112 / 255
第一部終章 熟練度カンストの凱旋者
熟練度カンストの帰還者
しおりを挟む
『まさか、世界の壁を越えて呼ばれるとは思わなかったぞ』
巨大な火竜は、空にその巨体を浮かべて笑った。
現実世界の夜空は、この巨竜が砕いてしまっていた。欠けた空間の向こうには、すっかり日が暮れたこの時間には不釣合いな、青空が広がっている。
あちら側とこちら側での時差であろう。
道行く人々は、誰もが足を止め、ぽかんと口を開いて空を見上げている。
誰もこれを無視する事は出来ない。
視界に入れないなどと言う事が出来ようはずもない。
暗闇の中、青空の輝きを背に受けて、赤く照り返す鱗の巨大な怪物が浮かんでいるのだ。
それは、口を開いてはいなくても、この場にいる全ての人間の耳に届く言葉を発している。
『約定によって、そなたの願いを叶えにやって来た。灰色の剣士ユーマよ、我に願うことは何か』
全長百メートル余り。
翼長に至っては、二百メートルに達するだろう。
これだけでかいものが突然出現したら、きっと自衛隊や米軍のレーダーに引っ掛かっているのだろうなあ、と俺は思う。
「そっちの世界に戻りたい。連れて行ってくれ」
『なんだ。随分と慎ましやかな願いなのだな』
火竜は拍子抜けしたようである。
『我の力を使い、この地を焦土に変えてそなたが君臨する事も可能なのだぞ。ただ一度の願いなのだ。有効に使うが良かろう』
「いや、そういうのいいから。戻るだけでいいから」
『そうか』
ワイルドファイアはフム、と鼻を鳴らした。
鼻息が炎になり、空気を焼き焦がす。
一瞬、まるで周囲が昼間になったかのように照らされた。
これを見て、人々はへなへなと崩れ落ちる。
本当に恐ろしいものを目の前にした時、弱いものは逃げると言う選択肢すら思い浮かばなくなるのだ。
この場にいる、俺以外の全ての人間は死を覚悟したに違いない。
「おい、アリエルまでへたり込んでどうするんだ」
「い、いやあ、だって! あれですよ!? あの火竜がこんな目の前にいるんですよ!? 腰を抜かさない方がおかしいですから!」
「仕方ないなあ……。よっこら」
「ひゃっ」
アリエルをおんぶした。
ふと横を見ると、もう一人だけ、腰を抜かしてない奴がいた。
目をキラキラさせているアルフォンスである。
あれはきっと、「うわー、本当のドラゴンだー」なんて思っているに違いない。
『では乗るが良い』
ワイルドファイアの尻尾が目の前まで垂れてきた。
俺はこいつを駆け上っていく。
鱗や背びれの段々があるから、案外登りやすいぞ。
背中の上に到達した辺りで、火竜は翼を大きく開いた。
『行くぞ。掴まっているがよい』
これは、物凄い風が下に向かって吹くのではないかと俺は思った。
だが、こいつはそれなりに気を使ってくれたらしい。
何やら魔法の力らしきもので、ふわりと火竜の巨体が上空へと舞い上がる。
そこに来て初めて、ワイルドファイアは一度、大きく羽ばたいた。
強烈な風が巻き起こる。
台風とまではいかないが、春一番程度の強さではあったのだろう。
下方に伺える繁華街で、看板が倒れ、チラシやらポスターが剥がれて舞う。
『ふむ? この世界の鳥が近づいてくるようだな』
火竜はどこかに気を取られたようだ。
見つめる先、何やら編隊を組んで飛んでくる。
おお、こいつは戦闘機じゃないのか。
数キロ先なのだろうが、俺にも良く見える。これはワイルドファイアの魔力の影響を受けているのだろうか。
『何か小さいのを出してきたな。どーれ』
それってミサイルじゃないか?
