蜜は愛より出でて愛より甘し

久保 ちはろ

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 どのくらい経っただろうか、まどろみから目覚めると、濃紺のガウンを纏ったアンソニーが穏やかな笑みを浮かべてピアを見下ろしていた。
「大丈夫か?」
「は……い。でも、これを解いてください……」
 頭上の手を浮かせようとするが、まだ体がだるく、動かすことができなかった。アンソニーはピアの乱れた髪を梳くように撫で付けた。
「まだ、だめだ。お楽しみはこれからだよ。そう、君はいいものを持っていたね……。それを思い出して君が気を失っている間に、部屋から取ってきたんだ」
 アンソニーは意味深な笑みを広げて、手にした短鞭をピアに見せた。
「そ、それは……殿下への……」
「うん。まず鞭は使う前に少し革をならした方がいいのは、知っているかい?」
 アンソニーは鞭の先でパシッと己の手のひらを叩いた。鋭く、乾いた音にピアは身を強張らせた。一体、何をするのだろう。まさか……。ピアは無意識に眉をひそめていた。その心を見透かしたようにアンソニーがふっと小さく笑った。
「そうだよ、ピア。その通りだ。今日は新しいことを教えよう。前はここまで教える時間がなかったからね」
 アンソニーは鞭の先が触れるか触れないかという加減で、ピアの足先からふくらはぎ、内腿へと動かしていく。やがて、それは淡い茂みの上で止まった。
「そして、殿下に鞭の使い方は一つだけではないということを、教えて差し上げればいい。きっと殿下も、君にも気にいると思うよ……」
 アンソニーの穏やかな微笑が消えたと思ったその直後、ぴしっという音がし、内腿の一部が焼けるように熱くなった。ピアは、一瞬何が起こったのかわからず、声すら出せなかった。そして、ひり付く痛みを感じると、ようやく自分が打たれたのだとわかった。なぜか肌が粟立ち、ドキドキと鼓動が激しくなっている。
「や、やめてください……私を打つなんて、先生……どうして……」
 恐怖に身を縮こませながら、ピアは必死で訴えた。アンソニーは目を細め、今打った場所を優しく撫でながら囁いた。
「しーっ、ピア、落ち着いて。私は君を怖がせたり、傷つけるつもりは全くないんだ。ただ、こういう愛し方もあるということを教えたいのだ。驚いただろうね。だが、私には、君はこれを好きになるとわかるんだ」
「そんな……痛いことなんて、好きになれません」
 アンソニーは小さい頃からピアを知っている。彼こそ自分をよく理解してくれていると思ったのに、こんな仕打ちを受けるとは心外だった。アンソニーは困ったように眉尻を下げた。
「ピア。思い出してごらん。今まで私が君に無理を強要したことが一度でもあったか? 嫌がることを無視してでも?」
 そう言われて、ピアは過去を遡った。アンソニーからの性技の手ほどきはいつも恥ずかしく、慣れることはなかったが、嫌だと思ったことは一度もない。ただ、彼に毎回、新しい快感を植え付けられることによって、自分が行為自体に溺れてしまうことに恐れを抱いていた。そして、彼は今、再び新たな扉を開こうとしている……。
「どうかな?」
 顔を覗き込まれ、ピアは慌てて首を横に振った。
「そうだろう? だって、私は君を愛しているのだから」
「えっ……」
 告白に驚き、改めて彼を見つめ返すと、相手の真摯で強い眼差しと合う。常に穏やかな笑みを見せるアンソニーが、苦悩の表情を浮かべているのに気づき、ピアの胸はざわめいた。
 彼が今までピアにそんな素ぶりを見せたことは一度もなかった。指導中は『可愛い』や『綺麗だ』などの賛美は数えきれないほど言われたが、彼のピアへの恋慕や愛情を示す言葉は一度も聞かされたことはない。
「そんなこと、一度も……」
「君を困らせたくなかったからだよ。私は君が思うよりずっと、君に好意を寄せていた。君の母上から意外な依頼を受けた時、思わず耳を疑ったよ。まあ、母上は理論上の指導を頼んだつもりで、実技まで教えるとは思わなかっただろうがね……」
