178 / 255
第二部 和の国の魔剣士編
熟練度カンストの脱出者2
しおりを挟む
常上の城下町を後にするのである。
天守閣も町も、どれもこれも落下してきた山の下敷きだ。
そして、その山も目の前で徐々に薄れていく。
山を召喚した荒御魂が滅ぼされたから、呼び出されたものも戻っていくのか、それとも本当にこいつはただの実態を持った幻だったのか。
「なんと無残な……。このような幼い童まで、荒御魂は殺してしもうたのか……」
「うむ、大変だなあ」
竜胆が鎮痛そうな顔をしているので、彼女に同意しながら先に進ませる。
終わってしまったものは仕方ないのだ。
逃げられなかったとは運のない人々である。
それに、この国はもはや竜胆と関わりがある場所ではなくなったのだから、俺たちは一直線に蓬莱京なんかを目指して突き進むべきなのだ。
「ってことで、先に行こう、先に。死んだ奴は死んだ。こいつらはここで終わりだ。だが、俺たちが来たことで助かった連中がいる。そいつらを、待っている家族なんかのところに届けるんだろ」
「うむ、そうじゃった……! なんじゃ、ユーマ、なかなか前向きじゃのう?」
「俺は基本的に、前進する事しかせんからな」
竜胆に答えてみて、なんとなく自分のスタンスを、初めて理解した。
俺が行き急ぐように様々な厄介事に首を突っ込み、ドンパチを繰り返すのは、俺のスタンス故だったか。
かくして、俺たちは地上の道を、まったりと漁村まで戻っていった。
おおよそ三日かかっただろうか。
常上の脅威は排除しているし、蓬莱帝の宇宙船は一時的にせよぶっ壊している。
妨害は来ない。
「拍子抜けじゃのう……。旅程で、ここまで何も無いとなると」
「ほへ? 安全なのは良いことじゃないっすか! ま、ここはあっしがいるからドーンと泥舟に乗ったつもりでいて欲しいっすな」
「ブラックラクーンは元々襲撃側ではないか」
俺が突っ込むと、タヌキっぽいこのくノ一は、フヘヘ、と笑って誤魔化した。
「そもそも、ブラックラクーンは」
「あ、ストップっす。そろそろその呼び名がムズムズしてくる……。こう、もっとかっこいい略称を考えるので待って欲しいっす!」
「じゃあ亜由美ちゃん」
俺が呼ぶと、くノ一は物凄く面白い顔をして、その場にぶっ倒れて悶え苦しみだす。
「ぐえええっ、な、なぜ秘められたあっしの真の名を……!」
「亜由美ちゃんが荒御魂に向かって飛んでいく時に口走ったではないか。ちなみに俺の、ユーマというのは本名である。お互い本名で行こうではないか。キャラクターネームなどしゃらくさい」
「ぬうう、お、恐ろしい男……。さてはゲームを遊ぶ際のキャラネーム実名原理主義者っすな!?」
「ほう、お主、亜由美と言うのか! 蓬莱の民の如き名じゃのう。親近感が湧いて来るぞ」
俺たちが変なやりとりをしていると、会話の合間に竜胆がぎゅっと亜由美の手を握り、助け起こした。
「う、ういっす!」
何やら、亜由美が目を白黒させている。
なんだろう。同性が親しみを込めて話しかけているというのに、あのガチガチに緊張した様子は。
さては……。
「友達いない族だな」
「な、なぜそれを!!」
亜由美が驚愕に目を見開いた。
俺は不敵に笑む。
「俺も同類だったからだ。同族の臭いがしたぞ」
「な、なんと……!!」
この瞬間、俺と亜由美は強いシンパシーで繋がれた。
互いに現実世界ではダメダメだった仲である。
亜由美的には、同性できちんと目線を合わせて話してくれる相手、というのがレアすぎて、挙動不審になっているのだろう。
しかも、あのブラックラクーン時の奇行と三下セリフを聞いた後でこの振る舞い。
さては竜胆ちゃん、女神であったか。
リュカも割りと女神だから良い勝負だな。
「何を気持ち悪い笑顔を浮かべてこちらを見ておるのじゃ」
「なんでもござらん」
思わずござる口調が出た。
三日目くらい。
本当に何事もなく、漁村が見えた。
今日も、魚を焼く煙が上がっている。
俺が率いている男たちは、村が焼かれてるのかと思ってギョッとし、慌てて駆け出した。
すると、向こう側からも大きな声があがる。
「あっ! あんたー!」
「父ちゃん!」
「お前ら、無事だったのかあ!!」
漁村の入り口辺りで、家族の集団再会シーンだ。
感動的な場面に、竜胆や、家族の後ろにいた異人たちも貰い泣きである。
異人たちは、故郷に家族を置いてきた連中もいるだろう。
ちなみに、俺と亜由美は真顔でこれを眺めていたりする。
「いやあ……あっし、こういうお涙頂戴とか見ると白けちゃうたちで……」
「わかる。俺たちは割りと人間性みたいなのをどっかに置いてきたよな」
だが、白けた態度などとっていては、竜胆に怒られてしまいそうだ。
ということで、二人で並んで真面目っぽ顔をしておく。
うむむ、真面目に、真面目にと思っていると……こう、なんだか大声で叫んで場の空気を破壊したい衝動に駆られるな。
こいつもそうかな、と思って横のくノ一を見ると、ちょうど大きく息を吸い込むところだった。
このやろう、やる気だな!?
「ていっ!」
「げぼあっ」
俺は奴の頭頂にチョップを叩き込んで、暴挙を止めた。
恐ろしい女だ。
俺がやろうやろうと思ってもやれないことを、平然とやりやがる。
いや、こいつは俺よりもリミッターが弱いんだな。
とても危険な奴だ。
放置していると大変な事になりそうな気がする。
具体的には、こいつが恥ずかしい事をすると、共感性羞恥的な感じで俺がとてもいたたまれなくなるのだ。
「……? また、亜由美がおかしなことをしようとしたのか?」
「うむ。止めておいた……」
「流石ユーマじゃのう……。やはり同類の気持ちはよく分かるのかの」
「ああ。これは教育が必要だな」
「熱心じゃの。ユーマ、この娘も、お主の後宮に迎える気かや?」
「後宮……つまりハーレムですかな……?」
振り向くと、竜胆が何やらジト目で俺を見ている。
な、な、何だと言うのだ。
「ま、まあ、妾としては、ユーマが蓬莱京までの道のりを手伝ってくれるだけでも助かるし、それ以降はユーマの人生じゃし? 別に、何をどうしようと構わんのじゃ」
「あんた、いや、ユーマ、これは……これはまさか、ツンデレというやつでは無いっすか……!?」
そっぽを向いて石を蹴り出した竜胆である。
彼女を指差して、亜由美が驚愕にぶるぶる震えているのだが、この女、危険だ。俺とあまりにも専門用語が通じすぎる。
だが、竜胆の態度は問題だな。どう対処したものか全く分からんぞ。
すると、シャドウジャックが助け舟を出してきた。
『ハハハ、問題はございませんぞ陛下。竜胆様もお迎えしてしまえばいいのです。いずれにせよ、国の王たる蓬莱帝に喧嘩を売るのでしょう? では、結果がどう転ぼうと、竜胆様は蓬莱にい辛くなる事でしょう。灰王の軍はいいですぞ……! 身分どころか、種族の違いを超えて結びつく共同体です』
うむ、そこはシャドウジャックが言うとおりにしておくのがいいかもしれん。
とりあえず、女の子関連の問題は、俺は大変苦手だ。
俺の唯一の弱点と言えよう。
「よし、シャドウジャック、任せた」
『御意に』
「ううむ、何やら難しい事を言われて誤魔化された気がするぞ、妾は……」
不得意な分野はアウトソーシング。
これに限る。竜胆ちゃんも煙に巻けたしな。
さて、では得意分野の話をしよう。
「竜胆ちゃん、いつ頃出る? 常上から邪魔は入らないから、蓬莱京まで一直線に向かうだけだろ」
「おお、そうじゃったのう。船長、船長ー」
「おうよ、無事だったかお前ら!」
向こうでハンカチで目頭を拭っていた船長が、それを隠すようにドカドカと足音を立ててやって来た。
船長に指揮されていたお陰か、異人たちも村の奥さんがたに悪い手出しはしてなかったようだ。
「まあ、合意の上でのチョメチョメはあったがな……」
「いかんな。その辺は内密にしておいてやらんとな」
「そうだな、俺たちゃ、ただでさえこの国じゃ肩身が狭いからな」
「何の話をしておるのじゃ、二人とも? ともかく、蓬莱京へは常上の大通りを抜ければすぐじゃ。七日ほどの旅路になろう」
ここにくるまでに、金毛からは蓬莱京や蓬莱帝情報を、あるだけ吐き出させている。
道行きの警備は、ほとんど常上の兵……それも、幻術を使えない下級の兵が担当していたと言う。
だが、どこで観察しているのか、蓬莱帝はどこにでもすぐ、私兵を差し向けてきたとか。
私兵は鎧に身を包み、物も喋らず、仕事が終わるとどこかに消えてしまうらしい。
