熟練度カンストの魔剣使い~異世界を剣術スキルだけで一点突破する~

あけちともあき

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王国の反逆者編

熟練度カンストの解放者3

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 あまりアブラヒムを無視するのもアレなので、リュカとサマラが寝に帰った後でやつがいた所を覗きに行く。
 本当は、二人に一緒に寝ようと誘われて、そういうハーレム的な状況は大変ありがたかったのだが……。
 俺もほら、今はこの軍勢の責任者でもあるわけだし。
 水袋を片手に歩いていくと、見知った髭面の若い男がいた。

「よう、久しぶりじゃないか」

「いや、お邪魔をしてしまって済まないな。あなたも中々隅に置けないじゃないか。それに、顔立ちもかなり引き締まってきたな。余裕のようなものを感じる」

「俺は俺で一杯一杯だよ」

 談笑などしながら、互いに手近な樽やら木箱に腰掛ける。
 一見して、旧友と会ったような光景だ。
 こんな俺たちが、状況によっては敵対する仲であるとは、一目見ただけでは分かるまい。

「とんでもない事をしてくれた。まさか、あなたがこれ程の勢力を作り上げるとは。フランチェスコの言っていた事は杞憂などでは無かったのだな」

「あの立体映像の男か。お前ら、仲がいいのか?」

「仲がよければ、互いに別々の教えを作り上げて対立はしないさ。今日はあなたに伝えたい事があって来た」

「ほう」

「宣戦布告だ。明日の朝を持って、ザクサーン教はあなたの軍勢……我々は魔族軍と呼ぶが、これに敵対する。我々ばかりでもない。ディアマンテ、ネフリティスがこれに加わり、エルフェンバインへと加勢する」

「総戦力で来るわけだな。よし、どんと来い」

「余裕の表情だね」

 俺たちはごく友好的空気のまま、晴れて敵同士になった。
 だが別に残念とも思わない。
 この世界の主流となる考えは、俺に馴染まない。
 元から俺は、社会と反りが合わない人間ではあったのだ。
 それが、社会が排斥する側である、魔女……巫女に組みする事を決めた。
 そりゃあ世界と敵対することになっても当然だろう。
 だが、世界がこれまでのように人間のものであれば、俺vs世界だっただろう。
 今は、世界の半分が俺の味方だ。

「だが、援軍は間に合わんぞ」

 俺は告げる。

「半日であの城を落とす」

「冗談にしても笑えないな」

 そう言いながら、アブラヒムが笑った。

「確かに、半日でエルフェンバインが滅ぼされれば、我らは成す術も無い。だがそう簡単には行くまいよ」

 アブラヒムは立ち上がった。

「フランチェスコが直々に来るぞ。あなたを見逃した事は、あの男の最大の失敗だ」

「宗教のトップか。そいつが直々に来るって、組織としてどうだよ」

「最早、あなたも組織のトップになりつつあるだろう? 少なくとも、世界はそのような認識であなたを見つつある。そしてあなたを止められるものは、俺やフランチェスコのような管理官レベルでしか存在しない」

「そうかなあ……」

 火竜ワイルドファイアの事を連想する俺。
 だが、俺を高く買ってくれているようではある。
 俺の事が脅威に感じられれば、俺に対して敵戦力が投入される事だろう。
 その分だけ、うちの軍勢が動き易くなる。
 うーむ……。
 俺も辺境伯を助けに行きたいんだがな。

「さて、俺はもう行くとしよう。あなたと話せた事は良かった。世界の敵は、順調に育ちつつある事を確認できたよ。この場で襲撃しても、勝てる気がしない」

「おう、達者でな」

 そんな訳で、俺たちはにこやかに別れた。
 あと数時間も経てば、戦場で再会する事もあろう。



 夜明けと共に、戦いが始まった。
 うちの軍勢は、突破力に優れる亜竜とリザードマンを前面に押し出し、そのすぐ後ろで幹部会議である。
 即ち、俺。そしてリュカとサマラとアンブロシア、エルフのアリエルに、獣人の長、リザードマンリーダー、ゴメルとギヌルのゴブリン兄弟に、マーメイドの長。