 アンソニーは小さく肩をすくめた。
「申し出を受け入れるのに、躊躇するふりをするのが一苦労だった。そして、君の好奇心を利用して実技に持ち込んだ。……君はこんな私を恨むかい?」
 ピアは首を横に振った。男女の営みに関する知識だけを詰め込んだところで、王家の要求には到底応じられなかっただろう。アンソニーの指導がなければ、すぐにお払い箱になっていたはずだ。
「君と体を合わせている時が至福の時だった。君は教えたことをどんどん覚え、私の望み以上に応えてくれた。言葉どおり、私はすっかり君に溺れていたよ」
「先生……」
「呼ぶならアンソニーと」と目元を綻ばせ、彼は先を継いだ。
「私は、君を自分のものにしたかった。だが、ずっと年上でもあるし、何より、『世界を見たい』という君の夢を結婚という形で壊したくなかった。だから、私は君がきちんと家庭教師の務めを果たし、築いた財産で世界を旅した後まで待ち、結婚を申し込もうと思っていた……。それまで他の誰かに奪われていなければ。しかし……」
 言葉を切ってピアの頰を撫でる。
「君は殿下に気持ちを奪われ始めている。それはそうだろう。体を重ねていれば情は移るというものだ。殿下もこれほど美しく、極上の体と、私の教えた技術を持つ君が相手なら、君に夢中になることくらいは容易に想像がつく。しかし、君が夢をそう簡単に放り出してしまうとは意外だったがね。世界を見せたい、というのも君の父上の夢でもあったのに」
 アンソニーの瞳に影が射す。
「とにかく、……このままでは君は近い将来、きっと傷つことになるだろう」
 その言葉は、ピアが日頃から案じていたことだけに、ピアの心に深く刺さった。痛みが広がり、ピアは目の奥がじんと熱くなるのを感じて、目を伏せた。
「殿下もそれは承知のはずだよ。それをわかっていて、君をここまでのめり込ませるなんて、随分非情なお方だ。もう君を解放してもいいだろうに」
「ジュ、ジュリアス様はそんな酷い方ではありません! ただ、私が……馬鹿みたいに殿下のお言葉に舞い上がっているだけです。わずかな望みに縋り付いて……浅ましいのは私の方です。ジュリアス様はお優しいので、そんな私を邪険にできないだけです」
 ピアの剣幕に、アンソニーは面食らったようだった。一瞬、頰を撫でていた手が止まったが、すぐになだめるように同じ動きを繰り返した。
「君がどれほど殿下を思っているか、今の言葉でよくわかったよ。でもそれならなおさら、私も本気にならないといけないな。君への想いを閉じ込めていたのは、間違いだったのかもしれない」
「ア、アンソニー……」
「君は私のことが好きか?」
「え……ええ、好きです……」
 もちろん、アンソニーを好きだ。それは子供の時から。好きでなければ体を委ねなどしない。しかし、その好きはむしろ信頼に近い。それでも、それを言葉にすると頰が熱くなった。
「嬉しいよ」
 アンソニーの顔に再び微笑みが広がる。 
「それなら、私が君にプロポーズをしてもいいね?」 
 そしてすぐに真顔になった。
「君を失いたくない。私が君の夢を叶えよう。世界を見せてあげよう。そして、永遠に幸せにすると誓う」
「アンソニー……」
 その熱いまなざしにピアは戸惑い、目をそらす。
「すぐに拒否をされないということは、良い返事を期待してもいいのかな?」
 そう囁くと、アンソニーは手を顎にかけて唇を重ねた。
「ん……」
 唇同士をこすり合わせてから唇を啄んでくる。
(アンソニー先生が私を愛してるって……)
 気持ちを確かめるようなキスに心を震わせていると、唇が吸われた。そのまま舌が差し入れられ、ピアのそれに絡ませる。
「んっ、んふっ、んんん」
 ねっとりと情熱的に舌は蠢く。それは再会の喜びと離別後の寂しさ、そして新たな愛情を伝えるように粘膜を濃密に擦ってくる。アンソニーは背中に腕を回し、ピアの上体を起こして抱きしめた。逞しい胸に抱かれ、舌を吸い合う。乱れる吐息と唾液を絡ませる水音が、淫靡に寝室に響く。