うむ、間違いなく宇宙船に搭載されているロボットか何かだな。
で、今は金毛は扱いに困ったので、ぐるぐる巻きにしてその辺に転がしてある。
「おいユーマ。こいつぁなんだ?」
船長の疑問も最もである。
頭には布をぐるぐる巻きにされて、雑に血止めされている。
荒業を失い、覇気の無い瞳でじっと地面を見ているこの中年が、まさか常上の領主だとは思うまい。
「色々やった後、常上を立て直すならこいつが必要だろう。殺したら、次の領主を狙ってここが戦場になるぞ」
「なるほどなあ。じゃあ、こいつを許してやるわけか。俺としては、副船長の仇とも言える男だからな。首を括れるものなら括ってやりたいところだぜ」
「妾もはらわたが煮えくり返る思いじゃ。じゃが、荒御魂を失ったこやつは、ただの人に過ぎぬ。それでも、常上の兵たちは金毛を主と仰ぐであろうよ。荒業無き常上は、指導者がいなくばたちまち、他国に食い尽くされてしまうじゃろう。無論……ここにおる、村人たちも、戦に巻き込まれる」
「そりゃ……もっとクソな話だな……。分かった。ここは、ユーマの旦那が俺たちを元の国に返してくれるってことに免じて、見逃すとしよう」
「よし、じゃあ、こいつはこのまま蓬莱京まで引っ張っていこう。放置しててもアレだしな」
俺の提案で、金毛は縄を解かれ、監視下に置かれる事になった。
だが、すっかり覇気を失い、しおしおになったこの男が逃げるとも思えない。
荒御魂を失っただけではなく、蓬莱帝の力を見せ付けられもしたからな。大気圏外からの艦砲射撃は堪えたか。
こいつを引っ張っていくのは面倒だということで、漁村で車を用意してもらうことにした。
人力車である。
異人はこれを引くのを嫌がったので、シャドウジャックが土の精霊を呼び出し、これに引かせる。
かくして、一路、蓬莱京へ向かうのである。
天守閣も町も、どれもこれも落下してきた山の下敷きだ。
そして、その山も目の前で徐々に薄れていく。
山を召喚した荒御魂が滅ぼされたから、呼び出されたものも戻っていくのか、それとも本当にこいつはただの実態を持った幻だったのか。
「なんと無残な……。このような幼い童まで、荒御魂は殺してしもうたのか……」
「うむ、大変だなあ」
竜胆が鎮痛そうな顔をしているので、彼女に同意しながら先に進ませる。
終わってしまったものは仕方ないのだ。
逃げられなかったとは運のない人々である。
それに、この国はもはや竜胆と関わりがある場所ではなくなったのだから、俺たちは一直線に蓬莱京なんかを目指して突き進むべきなのだ。
「ってことで、先に行こう、先に。死んだ奴は死んだ。こいつらはここで終わりだ。だが、俺たちが来たことで助かった連中がいる。そいつらを、待っている家族なんかのところに届けるんだろ」
「うむ、そうじゃった……! なんじゃ、ユーマ、なかなか前向きじゃのう?」
「俺は基本的に、前進する事しかせんからな」
竜胆に答えてみて、なんとなく自分のスタンスを、初めて理解した。
俺が行き急ぐように様々な厄介事に首を突っ込み、ドンパチを繰り返すのは、俺のスタンス故だったか。
かくして、俺たちは地上の道を、まったりと漁村まで戻っていった。
おおよそ三日かかっただろうか。
常上の脅威は排除しているし、蓬莱帝の宇宙船は一時的にせよぶっ壊している。
妨害は来ない。
「拍子抜けじゃのう……。旅程で、ここまで何も無いとなると」
「ほへ? 安全なのは良いことじゃないっすか! ま、ここはあっしがいるからドーンと泥舟に乗ったつもりでいて欲しいっすな」
「ブラックラクーンは元々襲撃側ではないか」
俺が突っ込むと、タヌキっぽいこのくノ一は、フヘヘ、と笑って誤魔化した。
「そもそも、ブラックラクーンは」
「あ、ストップっす。そろそろその呼び名がムズムズしてくる……。こう、もっとかっこいい略称を考えるので待って欲しいっす!」
「じゃあ亜由美ちゃん」
俺が呼ぶと、くノ一は物凄く面白い顔をして、その場にぶっ倒れて悶え苦しみだす。
「ぐえええっ、な、なぜ秘められたあっしの真の名を……!」
「亜由美ちゃんが荒御魂に向かって飛んでいく時に口走ったではないか。ちなみに俺の、ユーマというのは本名である。お互い本名で行こうではないか。キャラクターネームなどしゃらくさい」
「ぬうう、お、恐ろしい男……。さてはゲームを遊ぶ際のキャラネーム実名原理主義者っすな!?」
「ほう、お主、亜由美と言うのか! 蓬莱の民の如き名じゃのう。親近感が湧いて来るぞ」
俺たちが変なやりとりをしていると、会話の合間に竜胆がぎゅっと亜由美の手を握り、助け起こした。
「う、ういっす!」
何やら、亜由美が目を白黒させている。
なんだろう。同性が親しみを込めて話しかけているというのに、あのガチガチに緊張した様子は。
さては……。
「友達いない族だな」
「な、なぜそれを!!」
亜由美が驚愕に目を見開いた。
俺は不敵に笑む。
「俺も同類だったからだ。同族の臭いがしたぞ」
「な、なんと……!!」
この瞬間、俺と亜由美は強いシンパシーで繋がれた。
互いに現実世界ではダメダメだった仲である。
亜由美的には、同性できちんと目線を合わせて話してくれる相手、というのがレアすぎて、挙動不審になっているのだろう。
しかも、あのブラックラクーン時の奇行と三下セリフを聞いた後でこの振る舞い。
さては竜胆ちゃん、女神であったか。
リュカも割りと女神だから良い勝負だな。
「何を気持ち悪い笑顔を浮かべてこちらを見ておるのじゃ」
「なんでもござらん」
思わずござる口調が出た。
三日目くらい。
本当に何事もなく、漁村が見えた。
今日も、魚を焼く煙が上がっている。
俺が率いている男たちは、村が焼かれてるのかと思ってギョッとし、慌てて駆け出した。
すると、向こう側からも大きな声があがる。
「あっ! あんたー!」
「父ちゃん!」
「お前ら、無事だったのかあ!!」
漁村の入り口辺りで、家族の集団再会シーンだ。
感動的な場面に、竜胆や、家族の後ろにいた異人たちも貰い泣きである。
異人たちは、故郷に家族を置いてきた連中もいるだろう。
ちなみに、俺と亜由美は真顔でこれを眺めていたりする。
「いやあ……あっし、こういうお涙頂戴とか見ると白けちゃうたちで……」
「わかる。俺たちは割りと人間性みたいなのをどっかに置いてきたよな」
だが、白けた態度などとっていては、竜胆に怒られてしまいそうだ。
ということで、二人で並んで真面目っぽ顔をしておく。
うむむ、真面目に、真面目にと思っていると……こう、なんだか大声で叫んで場の空気を破壊したい衝動に駆られるな。
こいつもそうかな、と思って横のくノ一を見ると、ちょうど大きく息を吸い込むところだった。
このやろう、やる気だな!?
「ていっ!」
「げぼあっ」
俺は奴の頭頂にチョップを叩き込んで、暴挙を止めた。
恐ろしい女だ。
俺がやろうやろうと思ってもやれないことを、平然とやりやがる。
いや、こいつは俺よりもリミッターが弱いんだな。
とても危険な奴だ。
放置していると大変な事になりそうな気がする。
具体的には、こいつが恥ずかしい事をすると、共感性羞恥的な感じで俺がとてもいたたまれなくなるのだ。
「……? また、亜由美がおかしなことをしようとしたのか?」
「うむ。止めておいた……」
「流石ユーマじゃのう……。やはり同類の気持ちはよく分かるのかの」
「ああ。これは教育が必要だな」
「熱心じゃの。ユーマ、この娘も、お主の後宮に迎える気かや?」
「後宮……つまりハーレムですかな……?」
振り向くと、竜胆が何やらジト目で俺を見ている。
な、な、何だと言うのだ。
「ま、まあ、妾としては、ユーマが蓬莱京までの道のりを手伝ってくれるだけでも助かるし、それ以降はユーマの人生じゃし? 別に、何をどうしようと構わんのじゃ」
「あんた、いや、ユーマ、これは……これはまさか、ツンデレというやつでは無いっすか……!?」
そっぽを向いて石を蹴り出した竜胆である。
彼女を指差して、亜由美が驚愕にぶるぶる震えているのだが、この女、危険だ。俺とあまりにも専門用語が通じすぎる。
だが、竜胆の態度は問題だな。どう対処したものか全く分からんぞ。
すると、シャドウジャックが助け舟を出してきた。
『ハハハ、問題はございませんぞ陛下。竜胆様もお迎えしてしまえばいいのです。いずれにせよ、国の王たる蓬莱帝に喧嘩を売るのでしょう? では、結果がどう転ぼうと、竜胆様は蓬莱にい辛くなる事でしょう。灰王の軍はいいですぞ……! 身分どころか、種族の違いを超えて結びつく共同体です』
うむ、そこはシャドウジャックが言うとおりにしておくのがいいかもしれん。
とりあえず、女の子関連の問題は、俺は大変苦手だ。
俺の唯一の弱点と言えよう。
「よし、シャドウジャック、任せた」
『御意に』
「ううむ、何やら難しい事を言われて誤魔化された気がするぞ、妾は……」
不得意な分野はアウトソーシング。
これに限る。竜胆ちゃんも煙に巻けたしな。
さて、では得意分野の話をしよう。
「竜胆ちゃん、いつ頃出る? 常上から邪魔は入らないから、蓬莱京まで一直線に向かうだけだろ」
「おお、そうじゃったのう。船長、船長ー」
「おうよ、無事だったかお前ら!」
向こうでハンカチで目頭を拭っていた船長が、それを隠すようにドカドカと足音を立ててやって来た。
船長に指揮されていたお陰か、異人たちも村の奥さんがたに悪い手出しはしてなかったようだ。
「まあ、合意の上でのチョメチョメはあったがな……」
「いかんな。その辺は内密にしておいてやらんとな」
「そうだな、俺たちゃ、ただでさえこの国じゃ肩身が狭いからな」
「何の話をしておるのじゃ、二人とも? ともかく、蓬莱京へは常上の大通りを抜ければすぐじゃ。七日ほどの旅路になろう」
ここにくるまでに、金毛からは蓬莱京や蓬莱帝情報を、あるだけ吐き出させている。
道行きの警備は、ほとんど常上の兵……それも、幻術を使えない下級の兵が担当していたと言う。
だが、どこで観察しているのか、蓬莱帝はどこにでもすぐ、私兵を差し向けてきたとか。
私兵は鎧に身を包み、物も喋らず、仕事が終わるとどこかに消えてしまうらしい。
うむ、間違いなく宇宙船に搭載されているロボットか何かだな。
で、今は金毛は扱いに困ったので、ぐるぐる巻きにしてその辺に転がしてある。
「おいユーマ。こいつぁなんだ?」
船長の疑問も最もである。
頭には布をぐるぐる巻きにされて、雑に血止めされている。
荒業を失い、覇気の無い瞳でじっと地面を見ているこの中年が、まさか常上の領主だとは思うまい。
「色々やった後、常上を立て直すならこいつが必要だろう。殺したら、次の領主を狙ってここが戦場になるぞ」
「なるほどなあ。じゃあ、こいつを許してやるわけか。俺としては、副船長の仇とも言える男だからな。首を括れるものなら括ってやりたいところだぜ」
「妾もはらわたが煮えくり返る思いじゃ。じゃが、荒御魂を失ったこやつは、ただの人に過ぎぬ。それでも、常上の兵たちは金毛を主と仰ぐであろうよ。荒業無き常上は、指導者がいなくばたちまち、他国に食い尽くされてしまうじゃろう。無論……ここにおる、村人たちも、戦に巻き込まれる」
「そりゃ……もっとクソな話だな……。分かった。ここは、ユーマの旦那が俺たちを元の国に返してくれるってことに免じて、見逃すとしよう」
「よし、じゃあ、こいつはこのまま蓬莱京まで引っ張っていこう。放置しててもアレだしな」
俺の提案で、金毛は縄を解かれ、監視下に置かれる事になった。
だが、すっかり覇気を失い、しおしおになったこの男が逃げるとも思えない。
荒御魂を失っただけではなく、蓬莱帝の力を見せ付けられもしたからな。大気圏外からの艦砲射撃は堪えたか。
こいつを引っ張っていくのは面倒だということで、漁村で車を用意してもらうことにした。
人力車である。
異人はこれを引くのを嫌がったので、シャドウジャックが土の精霊を呼び出し、これに引かせる。
かくして、一路、蓬莱京へ向かうのである。
2
お気に入りに追加
936
あなたにおすすめの小説

日本列島、時震により転移す!
黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

城で侍女をしているマリアンネと申します。お給金の良いお仕事ありませんか?
甘寧
ファンタジー
「武闘家貴族」「脳筋貴族」と呼ばれていた元子爵令嬢のマリアンネ。
友人に騙され多額の借金を作った脳筋父のせいで、屋敷、領土を差し押さえられ事実上の没落となり、その借金を返済する為、城で侍女の仕事をしつつ得意な武力を活かし副業で「便利屋」を掛け持ちしながら借金返済の為、奮闘する毎日。
マリアンネに執着するオネエ王子やマリアンネを取り巻く人達と様々な試練を越えていく。借金返済の為に……
そんなある日、便利屋の上司ゴリさんからの指令で幽霊屋敷を調査する事になり……
武闘家令嬢と呼ばれいたマリアンネの、借金返済までを綴った物語

【完結】魔術師なのはヒミツで薬師になりました
すみ 小桜(sumitan)
ファンタジー
ティモシーは、魔術師の少年だった。人には知られてはいけないヒミツを隠し、薬師(くすし)の国と名高いエクランド国で薬師になる試験を受けるも、それは年に一度の王宮専属薬師になる試験だった。本当は普通の試験でよかったのだが、見事に合格を果たす。見た目が美少女のティモシーは、トラブルに合うもまだ平穏な方だった。魔術師の組織の影がちらつき、彼は次第に大きな運命に飲み込まれていく……。

【完結】あなたに知られたくなかった
ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。
5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。
そんなセレナに起きた奇跡とは?

異世界で快適な生活するのに自重なんかしてられないだろ?
お子様
ファンタジー
机の引き出しから過去未来ではなく異世界へ。
飛ばされた世界で日本のような快適な生活を過ごすにはどうしたらいい?
自重して目立たないようにする?
無理無理。快適な生活を送るにはお金が必要なんだよ!
お金を稼ぎ目立っても、問題無く暮らす方法は?
主人公の考えた手段は、ドン引きされるような内容だった。
(実践出来るかどうかは別だけど)

召喚学園で始める最強英雄譚~仲間と共に少年は最強へ至る~
さとう
ファンタジー
生まれながらにして身に宿る『召喚獣』を使役する『召喚師』
誰もが持つ召喚獣は、様々な能力を持ったよきパートナーであり、位の高い召喚獣ほど持つ者は強く、憧れの存在である。
辺境貴族リグヴェータ家の末っ子アルフェンの召喚獣は最低も最低、手のひらに乗る小さな『モグラ』だった。アルフェンは、兄や姉からは蔑まれ、両親からは冷遇される生活を送っていた。
だが十五歳になり、高位な召喚獣を宿す幼馴染のフェニアと共に召喚学園の『アースガルズ召喚学園』に通うことになる。
学園でも蔑まれるアルフェン。秀な兄や姉、強くなっていく幼馴染、そしてアルフェンと同じ最底辺の仲間たち。同じレベルの仲間と共に絆を深め、一時の平穏を手に入れる
これは、全てを失う少年が最強の力を手に入れ、学園生活を送る物語。
【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる
三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。
こんなはずじゃなかった!
異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。
珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に!
やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活!
右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり!
アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

大学生活を謳歌しようとしたら、女神の勝手で異世界に転送させられたので、復讐したいと思います
町島航太
ファンタジー
2022年2月20日。日本に住む善良な青年である泉幸助は大学合格と同時期に末期癌だという事が判明し、短い人生に幕を下ろした。死後、愛の女神アモーラに見初められた幸助は魔族と人間が争っている魔法の世界へと転生させられる事になる。命令が嫌いな幸助は使命そっちのけで魔法の世界を生きていたが、ひょんな事から自分の死因である末期癌はアモーラによるものであり、魔族討伐はアモーラの私情だという事が判明。自ら手を下すのは面倒だからという理由で夢のキャンパスライフを失った幸助はアモーラへの復讐を誓うのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる