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第8話 外に逃さないのもタンクの仕事
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ドドドドドドドッと、地響きのような音が轟いている。
遺跡の奥底からだ。
「これは来るな」
「何がです?」
「スタンピードだ」
言うなれば、遺跡のモンスターが起こす集団暴走。
何がきっかけかは分からないが、俺も話では聞いたことがあった。
「エクセレン、俺の後ろに隠れていろ。お前さんの出番はちょっと先だ」
「出番あるんですね!」
「もちろんだ。俺はタンクしかできないからな!」
ということで、大盾を構え、俺は遺跡の入口三箇所を見渡せる場所に立った。
他の冒険者たちは、何をしているんだ、という目で見てくる。
「危ないぞ。スタンピードだ。ちょっと下がっておいた方がいい。俺はこんなこともあろうかと、タンクの技を磨いておいたんだ。まさか使う日が来るとは思わなかったが」
地響きはさらに大きくなってきている。
不安げな顔をした冒険者たちが、みんな俺の後ろに避難した。
みんなDランクくらいのパーティだから、腕に覚えは無いのだろう。
村や町の力自慢や身の程知らずが、大志を抱いて冒険者になったのがGランク。
最初の依頼でふるい分けられ、生き残った、あるいは冒険者を続ける決意をしたのがFランク。
討伐依頼を成功させ、ゴブリンくらいとなら戦えるようになったのがEランク。
Dランクからは、護衛や警備といった多種多様な依頼を受けられるようになる。
ここが冒険者としてのスタート地点と言っていいだろう。
「お前たちは後ろに控えて、行けそうなら攻撃するんだ。ここで経験を積んでおけば、上のランクを狙えるぞ」
冒険者たちは俺の言葉を聞いて、一瞬、唖然とした。
「な、何を言ってるんだ? あんた、まさか盾になるつもりか」
「若い俺たちを守るために……!?」
「スタンピードの犠牲に!」
「ばかいえ」
とんでもない勘違いをしてきたので、俺は否定しておいた。
「スタンピードが遺跡の外に溢れ出したら、みんな迷惑するだろう。ここで止めておくんだよ」
今度こそ、冒険者たちは、何を言われているのか分からない顔になった。
エクセレンだけが、うんうんと頷いている。
そしてついに、その時が来た。
最初はおバケネズミや吸血コウモリと言った小型のモンスター。
続いて、レッドキャップ、アンドロスコルピオ、インテリジェンススライムなどが続く。
こいつらが渾然となって、遺跡の入口から溢れ出してくるのだ。
モンスターの奔流だった。
こりゃあ、逃したら大変なことになるぞ。
遺跡中全てのモンスターが出てきてしまったようだ。
「まとめて! 受け止めるぞ!! ふぅんっ!!」
大盾を構えて、俺は腹に力を込めた。
そして、向かってくるモンスターの群れを目掛けて、一歩を踏み出す。
信じられないような光景だった。
その、タンクを名乗った男は、スタンピードの前にただ一人で立ちふさがった。
常識的に考えれば無謀な挑戦。
だが、男は少しも怖気づいてなどいない。
恐怖を知らぬバカなのか?
その疑念は次の瞬間に晴れた。
「ふぅんっ!!」
裂帛の気合とともに、一歩踏み込む男。
突き出される大盾。
すると、スタンピードはまるで、盾に吸い込まれるように男一人に集中したのだ。
激しい激突音が聞こえる。
モンスターたちの叫びが、進行を邪魔する者への怒りの声が響き渡る。
魔法が飛んだ。
特殊能力による攻撃が飛んだ。
だが、そのどれもが、大盾を構えるこの男を、僅かに揺らがせることすらできない。
「ふんっ!!」
男が強く息を吸う。
一歩、踏み出す。
そう、踏み出した……!
スタンピードをたった一人で受け止めていると言うのに、この男は前進したのである。
つまり、スタンピードを単身で押し返しているのだ。
「なんだ……!? なんだ、こいつ……!?」
「化け物かよ……!!」
畏怖の気持ちとともに、これを見つめる冒険者たちの心に浮かぶ感情は、興奮だった。
人は、冒険者はここまで強くなれるのか!
「どうです! マイティは防御が得意なんですよ!」
自慢気に胸を張る、エクセレント言う名の娘。
誰もが皆、彼女の発言に思った。『違うでしょ』
「エクセレン!!」
「あ、はーい!!」
大盾を持った男、マイティに呼ばれて、エクセレンが走り出す。
背中に背負った、とんでもなく大きな斧……ミノタウロスアックスを構えて。
そして向かう先を見て、冒険者たちは絶句した。
一歩も進めぬスタンピードは、溢れ出す後続に押され、弱いモンスターから圧死していっている。
そんな彼らの最後尾に現れたのが、幽鬼を纏った魔術師である。
『なんだ、貴様らは』
魔術師……いや、その正体は、不死の王ノーライフキング。
古代の魔法使いが、邪法によって永遠の命を得た怪物である。
これこそがスタンピードの元凶。
その姿を見た瞬間、冒険者たちの体は強烈な恐怖を覚えた。
体が動かなくなる。
高位のアンデッドは、その姿を現すだけで心弱き者たちを行動不能にすることができるのである。
だが、しかし。
「ふんっ!」
ノーライフキングが放った恐怖は、なんと盾の前に砕け散った。
目には見えぬものだが、それが防がれたとノーライフキングは理解した。
『なにぃ……?』
「ダメージが無い系の攻撃だったな。これなら大して怖くないぞエクセレン」
「はいっ! スタンピードも弱くなってきてますし、前に進みましょう!」
二人は、押し寄せるモンスターを逆に押し返しながら、一歩一歩前進して来る。
モンスターたちは、背後のノーライフキングに追い立てられ、しかし前から迫ってくるタンクを超えることはできず、そのどれもが押しつぶされていく。
『なんだ、貴様らは……! なぜこのノーライフキングの存在に耐えられる!?』
「存在って、そりゃあアンデッドだっていてもいいだろう。俺は他人に害を及ぼさない限り、アンデッドが隣にいても気にしないぞ」
きょとんとした、大盾の男マイティ。
ノーライフキングは一瞬呆気に取られ、そして瞬時に激怒した。
『誰に口を利いているかも分からぬようだな。千年の時が流れ、我ら魔将の恐怖は霧散してしまったか。もういい。死ぬがいい。呪い、呪われ、回り、回れ、螺旋呪獄陣』
それは、掛けられたものの全身を腐らせ、溶け落ちさせる邪悪な上位魔法。
マイティの足元に紫色の、おどろおどろしい魔法陣が出現し、ぐるぐると高速で回転を始めた。
哀れ、マイティはこの魔法の前に一巻の終わり……。
「ふんっ! やっぱり魔法使いだったか! だが、俺は魔法も防げるんだ!」
パリーンっと音がした。
魔法は破られた。
ちなみに巻き込まれてモンスターが数十匹単位で臭い汁になって溶け崩れた。
『なん……だと……!?』
驚愕で、一瞬動きが止まるノーライフキング。
その頭に、鉄の手斧が突き刺さった。
「当たりました! やったー!」
「いいぞエクセレン!」
だが、手斧は高速で再生するノーライフキングの体から押し出され、足元に落ちる。
『な、な、な、な、な、なんだ、貴様らは! この私の魔法を防ぐだと!? 現代の堕落した人間どもがか!? ありえん! ありえて堪るか!! 貴様をこの場で生かしておくわけにはいかん! 女! 私の顔にいきなりトマホークを投げつける蛮族仕草、許しがたい! 貴様も死ね!! 八重連詠唱!!』
ノーライフキングの肩から、肘から、頭部側面から、胸から口が出現し、八つの魔法を同時に詠唱し始める。
これを見て冒険者たちは震えた。
「ば、ば、化け物だ!!」
「本物の化け物!」
「動け、俺の足動けよお!」
「ひいい、逃げられねええええ」
ノーライフキングの周囲の空間が歪む。
生まれたのは、極大の火球が八つ。
この周辺一帯を焦土にするほどの火力である。
「おほー! でかいな!」
何故かマイティは嬉しそうだった。
「ど、どうしましょうマイティ!」
「俺の後ろに隠れてるんだ。来るぞ!」
『煉獄火炎連続落下!!』
一発ですらミノタウロスを蒸発させるような炎が、連続して八つ降り注いだ。
爆発が、爆炎が上が……上がらない!
「ふん! ふん! ふんふんふんふんふん……ふんっ!! これで八つ! ダメージは……ゼロだ!!」
『なんだとーっ!!』
ノーライフキングは、文字通り飛び上がって驚いた。
ノーライフキングになってこの方、驚いたことなど無かった身である。
だが驚いた。めちゃくちゃにびっくりした。
「よしエクセレン、反撃だ! ぶっ倒せ!」
「うん! いっくぞー!! マジックミサイル……を利用して、どーん!!」
飛び出したエクセレンが、マジックミサイルを放つ。
『馬鹿め、そのような魔法など私には』
だが放ったのは横にだ。
マジックミサイルを連射する速度で、エクセレンが回転を始める。
回転しながら、ノーライフキングに迫るのだ。
『な、な、な、ええい、八重連詠唱……』
「お前の敵は俺だぁっ!!」
『ぬおおーっ!! 視線が! 標的がこのタンクに釘付けになる!!』
ノーライフキングの視界の端に迫る、回転エクセレン。
得物はミノタウロスアックス。
「とおりゃーっ!! 魔技! ミサイルスピーンッ!!」
放たれた一撃は、ノーライフキングの再生など許さない。
一撃でその体を両断し、二回転目でさらに割り、三回転目で粉々にし、そのまま通過した。
『ぬうおおおおーっ!! 危険! 危険過ぎるこやつらはーっ!! 魔王様にっ、降臨される魔王様にお伝えをーっ!! 逃げの詠唱を……』
「俺が相手だーっ!!」
『や、やめろーっ!?』
八重連詠唱は急には止まれない!
マイティを標的と定めた七つの口は、攻撃魔法の詠唱を続ける。
破壊された端から再生して行ってはいたが、その速度が明らかに遅くなっている。
『あ、あの女にやられた傷口の治りが遅い! ま、まさかお前……お前は……!!』
後頭部に目玉を生やし、エクセレンを認識したノーライフキング。
そこには、光り輝く棍棒を振り上げた彼女の姿があった。
『勇者っ……!! ウグワーッ!!??』
光る棍棒が、ノーライフキングを滅多打ちにする……!
かくして、千年前より存在していた魔将は、ここに倒されたのである。
パーティー名『エクセレントマイティ』
ランク:D+
構成員:二名
名前:エクセレン
職業:エクセレントファイター
Lv:10→14
HP:91→145
MP:56→88
技 :二刀流スピン→魔技ミサイルスピン クイックドロー バックスタブ パイルバンカーブロウ
魔法:マジックミサイル(中級):派生ドリルマジックミサイル(下級) ヒール(下級) ライト(下級)
覚醒:シャイニング棍棒
武器:鉄のナイフ 鉄のトマホーク トゲ付き棍棒(覚醒) ミノタウロスアックス
防具:革の鎧
名前:マイティ
職業:タンク
Lv:85(レベルアップ間近)
HP:1200
MP:0
技 :ガード強化(特級) カバーガード(特級) エリアガード(特級)
マジックガード(特級) マインドガード(特級) パリィ(特級)
ガードムーブ(特級) ヘイトコントロール(特級)
魔法:なし
覚醒:なし
武器:なし
防具:熟練のプレートアーマー、熟練のビッグシールド
遺跡の奥底からだ。
「これは来るな」
「何がです?」
「スタンピードだ」
言うなれば、遺跡のモンスターが起こす集団暴走。
何がきっかけかは分からないが、俺も話では聞いたことがあった。
「エクセレン、俺の後ろに隠れていろ。お前さんの出番はちょっと先だ」
「出番あるんですね!」
「もちろんだ。俺はタンクしかできないからな!」
ということで、大盾を構え、俺は遺跡の入口三箇所を見渡せる場所に立った。
他の冒険者たちは、何をしているんだ、という目で見てくる。
「危ないぞ。スタンピードだ。ちょっと下がっておいた方がいい。俺はこんなこともあろうかと、タンクの技を磨いておいたんだ。まさか使う日が来るとは思わなかったが」
地響きはさらに大きくなってきている。
不安げな顔をした冒険者たちが、みんな俺の後ろに避難した。
みんなDランクくらいのパーティだから、腕に覚えは無いのだろう。
村や町の力自慢や身の程知らずが、大志を抱いて冒険者になったのがGランク。
最初の依頼でふるい分けられ、生き残った、あるいは冒険者を続ける決意をしたのがFランク。
討伐依頼を成功させ、ゴブリンくらいとなら戦えるようになったのがEランク。
Dランクからは、護衛や警備といった多種多様な依頼を受けられるようになる。
ここが冒険者としてのスタート地点と言っていいだろう。
「お前たちは後ろに控えて、行けそうなら攻撃するんだ。ここで経験を積んでおけば、上のランクを狙えるぞ」
冒険者たちは俺の言葉を聞いて、一瞬、唖然とした。
「な、何を言ってるんだ? あんた、まさか盾になるつもりか」
「若い俺たちを守るために……!?」
「スタンピードの犠牲に!」
「ばかいえ」
とんでもない勘違いをしてきたので、俺は否定しておいた。
「スタンピードが遺跡の外に溢れ出したら、みんな迷惑するだろう。ここで止めておくんだよ」
今度こそ、冒険者たちは、何を言われているのか分からない顔になった。
エクセレンだけが、うんうんと頷いている。
そしてついに、その時が来た。
最初はおバケネズミや吸血コウモリと言った小型のモンスター。
続いて、レッドキャップ、アンドロスコルピオ、インテリジェンススライムなどが続く。
こいつらが渾然となって、遺跡の入口から溢れ出してくるのだ。
モンスターの奔流だった。
こりゃあ、逃したら大変なことになるぞ。
遺跡中全てのモンスターが出てきてしまったようだ。
「まとめて! 受け止めるぞ!! ふぅんっ!!」
大盾を構えて、俺は腹に力を込めた。
そして、向かってくるモンスターの群れを目掛けて、一歩を踏み出す。
信じられないような光景だった。
その、タンクを名乗った男は、スタンピードの前にただ一人で立ちふさがった。
常識的に考えれば無謀な挑戦。
だが、男は少しも怖気づいてなどいない。
恐怖を知らぬバカなのか?
その疑念は次の瞬間に晴れた。
「ふぅんっ!!」
裂帛の気合とともに、一歩踏み込む男。
突き出される大盾。
すると、スタンピードはまるで、盾に吸い込まれるように男一人に集中したのだ。
激しい激突音が聞こえる。
モンスターたちの叫びが、進行を邪魔する者への怒りの声が響き渡る。
魔法が飛んだ。
特殊能力による攻撃が飛んだ。
だが、そのどれもが、大盾を構えるこの男を、僅かに揺らがせることすらできない。
「ふんっ!!」
男が強く息を吸う。
一歩、踏み出す。
そう、踏み出した……!
スタンピードをたった一人で受け止めていると言うのに、この男は前進したのである。
つまり、スタンピードを単身で押し返しているのだ。
「なんだ……!? なんだ、こいつ……!?」
「化け物かよ……!!」
畏怖の気持ちとともに、これを見つめる冒険者たちの心に浮かぶ感情は、興奮だった。
人は、冒険者はここまで強くなれるのか!
「どうです! マイティは防御が得意なんですよ!」
自慢気に胸を張る、エクセレント言う名の娘。
誰もが皆、彼女の発言に思った。『違うでしょ』
「エクセレン!!」
「あ、はーい!!」
大盾を持った男、マイティに呼ばれて、エクセレンが走り出す。
背中に背負った、とんでもなく大きな斧……ミノタウロスアックスを構えて。
そして向かう先を見て、冒険者たちは絶句した。
一歩も進めぬスタンピードは、溢れ出す後続に押され、弱いモンスターから圧死していっている。
そんな彼らの最後尾に現れたのが、幽鬼を纏った魔術師である。
『なんだ、貴様らは』
魔術師……いや、その正体は、不死の王ノーライフキング。
古代の魔法使いが、邪法によって永遠の命を得た怪物である。
これこそがスタンピードの元凶。
その姿を見た瞬間、冒険者たちの体は強烈な恐怖を覚えた。
体が動かなくなる。
高位のアンデッドは、その姿を現すだけで心弱き者たちを行動不能にすることができるのである。
だが、しかし。
「ふんっ!」
ノーライフキングが放った恐怖は、なんと盾の前に砕け散った。
目には見えぬものだが、それが防がれたとノーライフキングは理解した。
『なにぃ……?』
「ダメージが無い系の攻撃だったな。これなら大して怖くないぞエクセレン」
「はいっ! スタンピードも弱くなってきてますし、前に進みましょう!」
二人は、押し寄せるモンスターを逆に押し返しながら、一歩一歩前進して来る。
モンスターたちは、背後のノーライフキングに追い立てられ、しかし前から迫ってくるタンクを超えることはできず、そのどれもが押しつぶされていく。
『なんだ、貴様らは……! なぜこのノーライフキングの存在に耐えられる!?』
「存在って、そりゃあアンデッドだっていてもいいだろう。俺は他人に害を及ぼさない限り、アンデッドが隣にいても気にしないぞ」
きょとんとした、大盾の男マイティ。
ノーライフキングは一瞬呆気に取られ、そして瞬時に激怒した。
『誰に口を利いているかも分からぬようだな。千年の時が流れ、我ら魔将の恐怖は霧散してしまったか。もういい。死ぬがいい。呪い、呪われ、回り、回れ、螺旋呪獄陣』
それは、掛けられたものの全身を腐らせ、溶け落ちさせる邪悪な上位魔法。
マイティの足元に紫色の、おどろおどろしい魔法陣が出現し、ぐるぐると高速で回転を始めた。
哀れ、マイティはこの魔法の前に一巻の終わり……。
「ふんっ! やっぱり魔法使いだったか! だが、俺は魔法も防げるんだ!」
パリーンっと音がした。
魔法は破られた。
ちなみに巻き込まれてモンスターが数十匹単位で臭い汁になって溶け崩れた。
『なん……だと……!?』
驚愕で、一瞬動きが止まるノーライフキング。
その頭に、鉄の手斧が突き刺さった。
「当たりました! やったー!」
「いいぞエクセレン!」
だが、手斧は高速で再生するノーライフキングの体から押し出され、足元に落ちる。
『な、な、な、な、な、なんだ、貴様らは! この私の魔法を防ぐだと!? 現代の堕落した人間どもがか!? ありえん! ありえて堪るか!! 貴様をこの場で生かしておくわけにはいかん! 女! 私の顔にいきなりトマホークを投げつける蛮族仕草、許しがたい! 貴様も死ね!! 八重連詠唱!!』
ノーライフキングの肩から、肘から、頭部側面から、胸から口が出現し、八つの魔法を同時に詠唱し始める。
これを見て冒険者たちは震えた。
「ば、ば、化け物だ!!」
「本物の化け物!」
「動け、俺の足動けよお!」
「ひいい、逃げられねええええ」
ノーライフキングの周囲の空間が歪む。
生まれたのは、極大の火球が八つ。
この周辺一帯を焦土にするほどの火力である。
「おほー! でかいな!」
何故かマイティは嬉しそうだった。
「ど、どうしましょうマイティ!」
「俺の後ろに隠れてるんだ。来るぞ!」
『煉獄火炎連続落下!!』
一発ですらミノタウロスを蒸発させるような炎が、連続して八つ降り注いだ。
爆発が、爆炎が上が……上がらない!
「ふん! ふん! ふんふんふんふんふん……ふんっ!! これで八つ! ダメージは……ゼロだ!!」
『なんだとーっ!!』
ノーライフキングは、文字通り飛び上がって驚いた。
ノーライフキングになってこの方、驚いたことなど無かった身である。
だが驚いた。めちゃくちゃにびっくりした。
「よしエクセレン、反撃だ! ぶっ倒せ!」
「うん! いっくぞー!! マジックミサイル……を利用して、どーん!!」
飛び出したエクセレンが、マジックミサイルを放つ。
『馬鹿め、そのような魔法など私には』
だが放ったのは横にだ。
マジックミサイルを連射する速度で、エクセレンが回転を始める。
回転しながら、ノーライフキングに迫るのだ。
『な、な、な、ええい、八重連詠唱……』
「お前の敵は俺だぁっ!!」
『ぬおおーっ!! 視線が! 標的がこのタンクに釘付けになる!!』
ノーライフキングの視界の端に迫る、回転エクセレン。
得物はミノタウロスアックス。
「とおりゃーっ!! 魔技! ミサイルスピーンッ!!」
放たれた一撃は、ノーライフキングの再生など許さない。
一撃でその体を両断し、二回転目でさらに割り、三回転目で粉々にし、そのまま通過した。
『ぬうおおおおーっ!! 危険! 危険過ぎるこやつらはーっ!! 魔王様にっ、降臨される魔王様にお伝えをーっ!! 逃げの詠唱を……』
「俺が相手だーっ!!」
『や、やめろーっ!?』
八重連詠唱は急には止まれない!
マイティを標的と定めた七つの口は、攻撃魔法の詠唱を続ける。
破壊された端から再生して行ってはいたが、その速度が明らかに遅くなっている。
『あ、あの女にやられた傷口の治りが遅い! ま、まさかお前……お前は……!!』
後頭部に目玉を生やし、エクセレンを認識したノーライフキング。
そこには、光り輝く棍棒を振り上げた彼女の姿があった。
『勇者っ……!! ウグワーッ!!??』
光る棍棒が、ノーライフキングを滅多打ちにする……!
かくして、千年前より存在していた魔将は、ここに倒されたのである。
パーティー名『エクセレントマイティ』
ランク:D+
構成員:二名
名前:エクセレン
職業:エクセレントファイター
Lv:10→14
HP:91→145
MP:56→88
技 :二刀流スピン→魔技ミサイルスピン クイックドロー バックスタブ パイルバンカーブロウ
魔法:マジックミサイル(中級):派生ドリルマジックミサイル(下級) ヒール(下級) ライト(下級)
覚醒:シャイニング棍棒
武器:鉄のナイフ 鉄のトマホーク トゲ付き棍棒(覚醒) ミノタウロスアックス
防具:革の鎧
名前:マイティ
職業:タンク
Lv:85(レベルアップ間近)
HP:1200
MP:0
技 :ガード強化(特級) カバーガード(特級) エリアガード(特級)
マジックガード(特級) マインドガード(特級) パリィ(特級)
ガードムーブ(特級) ヘイトコントロール(特級)
魔法:なし
覚醒:なし
武器:なし
防具:熟練のプレートアーマー、熟練のビッグシールド
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