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東征の魔剣士編
熟練度カンストの祭り人3
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大歓声の中、俺の部分は終了である。
これって、勝ち抜きとかあるのか?
「うむ、今審査をしているぞ。見てみよ」
ローザが、向こうで緑竜と各種族の長っぽい連中が角を突き合わせているのを指し示す。
なるなる。
演奏の合間に、緑竜がああやって長たちと審査しているのだな。
「ユーマは満場一致で勝ち抜けだがな」
「はっちゃけたからな」
我ながら、あんなにリズムに乗って動き回ったのは初めてではあるまいか。
子供の頃には、ゲーセンで遊ぶダンスゲームがあったが、結局見ているばかりでシャイだった俺は遊ぶことも無かったな。
まさかこんなところで、リズムゲームめいた事をするとは思いもしなかった。
「おう、それじゃあ次は俺だな! あんたもすげえが、俺もすげえぞ。見てろよ」
チャンピオンのオーガが出ていった。
相手は、俺に声をかけてきたアンドロスコルピオである。
スコルピオは、両手とハサミにも棒を構えている。
四刀流か。
対するオーガは二刀流だが、腰に予備の棒を何本も突き刺している。
あれを叩かれて、まとめて折られたら悲惨だなあ。
「そぉら、行くぜい!」
伴奏が始まった。
アンドロスコルピオは足の数が多いから、ステップも独特である。
シャカシャカ動き回って、オーガの周囲を回ろうとする。
オーガは同時に、力強く大地を踏みしめながら、アンドロスコルピオに正面を向け続ける。
「さあっ、さあさあ、行くぜ行くぜ!」
挑発しながら、ダンダンと床を踏みしめるオーガ。
「あやつも厳つい鎧が映えそうな体をしているな」
「ローザの視点おかしいぞ」
観戦モードの俺たち。
すると何やら、みんなに食べ物を配っているらしい髭の小人がやって来た。
なんだろう。ノームは土の精霊だし……妖精……?
差し出された蒸しパンみたいなのを受け取り、ローザと二人で齧りながら観戦する。
おっ、この蒸しパン甘くて美味しいな。
「うむ……辛い酒が欲しくなるな」
「あっ、ローザいける口なのか」
とか俺たちが雑談していると、立て続けに甲高い反響音が響き渡る。
思わず目線を向けた。
オーガが舞い踊る、世にも珍しい光景がそこには広がっている。
アンドロスコルピオも、激しく棒を突き出して攻撃してくるのだが、これをオーガは棒で持って弾く、弾く、そこで砕け散る棒が音を立て、すかさずオーガは腰に刺した棒を抜いて叩きつける。
反響が消えない間に、砕ける音が響き渡り……これはなかなか面白いではないか。
あらかじめ装備して……なるほど、なるほど。
「ユーマ、貴様、何か学んでいるな……?」
「いや、世の中勉強になる事だらけだよ」
万が一にも、バルゴーン一本じゃやってられなくなる可能性があるからな。
隠し玉を用意しておくに越したことはない。
オーガが動く度に、俺は奴の動きをトレースしてみる。
これは、通常の生身ならば動きを阻害するだけだな。だが、武器をホールドできる箇所が多数用意できる鎧を装備できれば……。
「ふむ……貴様はその虹の剣一本で十分であろうとは思うが。何を、そこまで戦うために備え続ける必要があるのだ……?」
「さあなあ。本能みたいなもんかもしれんな」
結局、勝利したのはオーガである。
スコルピオのハサミを踏み台にして、頭上からの連続棒アタックはなかなかの見物だった。
勝つだけならば大した難易度でも無いだろう。
だが、これはもっと勝利条件が複雑なのだ。致命的な効果が無い武器を使い、どれだけ打ち合ってもダメージにはなり辛い。
で、なので、この勝負の決着方法は、どれだけ効果的に武器を相手に当て、どれだけ美しい音を立てて砕くかなのだ。
そのためならば、どんなやり方をしても問題は無い。
「よし、なら、貴様の鎧、この場でアレンジしてやろう」
ローザは俺の考えを聞くと、実に楽しげに笑った。
手をのばすと、彼女の手が触れた鎧が変形していく。
一見すると歪な、とても実用的とは言えない形状である。
ほうほう、なるほど、なるほど……。
「存分に試すがいい」
「感謝感謝だ」
出番がやって来る。
俺はありったけの棒を装備して、舞台へと向かう。
で、結論だ。
俺は決勝? それにあたるところまで勝った。勝って勝って勝ちまくりである。
……組み合わせに恣意的な者を感じる。
明らかに対戦相手が徐々に強くなっていって、そして決勝であたる相手がだ。
「よう! 実にドラマチックじゃねえか! 俺とあんたで決勝とはな!」
緑竜がドヤ顔をしているぞ。
奴め、仕組んだな。
いや、練習する機会を多く得られたのだから、こちらとしては感謝するばかりだ。
そして最後は、俺のスタイルの発想元であるこの男との戦い、と。
「名乗っておくぜ。人間の世界では、決闘ってのをする奴はそうするんだろ?」
「おっ、そういうところもあるだろうな」
「ギューンだ」
「戦士ユーマだ」
互いに名乗りあった直後、音楽が始まった。
俺はトントンと軽いステップ。
ギューンはダンダンと地面を踏みしめるステップ。
互いに間合いを取りながら、ゆっくりと舞台を回る。
これは攻撃する隙を伺っているのではない。
いつもの俺だったら、伴奏で流ている音楽を無視して間合いを詰める。
初見で相手のペースを崩して一挙に片付けるのがスタイルだからだ。
だが、この戦闘……いや、イベントは違う。
こいつは、その場の空気やノリ、盛り上がりってのが重視されるのだろう。
周囲を取り巻く妖精たちが、期待に満ちた目で見つめつつ歓声をあげている。
「それじゃあ、そろそろ」
「やるか」
俺とギューンが選んだタイミングは一緒だったらしい。
一際大きく打楽器が打ち鳴らされた瞬間だ。
互いに地面を蹴って走る。
オーガであるギューンとの体格差はかなりのものだ。
だが、俺はこの無駄に張り出した肩アーマーに、無駄に翻るマントがある。
実体以上に嵩張る装備なのだ。
さらに、そこには無数に棒を装備しているので、全身から棘や角を生やしたような姿である。
なんというか実に悪の幹部っぽい。
「おぉぉらっ!」
「おうよ!」
ギューンが振り下ろした棒を、俺も棒で受け止める。
均等な衝撃が加わり、双方の棒が甲高い音を立てて砕け散った。
すぐさま、俺は肩に設置した棒キャリアーから棒を引っこ抜く。
ギューンも腰から棒を補充したようだ。
また、激しく打ち合う。
今度は互いのノリが分かってきたから、棒と棒をぶつけ合い、砕いた次の瞬間からまた次弾を装填。
俺はギューンの脇腹を目掛け。
奴は俺の方を目掛けて叩き込む。
おおっ、そっちの肩はやばい! まだ使ってない棒が差してあるのだ!
ギリギリ回避が間に合わず、見事に肩の棒を砕かれてしまった。
だが、俺もやつの腹に巻きつけてあった棒を粉砕しておく。
複雑な音が絡み合う、共鳴が飛び交う地下の空間。
『おお……これは楽しい……。素晴らしい音です……!』
緑竜が喜ぶ声が聴こえる。
まだまだ。
目の前で、ギューンが笑う。
こいつは、間違いなくこの祭りのエキスパートだ。
だが、同時にこの腕、戦場で活かせばかなりの戦士になるのではないだろうか。
そんな事を思う。
「そろそろかね」
「音楽の終わりか」
この祭りには、制限時間がある。
今までは、割りと短期決戦で棒が砕けて来たから、それは明らかになっていなかった。
演奏には終わりがあるのだ。
それが、このやり取りのタイムリミット。
「スパート、かけるぜ! 付いてこれるか!!」
「おう、俺もギアを上げていこう……!」
ギューンが複数の棒を手指に挟み込み、複雑な動きで叩き込んでくる。
俺はそれらに向かって、次々に抜き放つ棒で迎撃しつつ、片腕で鎧に設置した棒をさらに抜きながら、頭上へと投げる。
「うおっ、何をっ!?」
ギューンは驚きながらも、攻撃の手を緩めない。
そこへ向かって、降り注いでくるのは俺が投擲した棒である。
「行くぞ」
俺は片腕側にある棒を一挙にギューン目掛けて放った。
同時に、もう片腕は上空から落ちてくる棒をキャッチ……すぐさまギューン目掛けて打ち込む。
二連続の攻撃に、ギューンは慌てて防御に入った。
「うおおっ!? この状況で手数で……なんだとぉ!?」
このオーガが目を剥いたのには理由がある。
それは、叩きつけて砕けた棒の後に、既に俺の手には新たな棒が握られている。
振り上げ、叩きつけ、振り切った後の手にはまた棒。
それを叩きつける。
落下してくる棒を次々に足で受け止めて、また上空へ蹴り上げつつ、片腕で受け止めて、放り投げつつ、ジャグリングしながらの連打、連打、連打。
「ぬうおおおおおおおおっ!?」
これについてくるギューンもすげえ。
だが、俺のほうがもっと凄いのだ。
落下してくる棒を受け止め、打ち上げていた足が、動きを変える。
棒をギューン目掛けて蹴りつける動作を行っているのだ。
つまり、手数がさらに倍になる。
弾数がものすごい速度で減っていくが、そんなもん、ゼロになるまえにやり切ってしまえばよろしい。
「おおおおおっ!! むっ、むむむ無理だろこれええええ!!」
ギューンは一声叫んだ。
もう、奴の手に棒は無い。
弾数の違いが勝敗を分けたな……!
全ての棒が連鎖して砕け散る、結晶音が空間を包み込んでいく……!
すぐに、満面の笑みを浮かべた緑竜が勝者の名を告げた。
『祭りの勝者……! 祝祭は、灰色の王ユーマを祝福します……!』
「やったぞ!!」
視界の端でガッツポーズ決めてるローザが妙に可愛い。
「私の鎧の力を見たか! ああ、ユーマもかなり凄かったがな」
へえへえ、そりゃあありがとうございます。
そして、祭りの参加者たちがわーっと集まってきた。
「うわっ、なんだなんだ」
「そりゃあ、あんた決まってるだろうが!」
「勝者を胴上げするんだよ!」
「うおー! 灰色の王! すげえぜー!」
「想像以上にやるねえ!」
「参ったど! ビギナーズラックとか言う次元でないど!」
「ぐわーっ、お前ら手荒に胴上げやめろー」
俺、初胴上げかもしれん。
ケラミスの鎧でフル装備、例え軽量級の素材で作られた鎧でも、これだけの装備ならかなり重いはずなのに、軽々と宙を舞う俺。
何度もやられている内に、段々気分が良くなってきたぞ。
「よ、よーし! お前ら、黙って俺についてこい……!」
「黙ってってのは無理だけどなあ!」
「だけど、あんたならついていってもいいね!」
「この男……実は人たらしなのかも知れんな……」
妙に楽しそうなローザの声が印象的なのであった。
これって、勝ち抜きとかあるのか?
「うむ、今審査をしているぞ。見てみよ」
ローザが、向こうで緑竜と各種族の長っぽい連中が角を突き合わせているのを指し示す。
なるなる。
演奏の合間に、緑竜がああやって長たちと審査しているのだな。
「ユーマは満場一致で勝ち抜けだがな」
「はっちゃけたからな」
我ながら、あんなにリズムに乗って動き回ったのは初めてではあるまいか。
子供の頃には、ゲーセンで遊ぶダンスゲームがあったが、結局見ているばかりでシャイだった俺は遊ぶことも無かったな。
まさかこんなところで、リズムゲームめいた事をするとは思いもしなかった。
「おう、それじゃあ次は俺だな! あんたもすげえが、俺もすげえぞ。見てろよ」
チャンピオンのオーガが出ていった。
相手は、俺に声をかけてきたアンドロスコルピオである。
スコルピオは、両手とハサミにも棒を構えている。
四刀流か。
対するオーガは二刀流だが、腰に予備の棒を何本も突き刺している。
あれを叩かれて、まとめて折られたら悲惨だなあ。
「そぉら、行くぜい!」
伴奏が始まった。
アンドロスコルピオは足の数が多いから、ステップも独特である。
シャカシャカ動き回って、オーガの周囲を回ろうとする。
オーガは同時に、力強く大地を踏みしめながら、アンドロスコルピオに正面を向け続ける。
「さあっ、さあさあ、行くぜ行くぜ!」
挑発しながら、ダンダンと床を踏みしめるオーガ。
「あやつも厳つい鎧が映えそうな体をしているな」
「ローザの視点おかしいぞ」
観戦モードの俺たち。
すると何やら、みんなに食べ物を配っているらしい髭の小人がやって来た。
なんだろう。ノームは土の精霊だし……妖精……?
差し出された蒸しパンみたいなのを受け取り、ローザと二人で齧りながら観戦する。
おっ、この蒸しパン甘くて美味しいな。
「うむ……辛い酒が欲しくなるな」
「あっ、ローザいける口なのか」
とか俺たちが雑談していると、立て続けに甲高い反響音が響き渡る。
思わず目線を向けた。
オーガが舞い踊る、世にも珍しい光景がそこには広がっている。
アンドロスコルピオも、激しく棒を突き出して攻撃してくるのだが、これをオーガは棒で持って弾く、弾く、そこで砕け散る棒が音を立て、すかさずオーガは腰に刺した棒を抜いて叩きつける。
反響が消えない間に、砕ける音が響き渡り……これはなかなか面白いではないか。
あらかじめ装備して……なるほど、なるほど。
「ユーマ、貴様、何か学んでいるな……?」
「いや、世の中勉強になる事だらけだよ」
万が一にも、バルゴーン一本じゃやってられなくなる可能性があるからな。
隠し玉を用意しておくに越したことはない。
オーガが動く度に、俺は奴の動きをトレースしてみる。
これは、通常の生身ならば動きを阻害するだけだな。だが、武器をホールドできる箇所が多数用意できる鎧を装備できれば……。
「ふむ……貴様はその虹の剣一本で十分であろうとは思うが。何を、そこまで戦うために備え続ける必要があるのだ……?」
「さあなあ。本能みたいなもんかもしれんな」
結局、勝利したのはオーガである。
スコルピオのハサミを踏み台にして、頭上からの連続棒アタックはなかなかの見物だった。
勝つだけならば大した難易度でも無いだろう。
だが、これはもっと勝利条件が複雑なのだ。致命的な効果が無い武器を使い、どれだけ打ち合ってもダメージにはなり辛い。
で、なので、この勝負の決着方法は、どれだけ効果的に武器を相手に当て、どれだけ美しい音を立てて砕くかなのだ。
そのためならば、どんなやり方をしても問題は無い。
「よし、なら、貴様の鎧、この場でアレンジしてやろう」
ローザは俺の考えを聞くと、実に楽しげに笑った。
手をのばすと、彼女の手が触れた鎧が変形していく。
一見すると歪な、とても実用的とは言えない形状である。
ほうほう、なるほど、なるほど……。
「存分に試すがいい」
「感謝感謝だ」
出番がやって来る。
俺はありったけの棒を装備して、舞台へと向かう。
で、結論だ。
俺は決勝? それにあたるところまで勝った。勝って勝って勝ちまくりである。
……組み合わせに恣意的な者を感じる。
明らかに対戦相手が徐々に強くなっていって、そして決勝であたる相手がだ。
「よう! 実にドラマチックじゃねえか! 俺とあんたで決勝とはな!」
緑竜がドヤ顔をしているぞ。
奴め、仕組んだな。
いや、練習する機会を多く得られたのだから、こちらとしては感謝するばかりだ。
そして最後は、俺のスタイルの発想元であるこの男との戦い、と。
「名乗っておくぜ。人間の世界では、決闘ってのをする奴はそうするんだろ?」
「おっ、そういうところもあるだろうな」
「ギューンだ」
「戦士ユーマだ」
互いに名乗りあった直後、音楽が始まった。
俺はトントンと軽いステップ。
ギューンはダンダンと地面を踏みしめるステップ。
互いに間合いを取りながら、ゆっくりと舞台を回る。
これは攻撃する隙を伺っているのではない。
いつもの俺だったら、伴奏で流ている音楽を無視して間合いを詰める。
初見で相手のペースを崩して一挙に片付けるのがスタイルだからだ。
だが、この戦闘……いや、イベントは違う。
こいつは、その場の空気やノリ、盛り上がりってのが重視されるのだろう。
周囲を取り巻く妖精たちが、期待に満ちた目で見つめつつ歓声をあげている。
「それじゃあ、そろそろ」
「やるか」
俺とギューンが選んだタイミングは一緒だったらしい。
一際大きく打楽器が打ち鳴らされた瞬間だ。
互いに地面を蹴って走る。
オーガであるギューンとの体格差はかなりのものだ。
だが、俺はこの無駄に張り出した肩アーマーに、無駄に翻るマントがある。
実体以上に嵩張る装備なのだ。
さらに、そこには無数に棒を装備しているので、全身から棘や角を生やしたような姿である。
なんというか実に悪の幹部っぽい。
「おぉぉらっ!」
「おうよ!」
ギューンが振り下ろした棒を、俺も棒で受け止める。
均等な衝撃が加わり、双方の棒が甲高い音を立てて砕け散った。
すぐさま、俺は肩に設置した棒キャリアーから棒を引っこ抜く。
ギューンも腰から棒を補充したようだ。
また、激しく打ち合う。
今度は互いのノリが分かってきたから、棒と棒をぶつけ合い、砕いた次の瞬間からまた次弾を装填。
俺はギューンの脇腹を目掛け。
奴は俺の方を目掛けて叩き込む。
おおっ、そっちの肩はやばい! まだ使ってない棒が差してあるのだ!
ギリギリ回避が間に合わず、見事に肩の棒を砕かれてしまった。
だが、俺もやつの腹に巻きつけてあった棒を粉砕しておく。
複雑な音が絡み合う、共鳴が飛び交う地下の空間。
『おお……これは楽しい……。素晴らしい音です……!』
緑竜が喜ぶ声が聴こえる。
まだまだ。
目の前で、ギューンが笑う。
こいつは、間違いなくこの祭りのエキスパートだ。
だが、同時にこの腕、戦場で活かせばかなりの戦士になるのではないだろうか。
そんな事を思う。
「そろそろかね」
「音楽の終わりか」
この祭りには、制限時間がある。
今までは、割りと短期決戦で棒が砕けて来たから、それは明らかになっていなかった。
演奏には終わりがあるのだ。
それが、このやり取りのタイムリミット。
「スパート、かけるぜ! 付いてこれるか!!」
「おう、俺もギアを上げていこう……!」
ギューンが複数の棒を手指に挟み込み、複雑な動きで叩き込んでくる。
俺はそれらに向かって、次々に抜き放つ棒で迎撃しつつ、片腕で鎧に設置した棒をさらに抜きながら、頭上へと投げる。
「うおっ、何をっ!?」
ギューンは驚きながらも、攻撃の手を緩めない。
そこへ向かって、降り注いでくるのは俺が投擲した棒である。
「行くぞ」
俺は片腕側にある棒を一挙にギューン目掛けて放った。
同時に、もう片腕は上空から落ちてくる棒をキャッチ……すぐさまギューン目掛けて打ち込む。
二連続の攻撃に、ギューンは慌てて防御に入った。
「うおおっ!? この状況で手数で……なんだとぉ!?」
このオーガが目を剥いたのには理由がある。
それは、叩きつけて砕けた棒の後に、既に俺の手には新たな棒が握られている。
振り上げ、叩きつけ、振り切った後の手にはまた棒。
それを叩きつける。
落下してくる棒を次々に足で受け止めて、また上空へ蹴り上げつつ、片腕で受け止めて、放り投げつつ、ジャグリングしながらの連打、連打、連打。
「ぬうおおおおおおおおっ!?」
これについてくるギューンもすげえ。
だが、俺のほうがもっと凄いのだ。
落下してくる棒を受け止め、打ち上げていた足が、動きを変える。
棒をギューン目掛けて蹴りつける動作を行っているのだ。
つまり、手数がさらに倍になる。
弾数がものすごい速度で減っていくが、そんなもん、ゼロになるまえにやり切ってしまえばよろしい。
「おおおおおっ!! むっ、むむむ無理だろこれええええ!!」
ギューンは一声叫んだ。
もう、奴の手に棒は無い。
弾数の違いが勝敗を分けたな……!
全ての棒が連鎖して砕け散る、結晶音が空間を包み込んでいく……!
すぐに、満面の笑みを浮かべた緑竜が勝者の名を告げた。
『祭りの勝者……! 祝祭は、灰色の王ユーマを祝福します……!』
「やったぞ!!」
視界の端でガッツポーズ決めてるローザが妙に可愛い。
「私の鎧の力を見たか! ああ、ユーマもかなり凄かったがな」
へえへえ、そりゃあありがとうございます。
そして、祭りの参加者たちがわーっと集まってきた。
「うわっ、なんだなんだ」
「そりゃあ、あんた決まってるだろうが!」
「勝者を胴上げするんだよ!」
「うおー! 灰色の王! すげえぜー!」
「想像以上にやるねえ!」
「参ったど! ビギナーズラックとか言う次元でないど!」
「ぐわーっ、お前ら手荒に胴上げやめろー」
俺、初胴上げかもしれん。
ケラミスの鎧でフル装備、例え軽量級の素材で作られた鎧でも、これだけの装備ならかなり重いはずなのに、軽々と宙を舞う俺。
何度もやられている内に、段々気分が良くなってきたぞ。
「よ、よーし! お前ら、黙って俺についてこい……!」
「黙ってってのは無理だけどなあ!」
「だけど、あんたならついていってもいいね!」
「この男……実は人たらしなのかも知れんな……」
妙に楽しそうなローザの声が印象的なのであった。
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