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第一部終章 熟練度カンストの凱旋者
熟練度カンストの決闘者2
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「あやつもどうやら葛藤したらしい。私は年若く見えるが、実年齢は壮年だからな。何やら、手を出すか出すまいかという信念のせめぎあいの後、クラウドとやらが鼻血を吹いてな」
「なんとっ」
あのクラウドが鼻血を。
知恵熱だろうか。
「彼奴めが鼻血を止めに席を外した隙に、私は周囲にトンネルを作ってそのまま逃走だ。後は埋めておいたが、途中で魔力が尽きて半日気絶してな。気づくと連中は私を探しに、私よりも先に行ってしまっていた。それでまんまと逃げおおせたと言う訳さ」
「なるほど……。色々な意味で無事でよかった。で、チェア君はどうなったんだ?」
「さて……。大人しい性質で、上に人を乗せて走り回るのが好きだから、連中もおいそれと殺す気は無かったようだが。……というわけでだ。あのクラウドの性癖を利用する」
「えげつない作戦だ」
「だけど、それが一番確実かもしれませんね……!」
「乗ったよ!」
「アタシも!」
決まってしまった。
そんな俺たち。
今は、ハンスの酒場を削りきりそうな勢いで放たれる飛び道具から、必死に身を隠しているところである。
ローザの作戦説明を聞くうちに、自然とクラウドの降伏勧告をぶっちする形になってしまい、向こうさんは総攻撃を開始したのだ。
前衛が出てこない辺り、非常にいやらしい。
タンクや他の前衛たちが突っ込んでいって帰ってこなかったから、クラウドは連中を使うのをやめたのだろう。
「では行くぞ。サマラ、アンブロシア。貴様らの馬鹿力が役に立つ時が来たぞ」
「なんかひどいこと言われてる!?」
「サマラはパワーがあるかもだけど、あたしは普通だからね!?」
愚痴を言いながら、火と水の巫女は、倒れているタンクを担ぎ上げる。
ちょうど、盾を全面に押し出し、みんなで盾の後ろに一直線になる体勢である。
なるほど、デスブリンガーのタンクは、この盾こそが絶対武器。通常の武器型なら、あらゆる対象を破壊できるデスブリンガーの得物だが、これが盾となると、とんでもない強度を発揮するようになる。
実際、この盾を壊せる攻撃が存在するとは思えない。
それを実証するかのごとく、前に盾を突き出した所、そこに矢や弾丸が集中する。だが、盾はそれらを弾いて傷一つ無い。
「行けるな。よし、順に前に。こやつが意識を取り戻したら、また股間を蹴れば良い」
「むごい」
俺は思わず己の股間を押さえてしまった。
「なんと、こちらのタンクを利用するとは……。どうやら君たちは、我々よりも我々の武器の性質に詳しいようだな」
クラウドの声が聞こえてくる。
驚きの色が混じっているのが分かるが、まだまだ余裕という感じだ。
あいつとしては、戦術に組み込める新しいデータが手に入った、程度の感覚なのだろう。
クラウドは、戦場の様々な状況を取り込み、相手の心理を読み解き、戦いながら進化し続ける男だ。
こちらの手を見せれば見せるほど、奴の手の内は広がっていく。
長期戦はジリ貧。
あいつが本領を発揮する前に仕留めなければならない。
頼むぞ、ローザ。
「だが、それはつまり、我々に残ったタンクもまた、同じような運用が出来るという事だ。盾持ち、全員前へ!一列に並べ!」
クラウドの号令に合わせ、デスブリンガーの残るタンク要員が前に並びだした。
これではこちらの攻撃が通らなくなる。
だが、それはあちらも同じこと。
攻撃するためには、タンクの上にのぼるか、迂回する必要が出てくる。
クラウドはやや高台に登り、タンクを両脇に配置してこちらを見下ろしている。
「これで、君たちからは俺を攻められなくなった訳だ。そして、こちらは角度を変えれば、盾の恩恵に与れないであろう場所から攻撃することが出来る……。どうだね? まだ君たちの劣勢は覆らな……覆え……」
クラウドの声が尻すぼみになる。
ローザが姿を表したからだ。
彼女の背丈は、リュカの次に低い。
俺よりも頭一つは間違いなく小さい上に、細い。
そして、艶やかな長い黒髪に、本人も黒っぽいワンピースなどの衣装を好む。
たまらん人にはたまらん属性に満ち満ちた女だ。
しかも。
「きっ……君は、我が愛しのロリババア……!!」
あっ、こんなクラウドの声初めて聞いたぞ!!
「うむ……。私を取り逃がしたとでも思っていたか? 残念だったな。私はここにいる」
儚げな美少女の容姿から繰り出される、軍人然とした凛々しい言葉遣い。
そして。
「また、君の年を聞いてもいいか……?」
「四十三だ」
「くうっ……」
クラウドが仰け反った。
デスブリンガーたちがざわざわし始める。
あいつら、戦列が狂い始めてるぞ。
「クラウド、あの女撃っちゃっていい? 撃つわよ? はい、バー」
「うるさい黙れ死ね」
パァンッ。
空気を読まずにローザを撃とうとしていた女銃使いが、なんだか側頭部を撃ち抜かれて死んだ。
何だ……。何が起こっているんだ……。
ちょっと呆然とする俺たちである。
だが、ローザが後ろ手に俺に何かを伝えている。
何? 下を見ろ?
下というと……ローザの後ろ、どういう技術で再現したのかわからないが、黒いハイソックスに黒のシューズ。その下? さらに下?
おっ、タイルだ。
ローザの後ろにてこてことついてきたタイルが、そこにあった。
これに乗るのか……?
「クラウド、やばいぞ、ユーマの奴が動いてる」
「む、むむっ……! ローザに気を取られていた! 作戦だったか……。なんと恐ろしい策を立てる……!」
「今だユーマ、跳べ!」
ローザが呼びかけると同時に、俺が踏んだタイルが高く高く持ち上がった。
これは、何と地面の下に、十メートル近くに及ぶケラミスの柱が形作られていたのだ。
これを、ローザが地上に呼び出したらしい。
この高さなら、デスブリンガーどもを眼下に見下ろせるではないか。
「迎撃!!」
クラウドが俺を指し示す。
射撃要員が武器を構え……というところで、サマラから嵐のようなヴルカンの群れが飛び出してきた。
ちょうどタンクどもの列が乱れたところである。
ヴルカンは打ち出すだけの火の玉ではなく、それそのものが獣の形をした火の精霊である。
タンク列の隙間に割り込み、身をねじ込み、後衛に向かって襲いかかる。
「う、うわっ、炎が!!」
「ぎゃーっ!? 体を上ってくる!」
俺はその声聞きながら、飛び降りていた。
落下しながら、即座に長く伸びたケラミスの柱を蹴る。
俺の体は宙を舞いながら、クラウドの頭上を飛び越えた。
一瞬前まで俺がいた空間を、クラウドの銃弾が抉っていく。
ケラミスの柱が砕かれ、折れた。
「まずい。ユーマが後方に付いたぞ。後衛、撤退を……」
「遅いぞ」
俺はクラウドの言葉が終わるより早く、バルゴーンを大剣に変えている。
体を捻るようにしながら剣を構え、風車の如く大剣を振り回しながら着地した。
これで、数人を巻き込む。
ここからの挙動は、全て回転を基本とする。
相手の数は多いが、近接戦闘で俺を撃退できる武器が無い。
下がらせた前衛が来る前に、後衛の飛び道具要員と魔術師を全滅させる。
「う、うわあああ!」
「こっちに来るなああ!」
「タンク! タンクーッ!!」
悲鳴を上げながら逃げ惑う後衛たちをなます斬りである。
なんだか俺が悪役のようだな。
盾持ちが駆けつける前に、決着をつけねば……。と思っていたら、クラウドが駆け下りてくるのが見えた。
「実に驚いたな。なるほど、君たちの強さはチームワークか。誰が上で誰が下ということもない。状況に応じてフレキシブルにトップが変わる。あのロリババア……いい動きをしてくれる」
「ローザだ。ロリババア言うな」
「ローザ……! いい名前だ。ではユーマ」