(気持ちいい。頭がとろけちゃいそう)
 濃厚な口付けを交わしていると、じわじわと官能が体に広がり、会話の間に鎮まっていた欲望の炎を燃え上がらせた。
(先生のキス……食べられちゃう……)
 ジュリアスのものとは違う、肉厚の舌がピアの口内を隅々まで犯し、あっという間に理性を奪っていく。
「前にもこうして毎日キスをしていたね。初めてのキスは覚えてるか?」
 アンソニーは愉悦にぼうっとしていたピアの瞳を覗き込む。
「忘れるわけありません……。アンソニーはとても優しくしてくださって……ドキドキしました」
「そうそう、息をするのを忘れていたね。それで、初めてのキスなのに君はあそこを濡らしていたんだったっけ……」
「そ、それは忘れてください……」
 カッとピアの頰が燃える。
「あの時はまだ、達することも知らなかったのに、君の体は私を求めていたね。嬉しかったよ。今日は離れていたぶん、存分に可愛がってあげよう。もう私なしでは耐えられないくらいに」
 ふっと笑んでピアに軽いキスをし、再び彼女の体を横たえさせた。そしてベッドの脇に立ったアンソニーは鞭を取ったと思うと、いきなりピアの無防備な脇腹を打った。反射的にピアの体が弾ける。痛みは軽かったが、ぴしっという音と、そのショックにピアは瞠目した。
「アンソニー……、何をっ……」
「耐えるんだ、ピア。きっとよくなるから……」
 鞭は続けて、腰、腿、乳房、頭上にあげた腕へと降り注ぐ。初めて味わう刺激に、ピアの全身が波打った。そして、アンソニーは手馴れていた。鞭の衝撃から逃げようと体がうねると、すかさず無防備になった場所を狙って打つ。手加減しているのか、激しい痛みはない。鞭の先が当たった肌には、ちりっとした熱が残るくらいだ。峻烈な快感は、未知のものだった。
 だが、家畜のように鞭で打たれるという行為に、ピアの恥辱は一気に膨らんだ。それなのに、体の奥がどんどん火照ってくる。
 彼女は叩かれるたび、苦痛に小さな声を漏らした。だが、彼は打擲の手を緩めない。ぱしんぱしんとリズムよく刻まれる鞭は、次第にピアの思考力を奪っていった。
 打たれた場所から、熱と淡い痺れが広がるのをただ受け入れていると、やがてアンソニーの手が止まった。責め苦が終わったのだとホッとする。
 彼はハアハアと胸を喘がすピアを穏やかな瞳で見下ろし、口角をあげた。
「随分と鞭が気に入っているみたいじゃないか」
 ピアは耳を疑った。自分の苦痛の声は彼の耳に届いていなかったのか。鞭から逃れようと悶えていたのがわからなかったのか。
 ピアがそう訴えるように見つめていると、アンソニーは鞭の先で乳輪の丸い縁をなぞった。その微かな刺激に、鞭で散々打たれた肌がふつふつと粟立った。
「ほら、ここがこんなに硬く張り詰めている。体が喜んでいる証拠だよ……」
「嘘……そんなこと……」
 だが、視線を胸に移したピアは、その先端がアンソニーの言葉通りピンと立ち上がり、鮮やかな赤に染まっているのを見て声を失った。
「やはり、思った通りだ。君はこれが好きなのだよ、ピア。これからもっと気持ちよくなるぞ。さあ、脚を開け」 
 そう言って鞭の先を内腿にぐっと押し付ける。ピアは一瞬躊躇したが、アンソニーの瞳には有無を言わさぬ強さがあった。ピアは諦めて、おずおずと脚を開いた。その中心にすかさず、アンソニーは鞭の先端を潜り込ませた。
「アァン」
 指や舌とは違う感触が秘裂を撫で上げると、ピアは思わず声を漏らした。
「ほら、打たれて君が感じているもう一つの証拠だ」
 アンソニーは鞭の先をピアの顔へ近づけて、軽く揺らす。ピアはその平たい黒革がたっぷり濡れ光っているのを見て愕然とした。アンソニーの、濡れた秘園に留まる熱い視線に頰が灼け付く。
「そん……な」
「もう少し耐えてごらん。私を信じて……さ、行くぞ」
 ひゅっと宙を鳴らして鞭が振り下ろされ、腿が打たれた。それからアンソニーは連続して胸や腹部、内腿を打ち据えた。その度にピアは両手を頭上にした姿のまま悶え、喘ぐほかすべがなかった。やがて鞭は左右の内腿を集中して責め始めた。柔らかな内腿を打たれるたび、ピアは声を上げた。打たれた場所は熱を持ち、ひりひりと肌を焼いている。そして、不思議なことに、広げた脚の付け根は打たれていもいないのに、同じような熱がこもり、じくじくと疼いていた。まるで鞭に追われた劣情がそこに溜まり始めているように。
 もし、この責め苦の中、いまそこを優しく慰めたら、きっと極上の快感を得られるはず……。そう思うと、無意識のうちにピアはさらに膝を開いていた。その瞬間、アンソニーはクリトリスを打った。刹那、ピアの視界が真っ白になる。
「ああああああっ!」
 ひときわ高い声をあげ、ピアの体が大きく跳ねた。痛みだけではない。いや、痛みよりも衝撃。そこに溜まっていた情欲が鞭によって一気に弾け、快感の波が全身を駆け抜けて行った。ピアは一瞬達してしまったのだ。
 打たれた場所はジンジンと快感の余韻に痺れている。そこを再び鞭が襲う。朦朧としていた意識が再び覚醒し、ピアは壮絶な快感の渦中に投げ出され、呻いた。
 さらにもう一打、もう一打。脚を閉じようとすると、内腿を叩かれる。ピアの体がどんどん火照り、肌に汗が滲んでくる。
 そして打たれながら、「これは罰だ」とも思った。
 家庭教師という身分で、ジュリアスとの行為に魅了され、さらに恋心まで募らせている。そんな浅ましい自分への罰なのだ。それをアンソニーは自分に教えようとしている。そう、自分はジュリアスの気持ちを惑わすようなことをし、彼の輝かしい未来まで奪おうとしていたのだ。大罪だ。そんな罪深い自分は、もっと打たれなければならない。
 ピアはこの時初めて、もっと鞭打ってほしいと願った。
 そして、また、アンソニーに打たれることで罪が簡単に許されると思う自分も、同時に恥じていた。
 こんな浅ましい私は打たれるにふさわしい。
 自分の無力さに絶望しながら、また鞭を受け入れることで別の感覚が目覚めていることも、うっすらと自覚していた。
 ——全てをアンソニーに委ねる心地よさ。
 彼はピアの苦痛も快感もすでに支配している。そして、最後には必ず求めるものを与えてくれる。
 ピアはいつしか頰を濡らしていた。痛みに耐えることの中に、今まで感じたことのない甘美な喜びがあった。
 それから彼はピアを四つん這いにさせてしばらく背中も尻も打った。体を傷をつけることはなかったが、肌は熱く燃えていた。
 体の感覚は打たれた場所の熱を残してほとんど麻痺していて、この刺激が苦痛なのか、快感なのか彼女にはもはやわからなくなっていた。
 その頃のピアはすでに何も考えられなくなっていた。ただ、狂おしいほどにアンソニーを求めていた。
 彼の逞しさ、そして熱を求めて、隘路で渇望が大きく渦巻いていた。鞭での快感は打たれた瞬間に消え、決してピアを満たすことがない。そして、快感に逃げられた体には「満たされたい」という欲求が溜まっていくだけだ。鞭の衝撃が空っぽの体に虚しく響く。
(アンソニー……、どうして。もう、お願い……欲しい、欲しいの……)
 満たされたい、埋め尽くされたい。もはやピアはそれ以外のことは考えられなかった。
「お願い……アンソニー……アン……ソニー」
 喘ぎながら、ピアはいつしかアンソニーの名を呼んでいた。打擲がやみ、彼がベッドに上がる気配がした。
「初めてにしては、よく頑張ったな。やはり私のピアだ……では、ご褒美をあげよう」
 大きな手が、ぐったりとうつ伏せになっていたピアの体を仰向けにし、脚を開いたと思うと同時に、ペニスが花弁を押し広げて一気に侵入してきた。
 その瞬間、今までに味わったことのない強烈な快感が体の底から突き上がってきた。これまでの責め苦が一気に快感へと昇華した瞬間だった。頭の中でまばゆい光が弾け飛ぶ。
「はあああんっ」
 蜜路を埋め尽くす堂々たる存在感に身体をのけぞらせて、ピアは喘いだ。
(ああ、アンソニーが、入ってる……)
 久々の挿入感を噛みしめる。蜜路を広げられ、いっぱいに満たされる感覚は何度味わってもたまらない。
 今までの理不尽な仕打ちも忘れ、身体が一瞬にして濃厚な愉悦で満たされ、四肢に広がってゆく。
「ああ、随分我慢していたのか。もう達してしまったね? いい具合に締め付けてくるぞ」
 ペニスを最奥にとどめたまま、アンソニーは上品な顔を歪めてピアを見下ろした。そして手首のクラヴァットを解いてピアを自由にすると、そのまま乳首に手を伸ばし、キュッキュと強くつまんでそれらを虐めた。すっかり敏感になっている乳首から全身に閃光が走る。もう限界だった。
「お願い……」
 内部でペニスのドクドクという脈動を感じるだけで、快感への欲望が高まっていく。ピアは涙に濡れる瞳で懇願した。狂おしいまでの衝動が抑えきれず、浅ましくも腰が揺れ動いてしまう。
「まったく困った家庭教師だな」
 ふっと薄く笑い、アンソニーはやっと強い律動を始めた。ズンと最奥を突かれ、待ちわびていた快感が全身を貫くと、ピアの口から嬌声がこぼれた。
「あ、いい……気持ちいい……もっと、もっと……」
 ピアの声に合わせて、アンソニーの動きも速くなっていく。いくつもの性感が溶けて混じりあい、一気にピアを追い詰めていく。まさに地獄から天国の心地だった。壮絶な快感が体を震わせ、歯の根が合わない。そして次第にそれが愉悦に変化し、甘くピアを蕩かせていった。
 隘路を強く、そして滑らかに摩擦する感触がたまらない。ピアの中もキュッキュッと収縮し、怒張を絞り上げている。
「あ……いい、すごい……いいの……」
「これが病みつきになってしまったら……君は殿下の手に負えなくなるだろう」
 あまりの恥ずかしさに顔が熱くなってくるが、同時にえもいわれぬ快感が全身を痺れさせた。今やアンソニーは両手でピアの腰を固定し、熟練した男の腰使いで、質量のある安定した速いリズムを刻んで体をぶつけてくる。その度にヌプ、ヌプ、ヌプッと淫猥な音色が室内に響く。その音に、ピアの洩らす歓喜の声が重なった。
「こうして、また君と繋がれるなんて、私は本当に幸せ者だ……」
 アンソニーは想いを丸ごとぶつけるように、一心にペニスを打ち込み続ける。息さえ止まるほどのそれは、苦しさと隣り合わせの官能に満ちていた。
「あ……、そんな…‥っ、はげし……いっ」
 繰り返しやってくる愉悦の波に揉まれ、溺るものが藁をも掴むように腕を伸ばすと、相手は身を屈めてきた。ピアは必死でその体にしがみつく。肌の打ち合う高らかな音が間断なく鳴り響いた。
「あ、あ……も、ああ、ああっ、あ、あ………!」
 ペニスを締め付け、ヒクヒクっと隘路が激しく収縮する。
「私も……だっ、ピア……」
 何度か股間を叩きつけた後、アンソニーはピアの体を強く自分へ引き寄せ、最奥をぐっと突き上げた。これ以上ないほど奥まで埋まったペニスが、熱い精を放つ。
 頭の中でまばゆい光が弾け飛ぶ。たちまち激しい快楽の波がやってきて、ピアは瞬く間に高みへ上り詰めてしまった。
 ふと気がつけば、アンソニーは静かに泣くピアを見つめていた。ピアは涙に濡れる眼で彼を見つめ返した。
「君は今日、全て殿下のためと思って私に体を委ねたのだろうね。その覚悟、殿下への気持ち。正直、私はとても嫉妬している」
 アンソニーは、ぼんやりしているピアの体にガウンを掛け、乱れた髪を優しく撫でた。
「でも、それは今日までだ。君を殿下になど決して渡さないよ。ピア、君は殿下にはふさわしくない」
 そう囁いたアンソニーの瞳に、暗い影が差した。それは今、彼の眼に映る自分の表情だったのだろうか。
 アンソニーが顔を寄せてくる。ピアは目を閉じて薄く唇を開け、温かな相手の唇を受け止めた。





 



 
 



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