熟練度カンストの魔剣使い~異世界を剣術スキルだけで一点突破する~

あけちともあき

文字の大きさ
上 下
116 / 255
第一部終章 熟練度カンストの凱旋者

熟練度カンストの聞き取り人

しおりを挟む
 目覚めると……すっかり日が昇っていた。
 おう、いい朝だなあ……なんて思って、あれっ、何か忘れてね? と思う。
 そうだ。
 俺はこの世界に戻ってきたのだった。
 レイアに奪われたリュカを、アンブロシアを、ローザを、サマラ……を……。を……?

「うーん」

 大変柔らかくて温かい物が俺の横にくっついていて、体を起こしづらい事この上ない。
 これはなんぞ?
 横をちらりと見た。
 サマラの顔があった。
 うおおおおお!?
 あぶねえ!
 ちょっと顔を動かしたらキスするところだったわ!
 俺が驚愕にガクガク震えていると、この振動でサマラも目覚めたようだ。

「ん……ユーマ様、おはようございますぅ……」

 まだぼんやりしているようである。
 だが、俺を抱きまくらの如くがっちりと抱きすくめていて、離す気配が無い。
 それに……こう……。
 布団の他に、俺の手足に布をまとっている感触が無いというか。
 むしろ人肌の暖かさが必要以上にわかると言うか。

「ふふっ、アタシの体ってあったかいでしょ。火の精霊を宿してるから、人より体温が高いんですよ? 体をあったかくしておけばよく眠れると思って」

 ようやくサマラが手足を解いて体を起こした。

「うおおおおおああああ!?」

 俺は驚愕のあまり寝床から転げ落ちた。
 テントの中に設けられた寝床だから、転げ落ちることは即ち土台から地面に落ちることになる。
 背中を打ったがそれどころではない。

「サマラ、お、お前、おま、おま、全裸ッ!」

「ふっふっふ……既成事実を作っちゃおうと思ったんですけど、リュカ様が可哀想なので堪えました。アタシの自制心ってすごい」

「ほんとかっ。ほん、ほ、本当に俺もお前も過ちをおかしてないよなっ」

 これ以上無いってくらいに動揺する俺。
 それを見て、サマラは真面目な顔でキッパリと言った。

「何もなかったのは間違いないです。だってアタシ、男性に迫られたいタイプだから!!」

「お、おう」

 実はあれだけ積極的にアプローチしてきてて、受け身なタイプだったのか……!
 あまりの衝撃で、すっかり目が覚めてしまった俺である。
 そんな俺たちのやり取りが耳に入ったのか、サマラの侍女たる幼女二人組が、朝飯を持ってやって来た。

「おはよーございます、灰王様! サマラ様!」
「ごはんですヨー」

 メニューは、薄く焼いたパンとドライフルーツ、チーズと牛乳で入れた茶である。
 ああ、確かに布団から出てみると、朝は少々冷えるな。
 温かい茶が嬉しい。

「灰王様、おめしものも外に干してあります!」
「もってくルー」

 マルマルが外に駆け出していった。
 その間に、アイが俺のお茶のお替わりを淹れてくれる。

「こうしている状況じゃないんだけどなあ……」

 茶を啜りつつ呟く。
 すると、衣服を身に着けたサマラが、

「情報を集めて、それでどうするか決めるのも大事じゃないですか? アタシ、ユーマ様からそういう考え方を教わった気がします」

「ぬぬっ」

 焦りを指摘された気がして、何も言えなくなる。
 確かに、俺はここに来てから、何事もさっさと片付ける方針だったが、気が急いて何かを行ってはいなかった気がする。

「一本取られましたね、ユーマさん。彼女なりにちゃんと考えてるんだから」

 アリエルもやって来た。

「そろそろ暖かくなってくるし、外で諸族の長を交えて、今後の対策を話しませんか? それに、サマラさんには色々教えてもらわないといけないことばかりですし」

「ええ、アタシ、いろいろな事を知りました。これ知っておかないと、ヤバイ情報だって思う」

「そうか……! では、そうしよう」

 そういうことになった。
 外に出ると、日差しは随分高いところにある。
 リザードマンと遊牧民の長は既に待機していた。

「やあ、昨日はお疲れ」

「灰王様こそ、お倒れになりましたが何事も無かったのですか」

「ああ、ちょっとオーバーワークだったようだ。あっちに行って、すぐ帰ってきてドンパチだからな。俺は元々体力はそこまで無いから」

 俺の体力が無い宣言がジョークだと思ったようで、遊牧民もリザードマンもドッと笑う。
 えっ、マジなんだけどっ。

「えっと、じゃあ、お話していくね」

 サマラが座の上座に腰掛けた。
 つまり俺の隣である。

「アタシ、みんなと一緒に祭壇に行ったの。そこで、アタシは何者かに体の中に入り込まれて、自由が効かなくなった。そいつが、アータルだったってわけ」

 昨日、俺が滅ぼした火の精霊王である。
 半年以上前に、暴走した巨人状態のアータルにも一撃浴びせている。
 まあ、とにかく奴に対してはろくな思い出がない。

「サマラさん、あなたの意識はあったんですか?」

「うん、はっきりしたものじゃ無いけど、半分夢を見ているような感覚で、あいつがやっていた事は見ていたよ。ほんと……みんなや、アイとマルマルは怖がらせちゃって、ごめん……!」

「サマラ様!」
「サマラさマ!」

 アイとマルマルが、サマラを慰めるようにくっついて来る。
 サマラは二人を愛おしげに抱き寄せると、

「あのね、あいつはね、すごく焦っていた。精霊王は、段々意識が薄くなってきているんだって。長い長い時間をかけて、精霊王だったものが、ただの自然現象になって来ているって。だから、一番強い意識を持っていたレイアが代表になって、この世界にとっての異分子を呼び込んだの」

「異分子……俺か?」

 俺の問いかけを、サマラは否定する。

「そうじゃない。ユーマ様じゃないんです。もっと、もっと昔に、三人の人間を呼び込んだ。三人は、それぞれ宗教という形で人間を支配して、発展させたって。精霊王たちは、人間が生み出す知恵の中に、自分たちの意識を繋ぎ止める方法があるんじゃないかって期待してたみたい」

「人を自立させるとか、そういう意味じゃないのか?」

「最初は、そういう意識もあったみたいなんですけど……なんだか、昔の記憶は曖昧で……。今凄く強いのは、消えてしまうことへの恐怖、だったと思う。すっごく、凄く怖がってた」

 サマラが、アイとマルマルをより強く抱きしめる。
 おいおい、幼女たちが苦しがりはしないか。

「サマラ様はやわらかいからだいじょうぶだよ!」
「ふかふカー」

 なるほど……!!
 確かに寝ている俺に抱きついていたサマラは大変柔らかく……うっ、体の一部が反応を。鎮まれ、鎮まれ俺よ。
 だが、サマラがアータルの感じていた恐怖を共有していたのなら、今朝のあれはそんな感情を紛らわせる意味があったのかもしれないな。
 それに……。

「サマラが感じた、精霊王たちの恐怖を、みんなは今も感じてるって訳か」

「うん、多分……そう思います」

「助けに行かねば……」

 むしろ俺の気持ちが落ち着かなくなってきたぞ。
 いつの間にか、俺はあの娘たちに、強い思い入れを抱くようになっていたらしい。
 いても立ってもいられん。

「お、お、俺は行くぞ!」

「灰王様、でしたらば移動手段はこちらに」
「人里を抜けることになるでしょうナ」

 話を聞いていた遊牧民の長が合図すると、馬がやって来た。
 リザードマンたちも旅支度をしているではないか。

「あ、いや、リザードマンも来るのか? ここから一番近い場所というと……」

「海ですナ。我ら、命を賭しても灰王様に従う所存でス」

「いやいやいや。リザードマンは犬死になるだろうが。いいから。あっちはあっちで、海の連中と協力するから。な? お前らは遊牧民と、ここを守っていてくれ」

 俺の言葉に、リザードマンの長はちょっと不服そうな雰囲気になった。
 忠誠心は嬉しいんだが、火属性の種族が海に行くのはいかんだろう。絶対死ぬって。

「ユーマさん、海に行くと言うことは……目星がついてるんですか?」

「ああ、情報を集めながらになるだろうが、アルマース帝国からネフリティスの方面に向かおう。アンブロシアに乗り移ってるのは、精霊王なら恐らくオケアノスだ。そいつの根城があの辺だからな」

「地続きならエルフェンバインでもいいんじゃないですか? そこなら、ローザさんがいると思いますけど」

「海はプリムがいる。あいつなら灰王の軍も指揮できるからな。プリムを救い出せば、二方面攻撃が可能になる」

「ふむふむ……ユーマさん、やっと調子出てきましたね。冷静さが戻ってきた気がします」

「いや、そうでも無いんだけどな……」

「じゃあ、そうと決まったら用意しよ! 亜竜の生き残りは、火竜の山に避難してると思うから、ゲイルとかも迎えに行ってさ!」

 サマラが勢い良く立ち上がった。
 空元気かもしれないが、自らを鼓舞する気持ちというのは大事だ。

「よし! ゲイルも無事なら、三人で行くか! サマラ、海に落っこちるなよ! 死ぬからな!」

「ユーマ様が私をずっと抱いてくれていればいいんです! なんならその先までしていただいても……!」

「ええっ」

 俺は静かになった。
 アリエルがそんな俺を指差して笑う。
 おのれ。

「では、我らが一族、灰王様と巫女様、そして秘書官殿を火竜の山までお送りしましょう」
「山に入れば我らが護衛でス。さあ、行きましょうゾ」

 かくして、俺たちはゾロゾロと大移動することになった。
 アイとマルマルは村に置いていく。
 これからの戦いにはついてこれそうもない……というか、ついて来られては困る。
 俺がこの世界に帰ってきてからそれなりに時間が経過してしまったし、今回のアータル陣営は、不意打ちで勝利したようなものだからだ。
 次に向かう先で待ち構える精霊王は、きっと俺たちを迎撃する準備を整えている事だろう。
 そんな危険な場所に、幼女たちを連れて行く事はできない。
 サマラは二人をぎゅっと抱きしめた。
 二人もサマラをむぎゅーっと抱き返す。
 うむうむ。
 仲良きことは美しき哉。
 俺はほっこりした。
 すると、アイが何やらサマラの肩越しに、空を見上げてポカンとする。
 俺も彼女の視線を追ってみた。
 ああ、なるほど。
 その先にあるのは、空に開いた大きな穴だ。
 この世界と、俺がいた現実世界は時間の流れが違うのか。
 空に開いた穴は、日が暮れようとしているところだった。
 ついさっきまで、同じ青色だったから気づかなかったのだ。

「灰王様、あそこから何かでてきたみたいです」

「何か?」

「はい、丸くて、尻尾が生えてて、飛びそうにないのに空を飛んで……頭の上で、何か回してたみたい」

 ヘリコプターだ。
 どうやら、こちらの世界に現実世界がやって来てしまっているらしい。
 どんどん状況がややこしくなっていくぞ。
しおりを挟む
感想 25

あなたにおすすめの小説

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

【完結】魔術師なのはヒミツで薬師になりました

すみ 小桜(sumitan)
ファンタジー
 ティモシーは、魔術師の少年だった。人には知られてはいけないヒミツを隠し、薬師(くすし)の国と名高いエクランド国で薬師になる試験を受けるも、それは年に一度の王宮専属薬師になる試験だった。本当は普通の試験でよかったのだが、見事に合格を果たす。見た目が美少女のティモシーは、トラブルに合うもまだ平穏な方だった。魔術師の組織の影がちらつき、彼は次第に大きな運命に飲み込まれていく……。

異世界で快適な生活するのに自重なんかしてられないだろ?

お子様
ファンタジー
机の引き出しから過去未来ではなく異世界へ。 飛ばされた世界で日本のような快適な生活を過ごすにはどうしたらいい? 自重して目立たないようにする? 無理無理。快適な生活を送るにはお金が必要なんだよ! お金を稼ぎ目立っても、問題無く暮らす方法は? 主人公の考えた手段は、ドン引きされるような内容だった。 (実践出来るかどうかは別だけど)

召喚学園で始める最強英雄譚~仲間と共に少年は最強へ至る~

さとう
ファンタジー
生まれながらにして身に宿る『召喚獣』を使役する『召喚師』 誰もが持つ召喚獣は、様々な能力を持ったよきパートナーであり、位の高い召喚獣ほど持つ者は強く、憧れの存在である。 辺境貴族リグヴェータ家の末っ子アルフェンの召喚獣は最低も最低、手のひらに乗る小さな『モグラ』だった。アルフェンは、兄や姉からは蔑まれ、両親からは冷遇される生活を送っていた。 だが十五歳になり、高位な召喚獣を宿す幼馴染のフェニアと共に召喚学園の『アースガルズ召喚学園』に通うことになる。 学園でも蔑まれるアルフェン。秀な兄や姉、強くなっていく幼馴染、そしてアルフェンと同じ最底辺の仲間たち。同じレベルの仲間と共に絆を深め、一時の平穏を手に入れる これは、全てを失う少年が最強の力を手に入れ、学園生活を送る物語。

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

大学生活を謳歌しようとしたら、女神の勝手で異世界に転送させられたので、復讐したいと思います

町島航太
ファンタジー
2022年2月20日。日本に住む善良な青年である泉幸助は大学合格と同時期に末期癌だという事が判明し、短い人生に幕を下ろした。死後、愛の女神アモーラに見初められた幸助は魔族と人間が争っている魔法の世界へと転生させられる事になる。命令が嫌いな幸助は使命そっちのけで魔法の世界を生きていたが、ひょんな事から自分の死因である末期癌はアモーラによるものであり、魔族討伐はアモーラの私情だという事が判明。自ら手を下すのは面倒だからという理由で夢のキャンパスライフを失った幸助はアモーラへの復讐を誓うのだった。

アイマール・フィンの冒険~新米冒険者は神速の矢を放つ~

イーストバリボー
ファンタジー
 新米冒険者アイマール・フィンに初めての仕事の依頼が届いた。それは森で迷子になった少女の捜索だった。たった一人で冒険に挑むことになったアイマールの成長物語。  どこか懐かしい感じのファンタジーを目指しました。応援してくれたら嬉しいです。イラストはマイフナ様でございます。

【本編完結】転生したら第6皇子冷遇されながらも力をつける

そう
ファンタジー
転生したら帝国の第6皇子だったけど周りの人たちに冷遇されながらも生きて行く話です

処理中です...