのようだった。

「やっぱり、棍棒の重みに慣れてきたので、常に棍棒は近くに置いておきたいです」

「だよな、だよな」

 こうして俺たちは、依頼人に陳情を行うことにしたのだった。
 王城ほど近くに冒険者ギルドがあり、ここには俺はほとんど顔を出さない。

 なぜなら、フェイクブレイバーズもここに出入りすることがあるからだ。
 顔を合わせたらお互い気まずいもんな。

 しかし今回ばかりは仕方ない。
 そもそもドラクオーン城からお招きがあるという依頼自体、詳細をギルドで確認しなければいけない案件だからだ。
 というかこういう仕事は、依頼人そのものがギルドにいるだろ。

 俺とエクセレンがギルドの門をくぐると、中にいた連中がざわついた。
 うーむ!

 フェイクブレイバーズを追い出された時代遅れのタンクだからな。
 気持ちは分かる。

「たった二人でスタンピードを止めたらしいぜ……」

「明らかに高位のアンデッドの魔術師を倒したらしい」

「あいつらが幽霊船に突撃していってから、船が崩れだしたんだ」

「何者だ……?」

 ヒソヒソ話をしているな。
 あまり陰口を叩かれてもエクセレンの教育に悪い。

 何故かギルド内の年配冒険者たちに手を振られて、にこやかに手を振り返しているエクセレン。
 だが、いつ嫌味とか飛んでくるか分からんからな。
 俺は保護者のようなものでもあるので、気を配らねばならん。

「ドラクオーン城へ来いという依頼があったのだが」

「あ、エクセレントマイティのお二人ですね!」

 受付係のお嬢さんは、ハーフエルフである。
 尖った耳をピコピコさせて、弾んだ声を出してきた。

「あの一件はですね。ええと、普段着……普段の装備のままお越しくださいとのことです。どうやら幽霊船の一件で、リューダー公爵が持っている交易船が無事に海を渡ることができるようになったとかで」

「なんだ、お礼がしたいって話だったのか」

 ドッと肩の力が抜けた。
 なんだなんだと思っていたのだが。
 それに、普段の装備で来いとは素晴らしい心遣いじゃないか。

 安心して、フル武装で向かうことにしよう。
 エクセレンも、武装が許されるということでニコニコだ。

「良かったですね、マイティ! ボクもマイティが普段着でいると微妙な気持ちになりますし」

「なんだとー。じゃあオフの時は俺を微妙な眼差しで見ていたのか」

「バレちゃいました!」

 和気あいあいとする俺たちなのだった。




 ドラクオーン城、監獄塔。
 ここには、リューダー公爵家始まって以来の大犯罪を犯した者が幽閉されている。

 公爵令嬢デモネア。
 リューダー公爵家の長女であった娘だ。

 ブルネットで艷やかな髪に、怪しい魅力を放つ黒い瞳。
 肌は新雪のように白い。
 傾国とも謳われる美姫であった。

 彼女は己の美貌の力をよく知っていた。
 故に、圧倒的な美を誇る自分は、相応しい場所に立つべきであると考えたのだ。

 リューダー公爵家は当代の王を輩出してはいない。
 ここ百年あまりは、選王家としては日陰者である。

 彼女は自らの力で、最高位へ至ろうと考えたのだ。

 王国婚約破棄事件。
 デモネアが企み、第一王子を籠絡し、婚約者であったリッピーナ嬢との婚約を破棄させた事件。

 婚約破棄は舞踏会という公衆の面前で行われ、リッピーナ姫の面子は大いに傷つけられた。
 その後、リッピーナ姫の側についた貴族たちと、デモネアと第一王子が争い、王国の貴族界は権力闘争の嵐が吹き荒れた。
 多くの血が流され、ついにリッピーナ姫が勝利する。

 第一王子は王城の地下牢獄に。
 デモネアは、ドラクオーン城の監獄塔に幽閉された。

「おのれ……」

 デモネアは呟く。

「おのれ、おのれ、おのれ……!! わたくしが……このわたくしこそが、王の隣にいるべき者だと言うのに……!!」

 幽閉されている間も、手入れを怠らぬブルネットの髪と白い肌。

 僅かしか日が差し込まない監獄塔にあっても、デモネアは美しかった。

 だがそれは、誰にも見られることのない美しさ。
 彼女はこのまま、監獄塔の中で独り、歳を重ねて衰えていく……。

「許せませんわ、こんな事! こんな理不尽……!! わたくしは、相応しき場所に立たねばなりませんのに! なのに王国の馬鹿者共が、わたくしをこんなところに閉じ込めて……! 国家の損失! あってはならぬ愚行ですわ!」

 高い天蓋に向かって吠える。
 だが、その声を聞くものはいない。

 分厚い扉を隔ててそこにいる、見張りの兵士にも声が届くことはない。

「ああ、殿下……! 今頃どうしておいででしょう。わたくしとともに、王位を得ると約束して下さった殿下……!! あのお方こそ、王となるに相応しいのに!! 馬鹿者どもめ! 皆、滅んでしまえばいいのですわ! そう、お伽噺で語られた魔王でも降りてきて、みんなを滅ぼし尽くしてしまえば……」

 その時である。
 デモネアが魔王の名を口にした瞬間、それとのチャンネルが繋がった。

『私をお呼びかな? リューダー公爵令嬢デモネア殿』

 声が聞こえた。

「なっ……!? 何者です!」

『貴女が先程、私の名を唱えただろう? 私は魔王だよ』

 デモネアは声を辿り、周囲を見回す。
 だが監獄塔は暗く、どこに声の主がいるのか分からない。

『貴女に力を与えよう。貴女に相応しい力を』

「ま……魔王……!? 本当に、本当に……?」

『ああ、そう恐れるものではない。私は魔王と呼ばれてはいるが、優しい存在なのだ。こうして、理不尽な目に遭っている者たちに手を差し伸べて回っている。それが、悪しき権力者には面白くない、だから魔王と呼ばれているのだ』

 心底心外だ、とでも言わんばかりの口調だった。

『安心して欲しい、デモネア殿。貴女は私が与える力を受け取っても、受け取らなくてもいい。それを強制はしない。監獄塔で暮らすのも、外の世界に飛び出し、無知なる輩に真の主は誰なのかを知らしめ、かの王子とともに頂点に上り詰めるのも自由だ』

「外に出たい!! もう、監獄塔は嫌!!」

 デモネアは叫んでいた。

『なんと! では、私が救いたいと思う気持ちと、貴女が外へ飛び出したいと願う気持ちは同じということになる! これは素晴らしいことだ』

 声が、喜色を帯びた。

「わたくしは……何をすればいいのですの?」

『何もしなくていい。一つだけ、言葉を唱えてくれれば。それは私の援助を受け入れるという証であり……君が新たな世界への扉を開くという宣誓になる』

 魔王は、囁く。
 その言葉を。

 デモネアは震える唇を開き……だが、強い決意を持って、その言葉を口にした。

「Hello…… world……!」

 
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