熟練度カンストの魔剣使い~異世界を剣術スキルだけで一点突破する~

あけちともあき

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最終章 熟練度カンストの魔剣使い編

熟練度カンストの疾風者

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 身無上の人々の守りを亜由美ちゃんに任せ、俺は疾風のごとく空を駆ける。
 最高速度ではリュカに劣るが、ゲイルの強さは、俺を乗せて飛べる運搬能力だ。
 一瞬で、空中を吹き飛ばされる宇宙船まで追い着いた。
 真横に、リュカがいる。

「私一人で良かったのに」

「リュカ一人に任せきれないんだよ、こいつは。アンブロシアまでならいいが、リュカやサマラのレベルの攻撃力で叩くと、大惨事になる可能性がある。ってことで、ここからは俺だ。“ビッグ・ソニック”」

 大剣状態のバルゴーンを抜き打ちで放つ。
 何度か斬って、移民船の構造は理解していた。
 バリアを紙でも切るかのように裂くと、その下にある金属装甲を、刃が断ち割っていく。
 音はしなかった。
 船は半ばが、ぱくりと口をあけたような形になった。
 そのまま、吹き飛ばされる勢いと自重で、傷口をどんどんと開いていく。

「ここに縮退炉があってな」

「しゅくたいろ? なあに、それ」

「すっごく危ないものだ。リュカがさっきの勢いでパンチするだろ。そうすると蓬莱が丸ごと消えてなくなるくらいの爆発を起こす」

「ひゃあー」

 事の重大性を理解したリュカ、ちょっと青くなる。
 蓬莱という土地そのものには愛着はなくても、彼女が同胞意識を抱いた、竜胆ちゃんの故郷なのだ。
 リュカは、親しくした人が不幸になることを嫌う。
 ということで、彼女は飛行速度を落とし、俺の後ろにちょこんと腰掛けた。

「なので、俺が今からこいつをほじくり出す。それを風で思いっきり打ち上げてくれ。できれば宇宙までな」

「分かった!」

「よし! ならばこうだ!!」

 有言即実行。
 俺は完全に位置を把握した縮退炉を、一閃で周囲の機関から切り離し、空中へと放り出した。
 次はリュカが即座に反応する。
 強烈な、局所的上昇気流が生まれると、それは複数のガルーダの形をとり、高速で空に舞い上がっていく。

「上には空気がないと思うが、風で持っていける?」

「大丈夫。今加速してるから、その勢いで放り出しちゃう!」

 なるほど。
 加速して、カタパルトよろしく大気圏外へ撃ち出すというわけだ。
 やがて、縮退炉は全く見えなくなってしまった。
 今頃、星の衛星軌道に乗っているのだろう。
 あれの処理は、後の時代の人々に任せることにする。

「よし! これで終了! 次はネイチャーに行くけど……」

「竜胆と亜由美にここは任せていいと思う。アリエルがたまに様子を見にきてもらって」

「そうだな、それで行こう」

 俺は、今後の指示を、リュカが使う風の魔法に乗せて、竜胆ちゃんと亜由美ちゃんに伝える。
 わかったのじゃ! という元気な返事と、ういういーというやる気なさげな返事が聞こえてきた。
 まあ、あんな受け答えでもやる時はやる子だ。
 信じるとしよう。

「じゃあ一気に移動するぞ!」

 俺の左目が熱を放つ。
 本日何回目の跳躍だろうか。
 このワープ能力、限界はないのか?
 使用制限があって、体に負荷が掛かるんだったら洒落にならんぞ。
 後でエインガナに問いただしてやろう。



 じんわり湿っていた空気が、熱く乾いたものに変わる。
 このにおいは憶えている。
 新大陸、ネイチャーに吹く風のにおいだ。

「つい最近来たばかりのはずなのに、なんだか懐かしい気がする……! でも、風の中に変な臭いが混じってる……!」

「おう。どうやら俺たちの到着をお待ちかねのようだぞ」

 既にバルゴーンは抜き身だ。
 俺たちがネイチャー側へ出現した瞬間、そこを目掛けて極太のビームが放たれた。
 どうやったのか、俺たちの出現を知り、あらかじめ待ち受けていたようだ。
 すぐ眼前に、移民船。
 こいつら、さては連絡を取り合っているな?
 今まで俺が叩き潰してきた船から、俺に関するデータが集まっているのだろう。

「ユーマ、壁を……!」

「いや、問題ない」

 俺が反応した時点で、向こうの奇襲は失敗している。
 剣を一閃すると、斬撃がビームを両断しながら突き進んでいく。
 俺たちは、安全になった場所を飛んでいくだけだ。

「リュカ、下の連中は無事か?」

「うん、戦っているみたい。だけど、数はすごく減ってる!」

「ウルガルとミラがいるはずだぞ。それでこの程度の相手に打ち負けるとは考えづらい。何か隠しだまがいるな」

「じゃあ……ユーマの出番だね」

「ああ。空は任せた」

「任せて!」

 リュカが力瘤を作って見せた。
 俺は親指を立て、自力での飛行を開始する彼女を見送る。
 下降するゲイル。
 赤茶けたネイチャーの大地には、力尽き倒れ伏した戦士たち。
 どれも、ウルガルと同じ、雷の精霊王ワカンタンカに仕える者たちだろう。
 決して弱くはない。
 だが、彼らを死に至らしめたであろう傷は不可解なものだった。

「真っ向から、抵抗もできずに斬られてるな。しかもこいつは、高い熱量を宿した刃物だ。例えば、ビーム的な」

 俺はゲイルから、地面へ降り立つ。
 ざっと周囲を確認した。
 真っ向からやられている者もあれば、四方八方から攻撃されてばらばらにされた者もいる。
 死に方は様々だが、共通点は二つ。
 ビーム的な刃で殺されており、その際に、抵抗した様子がないことだ。
 切れ味が綺麗に入りすぎている。

 不意に、風が吹きすさぶ。
 すると、西部劇で観たことがあるような、枯れ草のボールがころころと転がっていく。
 それが一瞬、回転が遅くなったように見えた。
 間違いあるまい。
 俺が一度やりあったタイプの奴だ。
 しかも複数。

 俺は認識と同時に、バルゴーンを振った。
 大きく一歩踏み込みながら、縦に一閃。
 すると、何も無かったはずの場所に、両断された男の姿が出現した。
 まるで空気から滲み出すように、その男の全身があらわになる。そして左右に倒れた。
 手に握っているのは、ビームの刃を発する筒。

「時間を止めるタイプだろう? そのタイミングはもう知っている」

 時間の干渉を受けないバリアで自らを包み込み、いわゆる時を止めて戦うタイプの連中だ。
 問題は、バリアを張ると光も空気も停止し、何も見ることができなくなる。
 そのため、行動を起こす前に目標とする座標を設定し、その位置に向って一直線に進むことしかできない。
 そんな能力だ。
 種を知らなければ、強力無比であろうが……。

「あらかじめ、俺を座標にしていしないといけないものな」

 一瞬気配を感じた方向に、バルゴーンを抜き打ちに放つ。
 するとまた、そこにあった何もない空間が裂けた。
 胴体を二つに割られた男が、信じられないものを見るような眼で、俺を睨む。
 俺は彼を無視し、そのまま振り向きざまに一撃を抜き放つ。
 また一人、時間停止バリアごと両断され、地べたに崩れ落ちる。

「芸が無いな? 種を知られれば終わりか」

 挑発する言葉を投げかけると、周囲から怒りの気配がした。
 こいつらは、バリアを張る前にも、光学迷彩的な装備で姿を消しているようだ。
 だが、時間停止時と違い、確かにそこに存在しているのならば、どう動いたかを捉えることは容易い。

 地面を蹴る音がした。
 重ねて三つ。
 三人か。 
 どうやら、これで最後のようだ。
 俺もまた、彼らに合わせて跳躍した。

「“ビッグ・ソニック”」

 大剣へと変じたバルゴーンを、横に振りかぶり、俺は空中で三回転。
 一回転で、襲い掛かる三人のバリアが剥ぎ取られ、二回転でビーム刃ごと、奴らを叩き斬る。
 そして三回転目の剣風が、敵全てを跳ね飛ばした。

「ユーマ!!」

 野太い声がした。
 全身に傷を受けた大男が、こちらに駆け寄ってくる。

「おお、ウルガル。よく生きてたな」

「ウルガル、おかしいと思った。だから、体にワカンタンカの雷を纏ってミラを守った。雷、敵の光る剣を防ぐ」

「初撃で殺されなかったのは運が良かったな。確かに、ワカンタンカの力で守られたら、時間を止めようがあいつらには手出しできんだろう」

 ウルガルの後ろには、森の精霊王ビラコチャの新米巫女、ミラの姿がある。
 ここで俺は、おや、と思った。

「ウルガル。サマラとアンブロシアという、うちの仲間をこっちに派遣していたんだが」

「パチャカマックに行ってもらった。パチャカマック、太陽の戦士しかいない。危険」

「そうかそうか。あの二人が行ったなら安心だろう。あとは縮退炉を爆発させないようにだな……」

 俺が次なる動きを考えて出すと、頭上でも動きがあった。
 リュカが移民船を殴り飛ばしたのである。

「ゲイル!」

 俺も飛竜を呼び、飛び乗る。
 行うのは、蓬莱と同じ、共同戦線だ。
 今度は上空へ一直線に駆け上がる俺。
 下から上へ、移民船を両断する。
 零れ落ちる縮退炉が、再び宇宙に向けて、猛烈な上昇気流に追い立てられていく。

「じゃあ、次行くから!」

「お、おう。ユーマは忙しい……!」

「また遊びに来て」

 リュカと合流した俺に、ウルガルとミラが手を振る。
 多くの犠牲者が出たが、それでも多くの命が助かっている。
 ウルガルたちが頑張ってくれたお陰であろう。
 そして、ネイチャーからパチャカマックへ飛び、最後にグラナート帝国。
 これで終わりだな!
 俺が知る限りの、旅をしたことがある世界全てを巡ったことになる。

 ああ、そうだ。
 蓬莱にまだ残っているであろう、移民船も片付けないとな。
 ああ忙しい……。
 俺は完全にテンパッていた。
 だから、失念していたのだ。

 あの時、第一総督こと蓬莱帝の宇宙船を倒そうとしたとき、翡翠の皇帝は何と言っていただろうか。
 焦土に変えられた、遥か南方の大陸があると。
 俺にとって、未知の大陸。
 侵略はゆっくりと、俺が気付かぬところで進行していたのだ。
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