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王国の反逆者編

熟練度カンストの討伐者

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 さらに山を登るのである。
 真っ先にエドヴィンがバテた。
 体力のあるタフな学者だが、登山はまた別物だからなあ。

「ユーマ様は山登りも大丈夫なんですか?」

「うむ。リュカに鍛えられたからな」

「リュカ様、何気にスパルタですからねえ」

「うぐうう、わ、私を置いて先に行って下され……いやそれはダメ! 私も連れてって欲しいですぞ! 竜と会いたーい!」

 エドヴィンが駄々をこね始めた。困ったおっさんだ。
 仕方が無いので、少し休憩をしていく事にする。
 まったりと、山腹から望める高山地帯の光景を眺めていると、下から登ってくる連中がいる。
 あのずんぐりむっくり。
 そして髭もじゃ。
 ドワーフの男どもである。

「おうい」
「おーい」

 剣を掲げている。
 どうやら律儀に返しに来たらしい。
 俺はそいつを自在に取り寄せられると言うのに。

「返しに来たぞ」
「存分に検分したからのう」
「こいつはとんでもない剣じゃ」
「これ、剣自体に魔力経路が流れ取るの。おぬししか使えんじゃろ」
「この刃、概念で構築されておるの。形が変わるじゃろ」

「すげえ」

 この短時間で、バルゴーンを正確に分析したらしい。
 こいつら偏屈で人の話を聞かなくて、むさくてもじゃもじゃだが、こと、鍛治にかけては天性の才能を持っているな。
 是非、こいつらに武器を作らせたい。
 辺境伯を助け出したら、彼女が使う土の魔法と彼らの鍛治の技術のコラボレーションなども見られそうではないか。

「良い物を見せてもらった礼じゃ」
「そこの痩せっぽちを運んでやろう」

 わいわいとドワーフが群がってきて、エドヴィンを軽々と担ぎ上げた。

「うおお、ドワーフに運ばれるとは!? こ、これは唯一無二の経験ですぞーっ!!」

 なんか学者も喜んでるからいいか。
 そして、連中と同道する最中の会話である。

「女どもから許可をもらったらしいな」
「飯が出るならやるぞ」
「何を作って欲しい」

「魔法の武器とか作れるの?」

「うむ」
「魔力を含んだ鉱石があればのう」
「わしらは腹の中に炉があるからの」
「魔力鉱石を溶かして、好きな形に鍛えなおしてやるぞい」

「よしよし」

「……ユーマ様、いつになく彼らと波長が合いますねえ……。アタシ、ちょっと理解できない」

「コミュ障同志だからかもしれん」

 で、俺の予想なのだが、このドワーフたち、恐らくは俺が創作物で知っているドワーフと同じではない。
 彼らよりももっと、妖精や精霊に近い存在。
 つまり、上位ドワーフ、ハイドワーフとでも言うべき存在だ。
 そりゃあ、火の精霊界から現れたばかりなのだから、より精霊に近いのも納得である。

「しっかし、おぬしの武器を作った者は何者じゃ」
「人間があの域の武器を作れるとは思えんぞ」
「ありゃ精霊王が鍛えた武器に等しい」
「わしらでも作れるかどうか」
「いや作るんじゃがな!」

 おっ、最後で対抗心を燃やしてきたぞ。

「フフフ、やれるかな」

「やるぞ!」
「わしらを舐めるなよ!」
「ぬしに吠え面かかせてやるわい!」

 おお、ヒートアップした。

「ユーマ様!? 挑発しないでーっ!!」

「あ、すまんすまん」

 しかしドワーフたちは、裏表が無くてなんと分かり易く気持ちのいい連中なのだろう。
 俺は断然ドワーフが好きになったぞ。

「お、いたぞい」
「おいおぬし。ユーマとやら。亜竜がおるぞい」

「おや」

 どこだ?
 亜竜が出たと聞いて、俺は周囲を見回す。
 どうも見当たらない気がする。
 とりあえず、手近な岩の上に登ってみて……。

「おおい、危ないぞい」
「おぬしが踏んどるのが亜竜じゃぞ」

「なにぃ」

「ユーマ様危ない! ヴルカン!!」

「アッー」

 サマラの方が危ない!
 彼女の胸元から放たれた炎の奔流が、足元の岩だけではなく俺をも巻き込む勢いである。
 慌てて炎を剣で切り開いた。

「ご、ごめんなさいユーマ様!? アタシちょっと気が動転しちゃって……」

「オーケー、落ち着こう」

「おおー、あの剣、炎を斬れるぞい」
「”切断”の概念が剣になったものじゃな」
「あれを作るのはちぃと骨が折れるのう」
「そんな事を言うて、お前じゃ出来んのじゃろう?」
「なにぃ、やってやるわい!」

「そこ、雑談始めないで!」

 サマラの指示を受けると、ドワーフたちはいきなりピシッと整列した。
 おお、これが巫女がドワーフたちに命令できる能力という奴か。
 俺は俺で、ゴゴゴゴゴッと動き始めた足場からさっさと駆け下りる。
 飛び降りると、足元が不安定である。また足でも挫いたら目も当てられない。
 さてさて、俺たちの目の前で、岩がその姿を変えていく。
 岩と見えたのはそいつの頭だったらしい。
 亀裂が走ったと見えるや否や、側面の岩が展開して足になった。
 体を高く持ち上げる。
 二足歩行型の竜だ。一見すると、アロサウルス的な肉食恐竜に近い。
 奴は喉を鳴らしながらこちらを見下ろす。開かれた口からはぎざぎざの牙が見え隠れしており、隙間からはちろちろと炎が噴出している。

「おお、これが亜竜、レッサードラゴンですかな!! うおお、大きい! 亜竜でありながら、二階建ての家屋と変わらぬ上背とは! では本体である火竜が一体どれほどの大きさなのか、見当もつきませんな!」

 猛烈に羊皮紙にメモする学者。
 その紙なかなか無くならないね。

「うひょっ、ユーマ殿、ブレスが来るぞ!」

 そう言うなり、エドヴィンは凄い速度で後退していった。
 あんな速さの後退りを見たことはない。
 その直後、亜竜が口から炎の塊を吐き出した。

「っと……!」

 いつものビームなどを斬り裂く要領で抜刀する。
 これで普段なら炎は真っ二つに割れる……はずなのだが、切り裂いた端から炎のブレスが一つにまとまっていく。
 なんというか、炎が粘っこい。

「うわー」
「うわー」
「うわー」
「うわー」
「うわー」

 あっ、ドワーフどもが巻き込まれやがった。
 あいつら短足だし、逃げ切れなかったんだろうなあ。
 ちなみにサマラは、涼しい顔をしてブレスが降り注ぐ中に立っている。
 俺は返す刀でもう一度炎を斬り裂く。
 すると、刀身に炎がへばりついたのが分かった。すぐに俺の剣速で振り切られるが、なるほど、仕組みが分かったぞ。
 この亜竜、発火性の液体を霧状に吐き出しているのだ。
 それが空気に触れるなり、ないしはあいつの口の中で化学変化を起こして着火し、炎のブレスとなる。
 次々に吐き出される炎は、一繋がりになった光線とは違い、無数に存在する発火性の飛沫なのだ。
 少々、俺の防御方法と相性が悪いらしい。
 俺は三振りめの動作をしながら、バルゴーンを双剣へ変化させた。
 これは回数で凌ぐしかない。
 双剣で炎を切り裂き続けながら、亜竜に接近していく。
 奴は、俺にブレスが通用しない事に気付くと、炎を吐き出すのをやめた。
 すぐさま尻尾を振り上げる。
 肉弾戦で来たか。
 叩き降ろされてきた尻尾を、俺は紙一重で回避した。
 双剣は、こういうでかい質量を受けられる武器ではない。受け流す武器なのだ。
 ということで、回避しつつ双剣の刃を尻尾にあてがい、表面を削ぎ斬る。
 削いでできた傷口に、さらに剣を走らせて切り口を深く、深くしていく。
 亜竜がようやく、自分の尻尾が切断されようとしている事に気付いて叫びをあげた。
 もう遅い。
 奴が尻尾を振り上げようとした瞬間、尾は自らの質量に負けて、ぶつりと付け根からもげ落ちた。
 この尻尾を踏み台にし、俺は飛び上がる。
 尻尾の付け根を振り上げた亜竜の頭は、比較的低いところにある。
 そこに向かって、剣を振りかぶった。
 形状は刺突剣。両手で握るエストックスタイル。
 奴の頭に着地と同時、バルゴーンはその脳天から喉までを一直線にぶち抜いた。
 長く延びた切っ先は地面を抉って止まり、亜竜は串刺しである。
 頭を刺突剣で繋ぎとめられ、奴は口を開けられなくなった。
 まだ動くというのは大変驚きだが、じたばたともがく。
 そこへサマラがやって来た。

