熟練度カンストの魔剣使い~異世界を剣術スキルだけで一点突破する~

あけちともあき

文字の大きさ
上 下
248 / 255
最終章 熟練度カンストの魔剣使い編

熟練度カンストの誘惑者

しおりを挟む
「おやまあ」

 おやまあ、ではない。
 身無上は半壊状態で、既にそこには宇宙船が鎮座ましましている。
 植民が始まろうとしているのだろう。
 もともと住んでいた住民たちは、こぞって避難をしていた。
 最初から戦いを放棄したおかげで、犠牲者はないそうだ。
 その点において、この地の支配者である銀楼太夫は有能だと言える。
 で……その銀楼太夫が、俺にしなだれかかっているわけであるが。

 今の彼女は、髪をおろし、ほぼすっぴん。
 だが、まあこれが異常な色気を放つ女性なのだ。
 事実、彼女の能力は性的興奮を自在に操っての他者籠絡。
 俺以外ではまともに立ち会うこともできない相手だ。

「本当にありがたい時に来てくれなさいましたわ。此方、お前様を首を長くして待っておりましたんえ?」

「な、なななな、なんですかこの人!? 馴れ馴れしい!」

「う、うむ。こいつはちょっと、のう……。妾も意識を奪われたことがあって、苦手なのじゃ……」

「だが、得意の魅了も宇宙から来た連中には通用しなかったわけだな」

「ええ、まっことその通りで。此方ではあんな怪物、どうしようもござんせん……」

 人間でしか無い銀楼太夫には、確かに厳しかろう。
 だが、この土地の荒御魂がいるのではないか?

「荒御魂は?」

「身無上様も、直接戦うのは苦手でやんして……毒なので」

「あー……イモガイの荒御魂だもんなあ。そりゃあきついよなあ……」

 ちなみに、宿場に逗留していた武人たちなどは、身の程知らずに移民船へ挑み、みんな殺されるか捕獲されるかしてしまったという。

「おうおう、なんか溢れ出してくるなあ。あれは人間? いや、ロボットだな。移民連中は……あのカプセルみたいなのから解凍されてる最中か」

 俺一人で突進する事は可能だが……それではこちらに手出しをされた場合、若干犠牲が出るかも……など考えているとである。

「ユーマさん、私、近くにパスを繋いで暇な人を連れてきます。亜由美さん、確か暇だったと思いますから」

「おー! そうだった! 確か親子水いらず中だったよな。頼む! 亜由美ちゃんと、あとついでに仕事が終わってたらリュカ連れてきてくれ!」

「はい、分かりました!」

 ということで、増援待ち。
 せっかくだからここで、うちの女性陣を戦力的に、どこに配分するかを考えることにする。
 俺の仲間で、一番強力なのは間違いなくリュカ。
 次いでサマラ、そしてアンブロシアだろう。
 ヴァレーリアは汎用性が高くて強いが、今はグラナート帝国の支援にかかりきりだ。俺たちも早くそこに行って彼女を支援したいが、その前にネイチャーやパチャカマックを助けに行かねばならない。
 とすれば、ここをリュカと亜由美ちゃんで速攻で片付け、次にネイチャー、パチャカマック。
 先にネイチャーに、サマラとアンブロシアを送り込むべきだろう。

「ふうん。お前様のいい人が増えるんでありんすか? 楽しみでやんすねえ」

「良いか銀楼太夫。これからくる、虹色の髪をしたリュカという娘にだけは手を出してはならんぞ!」

「おや? それは、こちらの旦那のいい人だからですの?」

「それもある。じゃが、リュカだけはいかん! ユーマの次に手を出してはいけない相手じゃ!」

「へ、へえ」

 銀楼太夫がちょっと引いている。
 竜胆ちゃん、相手の身を心配しての言葉だな。
 リュカは確かに、割りと俺と一緒にいる時は良心的なのでいいのだが、見知った仲間以外には大して情を向けないところがあるからな。
 広範囲の殲滅能力にかけては、俺が知る限りではダントツのトップクラスだ。
 単独で宇宙船を叩き壊せる女子が、一体どれだけいるというのか。
 銀楼太夫程度の相手であれば、リュカに魅了をかけようとした瞬間、彼女の反射行動でバラバラにされてしまうことだろう。 
 どうも、俺と共に行動しだしてから、リュカは己の力の使い方をどんどんマスターしていっている気がする。
 そして、完全に風の精霊王ゼフィロスを取り込んで、サマラ、アンブロシアもそうなのだが、彼女たち三人の巫女は半神とも言えるそんざいに変わってきているのである。
 まあ、俺のほうが強いので問題ない。
 あと、俺の存在自体が彼女たちにとっての倫理観の、大きなストッパーになっているようだ。
 俺がいなければ、彼女たちは世界を滅ぼすだろう。