戦闘機が放ったミサイルが、ワイルドファイア目掛けて飛来してくる。
火竜は結構な熱量を常に放っている存在である。
今は、俺とアリエルが乗っかっている背中を冷やしてくれているが、それ以外は戦闘機のアフターバーナーもかくやという熱を放出している。
そこに、ミサイルが飛来し、
『ふむ』
爆発する前に、ワイルドファイアの前で粉々に砕け散った。
これはあれだ、この火竜が次元を斬り裂くようなノリで、ミサイルをぶん殴ったのだろう。
信管が反応するよりも遥かに速いから、爆発するまえに砕け散る。
さらに飛来してきたミサイルを、こいつ、真横にスッと動いて避けた。
旋回半径がどうこうという次元ではない。
一切のGや空気抵抗を無視して、縦横無尽に動けるようなのだ。
こいつ、空を飛ぶとさらに化け物になるのな。
『小うるさい鳥めを叩き落してから行くとするか』
奴が口蓋を展開した。
ビームを吐くつもりだろう。
「ストップストップ。被害が半端じゃないから、スルーしてくれ」
『なんと……。そなたは存外に穏健主義なのだな』
火竜の口がピッタリと閉じた。
翼が空気を打つ。
巨体が一気に、遥かな上空へ舞い上がった。
いや、そこから上は、現実世界の空ではない。
砕けた空間の壁を飛び越えて、あの世界、リュカがいる世界へと飛び込んだのだ。
何だか、物凄い空気抵抗があったような気がするが……。
戦闘機も近くまでやってきて、割れた空の近くをうろうろしてから飛び去っていった。
「あれは自然に塞がるものなのか」
『我が砕いたのだ。そう容易く塞がるはずが無かろう。しかし案ずるな。百年も経てば安定しよう』
塞がるんじゃなくて安定するのか。
今は考えない事にしておこう。
ワイルドファイアを現実世界で暴れさせず、こちらに連れて来られただけでよしとせねばな。
よく、ファンタジー世界の生物が現実に来て、現代兵器で仕留める話なんかがあるが、このワイルドファイアクラスになると、まだ現代兵器では全く歯が立たんな。
それこそSF世界のレベルに足を突っ込まないと……。
「ワイルドファイア。世界は今どうなってる? 俺がいなくなってから二日くらい経ってると思うが」
『レイアめが復活したぞ。彼奴は己の軍勢を作り出し、世界へ攻め寄せているな。我が巫女が彼奴の下僕になっているのが大層面白くない』
「そ、その、あなたは手出ししないんですか?」
恐る恐る、と言った感じでアリエルが尋ねる。
火竜は鼻息を吹いた。
『我ら四竜と精霊王が戦えば、天地は無事では澄むまい。人も獣も、鳥も魚も、虫も草木も、七度滅ぶほどの災厄となるぞ』
「あっ、力が強大すぎて世界がやばくなるのか」
了解した。
この火竜とて、世界を滅ぼしたいと言うわけでは無いのだ。
そう言えば、恐れられている割に、ワイルドファイアは火竜の山でも誰かをみだりに殺したりはしていなかったな。
『そなたの仕事であろう。どれ、特別に望む戦場へ運んでやろう。希望を言え』
「おお、気前いいな。じゃあ……」
俺の脳裏に浮かぶのは、バルゴーンを折った勇者とやらの顔。
「魔剣デュランダルの使い手の元に連れて行ってくれ」
『心得た』
火竜の翼が空を打つ。
途端に、巨体は凄まじい加速を得た。
ここは遥かな天空。
俺たちが旅した世界は、この世界のごく一部でしか無いと知れる。
一瞬見えた、約束の地の彼方に聳える巨大な山々。大地を分かつ、海と見紛うほどの大河。見渡す限りの密林。絶海の孤島。
いつか、旅してみたいものだ。
そう思いながら、俺は火竜の加速に身を委ねた。
「なんだ……? 空が割れた……?」
勇者リョウガは、空を見上げていた。
今は、アルマース帝国に巣食う魔王の軍勢の中でも、火に属するモンスターたちとの戦いの最中である。
絶対魔剣デュランダルが唸りをあげ、巨大な亜竜の首を斬り飛ばす。
リョウガが経験したゲームに登場した竜に比べれば、幾分か強力な相手であった。
何より、個体によって能力が大きく異なる。
「なんだ、ありゃ?」
「何かのイベントじゃないのか?」
集まってくるのは、リョウガの仲間たちである。
ギルド”デスブリンガー”を構成するメンバーの一部。
誰もがレイアに召喚されたとき、特別な力を授かっている。
彼らの中では、本日はゲーム二日目。
召喚者である女神レイアからは、魔王と魔物、そして人々に圧政を強いる悪逆な宗教指導者たちを撃破するという指名を受けていた。
「うわー」
「とても叶わん」
「逃げろ逃げろ」
ドワーフたちが逃げていく。
「ははっ! ドワーフってマジで短足じゃねえか。足が遅えからすぐ追いつけるぜ! ほれほれ! 逃げろ逃げろ!」
「ひー」
逃げるドワーフを、槍を振り回しながら追い回す者が一人。
「ぬっ、させヌ!」
「うっせーよ! 雑魚モンスのリザードマンが舐めた口叩くんじゃねえ!」
「ぐうっ!」
槍が、ドワーフを守ろうと立ちふさがったリザードマンの腹を貫く。
分厚い鎧も、鱗も役には立たない。
全てを貫き通す最強の槍なのだ。
「うはは! マジスゲエー!! 俺の槍、何でもぶち抜いちまうぜ!! そぉら!!」
彼はリザードマンを持ち上げて、貫いたまま振り回し、地面に叩き付けた。
「ぐハッ……!」
「さーて、じゃあ次はドワーフを……って、おっと、小さいリザードマンもいるじゃねえか! これってレアキャラ? 経験値入るのか?」
「みゅッ」
戦場に迷い出てきたのだろうか。
明らかに年若いリザードマンは、槍を持った男の鬼気に当てられて立ち竦んだ。
「よっしゃ! レアキャラゲットー!!」
槍が幼いリザードマン目掛けて襲い掛かる。
「は、灰王さマッ……!」
ぎゅっと、その幼いリザードマン、マルマルが目をつぶった時だ。
凄まじい風が、周囲に吹き付けた。
「おい、ショウマ! 注意しろ、何か降って……」
リョウガの声が聞こえたと思った。
ショウマと呼ばれた槍の使い手は、一瞬頭上で、光が翳ったように思う。
「あ?」
疑問を感じて見上げたそれが、彼の見た最後の光景だった。
振り下ろされる虹色の刃。
頭頂から入り、股間へと抜ける。
行き掛けの駄賃とばかりに、最強の槍が縦に真っ二つ。
「やはり、デュランダルと同じ構造か。据え物斬りならこんなものだろうな」
「はっ、灰王様ッ! 灰王様ーッ!」
小さいリザードマン、マルマルが、降り立った男にしがみついた。
「おう、マルマル! 危ないところだったな。戦場に出てきたらだめだぞ」
「うン。でモ、あいつら、遊牧民の人たちを人質に……」
「そうか、許せんな」
男は振り返る。
それを見て、勇者リョウガは全身に震えが起こるのを感じた。
何故だ。
あの男は、女神レイアが別の世界へ飛ばしてしまったはずだ。
それが、今ここにいる。
確かにへし折ったはずの、そして自分の足を切断した、あの虹色の剣を手にして。
「おい、勇者とやら」
男はリョウガの様子に委細構わず、言葉を紡ぐ。
「俺の女はどこだ。あいつらを出せ」
灰色の剣士にして、灰王。魔剣士ユーマの反撃が始まる。
巨大な火竜は、空にその巨体を浮かべて笑った。
現実世界の夜空は、この巨竜が砕いてしまっていた。欠けた空間の向こうには、すっかり日が暮れたこの時間には不釣合いな、青空が広がっている。
あちら側とこちら側での時差であろう。
道行く人々は、誰もが足を止め、ぽかんと口を開いて空を見上げている。
誰もこれを無視する事は出来ない。
視界に入れないなどと言う事が出来ようはずもない。
暗闇の中、青空の輝きを背に受けて、赤く照り返す鱗の巨大な怪物が浮かんでいるのだ。
それは、口を開いてはいなくても、この場にいる全ての人間の耳に届く言葉を発している。
『約定によって、そなたの願いを叶えにやって来た。灰色の剣士ユーマよ、我に願うことは何か』
全長百メートル余り。
翼長に至っては、二百メートルに達するだろう。
これだけでかいものが突然出現したら、きっと自衛隊や米軍のレーダーに引っ掛かっているのだろうなあ、と俺は思う。
「そっちの世界に戻りたい。連れて行ってくれ」
『なんだ。随分と慎ましやかな願いなのだな』
火竜は拍子抜けしたようである。
『我の力を使い、この地を焦土に変えてそなたが君臨する事も可能なのだぞ。ただ一度の願いなのだ。有効に使うが良かろう』
「いや、そういうのいいから。戻るだけでいいから」
『そうか』
ワイルドファイアはフム、と鼻を鳴らした。
鼻息が炎になり、空気を焼き焦がす。
一瞬、まるで周囲が昼間になったかのように照らされた。
これを見て、人々はへなへなと崩れ落ちる。
本当に恐ろしいものを目の前にした時、弱いものは逃げると言う選択肢すら思い浮かばなくなるのだ。
この場にいる、俺以外の全ての人間は死を覚悟したに違いない。
「おい、アリエルまでへたり込んでどうするんだ」
「い、いやあ、だって! あれですよ!? あの火竜がこんな目の前にいるんですよ!? 腰を抜かさない方がおかしいですから!」
「仕方ないなあ……。よっこら」
「ひゃっ」
アリエルをおんぶした。
ふと横を見ると、もう一人だけ、腰を抜かしてない奴がいた。
目をキラキラさせているアルフォンスである。
あれはきっと、「うわー、本当のドラゴンだー」なんて思っているに違いない。
『では乗るが良い』
ワイルドファイアの尻尾が目の前まで垂れてきた。
俺はこいつを駆け上っていく。
鱗や背びれの段々があるから、案外登りやすいぞ。
背中の上に到達した辺りで、火竜は翼を大きく開いた。
『行くぞ。掴まっているがよい』
これは、物凄い風が下に向かって吹くのではないかと俺は思った。
だが、こいつはそれなりに気を使ってくれたらしい。
何やら魔法の力らしきもので、ふわりと火竜の巨体が上空へと舞い上がる。
そこに来て初めて、ワイルドファイアは一度、大きく羽ばたいた。
強烈な風が巻き起こる。
台風とまではいかないが、春一番程度の強さではあったのだろう。
下方に伺える繁華街で、看板が倒れ、チラシやらポスターが剥がれて舞う。
『ふむ? この世界の鳥が近づいてくるようだな』
火竜はどこかに気を取られたようだ。
見つめる先、何やら編隊を組んで飛んでくる。
おお、こいつは戦闘機じゃないのか。
数キロ先なのだろうが、俺にも良く見える。これはワイルドファイアの魔力の影響を受けているのだろうか。
『何か小さいのを出してきたな。どーれ』
それってミサイルじゃないか?
戦闘機が放ったミサイルが、ワイルドファイア目掛けて飛来してくる。
火竜は結構な熱量を常に放っている存在である。
今は、俺とアリエルが乗っかっている背中を冷やしてくれているが、それ以外は戦闘機のアフターバーナーもかくやという熱を放出している。
そこに、ミサイルが飛来し、
『ふむ』
爆発する前に、ワイルドファイアの前で粉々に砕け散った。
これはあれだ、この火竜が次元を斬り裂くようなノリで、ミサイルをぶん殴ったのだろう。
信管が反応するよりも遥かに速いから、爆発するまえに砕け散る。
さらに飛来してきたミサイルを、こいつ、真横にスッと動いて避けた。
旋回半径がどうこうという次元ではない。
一切のGや空気抵抗を無視して、縦横無尽に動けるようなのだ。
こいつ、空を飛ぶとさらに化け物になるのな。
『小うるさい鳥めを叩き落してから行くとするか』
奴が口蓋を展開した。
ビームを吐くつもりだろう。
「ストップストップ。被害が半端じゃないから、スルーしてくれ」
『なんと……。そなたは存外に穏健主義なのだな』
火竜の口がピッタリと閉じた。
翼が空気を打つ。
巨体が一気に、遥かな上空へ舞い上がった。
いや、そこから上は、現実世界の空ではない。
砕けた空間の壁を飛び越えて、あの世界、リュカがいる世界へと飛び込んだのだ。
何だか、物凄い空気抵抗があったような気がするが……。
戦闘機も近くまでやってきて、割れた空の近くをうろうろしてから飛び去っていった。
「あれは自然に塞がるものなのか」
『我が砕いたのだ。そう容易く塞がるはずが無かろう。しかし案ずるな。百年も経てば安定しよう』
塞がるんじゃなくて安定するのか。
今は考えない事にしておこう。
ワイルドファイアを現実世界で暴れさせず、こちらに連れて来られただけでよしとせねばな。
よく、ファンタジー世界の生物が現実に来て、現代兵器で仕留める話なんかがあるが、このワイルドファイアクラスになると、まだ現代兵器では全く歯が立たんな。
それこそSF世界のレベルに足を突っ込まないと……。
「ワイルドファイア。世界は今どうなってる? 俺がいなくなってから二日くらい経ってると思うが」
『レイアめが復活したぞ。彼奴は己の軍勢を作り出し、世界へ攻め寄せているな。我が巫女が彼奴の下僕になっているのが大層面白くない』
「そ、その、あなたは手出ししないんですか?」
恐る恐る、と言った感じでアリエルが尋ねる。
火竜は鼻息を吹いた。
『我ら四竜と精霊王が戦えば、天地は無事では澄むまい。人も獣も、鳥も魚も、虫も草木も、七度滅ぶほどの災厄となるぞ』
「あっ、力が強大すぎて世界がやばくなるのか」
了解した。
この火竜とて、世界を滅ぼしたいと言うわけでは無いのだ。
そう言えば、恐れられている割に、ワイルドファイアは火竜の山でも誰かをみだりに殺したりはしていなかったな。
『そなたの仕事であろう。どれ、特別に望む戦場へ運んでやろう。希望を言え』
「おお、気前いいな。じゃあ……」
俺の脳裏に浮かぶのは、バルゴーンを折った勇者とやらの顔。
「魔剣デュランダルの使い手の元に連れて行ってくれ」
『心得た』
火竜の翼が空を打つ。
途端に、巨体は凄まじい加速を得た。
ここは遥かな天空。
俺たちが旅した世界は、この世界のごく一部でしか無いと知れる。
一瞬見えた、約束の地の彼方に聳える巨大な山々。大地を分かつ、海と見紛うほどの大河。見渡す限りの密林。絶海の孤島。
いつか、旅してみたいものだ。
そう思いながら、俺は火竜の加速に身を委ねた。
「なんだ……? 空が割れた……?」
勇者リョウガは、空を見上げていた。
今は、アルマース帝国に巣食う魔王の軍勢の中でも、火に属するモンスターたちとの戦いの最中である。
絶対魔剣デュランダルが唸りをあげ、巨大な亜竜の首を斬り飛ばす。
リョウガが経験したゲームに登場した竜に比べれば、幾分か強力な相手であった。
何より、個体によって能力が大きく異なる。
「なんだ、ありゃ?」
「何かのイベントじゃないのか?」
集まってくるのは、リョウガの仲間たちである。
ギルド”デスブリンガー”を構成するメンバーの一部。
誰もがレイアに召喚されたとき、特別な力を授かっている。
彼らの中では、本日はゲーム二日目。
召喚者である女神レイアからは、魔王と魔物、そして人々に圧政を強いる悪逆な宗教指導者たちを撃破するという指名を受けていた。
「うわー」
「とても叶わん」
「逃げろ逃げろ」
ドワーフたちが逃げていく。
「ははっ! ドワーフってマジで短足じゃねえか。足が遅えからすぐ追いつけるぜ! ほれほれ! 逃げろ逃げろ!」
「ひー」
逃げるドワーフを、槍を振り回しながら追い回す者が一人。
「ぬっ、させヌ!」
「うっせーよ! 雑魚モンスのリザードマンが舐めた口叩くんじゃねえ!」
「ぐうっ!」
槍が、ドワーフを守ろうと立ちふさがったリザードマンの腹を貫く。
分厚い鎧も、鱗も役には立たない。
全てを貫き通す最強の槍なのだ。
「うはは! マジスゲエー!! 俺の槍、何でもぶち抜いちまうぜ!! そぉら!!」
彼はリザードマンを持ち上げて、貫いたまま振り回し、地面に叩き付けた。
「ぐハッ……!」
「さーて、じゃあ次はドワーフを……って、おっと、小さいリザードマンもいるじゃねえか! これってレアキャラ? 経験値入るのか?」
「みゅッ」
戦場に迷い出てきたのだろうか。
明らかに年若いリザードマンは、槍を持った男の鬼気に当てられて立ち竦んだ。
「よっしゃ! レアキャラゲットー!!」
槍が幼いリザードマン目掛けて襲い掛かる。
「は、灰王さマッ……!」
ぎゅっと、その幼いリザードマン、マルマルが目をつぶった時だ。
凄まじい風が、周囲に吹き付けた。
「おい、ショウマ! 注意しろ、何か降って……」
リョウガの声が聞こえたと思った。
ショウマと呼ばれた槍の使い手は、一瞬頭上で、光が翳ったように思う。
「あ?」
疑問を感じて見上げたそれが、彼の見た最後の光景だった。
振り下ろされる虹色の刃。
頭頂から入り、股間へと抜ける。
行き掛けの駄賃とばかりに、最強の槍が縦に真っ二つ。
「やはり、デュランダルと同じ構造か。据え物斬りならこんなものだろうな」
「はっ、灰王様ッ! 灰王様ーッ!」
小さいリザードマン、マルマルが、降り立った男にしがみついた。
「おう、マルマル! 危ないところだったな。戦場に出てきたらだめだぞ」
「うン。でモ、あいつら、遊牧民の人たちを人質に……」
「そうか、許せんな」
男は振り返る。
それを見て、勇者リョウガは全身に震えが起こるのを感じた。
何故だ。
あの男は、女神レイアが別の世界へ飛ばしてしまったはずだ。
それが、今ここにいる。
確かにへし折ったはずの、そして自分の足を切断した、あの虹色の剣を手にして。
「おい、勇者とやら」
男はリョウガの様子に委細構わず、言葉を紡ぐ。
「俺の女はどこだ。あいつらを出せ」
灰色の剣士にして、灰王。魔剣士ユーマの反撃が始まる。
1
お気に入りに追加
936
あなたにおすすめの小説

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~
いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。
他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。
「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。
しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。
1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化!
自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働!
「転移者が世界を良くする?」
「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」
追放された少年の第2の人生が、始まる――!
※本作品は他サイト様でも掲載中です。

学校ごと異世界に召喚された俺、拾ったスキルが強すぎたので無双します
名無し
ファンタジー
毎日のようにいじめを受けていた主人公の如月優斗は、ある日自分の学校が異世界へ転移したことを知る。召喚主によれば、生徒たちの中から救世主を探しているそうで、スマホを通してスキルをタダで配るのだという。それがきっかけで神スキルを得た如月は、あっという間に最強の男へと進化していく。

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。
sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。
目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。
「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」
これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。
なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

俺は善人にはなれない
気衒い
ファンタジー
とある過去を持つ青年が異世界へ。しかし、神様が転生させてくれた訳でも誰かが王城に召喚した訳でもない。気が付いたら、森の中にいたという状況だった。その後、青年は優秀なステータスと珍しい固有スキルを武器に異世界を渡り歩いていく。そして、道中で沢山の者と出会い、様々な経験をした青年の周りにはいつしか多くの仲間達が集っていた。これはそんな青年が異世界で誰も成し得なかった偉業を達成する物語。

日本列島、時震により転移す!
黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

おじさんが異世界転移してしまった。
明かりの元
ファンタジー
ひょんな事からゲーム異世界に転移してしまったおじさん、はたして、無事に帰還できるのだろうか?
モンスターが蔓延る異世界で、様々な出会いと別れを経験し、おじさんはまた一つ、歳を重ねる。

タブレット片手に異世界転移!〜元社畜、ダウンロード→インストールでチート強化しつつ温泉巡り始めます〜
夢・風魔
ファンタジー
一か月の平均残業時間130時間。残業代ゼロ。そんなブラック企業で働いていた葉月悠斗は、巨漢上司が眩暈を起こし倒れた所に居たため圧死した。
不真面目な天使のせいでデスルーラを繰り返すハメになった彼は、輪廻の女神によって1001回目にようやくまともな異世界転移を果たす。
その際、便利アイテムとしてタブレットを貰った。検索機能、収納機能を持ったタブレットで『ダウンロード』『インストール』で徐々に強化されていく悠斗。
彼を「勇者殿」と呼び慕うどうみても美少女な男装エルフと共に、彼は社畜時代に夢見た「温泉巡り」を異世界ですることにした。
異世界の温泉事情もあり、温泉地でいろいろな事件に巻き込まれつつも、彼は社畜時代には無かったポジティブ思考で事件を解決していく!?
*小説家になろうでも公開しております。

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる