熟練度カンストの魔剣使い~異世界を剣術スキルだけで一点突破する~

あけちともあき

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第二部 異世界日本の来訪者編

熟練度カンストの温泉者2

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 深山二尉が身につけた指輪が怪しい動きをしていることを知りつつ、俺たち一行は温泉に向かうことになった。
 夕食前にひと風呂というやつだ。
 あちらの世界にも、アルマース帝国の特大蒸気風呂や、アウシュニヤ王国のジャングル風呂と、凄い風呂はいくつかあった。
 だが、こと風呂に限れば日本も負けてはおるまい。

「なんと……! 大きいのう! 帝が入るという大風呂のようじゃ!」

 驚きの声を上げたのは、一番に服を脱ぎ捨てて、お姫様らしからぬ勢いで飛び出していった竜胆である。
 彼女は他の女性陣の髪を、お風呂用にしっかり結って上げたあと、全員に和風の風呂の作法を講釈し、それでなお誰よりも早く浴室に行ったのだ。
 風呂にかける彼女の情熱が分かろうというもの。

「そして、露天かや! これはいいのう!」

「はえ~、大きいお風呂!!」

 続いてリュカ。
 この宿自慢の露天風呂は、大変大きい。
 屋内プールかと思うほど大きく、時間によって男湯、女湯が入れ替わる。
 今夜は俺たち一行の貸し切りだから、ここは実質的な女湯ということになる。
 タオルも持たずに風呂へと向かっていく女性陣。
 一番最後に残ったアリエルとヴァレーリアが、いそいそと人数分の手ぬぐいを用意しているのがいじらしい。
 深山二尉は、胸元までがっしりタオルを巻いての登場だ。

「ミヤマ、それはつけるルールなの?」

 リュカからの無邪気な質問が、深山二尉を襲う!

「にっ、入浴の際は外しますし、本来はつけません。ですけど、今日は男性がいるじゃないですか」

「いるぞ」

 俺は洗い場で、腕組みしながら女性陣を眺めている。
 そこへ、サマラとアンブロシアが集まってくるわけである。

「どれ、あたしがユーマの背中を流してやろうか?」

「アンブロシアおどき! そういうのはアタシの仕事なの!」

「なんだって!? 年下だと思ってこっちに来てから遠慮してたけど、そろそろあたしにも役得があるべきだよ!」

「遠慮してたぁ!? アンブロシアぐいぐい来てたじゃないの!」

 いつもの、火と水の巫女のやりとりが始まった。

「ははは、若いな。よしユーマ。私の背中を流せ」

「へいへい」

 堂々たる態度のローザが、俺の前にどっかりと座る。

「ではローザさんの背中を流しているユーマさんの背中は、私が流すべきでしょう」

 しれっと加わってくるアリエルである。
 そんな中、風呂の方が騒がしくなった。

「ははははは!! あっしに風呂泳ぎで挑むとは、愚かさを教えてやるっす!!」

「負けないよ! アユミは余計な脂肪がついてるからスピードがでないはず!」

「なんの、妾とて蓬莱で慣らした水練の腕が!!」

「そうか、水の風呂は泳ぐものなのだな……」

 間違った常識を覚え始めているヴァレーリア。
 彼女はサウナばかりの地域で暮らしていたため、これだけの大きさの風呂に来たことは無いのだとか。
 風呂の講釈をしていた竜胆に倣い、自分も泳ごうとしたところで、深山二尉に止められた。

「違いますから……! お風呂は泳いじゃだめですから……!」

「ミヤマ殿。だが、みんな泳いでいるようだぞ」

「彼女たちはまだ子どもですから!」

 泳いでる三人で、一人だけ二十代がいるなあ。

「よしユーマ。頭を洗うぞ。私がかゆいところを言うから、貴様はきちんとそこを掻いてだな」

「へいへい。ローザも人に何かをやらせることに、すっかり慣れてるな」

「伊達に長年爵位を持っていないぞ。まあ、普段は自分でやる主義だ。だが、特別な時には、こうして貴様に甘えても良かろう?」

 堂々たる命令だったけど、あれは俺に甘えていたのか!!

「よーし、じゃあお客さん、シャンプーするからこれを被ってなー」

「なんだこれは」

「シャンプーハットだ。目に泡が入らないんだぞ」

「便利なものだなあ……!」

 小柄で華奢なローザなので、シャンプーハットをすると実にお子様的な見た目になる。
 しかし、他人の頭を洗うなんて初めてだな。
 まさか温泉に来てこんなことをするとは……。

「私もユーマさんの頭を洗いましょうか?」

「それはカオスな状況になりそうだな」

 向こうでは、泳ぎも一段落したようだ。
 女子陣、互いの健闘を称え合い、仲居さんにお盆に乗ったジュースなどを差し入れさせて杯を酌み交わしている。

「ほほう、ああやって湯船で飲むのも良さそうだな。よし、酒を注文してくれ」

 ローザからのオーダーが入ったぞ。
 彼女は月見酒と洒落込むつもりのようだ。
 アンブロシアが巻き込まれている。
 そして、サマラは大量のお湯がある温泉に対して慎重な態度である。
 水よりは遙かにマシだが、火の巫女たるサマラは炎の性質を持っている。
 呼吸できない状況に陥ると、それが短時間でも命が危ないのだとか。
 炎は酸素を燃焼しているわけだからな。

「ユーマ様、アタシが転ぶと大変なことになるので、こう、手を握っていてください……!」

「うむ」

 ということで、リード代わりに手をつないでの入浴なのだが、この湯船に、サマラの持つ立派なものが浮くわけである。
 ははあ……。これはすごい。

「ローザ、勘弁しとくれよ! こんな湯船で飲んだら回っちまいそうだ!」

 アンブロシアが逃げてきた。
 彼女は体格比で、うちの女性たちで一番立派なものを持っているので、それはもう大変な状況になる。
 ほう……。
 右に褐色、左に白。
 これはけしからん……。

「何してるのユーマ?」

「あっー」

 リュカが何も隠さずに、湯の中をばしゃばしゃやってくる。

「うーむ」

 この世の極楽であった。
 後ろからはアリエルが俺の肩を揉んだりしてきて、どさくさに紛れてくっついたり。
 これで四方向を囲まれてしまった形になる。
 おお、これは窮地ではないか。たまらん。
 だが、深い理由があって手出し不可なので、俺は鋼の精神力でこれをぐっと堪えるのである。
 見るだけ、見るだけ。

 そして、俺たちのこんな姿を、じっと撮影している深山二尉なのだ。
 いや、明らかに画面にタオルを押しつけている。
 音声だけ送っているようだな。
 どうやらカメラの向こうから抗議が来たようで、それに対して深山二尉がセクハラだのなんだので、凄い剣幕で対抗している。

 ちなみに、深山二尉とヴァレーリア、竜胆に亜由美ちゃんでジュースをいただいているのだが、あれはあれで楽しそうだ。
 彼女たちは女子トークをしてたようだが、すぐに俺の様子に気づき、わいわいと寄ってきた。

「これはいけませんなあ。大変なことになってしまいましたなあ」

 もう、俺は他人事のように呟くしかない。
 これはもしかして、俺はもうすぐ死んでしまうのではないか。あまりにも非現実的な状況だ。
 エルフの森の時と比べると、四人くらい増えているのだ。
 その中心で、男は俺一人とか。

「いいんじゃない? だって、みんな色々、ユーマに助けられたんだもん」

 そこを大らかに受け入れてくれるリュカ。
 器がでかい。

「いえ、私は仕事ですから」

 あ、深山二尉はそうでしたね。
 だが、こんな状況は長くは続かなかった。
 深山二尉がどこかに持っていたであろう通信装置から、彼女に連絡が入る。
 表情が曇った。

「そんな……まさか一般市民にまで手を出すなんて……」

「どうしたんだ?」

 思わず漏れた、という様子の彼女の呟きに、俺は反応していた。

「いえ。こちらの落ち度です。こちらで対応しますから」

「ふむ。それは俺に話せる内容ではない?」

「はい」

 俺はピンと来た。

「俺の実家の家族が襲われただろ」

 俺の言葉に、露骨に動揺する深山二尉。
 一瞬だが目を見開き、呼吸が止まった。
 この人は、人が良すぎるな。

「大方、昨日のうどん屋みたいな外国の連中だろう。あるいは国内のおばかさんか。個人的にはどうでもいいんだけどな」

「ユーマさん」

 アリエルが俺の肩に置いた手に、力を込める。

「まあそうだな。アルフォンスに迷惑かけようっていう俺が、あんな家族でも見捨てるってのは筋が違うわな」

 俺は湯船から立ち上がった。
 女子たちも臨戦態勢に入る。亜由美だけわざとらしく口笛になっていない口笛を吹きながら、すーっとその場を離れようとしている。

「よーし、亜由美ちゃん、君に決めた」

 俺はにっこり微笑んだ。

「ゲゲエーッ!! な、なぜあっしが!? こんなか弱い、いたいけな元女子大生を、危険なところに連れていくっすか!?」

「他人を防御することにかけては最強だからな。さあ行くぞー」

「ひいー! 素っ裸の女子相手に堂々と迫るとは恐ろしい男!」

「よし、行けアユミ」

「任せたからね、アユミ!」

「ははーっ」

 彼女にとってのヒエラルキー的に上位らしい、ローザとリュカからの命が下る。
 亜由美ちゃんは思わず湯船の中で土下座して従うのであった。
 がぼがぼ言ってるぞ。

 さて、俺たちはざっと湯を拭いて、浴衣を身につける。
 足にはサンダルを引っかける。

「ユーマ氏、あっしのブラが着替えの中にあるっすけど……」

「いるまい」

「ゲエーッ!? あっしに浴衣とパンツだけで挑めと!?」

「よし、跳ぶぞ亜由美ちゃん!」

 俺は彼女の抗議をスルーしつつ、亜由美を小脇に抱え上げた。
 左目に宿った、エインガナの力を使う時だ。

「現場に連絡を入れました。担当者が、犯人グループの情報を伝えてくるはずですから!」

「ありがとう深山二尉。夕飯までには帰る」

 俺はそう宣言すると、実家に向けてワープを開始するのであった。
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