「ア、アタシに従え!」

 その声が響くと同時に、亜竜は動きを止めた。
 すぐに、膝を折り、サマラに屈するような姿勢になる。

「一応、言う事は聞くみたい……。だけど、すっごい抵抗してる……」

 サマラ、緊張の面持ちである。

「ということは、親である火竜の支配が強いのかもしれませんな!」

 かなり向こうからエドヴィンが叫んだ。
 そして、この辺りでようやく脳天をぶち抜かれた事に亜竜の肉体が気付いたようだ。
 力を失い、崩れ落ちた。

「クラーケン級の鈍感さであった」

「でも、危なげなく勝ちましたね!」

「いや、亜竜でこれくらい強いなら、火竜なんてゾッとするな。サマラは炎大丈夫?」

「はい。アタシ、炎なら全然平気なんです」

 深い水に落っこちたら命が危ない娘だった。
 そうだ、ドワーフどもはどうなっただろう。
 無駄にブレスに巻き込まれやがった。
 振り返ると、衣類を全焼させたドワーフどもがピンピンしていた。

「そう言えばわしらも炎は平気じゃったの」
「服が燃えてしまった。女たちに怒られるのう」
「なんじゃおぬし、腰だけ燃え残っておるのか」

 ずんぐりひげもじゃの全裸はどこに需要があるというのか。

「ひええ」

 サマラが目を隠して俺の背後に隠れた。
 大変純粋でよろしい。
 この娘、十八になるまで巫女になるための修行をして生きてきたので、男に対する免疫が全く無いらしい。もしや、俺に好印象を抱いているのも、他に男と接触していないからなのではないのか……。
 うむ、こんな想像を口にしたらリュカにぶっ飛ばされるな。

「おぬし、ユーマは無事じゃったか」
「流石は魔剣じゃのう」
「ただの魔剣では呼び辛かろう」
「では名づけるか」
「どうする?」

 素っ裸のドワーフどもが額を突き付け合って、喧々諤々言い始めた。
 こいつらは大変マイペースだ。
 嫌いじゃない。

「剣にはバルゴーンという名があってな」

「ほう」
「混沌界に住まうという虹の竜の名じゃな」

「えっ、そうなの」

 それって初耳。
 アルフォンスはその事が分かっていてこの剣を打ったのだろうか。

「ユユユ、ユーマ殿」

 思案にふけろうとしたところ、学者が擦り寄ってきた。
 なにぃ。おっさんを愛する趣味は無いぞ。

「囲まれていますぞ!」

 おお、この知的好奇心が服を着て歩いている学者が怯えているとな。
 エドヴィンが周囲を指差す。
 そこここから、様々な異形の竜が顔を出す。
 滑らかな宝石のような皮膚の、蛇に似た竜。
 岩肌と見えたのは翼で、馬ほどの体に十メートルを越える翼長の鳥に似た竜。
 背中に小山を背負い、そこから溶岩を溢れ出させる亀に似た竜。
 色んな竜が勢ぞろい、と来たものだ。

「これだけの数でお出迎えという事は、火竜がもう来てたりするのかね」

「はい、多分」

 サマラが頷いた。
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