“ダメージはゼロだ”追放された最強タンクによる勇者育成記

あけちともあき

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第11話 こいつが海上戦闘というやつか

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 小舟の名は、シーモンキー号。
 シーモンキーってなんだ?
 海に猿がいるのか?

「ちっちゃいエビだよ。ガキの頃な。オヤジが網にかかってたシーモンキーをくれてな。ずっと育ててたんだ」

「なるほど、だからこいつにシーモンキー号って名をつけたんだな」

「そういうこった。嵐一発で沈みそうな小舟だしな! だが、今までこいつは一度も沈むこと無く、頑張ってきてくれた。今回の航海で、こいつは引退だ。だから絶対に最後の仕事を成功させてやりたくてよ」

「なるほどなあ。そりゃあ、成功させないといけないよな」

「成功させましょう!!」

 船主と俺たちエクセレントマイティ、三人の心は一つになった。
 そして、船団は陸地を離れる。

 向かう先は、大陸西部に浮かぶ大きな島、コヨコヨ島。
 独自の文明を築いていて、大陸とは盛んに取引をしている友好国、みたいなものだ。

 大陸とコヨコヨ島の間にあるのが、イーストシー。
 それなりに大きな海なのだが、この真ん中に幽霊船が出たということだ。

 大きく迂回していくことは可能だが、そうすると航海中の食い物を多く消費するし、何より運んでいる荷物に傷むものが出てくる。
 最短ルートの海路は確保しておきたいというのが、船団側の考えなんだろう。

 だから今回、冒険者を大量に雇ったわけだ。

「お陰で、俺たちみたいな小さいパーティも護衛の仕事を受けられるわけで、ありがたいことだ」

 海風を受けながら、甲板に座り込んでのんびりする俺。
 エクセレンは物珍しそうに、船の中を歩き回っている。

「ねえねえ、これはなんですか? 水が入った樽? なんでミカンが漬けてあるんですか? 壊血病の予防? なんですかそれ? あれ? この樽にはお酒が入ってますけどこれも壊血病の? え、趣味?」

 シーモンキー号のあまり多くない船員たちは、エクセレンの質問攻めだ。
 だが、若い娘が乗り込んでくることなんか無い生活をしてたらしく、色々関われるのが嬉しいらしい。
 どんどん質問に答えてやってるな。

 エクセレンも船酔いの気配はない。
 薬が効いたな。

 しかし、周囲を見回すと見事にシーモンキー号より大きな船ばかりだ。
 船べりに並んだ冒険者たちが、こっちを指差して笑っている。

「おい見ろよ、あの小舟」

「ちっちゃい上にボロいぜ!」

「ありゃあ、モンスターが襲ってこなくても一番に沈むだろ」

「護衛の冒険者も二人きりかよ! わっはっは、こりゃ傑作だ」

 なかなか余裕がある様子である。
 大きな船は色々な設備があって船員も多いから、冒険者には周りの船を見るくらいしかやることがないのだろう。
 うむ、体力を温存しておくことは大切だな。この俺のように。

 俺は兜を脱ぎ、潮風と日差しを受けてのんびりした。
 船主が柑橘類入りの水を差し出してくるので、こいつをありがたくいただく。

 このまま平和に航海が進めば最高なのだが。
 しかし、そうはならないから俺たちが雇われたのだよな。

 航海三日目。
 敵襲があった。

 朝、いつものように装備を着込んで甲板に出たら、周囲がわあわあとうるさい。
 どうやらモンスターとの戦闘に入っているようである。

「どうしたんだ?」

「モンスターシャークでさあ!」

 船員が緊張した面持ちで返答する。

「モンスターシャーク?」

「モンスター化した鮫なんです。全身に棘が生えてたり、短時間空を飛んだり、首が二つあったり三つあったり。たまにシャークトルネードっていう鮫の竜巻みたいになったりする恐ろしいやつなんですよ」

「海には凄いのがいるな……」

 とても想像できん。

「今回は、アンデッドになってるらしくて」

「鮫がアンデッドに」

 とても想像できん。
 だが、想像する必要は無かった。

 目の前の中くらいの船が、めりめりと音を立てて中程からひしゃげていく。
 そして、船員たちがわあわあ叫びながら海に飛び込んだ。
 冒険者たちはわあわあ言いながら海に落下した。

 これを、水中から現れたでかい鮫がパクパク食べている。

「なるほど、でかいな。この間戦ったミノタウロスよりでかいかも知れん」

「やべえぜ……! あんなのに襲われたら、シーモンキー号はいちころだ……!」

「ああ。だからそれをさせないために俺たちがいる。なあ、エクセレン!」

「はい!」

 完全装備になったエクセレンが飛び出してくる。
 ミノタウロスアックスの柄にロープがくくりつけられていた。

「おっ、遠距離攻撃をするつもりだな? 海上は小回りが効かないからな。飛び道具は大事だ。よく気付いたな」

「えへへ。船員さんたちに色々聞いて、ボクなりに工夫したんです! みんな手伝ってくれたんですよ!」

 よく見たら、棍棒にも手斧にもロープがついている。
 全部が飛び道具だ。
 こりゃあいい。

 俺がエクセレンの装備をチェックしていたら、先程俺たちを見下ろしていた船が、アンデッド化したモンスターシャークに襲われたところだった。
 わあわあ、とか、ひいー、とか、ウグワー!!とか声がする。
 最後のやつは食われたな。

「凄いことになってますね!! これは早くやっつけないと!」

「ああ。どうやら奴は、こっちに気付いたようだ」

 アンデッドシャークの数は二頭。
 そのうちの一頭が、シーモンキー号をひとのみにしようと接近してくる。

「いつもは他の船を盾にして逃げるのに! 運が悪いぜ!!」

 船主が悲痛な声を上げた。
 俺は彼の肩を軽く叩く。

「なに、任せておけ。この程度は……」

 船に突撃を掛けてきたアンデッドシャーク。
 だが、ぶち当たる瞬間、奴の鼻先には俺がいた。

 大盾が、一撃を受け止める。
 俺が磨き上げてきたタンクとしての技術が、奴の勢いをそのまま反射し、アンデッドシャークを跳ね飛ばした。

『シャアアアアアアク!?』

「おうおう、思ったよりもパワーがあるな。だが、この程度なら、ダメージはゼロだ」

 鮫狩りの始まりだ。
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