59 / 255
群島の海賊剣士編
熟練度カンストの引越し屋
しおりを挟む
海賊砦と自称していた建造物のある島へと戻ってきた。
既に、島の住民の多くは外部の島へと引越ししている。
そのために、入り口に作られていた渦潮の姿は無い。
相変わらず、自動運転めいて波の動きを無視した挙動のオケアノス海賊船。
入港して行くと、ガランとした島が一望できる。
「なるほど、確かにこうやって見てみると、暮らしにくそうな島だな」
俺は頷いた。
森もある。
平野もある。
丘もあるし、町もある。
だが、どれもそれほど広いわけではない。
どれもこれも、少人数がそっと暮らす分には問題が無い。
だが、島の人口が増えてしまった場合、畑を作ったりしても島の面積に限界が出る。
下手に森を切り開けば、水はけも悪くなるし、野生動物も取れなくなる。
丘を均せば、家畜が食べる草が消える。
もう、この島は限界に来ていた。
エルド人からの締め付けによって、交易が自由に出来なくなればすぐに干上がってしまう。
信仰に対する意地とか、そういうものではどうにもならないところに来ていたのだ。
「ふん、移住は順調のようだねえ」
まだちょっとむくれているアンブロシア。
さっき、みんなから戦場で手出ししたことをフルボッコにされて、まだちょっと機嫌が悪いのだ。
「で、俺たちはどうすればいいんだ?」
「ちょっと面倒なモノがあってねえ。素養がある人間でなければ、持ち運びできないんだよ。そいつを分解するのを手伝って貰いたい訳さ」
「素養がある人間じゃなければ……って、それって、祭器?」
祭器に詳しい女子、サマラである。
その言葉に、アンブロシアは頷いた。
「港の水底に沈んでいるそいつと、あたしが指につけているこれ、そして、遠くから船をコントロールしていたアレ。この三つは、本来移動する訳にはいかないんだけどね……」
「何だその反応。厄介なのか」
「厄介だよ。厄介も厄介。あんたや他の巫女がここにやって来たから、これで実行に移せるって思ってさ。それに……あの腕だったらやれるでしょ、多分」
不穏な事を言っておるな。
一体、何が待っていると言うのか。
「ウンディーネ! 拾って来な!」
アンブロシアが命令を出すと、水面で透き通った水で出来た乙女が跳ねる。
彼女は高速で水中深く潜っていき、底の辺りで何かを動かした。
すると、水底から、海よりもなお蒼い輝きが生まれる。
ウンディーネはそれを握りしめると、浮上してきた。
「これが、二つ目の水の祭器。ぶっちゃけ、全部指輪なのさ」
アンブロシアは、蒼い指輪を受け取ると、空いている指に嵌めた。
「こいつらには意思がある。自分が認めた巫女にしか従わないのさ。あたしが思うに、こいつらは恐らく、古い精霊たちが形になったものなんだ。あたしはこのうちの二つを従えて巫女になった。これはあたしの才能あってのことさ。だけどね」
「あと一個あるのね」
「そういうこと」
リュカはふーん、と頷いた。
「アンブロシア、その祭器に嫌われてるの?」
「そっ、そんなことないさ! あいつはすっごく気難しくて、今まであいつを従えた巫女なんて、村の歴史でも片手で数えるくらいしかいなかったんだよ!」
「ふむ、で、それは凄い祭器なのか?」
「ああ。あれを身につけられるようになれば、あたしだって、あんたたちみたいにやれるようになる」
なるほど。
では、これはその祭器を船に引っ越させる作業であると同時に、アンブロシアを認めさせる作業でもあるという事か。
だがまあ、祭器を三つ揃えた程度でリュカやサマラに匹敵するというのは、眉唾程度に聞いておこう。
そもそもリュカとサマラの間にも、更に大きな実力の壁があるように思うしな。
「よし分かった。じゃあ、その祭器を引越しさせに行くとしよう」
俺は宣言した。
木造と見えた海賊砦だったが、砦本体である平屋の下には、なんと洞窟が広がっていたのだ。
降りていくと真っ暗だったため、サマラが手にしていた松明に、胸元から放ったヴルカンを乗り移させる。
