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最終章 熟練度カンストの魔剣使い編

熟練度カンストの測定不能者

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『あっ……あんたァ! 何よ! 今、あんたうちに何をした!!』

「見ての通りだ。おたくの重心を崩して転ばせた」

『はあ!? うちの青獅子は重力スパイクを装備してんのよ! 物理的に転ばせられるわけが……』

「うむ。それくらいやって来ると思ったので、余裕を持ってその重力スパイク? とか言うのが働かないくらいまでバランスを崩してやった」

 俺はそれだけ説明し、バルゴーンのサイズを小さくした。

「見た所、あんたが移民船団の最大戦力っぽいな? 他の船はまた違うんだろ」

『とぼけた事を言う……!! 行け、捕獲者!』

 青獅子とか名乗った、ライオン型ロボットの命令に従い、周囲にいた金属製の肉食獣が一斉に俺に襲い掛かってくる。

「灰色の剣士」

「おう、気にするな。こいつらは俺の方が相性がいい」

 俺は自ら、獣たちに向かって距離を詰めた。
 疾走、接触と同時に一体を受け流し、そのまま上下に真っ二つ、なで斬りに切り捨てる。
 反転しながらもう一体を切り捨て、頭上から来るものを一歩前に進みつつ、通り過ぎざまに両断する。
 即座に双剣へ変更し、さらに一歩進み出て、左右からの挟撃を目論む獣の前足をまとめて叩き切る。

『うっそ。装甲の隙間狙うとかセオリー無視して、一番分厚いところを真っ二つとかおかしいでしょ……!』

「分子構造の隙間を狙えばどんな分厚い装甲でも豆腐と一緒だぞ。時間がないからさっさと終わらせていく」

 待っていれば向こうから、正確に飛びかかってきてくれる。
 楽なことこの上ない。
 戦場を確保しながら、少しずつ移動して敵を斬ればいい。
 俺は青獅子に向かって歩きながら、飛びかかる鋼の獣をスッパスパとぶった斬る。
 ちょうど奴の目の前に到着した時点で、雑魚であろう鋼の獣たちは全て行動不能になって倒れ伏していた。

「さっすが灰王様だぜ!!」
「人間にしておくの惜しいぜ……!!」

 ゴブリンの族長二人が俺を褒めそやす。
 そんなに褒めても何も出やしないぞ。

「馬鹿どもが……。灰色の剣士のそれは、既に剣という領域ではない。技を極めただけで、テクノロジーさえ一笑に付すか……!」

 フランチェスコの声が聞こえてくるな。
 俺の前では、青獅子が上空にある何かと連絡を取っているようだ。

『風が!? 馬鹿じゃないの!? そんなもので船が揺らぐとかありえないでしょう! はあ? スーパーセル……!?』

「それはうちの嫁の仕業だ」

 上空に浮かぶ青いカプセルのような船を、湧き上がった巨大積乱雲が包み込んでいる。
 宇宙を渡ってきたはずの船が、風に吹かれてぐらぐら揺れているのはなかなか見ものだな。
 リュカは風の巫女で、空気の流れ全般を自在にコントロールできる。
 そのコントロールの精度や威力というものが、ちょっとシャレにならないレベルで、今までは人里に被害が出るために常に手加減されていたのだが……。

『何、あの風……!? この星ではあんな風が吹くって言うの……!?』

「だから、あれはうちの嫁が」

 宇宙船が、メチャクチャな方向に砲撃を始める。
 どうやら、だが、相手は雲で風である。
 そんなものでどうにかなるものではない。
 メキメキと音を立てながら、船はひしゃげていった。

『そんな馬鹿な……!!』

 青獅子が空に向かって跳躍しようとする。
 俺はそのタイミングに割り込み、ちょっと飛び跳ねながら青獅子を叩き落とす。

『あいたぁ!!』

「目の前に俺がいるだろう。助太刀なんかさせないぞ。ほれほれ」

 俺が剣を振り回すと、青獅子は慌ててバリア的なものを張り巡らせた。
 当然、それらをバルゴーンが切断するが、生まれた反発力で相手は俺から距離を取る。
 これは埒が明かんな。