 ふにゃふにゃと、そんな益体もないことを考えていると、銀楼太夫がお茶を淹れ始めた。
 それを行いながら、彼女は、陳情にやってくる民の相手をしている。

「なんぞ、おかしなやつばらが出てきたのう……! なんじゃ、あいつら!」

 敵の動きを監視していた竜胆ちゃんが、口をへの字にした。
 ほう、ガッシャンガッシャンと人型のロボットみたいなものが出てきているじゃないか。
 あ、いや、あれは動きが少々生々しい。
 なんというか、サイボーグ的な。

「あれは俺が見るに、捕まった武人どもが改造されたやつだな。現地資材を使ってエコに立ち回ってやがる」

「なんじゃと!? 人を作り変えたというのか!!」

 あちこちに装甲を埋め込まれ、歪な形になってはいるが、よく見ると頭部の半分は人間のものだ。
 彼らの脳細胞も利用して、安価な使い捨てサイボーグとして利用しているのかもしれないな。

「なんとまあ……外道なことをなさる」

 流石の銀楼太夫も、これには眉根を寄せる。

「宇宙から来た連中だからな。初めから俺たちを、同格の人間だとは見ていないだろうよ。だからこちらも、連中を人として見る必要はない。ほれ、そろそろ来たようだぞ」

 いきなり、強烈な風が吹いた。
 金色のキラキラする風呂敷と、その上に乗った三人の娘がこちらにやってくる。

「ユーマさん、連れてきました!」

「ユーマー!」

「やった! これでうちの親から逃げられるっす!!」

 三者三様。
 アリエル、リュカ、亜由美ちゃん。
 まずは、亜由美ちゃんとリュカと俺で、早急にここを解放する。

「アリエル、連続で済まんが、今度はサマラとアンブロシアをネイチャーに大地に送り届けてくれ」

「はい、分かりました! ユーマさんならそう言うと思って、二箇所とも覗いてきたんですけど、大方片付いてましたから」

「仕事ができるなあ君は……」

 しみじみとアリエルの有能さに舌を巻くのである。
 ちなみに、もう二人の頭脳系女子、ローザと深山早苗さんは、エルフの森に置いてきている。
 彼女たちの仕事は、戦いが終わった後の復興にこそあるだろう。

「ユーマ、どうするの? 何すればいい?」

「そうだなあ」

 俺の横までトコトコとやってきたリュカ。
 対して、銀楼太夫はリュカを見るなり、スーッと顔色が青くなっていく。
 そそくさと竜胆の隣まで移動して、こそこそ話だ。

「な、なんでありんすか、あのお嬢さん……! 気配がまるで荒御魂のものと変わらないなんて……人間じゃないとしか思えやせん……!」

「うむ、リュカのやることをみておるのじゃ。腰を抜かすから」

 竜胆ちゃんの説明が的確だな。

「銀楼太夫、更地にしていい?」

「ええ、どうせここまで壊されてしまっておりんすから、構やしませんけど……」

「よし、リュカ、粉々で」

「うん、分かりやすい方だね! よーし。シルフさん、ガルーダ、お願い」

 リュカが空に向けて手を伸ばす。
 すると、リュカの体が空に浮かび上がった。
 彼女の周囲に、異様な圧力の風が巻き起こり始める。
 空が一面にかき曇り、周囲の人々が耳を抑えてうずくまる。
 気圧が下がってるな。

「亜由美ちゃん、バリア」

「ええーっ!? いきなりそれっすかあ!?」

「リュカが手加減抜きで行くから、死人が出るぞお」

「ひい!! バリアーっす!!」

 亜由美がぶら下げていた金の風呂敷が、大きく広がった。
 それが、俺たちの上に広がり、リュカが起こす風をシャットアウトする。

「よし、リュカが行ったら突撃するからな。ゲイル、準備」

 飛竜はぐおんぐおんと頷いた。
 この間に、アリエルは風呂敷の下を森に向かって這い進んでいく。
 作戦行動はリアルタイムで行かねばならないのだ。
 次の瞬間、爆発音がした。
 極限までリュカが圧縮した風が、彼女を前方へと弾き飛ばしたのだろう。
 空気がうねり、空に集まった雲が吹き飛ばされる。
 いつもはゼフィロスを召喚する際に生まれるスーパーセルを、全てリュカの体にエネルギー化して集めているというわけだ。
 おっ、身無上の一角が消し飛んだ。
 サイボーグどもが、数十人単位で粉々になったようだ。
 即座に反応した移民船、リュカへの攻撃を開始する。

 まあ、大気中で減衰するビーム砲程度では、リュカを包む空気の層を抜くことができないわけだが。
 風の巫女は、まるでそよ風のようにビームの雨をいなすと、宿場町の中心に鎮座した宇宙船を、思いっきり殴りつけた。
 多分、あの一発に、大型台風を凝縮したエネルギーが詰め込まれている。
 結果、まるで紙風船のように宇宙船はひしゃげ、吹き飛ばされた。

「よーし、あのままだと縮退炉までぶっ壊すからな。後片付けに行くぞ、ゲイル!」

 ぐおーん、と飛竜は頷いた。
 もう、俺と組んで三回宇宙船と戦っているので、よく分かっているのである。
 ある意味、ゲイルも俺の相棒なのかもしれんなあ。
 しみじみ思いながら、俺も出撃することにする。
しおりを挟む
感想 25

あなたにおすすめの小説

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

【完結】魔術師なのはヒミツで薬師になりました

すみ 小桜(sumitan)
ファンタジー
 ティモシーは、魔術師の少年だった。人には知られてはいけないヒミツを隠し、薬師(くすし)の国と名高いエクランド国で薬師になる試験を受けるも、それは年に一度の王宮専属薬師になる試験だった。本当は普通の試験でよかったのだが、見事に合格を果たす。見た目が美少女のティモシーは、トラブルに合うもまだ平穏な方だった。魔術師の組織の影がちらつき、彼は次第に大きな運命に飲み込まれていく……。

異世界で快適な生活するのに自重なんかしてられないだろ?

お子様
ファンタジー
机の引き出しから過去未来ではなく異世界へ。 飛ばされた世界で日本のような快適な生活を過ごすにはどうしたらいい? 自重して目立たないようにする? 無理無理。快適な生活を送るにはお金が必要なんだよ! お金を稼ぎ目立っても、問題無く暮らす方法は? 主人公の考えた手段は、ドン引きされるような内容だった。 (実践出来るかどうかは別だけど)

召喚学園で始める最強英雄譚~仲間と共に少年は最強へ至る~

さとう
ファンタジー
生まれながらにして身に宿る『召喚獣』を使役する『召喚師』 誰もが持つ召喚獣は、様々な能力を持ったよきパートナーであり、位の高い召喚獣ほど持つ者は強く、憧れの存在である。 辺境貴族リグヴェータ家の末っ子アルフェンの召喚獣は最低も最低、手のひらに乗る小さな『モグラ』だった。アルフェンは、兄や姉からは蔑まれ、両親からは冷遇される生活を送っていた。 だが十五歳になり、高位な召喚獣を宿す幼馴染のフェニアと共に召喚学園の『アースガルズ召喚学園』に通うことになる。 学園でも蔑まれるアルフェン。秀な兄や姉、強くなっていく幼馴染、そしてアルフェンと同じ最底辺の仲間たち。同じレベルの仲間と共に絆を深め、一時の平穏を手に入れる これは、全てを失う少年が最強の力を手に入れ、学園生活を送る物語。

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

大学生活を謳歌しようとしたら、女神の勝手で異世界に転送させられたので、復讐したいと思います

町島航太
ファンタジー
2022年2月20日。日本に住む善良な青年である泉幸助は大学合格と同時期に末期癌だという事が判明し、短い人生に幕を下ろした。死後、愛の女神アモーラに見初められた幸助は魔族と人間が争っている魔法の世界へと転生させられる事になる。命令が嫌いな幸助は使命そっちのけで魔法の世界を生きていたが、ひょんな事から自分の死因である末期癌はアモーラによるものであり、魔族討伐はアモーラの私情だという事が判明。自ら手を下すのは面倒だからという理由で夢のキャンパスライフを失った幸助はアモーラへの復讐を誓うのだった。

アイマール・フィンの冒険~新米冒険者は神速の矢を放つ~

イーストバリボー
ファンタジー
 新米冒険者アイマール・フィンに初めての仕事の依頼が届いた。それは森で迷子になった少女の捜索だった。たった一人で冒険に挑むことになったアイマールの成長物語。  どこか懐かしい感じのファンタジーを目指しました。応援してくれたら嬉しいです。イラストはマイフナ様でございます。

【本編完結】転生したら第6皇子冷遇されながらも力をつける

そう
ファンタジー
転生したら帝国の第6皇子だったけど周りの人たちに冷遇されながらも生きて行く話です

処理中です...