「しっかし……なんで火種も無いのに、そうポンポン火の精霊を呼び出せるかね」
「昔はアタシも出来なかったのよ。だけど、今はほら、出来るような体になったから」
より精霊に近い肉体に変われば、普通ではあり得ないことも出来るようになると。
色々話を聞いていると、基本的に祭器や媒介なしには、魔法というのは使えないのだそうだ。
ディアマンテは比較的、魔法を使える人間が多かったようで、祭器のコピーのようなものを用いれば、それなりの素養があるものなら精霊を呼び出せたらしい。
「だけど、アルマースやネフリティスではあまり魔法が発達してないのはどうしてだ?」
「簡単さ。それはね、こうやって直接殴ったほうが早いから」
シュッシュッと拳を突き出す仕草をするアンブロシア。
なるほど、道理である。
「アルマースは、元は魔法への造詣が深い国だったんですけどね。ザクサーン教があの国を取り込んでから、割りと唯物論っぽい考え方になってしまいました。まあその、この間のアータル様降臨で、ちょっとは目が醒めたと思うんですけど」
アータルの辺りで目線を宙に泳がせながらサマラ。
あれはトラウマであろうなあ。
「えー? シルフさんにお願いするほうが楽じゃない? 攻撃する時って、みんな位置を変えたり動いたり、相手を伺ったりするでしょ。シルフさんに任せておけば、全部やってくれるよ?」
「これだから天才肌は」
「リュカ様、あなたが特別なんです」
巫女二人が悲しそうな顔をする。
首を傾げて、よく理解できないという顔をする、生まれつきの巫女、リュカ。
「そうか……俺も魔法を習ってみようかな」
「ユーマだけは魔法よりも、剣で攻撃したほうが早いと思うな……」
リュカに言われてしまった!
……とまあ、そんな会話をしながら洞窟を下っていく。
俺たちが降りているのは、荒く削られた階段状の斜面だ。
手すりなどは当然無く、片側の壁面に手をつきながら下っていく。
岩壁が苔むして、しっとりと冷たく湿っている辺り、いやんな感じである。
「ユーマ様、下には水が見えます」
松明の炎に照らされた下方を見て、サマラが教えてくれた。
「ここはね、ちょうど海が入り込んできてる洞窟なのさ。あたしたち水の巫女が行くときは、わざと海側から入ってくることもある。このウンディーネの指輪があれば、暗くても水さえあれば物が見えるしね」
アンブロシアの指で、蒼い指輪が輝いていた。
元々彼女がつけていたのは、白いヴォジャノーイの指輪。
で、これから取りに行くのは、オケアノスの指輪。
明らかに精霊王絡みの祭器じゃないか。
「ひゃっ」
リュカがつるんと滑った。
「わわっ!?」
「うおーっ!」
「あぶなっ!」
三人で、上下から彼女をがっしりホールド。
「ふいー、ありがとう。すっごく足元滑るんだけど……。危ないねえ。……そうだ!」
リュカが俺の腕にくっついてきた。
こ、これはふんわり暖かくて柔らかい。
「リュ、リュカさん一体何を」
「こうすれば安心でしょ。死なばもろとも!」
「な、なにぃ!!」
では俺は転ばぬようにせねばならない。
この高さから、暗い水面に落下するなどゾッとしないからな。
それに水中には、何かおかしな生き物がいるかもしれないし。
そんな事を考えつつ、慎重に段を下った。
すぐに終わりがやってくる。
ここからは、水の流れに沿って歩く、天然の道である。
とにかく足元が湿って滑る事に違いはない。
慎重に、慎重に。
むぎゅっ。
俺の後ろにくっついて来る者がいる。
この圧倒的なボリュームは……。
「サマラくん、一体何を」
「あのっ、お、落ちるとアタシ、絶対に命がないと思うんで、くっつかせてくださいっ」
「死活問題……!」
サマラは松明をアンブロシアに手渡し、かくして俺は背中と片腕を二人にホールドされて歩くことになった。
くそう、歩く度に柔らかいものが動くから、大変なことになっているではないか。
落ち着け、落ち着け俺。
悶々とする心を、深呼吸で落ち着けながら俺は歩く。
武を志すもの、平常心平常心である。
そうだ、ヨハンの顔を思い出そう。
おっ、あの男の巻き込まれ体質な顔を連想していたら、段々と落ち着いてきた。
奴は基本的に普通の人間なので、この洞窟にはついてこなかった。
今頃、船で俺たちの帰りを待っている事だろう。
そもそも、なんであいつはここまで付き合いがいいんだろうな。
あ、そうか。
勢いでついてきたけど、あいつ帰る手段が無いじゃないか。
よく文句言わないな。
「ユーマ、何考えてるの?」
「うむ、ヨハンに給料あげてないなーって」
「あ、忘れてた! ヨハン、傭兵だもんね」
「今度何か商船からもらった時に、分けてあげましょう」
「はいはい、お喋りそこまで!」
パンパンと手を叩くアンブロシア。
立ち止まるように指示をしてきた。
気がつけば、周囲が広くなっている。
流れ込んできた海水は、どうやら奥の方で泉のようになり、島の下の方へと引き込まれているようだ。
「あれ、なんだかここの雰囲気って」
「うん、ゼフィロス様が降臨する森と一緒だね」
懐かしい思い出だ。
リュカと共に、滅ぼされた後の村へ行き、そこでゼフィロスと会った。
精霊王たちは、皆こういう、特別な場所を持っているのかもしれない。
「へえ、リュカのところもそうなのかい? サマラも?」
「ガトリング山自体が、そういう場所みたいだったけどね」
今は半分削れてしまったガトリング山か。
いや、精霊王の本気って凄いよなあ。
では、ここにも凄い本気を出す精霊王がいると。
俺はそんな思いと共に、奥に目を向けた。
アンブロシアは、闇に包まれてよく見えない奥に向かって、手を掲げる。
その手には指輪が二つ。
白と蒼。
これが淡く輝きを放っているが、徐々に光を強めて行っている。
やがて、光は蛍光灯くらいの明るさまで強くなり、次の瞬間には、まるでビームのように奥に向かい、指向性のある輝きを放った。
何か、空間の奥に安置されているものと共鳴しているようだ。
空間の奥は、ぼうっと水色に輝いた。
ちょうど中間色か。
「来るよ、水の守護者どもが!」
アンブロシアは警戒の声を発する。
リュカとサマラの温もりが俺から離れ、身構える気配。
俺もまた、腰にバルゴーンを呼び出した。
さて、物騒なお引っ越しの始まりである。
既に、島の住民の多くは外部の島へと引越ししている。
そのために、入り口に作られていた渦潮の姿は無い。
相変わらず、自動運転めいて波の動きを無視した挙動のオケアノス海賊船。
入港して行くと、ガランとした島が一望できる。
「なるほど、確かにこうやって見てみると、暮らしにくそうな島だな」
俺は頷いた。
森もある。
平野もある。
丘もあるし、町もある。
だが、どれもそれほど広いわけではない。
どれもこれも、少人数がそっと暮らす分には問題が無い。
だが、島の人口が増えてしまった場合、畑を作ったりしても島の面積に限界が出る。
下手に森を切り開けば、水はけも悪くなるし、野生動物も取れなくなる。
丘を均せば、家畜が食べる草が消える。
もう、この島は限界に来ていた。
エルド人からの締め付けによって、交易が自由に出来なくなればすぐに干上がってしまう。
信仰に対する意地とか、そういうものではどうにもならないところに来ていたのだ。
「ふん、移住は順調のようだねえ」
まだちょっとむくれているアンブロシア。
さっき、みんなから戦場で手出ししたことをフルボッコにされて、まだちょっと機嫌が悪いのだ。
「で、俺たちはどうすればいいんだ?」
「ちょっと面倒なモノがあってねえ。素養がある人間でなければ、持ち運びできないんだよ。そいつを分解するのを手伝って貰いたい訳さ」
「素養がある人間じゃなければ……って、それって、祭器?」
祭器に詳しい女子、サマラである。
その言葉に、アンブロシアは頷いた。
「港の水底に沈んでいるそいつと、あたしが指につけているこれ、そして、遠くから船をコントロールしていたアレ。この三つは、本来移動する訳にはいかないんだけどね……」
