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王国の反逆者編

熟練度カンストの集合人

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 エルフェンバインの平原である。
 どこまでも続く広大な平原は、ぶすぶすと黒い煙を上げていた。
 正確には、先刻まで城塞都市であったが、今はもう平原である。

「壮観過ぎる」

 俺は呻いた。

「ユーマ様、準備しておきました!」

「早かったねユーマ。もう少しかかるんじゃないかと思ってたよ」

「ユーマ、みんなしっかり頑張ってくれたみたいだね!」

 火と、水と、風の巫女。
 そして、彼女たちに付き従う、各属性の妖精たち。
 人が見れば、妖精たちは化け物に見えることだろう。
 ドワーフ、リザードマン、ヴルカン、亜竜。
 火の妖精たちは焦土と化した道の中をやってくる。
 マーマン、マーメイド、ヴォジャノーイ、ケルピー。
 水の妖精たちは水を操って乗り物を作り、水無き大地をも闊歩する。
 そして、エルフ、ゴブリン、獣人。
 この混成部隊が、今、俺の目の前に集まった全てだった。
 俺が集めた、自らの手勢である。
 いや、もう手勢という数ではない。

「もう、軍だな」

「うん、ユーマは頑張った」

 てこてこと隣までやってきたリュカが、うーん、と背伸びをして俺の頭を撫でた。
 ははは、お褒めに預かり恐悦至極。

「なんと……。これほどの軍勢を短期間で作り上げるとは。ユーマ殿は一体、これだけの人脈……? を、どこで……?」

 戻ってきたオーベルト。
 彼の後ろには、見知った顔が幾つもある。
 エルフェンバイン中に散っていた、ヴァイデンフェラー辺境伯領の騎士や従者たちだろう。

「ここから離れて旅をしてる時に出来た縁もあってな」

 そんなことを話しているとだ。
 騎士や従者の中で一際大きい男が俺に気づき、声を張り上げた。

「おー! ユーマ殿久しぶりですなあ!」

「おおっ、ダミアンじゃないか」

 お互いに駆け寄って再会を喜ぶ。
 そもそも、辺境伯と絡む切っ掛けの一つとなった男だ。
 こいつが俺の腕前を見て、辺境伯に見せる必要があると判断したからこそ、今の状況がある。
 お陰で辺境伯を助け出す算段も立てられるというものである。

「むむっ、ユーマ殿、姿勢が良くなりましたな。体も一回り大きくなっていますぞ」

「敬語はやめてくれ。色々あったからなあ」

 やはり俺は鍛えられて、そこそこ逞しくなっているようだ。
 確かにこっちに来たばかりの頃と比べて、格段に体が動く気がするな。
 ダミアンの他にも、次々に騎士やら従者が駆け寄ってきて、俺に挨拶をしていく。
 結構たくさんの奴が生きてるなあ、と思いつつも、ここにいない顔は死んだのだなと思うとちょっと寂しい。

「ついに追いつきましたぞ!! こんなところに軍を集めているとは! いよいよ決戦ですかな!」

 ガラガラと馬車がやって来て、エドヴィンが顔を出した。
 また忘れてたよ、この学者。
 そう言えばいたっけなあ。
 聞けば、この男、エルフの里に顔を出して色々調べていたようだ。

「エルフたちには記録を残すという習慣が無かったのですが、口伝にて伝説や伝承が伝わっていましてな。それらを書き留めている間にすっかり遅れてしまいました」

 奴の筆記がされた羊皮紙も、かなりの量になっていることだろう。
 学者の到着をもって、俺の軍勢は勢揃いしたことになる。
 俺が満足げに連中を眺めていると、アンブロシアがやって来て、俺の尻を叩いた。

「いたい!」

「何をボサーっとしてるんだい。あんたが頭領なんだよ? ここは一発、演説をぶち上げて気合を入れなきゃ!」

「えっ、俺がやるのか」

「あんた以外に誰がやるのさ!」

 うーむ。
 人前で話すのとか、とてもとても苦手だぞ。
 というか、これだけの頭数の前で言葉を発した経験など無い。
 アンブロシアとマーメイドたちがわーっと寄って来て、台座みたいなのを用意して俺をその上に立たせてしまう。

「ほら、あんたらの頭領が一言あるってさ! 注目、注目だよー!!」

 大変声が通るアンブロシアである。
 流石は海の女。
 だが、こうして視線が俺に集中すると、緊張することこの上ないな。
 膝がガクガクしだしたぞ。

「ユーマ様、頑張って!」

「がんばって!」
「がんばル」

 サマラと、彼女のお付の遊牧民とリザードマンの女の子が応援してくる。
 横を見るとリュカがいて、彼女は深く頷いて来た。

「いつものユーマでいいじゃん。言っちゃえ」

 仕方ない。
 やるかあ。

「……えー」

 声を発した。
 ちょっと枯れている。
 いかんいかん。
 しかし、俺の声は通らないなあ。腹式で発声するやり方なんぞ知らんし。
 そう思っていたら、リュカが何かしら呟いた。
 俺の言葉が、妙に響くようになっている。
 風の魔法で、拡声効果をもたらしたのか。

「えー、えーと、本日はお日柄も良く……」

「結婚式の挨拶じゃねえんだぞ!」

 アンブロシアがツッコミを入れると、騎士たちがドッと沸いた。
 ええい、あいつらめー!

「ごほん、ええと、みんな、集まってくれてありがとう。俺が君たちの頭目を務める、戦士ユーマだ」

「彼が灰色の王か」
「灰色の王」
「灰色の王!」
「灰色の王!」

 おおーっ!
 どこからか湧き上がってきた声が、集団の中を拡散していく。

「火竜と渡り合った戦士!」
「水竜に認められた戦士!」
「我らの王!」
「混沌界の王!」

 なんだなんだ。
 俺の耳元にリュカの言葉が届く。

「みんなね、ユーマがどういう人なのかって噂してたみたい。で、世界中で色々言われてる、ユーマの噂とか武勇談があってね。それを聞いて、すっごく期待してたって」

 ひょえー。
 俺はそんな大したやつではないぞ。

「私も聞いたよ。でも、全部、本当のことだった。ユーマは凄いことをして来てるんだから、自信を持って!」

 うーむ、そうなのだろうか。
 そう言われると、そんな気がしてきた。

「ごほん」

 気を取り直す。

「俺はユーマ。えー、諸君らの王である」

 おおおおーっ!
 と一堂がどよめいた。
 どこか喜びの感情を含んだどよめきである。
 エルフのアリエルが、びっくりしてキョロキョロしている。
 ゴメルとギヌルは大盛り上がりだな。
 ドワーフどもも来ている。何やら熱っぽく、周囲に喧伝しているな。なになに? 火竜との戦いを、わしらは見ていたんじゃぞ、と。

「これから、俺たちは精霊界の枠組みを越えて一つになる。それで、まあやるわけだ。何をやるかって? 戦争だ」

 おおおおおっ!!
 今度は歓声だ。
 みんなやる気充分である。

「俺たちの最後の仲間である、土の精霊界はまだ接触できていない。何故なら、土の巫女がこの国の王に囚われているからだ。俺たちの目的は、土の巫女を救い出すこと。そして、土の精霊界を仲間に加える事だ。これから大変厳しい戦いになるかもしれないが、諸君らの全力を出し切ってほしい。期待している」

 わーっ!!
 大盛り上がりだ。
 俺が言う事はそれだけなのだが。
 なんだ。
 何故みんな、何かを期待して俺を見ているのだ。

「ユーマ殿! せっかくなのですから、あなたの剣の冴えを見せてやって下さい!」

 ダミアンの大声が聞こえる。
 その言葉に、うちの軍勢は期待で目を輝かせて俺に注目する。
 ひえーっ。
 一体何人が俺を注視しているのだ。

「よーし、じゃああたしが」
「アタシが相手を出すね」
「私が出しちゃうね」

 三人の巫女が進み出てくる。
 三人同時なのか?
 えっ、そういうこと出来るの?

「ヴォジャノーイ! 集まり来たりて、形を成せ、カリュプディス!」
「ヴルカン、集って形を成せ! サラマンダー!」
「シルフさん、あの人呼んできて! ガルーダ!」

 何も無いところから、渦潮が湧き上がる。
 自ら行動し、触れたものすべてを飲み込んで破砕する、生きた渦潮カリュプディス。
 サマラの胸から放たれたヴルカンが組み合わさる。
 巨大な四足歩行のトカゲが姿を現し、周囲の温度を上げる。これが火の大精霊サラマンダー。
 そして、リュカが呼び出した風の中に、人と鳥を足したようなシルエットが出現する。
 風の大精霊ガルーダ。
 こいつら、登場するなり、俺に襲い掛かってきた。
 うわー、なにをする貴様らー。

「洒落にならんって」

 俺はバルゴーンを抜いた。
 渦潮が俺を飲み込まんと迫ってくる。
 これに向かって、抜き打ちざまに十字の斬撃。
 渦の一角を崩す。
 隙が出来たカリュプディスの脇を抜けると、サラマンダーがそこに向かって突撃してきた。
 全身これ灼熱の炎というトカゲである。
 俺はバルゴーンを大剣に変化させると、大地に叩きつけて、その反動で飛び上がった。
 駆け抜けるサラマンダーの頭上を通過する。
 背後に着地ざま、尻尾に向かって大剣を振り下ろした。
 炎の尾が切断される。
 ガルーダは逃げ場が無いよう、剣を引き戻した俺の両脇に風の障壁を作る。
 そして真正面から、指先を俺に向けての風の弾丸を発射である。

「えげつねえ」

 思いながらも、俺はバルゴーンを刺突剣へと変えた。
 そのまま、一直線に進む。
 放たれる弾丸。
 正確にそれとベクトルを合わせて、真正面からバルゴーンで突き破る。
 勢いのままに、俺刺突剣でガルーダを突いた。
 ダメージを受けたようで、風の大精霊が距離を取る。
 同時に風の障壁が消えた。
 タイミングを合わせていたのだろう。
 サラマンダーとカリュプディスが突っ込んできた。
 既に、俺の装備は双剣に変わっている。
 双方からの攻撃を、左右の剣で受け流しながら……互いをぶつかり合わせる。
 猛烈な水蒸気が立ち上った。
 流石に、ぞれぞれの属性を大量に集めた大精霊。
 簡単に対消滅させるという訳にはいかない。だが、明らかに反する属性同士がぶつかって動きを鈍らせた。
 ここに、俺は変化させた大剣をたたきつけて、一匹ずつ撃破。
 最後に飛び込んでくるガルーダ。
 俺もまた大剣を高飛びの棒代わりに跳躍して、空中で体ごと回転させながら剣を降りぬいた。
 頭頂から股下までを一直線。
 ガルーダが左右にずれ、消滅した。
 そして着地。
 一瞬、周囲は静寂に包まれ、すぐに大歓声が巻き起こった。

「なんという強さだ!」
「あれが我らの王カ!」
「灰色の王ばんざい!」
「灰色の王!」

 おお、照れる。
 超照れる。

「よ、よし。ということで、エルフェンバイン王都へ向けて進軍開始だ」

 気を取り直し、俺は開戦の言葉を告げる。
 恐らく世界始まって以来であろう、人と、人ならざるものとの戦争が始まる。
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