上 下
189 / 255
第二部 和の国の魔剣士編

熟練度カンストの大気圏突入者

しおりを挟む
 外部から強烈な衝撃が放たれた。
 とりあえず、壁を次々切り裂きながら外に出た俺は、宇宙船を外部から攻撃するクラウドなんかを目撃するわけである。
 この男、宇宙船の標的をある程度自分に引き付けていたらしい。
 俺たちを見かけると、銃を構えて何やらカッコいいポーズを取ってみせた。
 この極限環境下であの余裕はちょっと凄い。
 あいつ、自分の命よりもカッコつけることの方が大事なんだろうな。

「緑竜、竜胆ちゃんを頼む。先に行っててくれ」

「!? ユーマ! ユーマはどうするのじゃ!?」

「今からこの船爆発するだろ? どれだけの爆発かも分からんし、逃げても地上に色々被害があるかもしれん。ということで」

 俺は宇宙空間で、抜刀術の構えを取る。

「ちょっと爆発を斬っておく」

『あなたにしか出来ない仕事です。任せました』

 緑竜はそう言うなり、竜胆を抱え込むと一気にその姿を変化させる。
 巨大なドラゴンが、暴れる竜胆の背中を咥えて運び去っていった。
 竜胆ちゃん、黒豆煎茶は任せたぞ……!!
 そしてついでに、クラウドが緑竜に蹴っ飛ばされて、「アーッ」とか叫びながら大気圏に落下していく。
 あいつはまあ死なないだろう。

 かくして、宇宙空間に一人。
 目の前には、装甲の隙間から徐々に光を放ち始めた、球体の宇宙船。
 そいつは徐々に、膨らんでいくように見える。
 恐らく、内部で幾つもの小さな爆発が起こっているのだ。

「よし、来い」

 宇宙船内部で、大きな力が生まれた兆候を感じ取り、俺は呟いた。
 すると、次の瞬間だ。
 宇宙船は大きく膨れ上がると、全身の装甲が破れ、眩い光が飛び出してきた。
 ああ、この爆発はあかんやつだ。
 とても危険なエンジンを使っているマシンらしい。
 俺は気づかずに、何台か宇宙船を撃破したが、爆発させるところまで行かなくて本当に良かった。

 凄まじい光と共に、衝撃波が放たれる。
 それはまあ、俺も流石に未体験の凄まじさ。
 通常の人体ならば、触れただけで粉々になるだろう。
 衝撃は俺の背後にある星に向かおうとしている。
 大気圏が少しは衝撃を吸収するだろうが、それでも甚大な被害が出ることは間違いない。
 故に、こいつは俺が止めておく必要がある。

「“ソニック・ディメンジョン”……!!」

 抜刀。
 それと同時に、俺は刃で次元を断つ。
 一度ではない。
 幾つも幾つも、刃を振り抜く動きの中で次元を立て続けに断つ。
 俺がこじ開けた次元の切れ間が、襲いかかる衝撃波を飲み込んだ。
 更に、俺はこれを飛び越えた衝撃波を斬る。
 刃を境目に、衝撃波は真っ二つに飛び散り、減衰していく。

「俺が言えたことじゃないが……最後っ屁で世界を滅ぼそうとするのはどうかと思うぞ。いや、俺は比較的恵まれているようになったから言えるのか」

 一人ごちながら、第二陣の爆発を迎え撃つ。
 今度は各所に分散させた次元の裂け目で、衝撃波を細かく散らしていく。
 惑星への影響は皆無とはいかないが、せいぜい天変地異で済む程度の衝撃に落ち着くはずだ。

「やはり、バルゴーンが二形態だけだと限界があるな。アルフォンスにまた会わねば……。それから、宇宙船を撃墜するのはやめておかなきゃだな。ってことは、移民船を相手にする時は、地上で迎え撃つしかないか」

 衝撃破を処理しながら、俺の脳が働き始める。
 やらなきゃならないことは山積みだ。
 現代世界にまた戻る。
 そのためには、どうする?
 まずはエルフの森に帰り、ゲイルを使ってあの穴から元の世界へ帰り……。
 管理官たちの協力を取り付けることは出来るか?
 奴らは敵だが、一時的に強大な相手と戦うための協力関係は結べないだろうか。
 忙しい。
 これは大変に忙しくなって来るぞ。
 そうとなれば、である。

「宇宙船の自爆程度、さっさと終わらせにゃならんな」

 横一文字に振り抜いた剣が、巨大な虹色の軌跡を作った。
 さらに、振り下ろした剣の軌跡で、宇宙に十文字の輝きが生まれる。
 それは、放たれた衝撃波を縱橫に切り裂き、霧散させていく。

 俺の横を、頭上を、足元を、衝撃波が駆け抜ける。
 だが、それは既に大きく力を減じたものだ。
 やがて衝撃が止み、俺の視界はクリアになった。
 目の前には、何もない。
 ついさっきまで浮かんでいたはずの宇宙船は存在せず、どこまでも続く闇と、星々の明かりがあった。
 ゆっくりと、惑星の影から月が顔を覗かせてくる。

 俺は、惑星に向かって振り返る。
 そこで気付いた。
 衝撃波を退けているうちに、俺も随分と押し込まれていたようだ。
 星が大きい。
 そして恐らく、俺は星の重力に引っ張られている。
 眼下に見えるのは、白い色だった。
 一面の白。それは雲ではない。

「あれは氷か。なんか、凄い北国に落っこちていっているぞ……!?」

 俺はすぐさま、体を反転させた。
 バルゴーンを大剣の形にする。
 そして、幅広の剣に飛び乗った。
 ちょうど、サーフィンの要領で、刃を下に向けて大気圏に突入するのである。

「竜胆ちゃんは無事かね……。大丈夫だとは思うが。この星も、無事じゃあ無い気がするが……どんなものだろうか」

 呟きながら、足先で剣を操作する。
 落下しながら、空を滑る。
 雪国は視界から外れ、視界は雲になった。
 バルゴーンが、雲を切り裂きながら落下していく。
 俺が進む後は、一文字に切り裂かれた空となる。
 そして、どこまでも落下していく先は、海であり、そしてその彼方に広がる、おそろしく広大な陸地だった。
 雪と、露出した土、そして針葉樹林の姿が見える。
 寒そう。
 あと、どうやって着地しようね、これ。
 空気抵抗はバルゴーンで止めて、俺には何のダメージもない。
 だが、バルゴーンには落下速度を緩める機能なんてものは無いのだ。
 このままで、ヒューッと落ちてペチャッと潰れる感じである。

「ヒェーッ、それはいやだあ」

 俺は落下して死ぬかも、という予感に恐怖した。
 なんかこの恐怖にデジャブを覚える。
 確か……この世界に来たばかりの時も、こうやって落下していたような。
 そんな俺の耳に、囁き声が聞こえた。

「シルフさん、お願い……!」

 湧き上がる、風。
 それは、遥か下から、強烈に吹き付けてくる。

「マジか」

 俺は目を見張る。
 風に煽られながら、一人の少女が空を飛んでいるのだ。
 彼女は一直線に俺を見つめながら、どんどんと近づいてくる。
 何やら、大きな毛皮を使ったマントみたいなのを、足首と手首に結びつけて、ムササビみたいな姿になっている。
 シリアスな状況なのだが、なんだろう、締まらない。

「この、ちょっと外した感じ……! リュカ!」

「ユーマ! おかえりなさーい!!」

 リュカだった。
 もこもこした毛皮の服装を着込み、被ったフードの下からは、虹の煌めきを放つ銀の髪が覗く。
 同じ色の瞳が、きらきら輝いて俺を映し出した。
 ムササビモードのリュカは、物凄い勢いと正確さで俺のもとまで辿り着くと、

「とーう!!」

 真正面から俺をキャッチした。
 彼女の足が、バルゴーンの上に降り立つ。
 あっ、足先がピンク色でもこもこしている。
 それは……俺があげたトイレスリッパか……!

「迎えに来たよ、ユーマ!」

「リュカ!」

 俺は思わず、彼女をぎゅっと抱きしめた。
 どれ位ぶりだろうか。
 おそろしく長い間、離れ離れになっていた気がする。
 彼女もまた、俺をぎゅーっと抱きしめると、

「この服きらい。ユーマの肌のあったかさとか全然わかんないんだもん」

「そりゃあ宇宙服ですからな」

「うちゅうふく?」

 知的な面ではあまり強くないリュカは首を傾げた。

「つまり、とても高い空の上まで行っても大丈夫な服だ」

「なるほどぉ」

 絶対分かってないな。

「でもリュカ、よく俺が来るって分かったな? 打ち上げられたところから、随分離れてしまったはずだったが」

「それはね。私は、北の国でユーマを探してて。そうしたら、空の上で、いきなりドーンって。凄い音がして、それで、シルフさんたちも知らないものすごい風が吹いたの。それでね、それで、空が割れたのよ。雲と、空と、風が、二つに割れたの」

 彼女は笑顔を浮かべる。

「そんなの、ユーマしかいないじゃない。私、だからわかったんだよ。空からユーマが落っこちてくるって」

「よく分かってらっしゃる」

「付き合いながいもん」

 そして、俺たちは顔を見合わせて笑った。
 落下速度は、もう、随分ゆっくりになっている。
 周囲は寒風吹きすさぶ、北の大地だ。
 どこらへんだろう。
 地球で言うなら、ロシアみたいなところか。
 それでも、例え見慣れない風景の土地だとしても、宇宙から帰ってこられるとホッとする。
 つい数分前まで、宇宙でドンパチしてたんだなあ。

「おや?」

 俺は気付いた。
 恐らくは俺たちが着地するであろう場所で、じっと俺たちを見上げている人影がある。

「あれは」

「あの娘はね、こっちの国で、私を助けてくれたの。一緒にユーマを探してくれた人だよ。すっごい弩を使うのが上手いの」

 やがて、俺たちは、そんな彼女の目の前へと着地した。
 彼女は一見して、大人びた雰囲気の色白な美女だった。
 だが、今は目を丸く見開いて、口をぽかんと開けて俺を見ている。

「あ、初めまして。リュカが世話になってる。戦士ユーマだ」

 自己紹介すると、彼女もペースを取り戻したようだ。

「戦士ユーマ。ようこそ、グラナート帝国へ。私はグラナートの白鳥騎士団が一人、魔導騎士ヴァレーリア」

「それでね、ユーマ」

 バルゴーンの上からぴょん、と飛び降りたリュカ。
 俺を見上げると、ばつの悪そうな笑顔を浮かべた。

「手伝ってもらう代わりに約束しちゃったんだけど……」

 リュカの言葉と同時に、ヴァレーリアは俺の手をぐっと握った。
 あっ、いきなり大胆!! と思ったが、よくよく見ると革手袋である。

「戦士ユーマよ、頼みがある……!! 我がグラナート帝国は、今や存亡の危機にあるのだ! お前が我が友リュカの言うとおりの英雄であるならば……」

 彼女は、指差す。
 遙か先の、その場所を。
 そこには、高くそびえ立つ、山々の連なり、山脈があった。

「狂える北の魔王、ヴィエーディマを討伐して欲しい……!!」

「えっ」

 降り立った北の大地にて、俺はいきなり新しい戦いに巻き込まれてしまうのである。



─熱帯雨林の散策者⇒和の国の魔剣士編─ 了

 ⇒ 氷の国の調停者編へ
しおりを挟む
感想 25

あなたにおすすめの小説

俺は善人にはなれない

気衒い
ファンタジー
とある過去を持つ青年が異世界へ。しかし、神様が転生させてくれた訳でも誰かが王城に召喚した訳でもない。気が付いたら、森の中にいたという状況だった。その後、青年は優秀なステータスと珍しい固有スキルを武器に異世界を渡り歩いていく。そして、道中で沢山の者と出会い、様々な経験をした青年の周りにはいつしか多くの仲間達が集っていた。これはそんな青年が異世界で誰も成し得なかった偉業を達成する物語。

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。 他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。 「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。 しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。 1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化! 自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働! 「転移者が世界を良くする?」 「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」 追放された少年の第2の人生が、始まる――! ※本作品は他サイト様でも掲載中です。

大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです

飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。 だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。 勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し! そんなお話です。

王宮で汚職を告発したら逆に指名手配されて殺されかけたけど、たまたま出会ったメイドロボに転生者の技術力を借りて反撃します

有賀冬馬
ファンタジー
王国貴族ヘンリー・レンは大臣と宰相の汚職を告発したが、逆に濡れ衣を着せられてしまい、追われる身になってしまう。 妻は宰相側に寝返り、ヘンリーは女性不信になってしまう。 さらに差し向けられた追手によって左腕切断、毒、呪い状態という満身創痍で、命からがら雪山に逃げ込む。 そこで力尽き、倒れたヘンリーを助けたのは、奇妙なメイド型アンドロイドだった。 そのアンドロイドは、かつて大賢者と呼ばれた転生者の技術で作られたメイドロボだったのだ。 現代知識チートと魔法の融合技術で作られた義手を与えられたヘンリーが、独立勢力となって王国の悪を蹴散らしていく!

転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。

異世界転移「スキル無!」~授かったユニークスキルは「なし」ではなく触れたモノを「無」に帰す最強スキルだったようです~

夢・風魔
ファンタジー
林間学校の最中に召喚(誘拐?)された鈴村翔は「スキルが無い役立たずはいらない」と金髪縦ロール女に言われ、その場に取り残された。 しかしそのスキル鑑定は間違っていた。スキルが無いのではなく、転移特典で授かったのは『無』というスキルだったのだ。 とにかく生き残るために行動を起こした翔は、モンスターに襲われていた双子のエルフ姉妹を助ける。 エルフの里へと案内された翔は、林間学校で用意したキャンプ用品一式を使って彼らの食生活を改革することに。 スキル『無』で時々無双。双子の美少女エルフや木に宿る幼女精霊に囲まれ、翔の異世界生活冒険譚は始まった。 *小説家になろう・カクヨムでも投稿しております(完結済み

『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?

釈 余白(しやく)
ファンタジー
HOT 1位!ファンタジー 3位! ありがとうございます!  父親が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。  その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。  最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。 その他、多数投稿しています! https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

処理中です...