「とりあえず、今目の前に見ているのはエルフェンバインの軍だけだが」

「楽勝だぞ王よ!」
「楽勝だぞ王よ!」

 おう、ゴメルとギヌルは今日も元気だな。

「まあ舐めないで最初から最大戦力で踏み潰そう。で、だ。伏兵が予想される」

「伏兵……? それはどうしてですか?」

 アリエルが首をかしげた。

「そうだねえ。まるであらかじめ知っていたようじゃないか」

「うむ。アンブロシアの言葉は正しい。昨日、援軍の親玉が挨拶に来たのでちょっとお喋りした」

「はあ!?」

 アンブロシア、唖然とする。
 俺はリュカとサマラを見て、

「アブラヒム……と言っても分からんかもしれないから、アキムだ。あいつ、ザクサーン教の親玉なんだよ」

「ええーっ!!」

「な、な、なんということ!! ……アキムって誰だったっけ」

 サマラはあまり接点多くなかったしなあ。覚えてないかあ。
 だが、リュカは大層ショックを受けたようである。
 この娘、仲が良かった相手に何かあると、ハートに来てしまうタイプだ。

「うう……なんかお腹痛くなってきた」

「リュカ様大丈夫ですか!?」

「うん、薬飲んでおくから続けて」

「うむ、ということで、アキム改めアブラヒムが恐らく、俺たちを奇襲してくる。後は昨日の敵にラグナ教徒もいただろう。本格的にラグナ教も参戦してくるぞ。恐らくあの軍の中に混じってる」

「いやあ……面倒な事になって来てますね……。大体、あちらは待ち受けている訳ですから、罠だってあるかも知れないじゃないですか?」

「罠は嵌まって踏み潰せばいい。そのための亜竜だ」

「うム。亜竜は姑息な罠などに負けなイ」

 リザードマンのリーダーが満足気に頷く。

「で、さっさと正面突破して、俺は辺境伯を助けに行く。リュカ、サマラ、アンブロシア。三人は今回、俺と一緒にいてくれ。色々頼むことがあると思う」

「はーい!」

「分かりました!」

「あいよ!」

「じゃあ、そろそろ行こうか」

 俺の宣言によって、戦いが始まる。
 まずは両軍、徐々に距離を詰めていく……等というセオリーは守らない。
 いきなりの全軍突撃である。
 亜竜の軍団が全速力で王城へ向かっていく。その後ろから追うのはリザードマン全員。
 これにはエルフェンバイン側も面食らったようだ。

「ユーマ、なんだか向こう、戦争のせおりーと違うーって言ってる」

「そりゃそうだろう。こちらは人間の軍じゃないんだ」

 エルフェンバインが王都の前に築いていた陣に、亜竜が踏み込んでいく。
 あちこちに落とし穴や塹壕があったようだ。
 顔を出した敵兵が弓を射てくる。
 だが、弓矢程度では亜竜の分厚い皮膚を抜く事は出来ない。
 だからこそ、亜竜対策にラグナ教の連中……執行者が出てくるだろう。
 ほら。
 塹壕から黒服の連中が顔を出した。
 幾つもの分体が出現し、ビームを放ち始める。
 流石に、ビームは亜竜にも通用する。
 脱落する固体が出始め、亜竜の陣営に穴が空く。
 そこから突撃するのがリザードマンだ。
 彼らは亜竜と比べると標的の大きさが小さい。
 そして機動力が高いため、低い体勢で分体のビームを回避しながら、塹壕に飛び込んで乱戦をおっ始める。

「よし、ゴメル、ギヌル、行け」

「おうさー!!」
「目にもの見せてやるぞ人間ども!!」

 乱戦となれば、ゴブリンは実に強い。
 背が低くてちょろちょろ動くから、ちょっとした隙間があれば入り込んで、そこから滅茶苦茶に暴れる。
 俺は指示を下しながら、周囲を見回した。
 前衛が待ちに徹してるから、まあ伏兵が横から来るだろうなと。
 来た。
 騎馬である。
 俺たちを前衛と、右翼左翼で包み込むように、左右の見晴らしが悪いところから騎馬軍団が出現した。
 馬術の試合にでも用いるようなランスを構えている。
 ああ、あれなら亜竜の皮膚をぶち抜いてダメージを与えられるな。

「ユーマ様、たくさんの騎士です! あちらにもみんなに行ってもらわないと!!」

「落ち着くのだサマラ。よく見てみろ。左右に軍を裂いた分、正面が明らかに薄いだろう。つまりここは」

 俺はリュカに伝えて、命令を下す。

「全軍突撃! 正面突破! 左右は無視!」

 塹壕を攻撃していたうちの軍勢は、すぐにそこから飛び出して正面に向かい始めた。
 ここから、リザードマンのブレスを解禁する。
 連中には、最近陥落させた町から集めた油を持たせてある。
 これを口に含ませて、ブレスを吐くのだ。
 すると、以前俺が亜竜から食らったような、簡単には消えない炎のシャワーが生まれる。
 リザードマンたちが塹壕に首を突っ込み、炎のシャワーを吐き散らす。
 この上を亜竜やゴブリン、獣人たちが飛び越えていく。
 機動力に優れる亜竜には、獣人の戦士がしがみついており、亜竜が敵正面の深部へ突っ込むと同時に分離した。
 傍目には、亜竜から突然獣人の戦士が生まれたように見えるだろう。
 慌てて、右翼と左翼から騎士たちが追いかけてくる。
 だが、ここで連中の足止めをするのは、奴らが掘った塹壕なのだ。
 と、ここで異変。

「ユーマ、大変。すっごく強い執行者と、聖堂騎士がいるって」

「分かった。じゃあそろそろ俺が出る」

「ほら、王様の出陣だよ! チェア君気張りな!」

 俺たちが乗っていたのは、巫女専用亜竜となっていたチェア君である。
 こいつ本当に乗り心地がいいな。
 彼はアンブロシアに発破をかけられると、ぽてぽてと走り出す。
 エルフェンバイン騎馬隊の背後からである。
 丸ごと、リュカの魔法で光学迷彩を作り出し、姿を隠していたのだ。
 突然背後から亜竜が出現し、騎士たちはパニックに陥った。

「サマラ、アンブロシア、ぶっ放せ!」

「もちろんです! サラマンダー!」

「あたしも行くよ! カリュプディス!!」

 精霊が集合した、水と炎の大精霊が出現し、騎士たちを蹂躙し始めた。
 こいつら、動きはさほど早くないのだが、とにかく見た目のインパクトがでかい。
 ちょっとした家屋サイズで触手が生えた生きている渦潮と、馬より大きな炎のオオトカゲである。
 で、この場は彼らに任せて俺たちはそそくさと先を目指す。
 チェア君は余り速くないので、リュカが風で後押しする。
 追い風を受けて、チェア君は実に気分良さそうに走っている。

「リュカ、道を開けさせてくれ」

「うん! ”みんな、道をあけて!”」

 風がリュカの言葉を拡大して伝える。
 戦場に響き渡った彼女の言葉を受けて、亜竜とリザードマン、ゴブリンと獣人の列が二つに割れる。

「じゃあ、行ってくる」

「二人とも任せたよ!」

「任されました!」

「ちゃんと辺境伯とやらを連れて来るんだよ!」

 戦場をサマラとアンブロシアにバトンタッチし、俺はリュカを引き連れて戦場の最前線へ。
 駆け抜けざま、目の前に居た聖堂騎士を一刀の元に叩き切った。

「で、出たな、灰色の剣士!」

「うむ。これからここを押し通る……!」

 俺は宣言した。
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