「よし“ディメンジョン”」

 空間を斬った。
 そこに飛び込みながら、奥に広がる異空間を切断して青獅子の目の前に出現。

『瞬間移動……!?』

「ワープに近い……!」

 言いながら、俺は剣を振り切った。
 青獅子の頭部が縦に裂ける。

『そ、そんな馬鹿なっ! あんた、明らかにその剣しか持ってないのに! なんで……なんでそんなこと!!』

「悪いな、説明している暇はない」

 破壊した頭部の下から、何やら可愛らしい顔がこっちを見上げている。
 なんか泣きそうな顔をしている。

「聞いてないわよ! あんたみたいなのが、なんで辺境宇宙の惑星にいるのよ……!」

「俺は異世界から連れてこられたクチでな。まあバグみたいなもんだ」

 一撃で、青獅子の外部装甲を切り飛ばす。
 後には、リュカくらいの背格好をした、青い髪の少女が残るばかりだ。

「サイボーグ?」

「ガイノイド!! 単身で移民船防衛能力を持つはずのうちが、たかが人間一人に簡単に……!」

 わなわなと震える彼女。

「フランチェスコ。こいつは任せた。上の宇宙船もじきに落ちるだろ」

「うむ……」

 ラグナ教団の中枢たる監察官は、顔をしかめた。

「で、どうなんだ? ここに差し向けられた戦力ってのは」

「恐らくは、捕獲者中心だったことを考えると、主戦力ではないだろう。アブラヒムにマリアからの連絡で、それぞれ一隻ずつの船と交戦中だ」

「おうよ。じゃあ行ってくる」

 俺が日本から帰ってきた時点で、女性陣はそれぞれ、自分が所属する国へ向かっている。
 手近な所から片付けていこう。
 次は、アルマース帝国。サマラだな。

「では頼む」

「待て、灰色の剣士、お前は」

 話の途中で、俺は左目の力を使って跳躍。
 一瞬にしてアルマース帝国に到着する。
 ここにはアブラヒムがいるが、奴の持っているUFOは、俺たちが先日破壊したばかりである。
 多少は仕事をせねばなるまい、と頭上を見上げた。
 すると、巨大な青い宇宙船が浮かんでいることは浮かんでる。
 だが、そいつが周囲に向かって、次々と戦闘力を有しているらしい分身を吐き出し、これをペチペチと軽々叩き落としている存在がいるではないか。

『おう、灰王、遅かったな』

「ワイルドファイアか……! そうか、お前、あそこの山にいるんだもんな」

『火の巫女が、我の撃ち漏らした輩を掃除して回っている。ここにお前の出番はなかろう』

「さいですか」

『ここは我と巫女がいる。故に彼奴らの迎撃は容易だ。だが、竜も巫女もおらぬ場所は、さぞや悲惨なことになっておろうよ。この星には、我も多少は愛着がある』

 ワイルドファイアは、突っ込んできた宇宙船を真っ向から受け止め、空中で静止させる。
 ゼロ距離からワイルドファイアに向けて、凄まじい光が叩き込まれているが、この火竜、それらを正面から受けて涼しい顔である。

『蚊トンボどもを潰して来るが良い。お前は強くなっている。なれば、いよいよ我は本気を出せるだろうよ』

「物騒な事を言うやつだな。まあいい。じゃあ任せた」

 俺は奴にそれだけ告げると、再び跳躍する。
 現れた場所は、火竜の山のふもと。
 遊牧民やリザードマン、ドワーフたちの集落である。

「ユーマ様! 来てくださったんですね!」

「灰王さま!」

「灰王さマー」

 サマラに、アイとマルマル、みんな無事だな。
 俺の横で、火の精霊王アータルが宇宙船と殴り合っている。
 地上には、宇宙船が吐き出したであろう、明らかに攻撃用のロボットが蠢いていた。
 二足で歩き回りながら、地上に向けてビームっぽい弾をばらまく連中である。
 高さは、三階から四階建ての建物くらい。
 とんでもなくでかい、首なしダチョウみたいなものだ。
 これの足元に、亜竜とそれにまたがったリザードマンがひしめいている。
 集中されたブレスがロボットの脚部を溶かし、転倒させる。
 その一角では、逆にロボットが、ばらまく光の弾で現地の奴らを蹴散らしているではないか。

「楽勝とはいかんようだな」

「数が多いです! アタシだと、あの空に浮かんだ大きいので手一杯で……! ワイルドファイア様が帝国の方を守ってくれてるんで、どうにかなってるんですけど!」

「こっちには二隻来てるもんなあ」

 俺は、こちらに向かって突き進んできたロボットに剣を構える。
 射出される光の弾を、バルゴーンで反射してやる。
 だが、奴も自分の武装に対する防備は固めてあるようだ。跳ね返した弾が、表面装甲で弾けている。

「お! 灰王様じゃないかい? あたしらも負けちゃいないからね」

 どすの聞いた女の声がして、続いて野太い男どもがウオーイ、と吠えた。
 ドワーフたちの到着である。
 彼等が作り上げたのは、巨大な投石機。
 乗せる弾は、火山から持ってきた岩石の塊である。

「ちょっとこいつをぶっ放すから、灰王様は攻撃を防いでてくれないかい?」

「王様使いの荒い奴らだな」

 俺は言いながらも、ちょっと楽しい。

「灰王さまがんばれー!」

「がんばレー」

 幼女たちの声援を受け、ロボットたちの前に立ちふさがる。
 放たれる弾丸を、片っ端から反射、反射、反射だ。
 背後では、ドワーフたちと遊牧民たちが力を合わせて投石機をセットし、照準を定める。

「発射だよ!」

 ドワーフの女族長が号令を出すと同時、投石機の固定が解除された。
 スプーン状の部位に搭載された、でかい岩石が勢い良く宙を舞う。
 狙い過たず、ロボットに直撃。
 超重量と衝撃で、ロボットは足をへし折られながら粉砕だ。
 歓声があがる。

「おお、みんなやるじゃないか。創意工夫で科学技術の差は補えるな」

「灰王様がやってくれるおかげだよ! さあ、あと何発かぶっ放すから、灰王様は空から撹乱を頼めるかねえ?」

「本当に王様使いが荒いな……。ゲイル!」

 俺が呼ぶと、空飛ぶ亜竜が舞い降りてくる。
 俺に完全に懐いた彼は、俺の跳躍に合わせ、超低空飛行で下に潜り込む。
 これで搭乗完了。
 命令など無くても、ゲイルはロボットたち目掛けて飛翔していく。
 俺は、やや押されている戦場目掛けて一気に跳び、ロボットの上部に着地。
 足場になったそいつの上面装甲を、走りながら斜め一文字に切り裂き、飛び降りてゲイルと合流。
 火花を吹きながら体勢を崩すロボット。
 そこへ、突撃型の亜竜が群がった。
 ロボットは打倒され、頭部にリザードマンたちが炎のブレスを吐きかける。

「そおれ放てー!」

 また号令が響き、今度は複数の岩塊が投石機から放たれる。
 量産化してやがったのか。
 原始的かつ強力な質量弾が、移民船団の戦闘用ロボットを破壊する。

「ユーマ様、こっち手伝って!!」

 サマラの悲鳴が聞こえた。
 どうやらアータル一体では少々つらい状況になったようだ。
 次なる目標は、敵宇宙船。
 俺を乗せ、ゲイルが飛翔する。
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