後衛たちを押しのけて、クラウドが俺の前に立ちふさがる。
「彼女は俺がもらおう。ああいう理想の嫁が欲しかったんだ……! 三次元にいるとは思わなかったぜ。”吼えろ、ケルベロス”! ”猛れ、オルトロス”!」
クラウドが宣言すると、奴が構えた銃が、黒い装甲に覆われていく。同時に、もう片方の手にも赤い装甲に覆われた銃が出現した。
二丁拳銃である。
「銃で俺とこの距離で?」
俺は問いかけながら、一気に間合いを詰めた。
手加減抜きの、縦一文字斬り。まずは小手調べだ。
こいつを、クラウドは銃を交差させながら受けた。
にやりと笑う。
「銃は近接戦のための武器だ。その方が格好いいだろう?」
そのまま、クラウドは銃を跳ね上げて俺の剣をかち上げる。
俺は回転しながら剣を繰り出す。
こいつを、クラウドは赤い銃で受け止めながら、ゼロ距離から黒い銃を俺に突きつけた。
俺は咄嗟に、頭を逸らす。
一瞬前まで俺の頭があった場所を、弾丸が駆け抜けていく。
「その動き、ガン=カタか……!」
「家でずっと練習していたのさ。ジ・アライメントではシステム上再現出来なくてな」
「大した厨二だ。実戦で使うとは正気とも思えん」
「君もな。ユーマの全ての動きが、その場での即断だろう。戦う度に敵に合わせた技を生み出していく。それこそ、キングオブ厨二さ」
互いに笑みが浮かぶ。
だが、戦いの手は休めない。
俺はステップして踏み込みざま、鋭い突きを繰り出す。
これを、クラウドは斜め上空に発砲しつつ、その反動で仰け反って回避した。
さらに側面に発砲、その勢いで俺から間合いを取る。
この男、戦術や戦略面に於いてもてはやされてきてはいるが、それだけでギルドの頂点に立てるほどMMOは甘くはない。
地位に相応しい、個人戦闘力も求められるのだ。
そうでなければ、自我が肥大したゲーマーの集まりであるギルドなどまとめられない。
即ち、クラウドはデスブリンガーにおいて最強とも言える。
「さあ、ギアを一つ上げていくぞッ」
クラウドが黒い銃を後方に撃ち、反動でダッシュを加速させた。
銃使いが剣士との間合いを詰める。通常であれば正気の沙汰ではない。
だが、この男はそれをする。
今までシステムの制約で出来なかったアクションが、この世界であれば再現できるのだ。
俺もまた、距離を詰めた。
赤い銃が俺の額めがけて突き出される。
これを、俺は手の甲で奴の腕を逸して回避。
クラウドは反転しながら、脇から俺に向けて黒い銃を向ける。
俺は、これを切っ先で銃口を跳ね上げて回避する。
互いの得物がかち合った瞬間を狙い、クラウドは蹴りを繰り出してきた。
足癖の悪い奴だ。
ならば、俺も技を見せてやろう。
この剣技と共にこの世界を渡り歩き、鍛え上げられた体術だ。
地面を蹴って飛び上がる。
着地の勢いは、水面に大剣を浮かべる要領。
「おっ、おおおおおおっ!?」
クラウドが驚愕に叫んだ。
周囲のデスブリンガー連中も目を見開いている。
俺が、クラウドの蹴り足の上に立ったのだ。
「なっ……なんという技を……!! ずるいぞ、かっこいいじゃないか……!!」
だが、ニヤニヤ笑いが止まっていないクラウド。
ああ、この世界はこいつにとっても理想郷なのかもしれん。
俺も、こいつとの一騎打ちは妙に噛み合う。
互いに一撃必殺。だが、いつまでも戦い続けていられそうだ。
しかし、得てして邪魔者は、こういうタイミングで現れるものだ。
不穏な風が俺の頬をくすぐる。
何度も俺の命を救ってきた、勘と言う奴だ。
「ユーマ! 来るぞ……! これは、レイアの魔力だ……!」
「それと、この風……ゼフィロス様……!?」
空が一面にかき曇る。
曇天が太陽を隠し、周囲は暗がりに包まれた。
そんな黒雲の中で、キラリと光るものがある。
「ッ!!」
俺は跳んだ。
全力で、後方へとジャンプする。
クラウドもまた、双銃を撃ち放ち、猛烈な勢いでバックダッシュする。
間に合わなかったのはデスブリンガーたちである。
そこに降り立った、凄まじい風をまとった剣の一撃に巻き込まれる。
「…………!!」
「っ…………!?」
物を言う事も出来ず、彼らは吹き飛ばされた。
後衛、前衛ともにダメージは甚大。盾持ちたちは辛うじて無事だが、上空に巻き上げられている。叩きつけられる際に盾の操作を誤れば、一巻の終わりだろう。
「ふうーっ……! 清々しい気分だよ……! まるで生まれ変わったみたいだ」
そいつは風で逆だった髪に、緑色の光沢を宿しながら周囲を見回した。
ゆっくりと立ち上がる。
バルゴーンを折った、最初のデスブリンガー。
勇者リョウガ。
そして、俺は。
懐かしい気配に頭上を見上げる。
そこには、貫頭衣を用いた巫女衣装に身を包む、虹色の髪の少女がいる。
「リュカ……!」
一瞬だけ、彼女の表情が泣きそうに歪んだ。
だが、唇は別の言葉を紡ぐ。
「ようやく、この肉体の主導権を得ました。それでは……世界に仇をなす異分子を、排除するとしましょう……」
リュカの心はまだ残っている。
ならば、救う手立てはあるだろう。
排除されるのは俺ではない。
レイア、お前がリュカの中から排除されるのだ。
「なんとっ」
あのクラウドが鼻血を。
知恵熱だろうか。
「彼奴めが鼻血を止めに席を外した隙に、私は周囲にトンネルを作ってそのまま逃走だ。後は埋めておいたが、途中で魔力が尽きて半日気絶してな。気づくと連中は私を探しに、私よりも先に行ってしまっていた。それでまんまと逃げおおせたと言う訳さ」
「なるほど……。色々な意味で無事でよかった。で、チェア君はどうなったんだ?」
「さて……。大人しい性質で、上に人を乗せて走り回るのが好きだから、連中もおいそれと殺す気は無かったようだが。……というわけでだ。あのクラウドの性癖を利用する」
「えげつない作戦だ」
「だけど、それが一番確実かもしれませんね……!」
「乗ったよ!」
「アタシも!」
決まってしまった。
そんな俺たち。
今は、ハンスの酒場を削りきりそうな勢いで放たれる飛び道具から、必死に身を隠しているところである。
ローザの作戦説明を聞くうちに、自然とクラウドの降伏勧告をぶっちする形になってしまい、向こうさんは総攻撃を開始したのだ。
前衛が出てこない辺り、非常にいやらしい。
タンクや他の前衛たちが突っ込んでいって帰ってこなかったから、クラウドは連中を使うのをやめたのだろう。
「では行くぞ。サマラ、アンブロシア。貴様らの馬鹿力が役に立つ時が来たぞ」
「なんかひどいこと言われてる!?」
「サマラはパワーがあるかもだけど、あたしは普通だからね!?」
愚痴を言いながら、火と水の巫女は、倒れているタンクを担ぎ上げる。
ちょうど、盾を全面に押し出し、みんなで盾の後ろに一直線になる体勢である。
なるほど、デスブリンガーのタンクは、この盾こそが絶対武器。通常の武器型なら、あらゆる対象を破壊できるデスブリンガーの得物だが、これが盾となると、とんでもない強度を発揮するようになる。
実際、この盾を壊せる攻撃が存在するとは思えない。
それを実証するかのごとく、前に盾を突き出した所、そこに矢や弾丸が集中する。だが、盾はそれらを弾いて傷一つ無い。
「行けるな。よし、順に前に。こやつが意識を取り戻したら、また股間を蹴れば良い」
「むごい」
俺は思わず己の股間を押さえてしまった。
「なんと、こちらのタンクを利用するとは……。どうやら君たちは、我々よりも我々の武器の性質に詳しいようだな」
クラウドの声が聞こえてくる。
驚きの色が混じっているのが分かるが、まだまだ余裕という感じだ。
あいつとしては、戦術に組み込める新しいデータが手に入った、程度の感覚なのだろう。
クラウドは、戦場の様々な状況を取り込み、相手の心理を読み解き、戦いながら進化し続ける男だ。
こちらの手を見せれば見せるほど、奴の手の内は広がっていく。
長期戦はジリ貧。
あいつが本領を発揮する前に仕留めなければならない。
頼むぞ、ローザ。
「だが、それはつまり、我々に残ったタンクもまた、同じような運用が出来るという事だ。盾持ち、全員前へ!一列に並べ!」
クラウドの号令に合わせ、デスブリンガーの残るタンク要員が前に並びだした。
これではこちらの攻撃が通らなくなる。
だが、それはあちらも同じこと。
攻撃するためには、タンクの上にのぼるか、迂回する必要が出てくる。
クラウドはやや高台に登り、タンクを両脇に配置してこちらを見下ろしている。
「これで、君たちからは俺を攻められなくなった訳だ。そして、こちらは角度を変えれば、盾の恩恵に与れないであろう場所から攻撃することが出来る……。どうだね? まだ君たちの劣勢は覆らな……覆え……」
クラウドの声が尻すぼみになる。
ローザが姿を表したからだ。
彼女の背丈は、リュカの次に低い。
俺よりも頭一つは間違いなく小さい上に、細い。
そして、艶やかな長い黒髪に、本人も黒っぽいワンピースなどの衣装を好む。
たまらん人にはたまらん属性に満ち満ちた女だ。
しかも。
「きっ……君は、我が愛しのロリババア……!!」
あっ、こんなクラウドの声初めて聞いたぞ!!
「うむ……。私を取り逃がしたとでも思っていたか? 残念だったな。私はここにいる」
儚げな美少女の容姿から繰り出される、軍人然とした凛々しい言葉遣い。
そして。
「また、君の年を聞いてもいいか……?」
「四十三だ」
「くうっ……」
クラウドが仰け反った。
デスブリンガーたちがざわざわし始める。
あいつら、戦列が狂い始めてるぞ。
「クラウド、あの女撃っちゃっていい? 撃つわよ? はい、バー」
「うるさい黙れ死ね」
パァンッ。
空気を読まずにローザを撃とうとしていた女銃使いが、なんだか側頭部を撃ち抜かれて死んだ。
何だ……。何が起こっているんだ……。
ちょっと呆然とする俺たちである。
だが、ローザが後ろ手に俺に何かを伝えている。
何? 下を見ろ?
下というと……ローザの後ろ、どういう技術で再現したのかわからないが、黒いハイソックスに黒のシューズ。その下? さらに下?
おっ、タイルだ。
ローザの後ろにてこてことついてきたタイルが、そこにあった。
これに乗るのか……?
「クラウド、やばいぞ、ユーマの奴が動いてる」
「む、むむっ……! ローザに気を取られていた! 作戦だったか……。なんと恐ろしい策を立てる……!」
「今だユーマ、跳べ!」
ローザが呼びかけると同時に、俺が踏んだタイルが高く高く持ち上がった。
これは、何と地面の下に、十メートル近くに及ぶケラミスの柱が形作られていたのだ。
これを、ローザが地上に呼び出したらしい。
この高さなら、デスブリンガーどもを眼下に見下ろせるではないか。
「迎撃!!」
クラウドが俺を指し示す。
射撃要員が武器を構え……というところで、サマラから嵐のようなヴルカンの群れが飛び出してきた。
ちょうどタンクどもの列が乱れたところである。
ヴルカンは打ち出すだけの火の玉ではなく、それそのものが獣の形をした火の精霊である。
タンク列の隙間に割り込み、身をねじ込み、後衛に向かって襲いかかる。
「う、うわっ、炎が!!」
「ぎゃーっ!? 体を上ってくる!」
俺はその声聞きながら、飛び降りていた。
落下しながら、即座に長く伸びたケラミスの柱を蹴る。
俺の体は宙を舞いながら、クラウドの頭上を飛び越えた。
一瞬前まで俺がいた空間を、クラウドの銃弾が抉っていく。
ケラミスの柱が砕かれ、折れた。
「まずい。ユーマが後方に付いたぞ。後衛、撤退を……」
「遅いぞ」
俺はクラウドの言葉が終わるより早く、バルゴーンを大剣に変えている。
体を捻るようにしながら剣を構え、風車の如く大剣を振り回しながら着地した。
これで、数人を巻き込む。
ここからの挙動は、全て回転を基本とする。
相手の数は多いが、近接戦闘で俺を撃退できる武器が無い。
下がらせた前衛が来る前に、後衛の飛び道具要員と魔術師を全滅させる。
「う、うわあああ!」
「こっちに来るなああ!」
「タンク! タンクーッ!!」
悲鳴を上げながら逃げ惑う後衛たちをなます斬りである。
なんだか俺が悪役のようだな。
盾持ちが駆けつける前に、決着をつけねば……。と思っていたら、クラウドが駆け下りてくるのが見えた。
「実に驚いたな。なるほど、君たちの強さはチームワークか。誰が上で誰が下ということもない。状況に応じてフレキシブルにトップが変わる。あのロリババア……いい動きをしてくれる」
「ローザだ。ロリババア言うな」
「ローザ……! いい名前だ。ではユーマ」
後衛たちを押しのけて、クラウドが俺の前に立ちふさがる。
「彼女は俺がもらおう。ああいう理想の嫁が欲しかったんだ……! 三次元にいるとは思わなかったぜ。”吼えろ、ケルベロス”! ”猛れ、オルトロス”!」
クラウドが宣言すると、奴が構えた銃が、黒い装甲に覆われていく。同時に、もう片方の手にも赤い装甲に覆われた銃が出現した。
二丁拳銃である。
「銃で俺とこの距離で?」
俺は問いかけながら、一気に間合いを詰めた。
手加減抜きの、縦一文字斬り。まずは小手調べだ。
こいつを、クラウドは銃を交差させながら受けた。
にやりと笑う。
「銃は近接戦のための武器だ。その方が格好いいだろう?」
そのまま、クラウドは銃を跳ね上げて俺の剣をかち上げる。
俺は回転しながら剣を繰り出す。
こいつを、クラウドは赤い銃で受け止めながら、ゼロ距離から黒い銃を俺に突きつけた。
俺は咄嗟に、頭を逸らす。
一瞬前まで俺の頭があった場所を、弾丸が駆け抜けていく。
「その動き、ガン=カタか……!」
「家でずっと練習していたのさ。ジ・アライメントではシステム上再現出来なくてな」
「大した厨二だ。実戦で使うとは正気とも思えん」
「君もな。ユーマの全ての動きが、その場での即断だろう。戦う度に敵に合わせた技を生み出していく。それこそ、キングオブ厨二さ」
互いに笑みが浮かぶ。
だが、戦いの手は休めない。
俺はステップして踏み込みざま、鋭い突きを繰り出す。
これを、クラウドは斜め上空に発砲しつつ、その反動で仰け反って回避した。
さらに側面に発砲、その勢いで俺から間合いを取る。
この男、戦術や戦略面に於いてもてはやされてきてはいるが、それだけでギルドの頂点に立てるほどMMOは甘くはない。
地位に相応しい、個人戦闘力も求められるのだ。
そうでなければ、自我が肥大したゲーマーの集まりであるギルドなどまとめられない。
即ち、クラウドはデスブリンガーにおいて最強とも言える。
「さあ、ギアを一つ上げていくぞッ」
クラウドが黒い銃を後方に撃ち、反動でダッシュを加速させた。
銃使いが剣士との間合いを詰める。通常であれば正気の沙汰ではない。
だが、この男はそれをする。
今までシステムの制約で出来なかったアクションが、この世界であれば再現できるのだ。
俺もまた、距離を詰めた。
赤い銃が俺の額めがけて突き出される。
これを、俺は手の甲で奴の腕を逸して回避。
クラウドは反転しながら、脇から俺に向けて黒い銃を向ける。
俺は、これを切っ先で銃口を跳ね上げて回避する。
互いの得物がかち合った瞬間を狙い、クラウドは蹴りを繰り出してきた。
足癖の悪い奴だ。
ならば、俺も技を見せてやろう。
この剣技と共にこの世界を渡り歩き、鍛え上げられた体術だ。
地面を蹴って飛び上がる。
着地の勢いは、水面に大剣を浮かべる要領。
「おっ、おおおおおおっ!?」
クラウドが驚愕に叫んだ。
周囲のデスブリンガー連中も目を見開いている。
俺が、クラウドの蹴り足の上に立ったのだ。
「なっ……なんという技を……!! ずるいぞ、かっこいいじゃないか……!!」
だが、ニヤニヤ笑いが止まっていないクラウド。
ああ、この世界はこいつにとっても理想郷なのかもしれん。
俺も、こいつとの一騎打ちは妙に噛み合う。
互いに一撃必殺。だが、いつまでも戦い続けていられそうだ。
しかし、得てして邪魔者は、こういうタイミングで現れるものだ。
不穏な風が俺の頬をくすぐる。
何度も俺の命を救ってきた、勘と言う奴だ。
「ユーマ! 来るぞ……! これは、レイアの魔力だ……!」
「それと、この風……ゼフィロス様……!?」
空が一面にかき曇る。
曇天が太陽を隠し、周囲は暗がりに包まれた。
そんな黒雲の中で、キラリと光るものがある。
「ッ!!」
俺は跳んだ。
全力で、後方へとジャンプする。
クラウドもまた、双銃を撃ち放ち、猛烈な勢いでバックダッシュする。
間に合わなかったのはデスブリンガーたちである。
そこに降り立った、凄まじい風をまとった剣の一撃に巻き込まれる。
「…………!!」
「っ…………!?」
物を言う事も出来ず、彼らは吹き飛ばされた。
後衛、前衛ともにダメージは甚大。盾持ちたちは辛うじて無事だが、上空に巻き上げられている。叩きつけられる際に盾の操作を誤れば、一巻の終わりだろう。
「ふうーっ……! 清々しい気分だよ……! まるで生まれ変わったみたいだ」
そいつは風で逆だった髪に、緑色の光沢を宿しながら周囲を見回した。
ゆっくりと立ち上がる。
バルゴーンを折った、最初のデスブリンガー。
勇者リョウガ。
そして、俺は。
懐かしい気配に頭上を見上げる。
そこには、貫頭衣を用いた巫女衣装に身を包む、虹色の髪の少女がいる。
「リュカ……!」
一瞬だけ、彼女の表情が泣きそうに歪んだ。
だが、唇は別の言葉を紡ぐ。
「ようやく、この肉体の主導権を得ました。それでは……世界に仇をなす異分子を、排除するとしましょう……」
リュカの心はまだ残っている。
ならば、救う手立てはあるだろう。
排除されるのは俺ではない。
レイア、お前がリュカの中から排除されるのだ。
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とても人柄のいい奥さんに謝っていると一瞬で周りの景色が変わり
奥さんも少女もいなくなっていた
若者の間で、はやっている話を聞いていた私はすぐに気持ちを切り替えて生きていくことにしました
いや~自炊をしていてよかったです
【幸せスキル】は蜜の味 ハイハイしてたらレベルアップ
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕の名前はアーリー
不慮な事故で死んでしまった僕は転生することになりました
今度は幸せになってほしいという事でチートな能力を神様から授った
まさかの転生という事でチートを駆使して暮らしていきたいと思います
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間違い召喚3巻発売記念として投稿いたします
アーリーは間違い召喚と同じ時期に生まれた作品です
読んでいただけると嬉しいです
23話で一時終了となります
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