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第一部終章 熟練度カンストの凱旋者
熟練度カンストの航海者3
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一面の焼け野原……いや、焼肉畑であった。
自分でやったことなのに、サマラは気持ち悪くなったらしく、背中を向けてウプっとか言っている。
背中をさすっていると、黄金の船がだんだん薄くなってきた。
実体と非実体の合間と言おうか。
こいつのマスターに当たる奴が死んだから、船も消えるのだろう。
「ゲイル!」
俺が呼ぶと、亜竜はすぐさま飛んできた。
動きが鈍っているサマラを抱えて、飛び乗る。
「サマラさん大丈夫です?」
「ああ。自分でどでかい魔法を使って、その後の惨状で気持ち悪くなったんだ。サマラは結構繊細だからな」
うーうー唸っている彼女を、ナデナデしてやる。
すると、何やらひしっとしがみついてきた。
ぬうっ、動けん……!
そんな所に折りてくる銀色の円盤である。
アブラヒムがニューっと上に浮上してくる。
今襲われたら一巻の終わりだな。
「やあ……見事な……というか、とんでもない腕前だ。私の記憶では、火の巫女はそこまでの能力が無かったように思うが……。どこで、精霊王まで行使出来るようになったのかな?」
「企業秘密だ」
腹の中を明かすバカが何処にいる。
「ははっ、全くだ。私はそれを耳にした瞬間から、あなたがたを殲滅する方策を練り始めることだろう。
さあ、約束通りあなたの望む情報を伝えよう。ネフリティスの地において、水の巫女が戻ったそうだ。だが、彼女は黄金の武器を携えた戦士を引き連れ、人と魔、全ての敵として帰ってきた。あちらに行くなら、マリアによろしく言って欲しいな」
「おう、覚えてたらな」
この男には、可能な限り情報は与えたくないな。
嫌いな奴ではないが、全く信用出来ないんだ、このアブラヒムって奴は。
俺はゲイルに命じると、さっさとその場を離れる。
アブラヒムに撃墜されたヘリコプターのことが気になるが、テレビ局のヘリなら民間だ。国が動くなら閣議決定なり、色々時間がかかるだろう。
空間の穴は空に開いているから、飛べる乗り物でやってくるしか無い。
という事で、しばらくは何もないはずだ。
今は水の巫女、アンブロシア救出を目指すとしよう。
「ううーっ、ず、ずびばぜん……。アタシ、まだちょっと精神的に弱くて……」
「うむ。だがそこはサマラのいいところだからな。アイやマルマルは、そんなサマラだから好きなんだ」
「あ、あのう……。ゆ、ユーマ様は?」
「嫌いなら助けたりしないだろうが」
俺の脇腹を、アリエルが小突いた。
痛い。なんだなんだ。
「ユーマさん、女子にはもうちょっと直接的に分かる言葉を投げかけるべきです」
「そ、そういうものなのか」
「そういうものなのです」
何やら女子歴が長そうなアリエルの言葉を受けて、俺はいい直した。
「俺はそんなサマラが好きだ」
「ふ、ふおおおおおお」
サマラが不思議な声をあげながらガタガタ震えだした。
すげえ、メチャクチャテンションが上っている。
できうる限り、ゲイルの上で火の魔法を暴発などしないで欲しいものである。
俺は俺で大変照れくさい。
だがまあ、こういうのも俺の大事な仕事なのであろう。
「見えてきましたね、ネフリティス王国です……!」
俺たちがじゃれている内に、アルマース帝国を超えてしまったらしい。
速い。ゲイルは速すぎる。
「正直、あなたの手を借りるというのは癪なのだけれど。あちらさん、水そのものを操作して船を作り上げているのよね。あれって反則ではなくて?」
「全くですわ! マリア様のおっしゃる通りですわね!」
マリアと、以前に戦ったことがあるエルド教の導き手、デヴォラまでいる。
「アンブロシアめ、いつの間にあんなに強くなったんですの……? 手品に毛が生えた程度の魔法しか使えない駄目巫女だったくせに……! おかしいですわあっ!」
「ほうほう、そうだったのか」
アンブロシアは確かに、出会った当初はそこまで魔法を使えるわけではなかった。
殺傷力が無い、ヴォジャノーイを作り出す魔法を使い、ハッタリで海賊をやっていた観がある。
そんな彼女を、一人前の巫女に仕立て上げてしまったのは、無論、俺だ。
あれは今思うと、アンブロシアにとって良かったのだろうか。悪かったのだろうか。
フーム。
「金色の武器は、私が生み出すものと比べても遥かに高性能。エルドの戦士たちには、彼らに手出しすることは禁じているわ。彼ら、今は海の魔物と戦っているようだけれど」
マリアが俺をちらりと見る。
ここは、ネフリティスにある港町ピレアス。導き手デヴォラの管轄である町だが、ここにいわゆる教祖であるマリアが逗留しているのだ。
そんな訳で、以前にデヴォラと会談した導き手の教会で、このやり取りは成されている。
「俺は、あんたが言う魔物とやらがやられるのを放ってはおけんからな」
「仲間思いで結構なこと。本当ならば、身一つで海に放り出したいところだけれど、今回ばかりは特別に、帆船を一つ貸してあげる」
「あんたに貸しを作るのか。ちょいと怖いな」
「いつか返してもらうわ」
ラグナ、ザクサーン、エルドの三つの宗教で、この教主マリアが一番怖い気がする。
底知れないのはアブラヒムだが、マリアはちょっと、女特有の怖さがあるような。
……今は考えないでおこう。
海を行くには、ゲイルは速度が速すぎる。
船そのものが金色の武器であった、アルマースの海とは違うのだ。
ネフリティス王国は群島で構成されており、海もまた、細かく枝分かれして広がっている。
この合間を、複雑な流れで風が吹き、数々の船が航行している。
相手はアンブロシア。
サマラと同じパターンなら、中に入っているのは水の精霊王オケアノスだろう。
水に関してのエキスパートが揃い踏みなのである。
それに、水で作られた船という話だ。
それはつまり、船自体が相手の戦場であるということ。
俺たちが降りたとして、甲板を踏み抜いて海に落ちないとも限らない。
そうなったらサマラはおしまいだ。
まずは船を借り、海の仲間と連携を取るべきであろう。
「ではまあ、ありがたく借りていく。……そうだ。アブラヒムが、あんたによろしくとさ」
「ほんと……いい性格してるわ、彼」
そんな訳で、帆船ゲットである。
借りたとは言ったが、返すとは言っていない。
つまり、永久に借りるという可能性もあるのだよ!
……いや、戦闘で多分沈んだりするから、多少はね?
帆船の乗組員は貸してもらえなかったので、自分で集める事になる。
これはマリアからの嫌がらせなのかもしれないな。
今更人間のクルーを集めたところで、合流する相手が彼らからすると魔物なのだから具合がよろしくないだろう。
「よし、プリムたちに俺たちが来たことを知らせよう。サマラ、アリエル、一発どでかい魔法をぶっ放して、俺たちの所在をあからさまにしてくれ」
「了解ですよ。今回は警戒すべき敵が味方側なので、ちょっと気が楽ですねえ」
アリエルはすぐさま納得して、シルフを集め始める。
それに対してサマラは、ザクサーンばかりでなく、ラグナもエルドも含めた大の宗教嫌いだ。
ちょっと難しい顔をしている。
「アタシが泳げたら、船なんか借りなくても良かったのに……むむむう」
ぶつぶつ言っている。
他人のせいなのではなく、自分が至らなかったからと考えるのはサマラの美点では無いか。
「サマラは俺に出来ない事もいろいろ出来るだろ。だから出来ない事がちょっとあるくらいでちょうどいいんだよ。足りないところはサポートし合えばいい。俺も頼るからお前も俺を頼れ」
「! はいっ!」
サマラの機嫌が一瞬にして直った。
アリエルが横目で俺を見つつ、
「ユーマさん、なんだか女性の扱い方が上手くなりましたね? あーらら、これはリュカさんもうかうかしていると……」
「そういう事言うのはやめなさい!?」
てな訳で、風と火の魔法の共同作業である。
巻き上がった炎を、風が煽り、あちこちの海から見えるように拡散していく。
昼日中なので、炎そのものは太陽の光に紛れてそこまで目立たない。
だが、妖精たちは魔力そのものを感じ取ることが出来る。
サマラとアリエルの濃厚な魔力が篭った炎に、きっと勘付くことだろう。
かなり注目を集めてしまったが、エルド教徒らしき連中が人払いを行なっている。やあ、ありがたいな。
きっとマリアやデヴォラは、この派手なパフォーマンスを苦々しく思っていることだろう。
さて、作業が終わったら、屋台で適当な食事を買ってきて三人で並んで食べる。
「あー、あー! これ、アルマースで食べたケバブ! ネフリティスにもあるんだねえ……。ユーマ様と、リュカ様と三人で食べたなあ……。リュカ様元気かなあ……」
サマラが遠い目をしている。
「そうだな、きっと助け出さなきゃな」
「はい。前はアタシが助けられたから、今度はアタシが助ける番です」
「いいぞ、その意気だ」
「どうでもいいですけどこのケバブのソース美味しいですねえ……」
豚が食えないザクサーン教徒に配慮してか、羊の肉である。
癖があるが、まあ美味い。ソースはマヨネーズベースみたいなものだろうか。
え、なに? エルド教徒も豚が食えないの?
屋台の親父からそんなどうでもいい情報を得てしまった。
なんだ、ではこの世界、豚を食える地域はごく一部ではないか。
エルフェンバインなどハムやソーセージ作りが盛んだったから、あそことアルマースで文化圏が全然変わってしまうのだな。
ケバブをお代わりし、食べ終わる頃。
水間から、ちゃぽんと触手を髪の毛にした頭が浮かんできた。
マーメイドである。
「あっ! は、灰王様!! それに火の巫女様に秘書官様! こんなところで何をしておられるんですか」
びっくりしている。
「そっちにアンブロシアが出ただろ。しかもおかしくなって。色々まとめて助けに来たのだ」
「おおーっ! 私たちの窮地を知って助けに! 噂は本当だったんですね!」
マーメイドがえらく感激している。
噂とは何だ。
「誰かが困っている時に、どこからともなく現れるヒーロー的な灰王様?」
「なにっ、俺、そんなんか」
「プリム様のイメージではそうなってるみたいですねえ」
「間違ってない!」
サマラが力強く肯定した。
君の中の俺はどんなイメージになっているのだ。
「いや、まあそれはいい。俺たちはお前たちが困ってる、アンブロシアの件を解決せにゃならんのだ。手を貸してくれるな?」
「もちろんです! 船の航行もお任せですよ。水の妖精一同、全力で灰王様のサポートをやらせてもらいます!」
マーメイドが胸をどーんと叩いた。
おっ、なかなか胸がある……。
ちょっと凝視した俺であったが。
アリエルが俺の脇腹を小突き、サマラが俺の耳を引っ張った。
「いたた!? いたたたたた! 多面攻撃だと……!?」
「節操が無いのはいけませんね、ユーマさん?」
「リュカ様の気持ちがすっごく分かりました! アタシたちがしっかりしないと……!」
「痛い痛い! 分かった、何だか分からんがとりあえず分かったから、その耳を離してくれえー」
かくして俺は船に連行され、アンブロシア奪還作戦を始めるのである。
自分でやったことなのに、サマラは気持ち悪くなったらしく、背中を向けてウプっとか言っている。
背中をさすっていると、黄金の船がだんだん薄くなってきた。
実体と非実体の合間と言おうか。
こいつのマスターに当たる奴が死んだから、船も消えるのだろう。
「ゲイル!」
俺が呼ぶと、亜竜はすぐさま飛んできた。
動きが鈍っているサマラを抱えて、飛び乗る。
「サマラさん大丈夫です?」
「ああ。自分でどでかい魔法を使って、その後の惨状で気持ち悪くなったんだ。サマラは結構繊細だからな」
うーうー唸っている彼女を、ナデナデしてやる。
すると、何やらひしっとしがみついてきた。
ぬうっ、動けん……!
そんな所に折りてくる銀色の円盤である。
アブラヒムがニューっと上に浮上してくる。
今襲われたら一巻の終わりだな。
「やあ……見事な……というか、とんでもない腕前だ。私の記憶では、火の巫女はそこまでの能力が無かったように思うが……。どこで、精霊王まで行使出来るようになったのかな?」
「企業秘密だ」
腹の中を明かすバカが何処にいる。
「ははっ、全くだ。私はそれを耳にした瞬間から、あなたがたを殲滅する方策を練り始めることだろう。
さあ、約束通りあなたの望む情報を伝えよう。ネフリティスの地において、水の巫女が戻ったそうだ。だが、彼女は黄金の武器を携えた戦士を引き連れ、人と魔、全ての敵として帰ってきた。あちらに行くなら、マリアによろしく言って欲しいな」
「おう、覚えてたらな」
この男には、可能な限り情報は与えたくないな。
嫌いな奴ではないが、全く信用出来ないんだ、このアブラヒムって奴は。
俺はゲイルに命じると、さっさとその場を離れる。
アブラヒムに撃墜されたヘリコプターのことが気になるが、テレビ局のヘリなら民間だ。国が動くなら閣議決定なり、色々時間がかかるだろう。
空間の穴は空に開いているから、飛べる乗り物でやってくるしか無い。
という事で、しばらくは何もないはずだ。
今は水の巫女、アンブロシア救出を目指すとしよう。
「ううーっ、ず、ずびばぜん……。アタシ、まだちょっと精神的に弱くて……」
「うむ。だがそこはサマラのいいところだからな。アイやマルマルは、そんなサマラだから好きなんだ」
「あ、あのう……。ゆ、ユーマ様は?」
「嫌いなら助けたりしないだろうが」
俺の脇腹を、アリエルが小突いた。
痛い。なんだなんだ。
「ユーマさん、女子にはもうちょっと直接的に分かる言葉を投げかけるべきです」
「そ、そういうものなのか」
「そういうものなのです」
何やら女子歴が長そうなアリエルの言葉を受けて、俺はいい直した。
「俺はそんなサマラが好きだ」
「ふ、ふおおおおおお」
サマラが不思議な声をあげながらガタガタ震えだした。
すげえ、メチャクチャテンションが上っている。
できうる限り、ゲイルの上で火の魔法を暴発などしないで欲しいものである。
俺は俺で大変照れくさい。
だがまあ、こういうのも俺の大事な仕事なのであろう。
「見えてきましたね、ネフリティス王国です……!」
俺たちがじゃれている内に、アルマース帝国を超えてしまったらしい。
速い。ゲイルは速すぎる。
「正直、あなたの手を借りるというのは癪なのだけれど。あちらさん、水そのものを操作して船を作り上げているのよね。あれって反則ではなくて?」
「全くですわ! マリア様のおっしゃる通りですわね!」
マリアと、以前に戦ったことがあるエルド教の導き手、デヴォラまでいる。
「アンブロシアめ、いつの間にあんなに強くなったんですの……? 手品に毛が生えた程度の魔法しか使えない駄目巫女だったくせに……! おかしいですわあっ!」
「ほうほう、そうだったのか」
アンブロシアは確かに、出会った当初はそこまで魔法を使えるわけではなかった。
殺傷力が無い、ヴォジャノーイを作り出す魔法を使い、ハッタリで海賊をやっていた観がある。
そんな彼女を、一人前の巫女に仕立て上げてしまったのは、無論、俺だ。
あれは今思うと、アンブロシアにとって良かったのだろうか。悪かったのだろうか。
フーム。
「金色の武器は、私が生み出すものと比べても遥かに高性能。エルドの戦士たちには、彼らに手出しすることは禁じているわ。彼ら、今は海の魔物と戦っているようだけれど」
マリアが俺をちらりと見る。
ここは、ネフリティスにある港町ピレアス。導き手デヴォラの管轄である町だが、ここにいわゆる教祖であるマリアが逗留しているのだ。
そんな訳で、以前にデヴォラと会談した導き手の教会で、このやり取りは成されている。
「俺は、あんたが言う魔物とやらがやられるのを放ってはおけんからな」
「仲間思いで結構なこと。本当ならば、身一つで海に放り出したいところだけれど、今回ばかりは特別に、帆船を一つ貸してあげる」
「あんたに貸しを作るのか。ちょいと怖いな」
「いつか返してもらうわ」
ラグナ、ザクサーン、エルドの三つの宗教で、この教主マリアが一番怖い気がする。
底知れないのはアブラヒムだが、マリアはちょっと、女特有の怖さがあるような。
……今は考えないでおこう。
海を行くには、ゲイルは速度が速すぎる。
船そのものが金色の武器であった、アルマースの海とは違うのだ。
ネフリティス王国は群島で構成されており、海もまた、細かく枝分かれして広がっている。
この合間を、複雑な流れで風が吹き、数々の船が航行している。
相手はアンブロシア。
サマラと同じパターンなら、中に入っているのは水の精霊王オケアノスだろう。
水に関してのエキスパートが揃い踏みなのである。
それに、水で作られた船という話だ。
それはつまり、船自体が相手の戦場であるということ。
俺たちが降りたとして、甲板を踏み抜いて海に落ちないとも限らない。
そうなったらサマラはおしまいだ。
まずは船を借り、海の仲間と連携を取るべきであろう。
「ではまあ、ありがたく借りていく。……そうだ。アブラヒムが、あんたによろしくとさ」
「ほんと……いい性格してるわ、彼」
そんな訳で、帆船ゲットである。
借りたとは言ったが、返すとは言っていない。
つまり、永久に借りるという可能性もあるのだよ!
……いや、戦闘で多分沈んだりするから、多少はね?
帆船の乗組員は貸してもらえなかったので、自分で集める事になる。
これはマリアからの嫌がらせなのかもしれないな。
今更人間のクルーを集めたところで、合流する相手が彼らからすると魔物なのだから具合がよろしくないだろう。
「よし、プリムたちに俺たちが来たことを知らせよう。サマラ、アリエル、一発どでかい魔法をぶっ放して、俺たちの所在をあからさまにしてくれ」
「了解ですよ。今回は警戒すべき敵が味方側なので、ちょっと気が楽ですねえ」
アリエルはすぐさま納得して、シルフを集め始める。
それに対してサマラは、ザクサーンばかりでなく、ラグナもエルドも含めた大の宗教嫌いだ。
ちょっと難しい顔をしている。
「アタシが泳げたら、船なんか借りなくても良かったのに……むむむう」
ぶつぶつ言っている。
他人のせいなのではなく、自分が至らなかったからと考えるのはサマラの美点では無いか。
「サマラは俺に出来ない事もいろいろ出来るだろ。だから出来ない事がちょっとあるくらいでちょうどいいんだよ。足りないところはサポートし合えばいい。俺も頼るからお前も俺を頼れ」
「! はいっ!」
サマラの機嫌が一瞬にして直った。
アリエルが横目で俺を見つつ、
「ユーマさん、なんだか女性の扱い方が上手くなりましたね? あーらら、これはリュカさんもうかうかしていると……」
「そういう事言うのはやめなさい!?」
てな訳で、風と火の魔法の共同作業である。
巻き上がった炎を、風が煽り、あちこちの海から見えるように拡散していく。
昼日中なので、炎そのものは太陽の光に紛れてそこまで目立たない。
だが、妖精たちは魔力そのものを感じ取ることが出来る。
サマラとアリエルの濃厚な魔力が篭った炎に、きっと勘付くことだろう。
かなり注目を集めてしまったが、エルド教徒らしき連中が人払いを行なっている。やあ、ありがたいな。
きっとマリアやデヴォラは、この派手なパフォーマンスを苦々しく思っていることだろう。
さて、作業が終わったら、屋台で適当な食事を買ってきて三人で並んで食べる。
「あー、あー! これ、アルマースで食べたケバブ! ネフリティスにもあるんだねえ……。ユーマ様と、リュカ様と三人で食べたなあ……。リュカ様元気かなあ……」
サマラが遠い目をしている。
「そうだな、きっと助け出さなきゃな」
「はい。前はアタシが助けられたから、今度はアタシが助ける番です」
「いいぞ、その意気だ」
「どうでもいいですけどこのケバブのソース美味しいですねえ……」
豚が食えないザクサーン教徒に配慮してか、羊の肉である。
癖があるが、まあ美味い。ソースはマヨネーズベースみたいなものだろうか。
え、なに? エルド教徒も豚が食えないの?
屋台の親父からそんなどうでもいい情報を得てしまった。
なんだ、ではこの世界、豚を食える地域はごく一部ではないか。
エルフェンバインなどハムやソーセージ作りが盛んだったから、あそことアルマースで文化圏が全然変わってしまうのだな。
ケバブをお代わりし、食べ終わる頃。
水間から、ちゃぽんと触手を髪の毛にした頭が浮かんできた。
マーメイドである。
「あっ! は、灰王様!! それに火の巫女様に秘書官様! こんなところで何をしておられるんですか」
びっくりしている。
「そっちにアンブロシアが出ただろ。しかもおかしくなって。色々まとめて助けに来たのだ」
「おおーっ! 私たちの窮地を知って助けに! 噂は本当だったんですね!」
マーメイドがえらく感激している。
噂とは何だ。
「誰かが困っている時に、どこからともなく現れるヒーロー的な灰王様?」
「なにっ、俺、そんなんか」
「プリム様のイメージではそうなってるみたいですねえ」
「間違ってない!」
サマラが力強く肯定した。
君の中の俺はどんなイメージになっているのだ。
「いや、まあそれはいい。俺たちはお前たちが困ってる、アンブロシアの件を解決せにゃならんのだ。手を貸してくれるな?」
「もちろんです! 船の航行もお任せですよ。水の妖精一同、全力で灰王様のサポートをやらせてもらいます!」
マーメイドが胸をどーんと叩いた。
おっ、なかなか胸がある……。
ちょっと凝視した俺であったが。
アリエルが俺の脇腹を小突き、サマラが俺の耳を引っ張った。
「いたた!? いたたたたた! 多面攻撃だと……!?」
「節操が無いのはいけませんね、ユーマさん?」
「リュカ様の気持ちがすっごく分かりました! アタシたちがしっかりしないと……!」
「痛い痛い! 分かった、何だか分からんがとりあえず分かったから、その耳を離してくれえー」
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