「何だその反応。厄介なのか」
「厄介だよ。厄介も厄介。あんたや他の巫女がここにやって来たから、これで実行に移せるって思ってさ。それに……あの腕だったらやれるでしょ、多分」
不穏な事を言っておるな。
一体、何が待っていると言うのか。
「ウンディーネ! 拾って来な!」
アンブロシアが命令を出すと、水面で透き通った水で出来た乙女が跳ねる。
彼女は高速で水中深く潜っていき、底の辺りで何かを動かした。
すると、水底から、海よりもなお蒼い輝きが生まれる。
ウンディーネはそれを握りしめると、浮上してきた。
「これが、二つ目の水の祭器。ぶっちゃけ、全部指輪なのさ」
アンブロシアは、蒼い指輪を受け取ると、空いている指に嵌めた。
「こいつらには意思がある。自分が認めた巫女にしか従わないのさ。あたしが思うに、こいつらは恐らく、古い精霊たちが形になったものなんだ。あたしはこのうちの二つを従えて巫女になった。これはあたしの才能あってのことさ。だけどね」
「あと一個あるのね」
「そういうこと」
リュカはふーん、と頷いた。
「アンブロシア、その祭器に嫌われてるの?」
「そっ、そんなことないさ! あいつはすっごく気難しくて、今まであいつを従えた巫女なんて、村の歴史でも片手で数えるくらいしかいなかったんだよ!」
「ふむ、で、それは凄い祭器なのか?」
「ああ。あれを身につけられるようになれば、あたしだって、あんたたちみたいにやれるようになる」
なるほど。
では、これはその祭器を船に引っ越させる作業であると同時に、アンブロシアを認めさせる作業でもあるという事か。
だがまあ、祭器を三つ揃えた程度でリュカやサマラに匹敵するというのは、眉唾程度に聞いておこう。
そもそもリュカとサマラの間にも、更に大きな実力の壁があるように思うしな。
「よし分かった。じゃあ、その祭器を引越しさせに行くとしよう」
俺は宣言した。
木造と見えた海賊砦だったが、砦本体である平屋の下には、なんと洞窟が広がっていたのだ。
降りていくと真っ暗だったため、サマラが手にしていた松明に、胸元から放ったヴルカンを乗り移させる。
「しっかし……なんで火種も無いのに、そうポンポン火の精霊を呼び出せるかね」
「昔はアタシも出来なかったのよ。だけど、今はほら、出来るような体になったから」
より精霊に近い肉体に変われば、普通ではあり得ないことも出来るようになると。
色々話を聞いていると、基本的に祭器や媒介なしには、魔法というのは使えないのだそうだ。
ディアマンテは比較的、魔法を使える人間が多かったようで、祭器のコピーのようなものを用いれば、それなりの素養があるものなら精霊を呼び出せたらしい。
「だけど、アルマースやネフリティスではあまり魔法が発達してないのはどうしてだ?」
「簡単さ。それはね、こうやって直接殴ったほうが早いから」
シュッシュッと拳を突き出す仕草をするアンブロシア。
なるほど、道理である。
「アルマースは、元は魔法への造詣が深い国だったんですけどね。ザクサーン教があの国を取り込んでから、割りと唯物論っぽい考え方になってしまいました。まあその、この間のアータル様降臨で、ちょっとは目が醒めたと思うんですけど」
アータルの辺りで目線を宙に泳がせながらサマラ。
あれはトラウマであろうなあ。
「えー? シルフさんにお願いするほうが楽じゃない? 攻撃する時って、みんな位置を変えたり動いたり、相手を伺ったりするでしょ。シルフさんに任せておけば、全部やってくれるよ?」
「これだから天才肌は」
「リュカ様、あなたが特別なんです」
巫女二人が悲しそうな顔をする。
首を傾げて、よく理解できないという顔をする、生まれつきの巫女、リュカ。
「そうか……俺も魔法を習ってみようかな」
「ユーマだけは魔法よりも、剣で攻撃したほうが早いと思うな……」
リュカに言われてしまった!
……とまあ、そんな会話をしながら洞窟を下っていく。
俺たちが降りているのは、荒く削られた階段状の斜面だ。
手すりなどは当然無く、片側の壁面に手をつきながら下っていく。
岩壁が苔むして、しっとりと冷たく湿っている辺り、いやんな感じである。
「ユーマ様、下には水が見えます」
松明の炎に照らされた下方を見て、サマラが教えてくれた。
「ここはね、ちょうど海が入り込んできてる洞窟なのさ。あたしたち水の巫女が行くときは、わざと海側から入ってくることもある。このウンディーネの指輪があれば、暗くても水さえあれば物が見えるしね」
アンブロシアの指で、蒼い指輪が輝いていた。
元々彼女がつけていたのは、白いヴォジャノーイの指輪。
で、これから取りに行くのは、オケアノスの指輪。
明らかに精霊王絡みの祭器じゃないか。
「ひゃっ」
リュカがつるんと滑った。
「わわっ!?」
「うおーっ!」
「あぶなっ!」
三人で、上下から彼女をがっしりホールド。
「ふいー、ありがとう。すっごく足元滑るんだけど……。危ないねえ。……そうだ!」
リュカが俺の腕にくっついてきた。
こ、これはふんわり暖かくて柔らかい。
「リュ、リュカさん一体何を」
「こうすれば安心でしょ。死なばもろとも!」
「な、なにぃ!!」
では俺は転ばぬようにせねばならない。
この高さから、暗い水面に落下するなどゾッとしないからな。
それに水中には、何かおかしな生き物がいるかもしれないし。
そんな事を考えつつ、慎重に段を下った。
すぐに終わりがやってくる。
ここからは、水の流れに沿って歩く、天然の道である。
とにかく足元が湿って滑る事に違いはない。
慎重に、慎重に。
むぎゅっ。
俺の後ろにくっついて来る者がいる。
この圧倒的なボリュームは……。
「サマラくん、一体何を」
「あのっ、お、落ちるとアタシ、絶対に命がないと思うんで、くっつかせてくださいっ」
「死活問題……!」
サマラは松明をアンブロシアに手渡し、かくして俺は背中と片腕を二人にホールドされて歩くことになった。
くそう、歩く度に柔らかいものが動くから、大変なことになっているではないか。
落ち着け、落ち着け俺。
悶々とする心を、深呼吸で落ち着けながら俺は歩く。
武を志すもの、平常心平常心である。
そうだ、ヨハンの顔を思い出そう。
おっ、あの男の巻き込まれ体質な顔を連想していたら、段々と落ち着いてきた。
奴は基本的に普通の人間なので、この洞窟にはついてこなかった。
今頃、船で俺たちの帰りを待っている事だろう。
そもそも、なんであいつはここまで付き合いがいいんだろうな。
あ、そうか。
勢いでついてきたけど、あいつ帰る手段が無いじゃないか。
よく文句言わないな。
「ユーマ、何考えてるの?」
「うむ、ヨハンに給料あげてないなーって」
「あ、忘れてた! ヨハン、傭兵だもんね」
「今度何か商船からもらった時に、分けてあげましょう」
「はいはい、お喋りそこまで!」
パンパンと手を叩くアンブロシア。
立ち止まるように指示をしてきた。
気がつけば、周囲が広くなっている。
流れ込んできた海水は、どうやら奥の方で泉のようになり、島の下の方へと引き込まれているようだ。
「あれ、なんだかここの雰囲気って」
「うん、ゼフィロス様が降臨する森と一緒だね」
懐かしい思い出だ。
リュカと共に、滅ぼされた後の村へ行き、そこでゼフィロスと会った。
精霊王たちは、皆こういう、特別な場所を持っているのかもしれない。
「へえ、リュカのところもそうなのかい? サマラも?」
「ガトリング山自体が、そういう場所みたいだったけどね」
今は半分削れてしまったガトリング山か。
いや、精霊王の本気って凄いよなあ。
では、ここにも凄い本気を出す精霊王がいると。
俺はそんな思いと共に、奥に目を向けた。
アンブロシアは、闇に包まれてよく見えない奥に向かって、手を掲げる。
その手には指輪が二つ。
白と蒼。
これが淡く輝きを放っているが、徐々に光を強めて行っている。
やがて、光は蛍光灯くらいの明るさまで強くなり、次の瞬間には、まるでビームのように奥に向かい、指向性のある輝きを放った。
何か、空間の奥に安置されているものと共鳴しているようだ。
空間の奥は、ぼうっと水色に輝いた。
ちょうど中間色か。
「来るよ、水の守護者どもが!」
アンブロシアは警戒の声を発する。
リュカとサマラの温もりが俺から離れ、身構える気配。
俺もまた、腰にバルゴーンを呼び出した。
さて、物騒なお引っ越しの始まりである。
1
お気に入りに追加
937
あなたにおすすめの小説
俺は善人にはなれない
気衒い
ファンタジー
とある過去を持つ青年が異世界へ。しかし、神様が転生させてくれた訳でも誰かが王城に召喚した訳でもない。気が付いたら、森の中にいたという状況だった。その後、青年は優秀なステータスと珍しい固有スキルを武器に異世界を渡り歩いていく。そして、道中で沢山の者と出会い、様々な経験をした青年の周りにはいつしか多くの仲間達が集っていた。これはそんな青年が異世界で誰も成し得なかった偉業を達成する物語。
クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~
いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。
他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。
「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。
しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。
1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化!
自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働!
「転移者が世界を良くする?」
「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」
追放された少年の第2の人生が、始まる――!
※本作品は他サイト様でも掲載中です。
大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです
飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。
だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。
勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し!
そんなお話です。
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
王宮で汚職を告発したら逆に指名手配されて殺されかけたけど、たまたま出会ったメイドロボに転生者の技術力を借りて反撃します
有賀冬馬
ファンタジー
王国貴族ヘンリー・レンは大臣と宰相の汚職を告発したが、逆に濡れ衣を着せられてしまい、追われる身になってしまう。
妻は宰相側に寝返り、ヘンリーは女性不信になってしまう。
さらに差し向けられた追手によって左腕切断、毒、呪い状態という満身創痍で、命からがら雪山に逃げ込む。
そこで力尽き、倒れたヘンリーを助けたのは、奇妙なメイド型アンドロイドだった。
そのアンドロイドは、かつて大賢者と呼ばれた転生者の技術で作られたメイドロボだったのだ。
現代知識チートと魔法の融合技術で作られた義手を与えられたヘンリーが、独立勢力となって王国の悪を蹴散らしていく!
転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。
克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります!
辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。
異世界転移「スキル無!」~授かったユニークスキルは「なし」ではなく触れたモノを「無」に帰す最強スキルだったようです~
夢・風魔
ファンタジー
林間学校の最中に召喚(誘拐?)された鈴村翔は「スキルが無い役立たずはいらない」と金髪縦ロール女に言われ、その場に取り残された。
しかしそのスキル鑑定は間違っていた。スキルが無いのではなく、転移特典で授かったのは『無』というスキルだったのだ。
とにかく生き残るために行動を起こした翔は、モンスターに襲われていた双子のエルフ姉妹を助ける。
エルフの里へと案内された翔は、林間学校で用意したキャンプ用品一式を使って彼らの食生活を改革することに。
スキル『無』で時々無双。双子の美少女エルフや木に宿る幼女精霊に囲まれ、翔の異世界生活冒険譚は始まった。
*小説家になろう・カクヨムでも投稿しております(完結済み
『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?
釈 余白(しやく)
ファンタジー
HOT 1位!ファンタジー 3位! ありがとうございます!
父親が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。
その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。
最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。
その他、多数投稿しています!
https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる