蜜は愛より出でて愛より甘し

久保 ちはろ

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(これでようやく、お休みになっていただける……)
 ジュリアスの自慰を目撃し、最初はどうなることかと思ったが、なんとか落ち着かせられた。しかし、ほっとしたのもつかの間、ピアは手の中でペニスが脈打つのに気がつき、愕然となった。
(そんな……、どうして治らないの? なぜ……? だって、アンソニー先生の時はこんなでは……)
 アンソニーの責めは前戯も含め、行為自体は驚くほど長かった。ピアが幾度絶頂に達しても、休むことなく執拗に快感を与え続けられたが、一度吐精すると彼のものは萎えるのが普通だった。時間をおけば復活するのだが、こんな風に吐精の直後でも屹立を保ち続けることはなかった。これが若いということだろうか。突きつけられた無限の性欲を前に、ピアは脅威にさらされる思いだった。
 しかし、同時にそれは彼女自身の欲望が手に負えなくなりつつあるという脅威でもあった。ジュリアスへの愛撫をする間、ピアは昂りつつも、必死で自分の劣情を抑え込んでいたのだった。
 だが、この雄々しいペニスはまるで彼女の本能に挑発するように、手に強い脈動を伝えてくる。
 一度は引いたと思った劣情がむくむくと頭をもたげ、下腹部が疼き始めた。
(もし、殿下に貫かれたら……)
 疾しい想像が頭をよぎり、体が熱くなる。唇をキュッと噛み、太腿を無意識に擦り合わせた。
(何を考えてるの……。私は教える側なのよ)
 慌てて淫らな想像を頭から追い出す。今夜は意外な展開に自分もかなり動揺してしまった。即座に授業を終了させ、一刻も早くこの場を立ち去るのが得策だ。だが、口が乾いて声が出ない。
(早く……お終いにしなきゃ。「よくできましたね」と褒めて、お開きにするのよ……)
 慎しみ深い教師としての自分が強く訴えかける。だが快楽を求めるもう一人の自分が、激しく異を唱えていた。理性と本能の間で心が大きく揺れる。
「あ、あの、先生……、いいですか?」
 葛藤していると、ジュリアスがおずおずと呼びかけた。ピアは我に返り、いつもの授業のように反射的に答えていた。
「あ……はい。ええと……、次は何をお教えしましょうか?」
(ちが……っ)
 過ちに気付き、口を開きかけるが咄嗟に否定の言葉は出てこない。せつな、ずっと不安げだったジュリアスの顔にパッと笑みが広がった。
「でしたら、女性器をきちんと見てみたいです」
「えっ!」
 率直な要望に二の句が継げない。先ほどまであれだけ自分の手でよがり、翻弄されていた少年とは想像もつかないほど、今は冷静に、真顔で要求している。
 もしかして、これがアンソニーの言っていた『賢者時間』というものだろうか。男性は吐精したあと、しばし冷静になる時間があるという。ならば、ジュリアスは今までの劣情を引きずることなく、真剣に学びたいと思っているのだろう。
(どうしよう)
 だが、真っ直ぐな眼差しが彼女の心を揺るがせた。
(そんな目で見られたら、拒否できない)
 つかの間、恥ずかしさと指導者のプライドがせめぎ合っていたが、殿下のためなのだからと自分を説得し、心を決めた。
「殿下はお勉強熱心ですね……。では、しっかり学んでくださいね……」
 あくまで授業の一環だと強調するように言い添え、ピアは少し後ろにずれると、スカートを腰の方までまくりあげた。片足を床に下ろし、もう一方は長椅子の上で膝を立て、ジュリアスに向けて脚を開いた。
 濃厚な麝香の香りが漂う。秘部をひやりと空気が撫で、濡れているのだと改めて自覚した。股間に持って行く右手が、恥ずかしさで震えてしまう。だが、ピアはあくまで教師の態度を保ち、躊躇することなく人差し指と中指でくぱっと割れ目をくつろげた。
「よ、よくご覧になってくださいね……」
 毅然と振る舞おうと努めるが、ピアの頰は火照り、声も掠れている。
「これが先生の花園……」
 あろうことか、ジュリアスはテーブルの燭台を手に取にとり、脚の間に顔を近づけて凝視してきた。
(ああ……、殿下に恥ずかしいところを見られている……)
 息がかかる距離で、しかも蝋燭の灯りの元に観察されるという耐え難い羞恥に、下腹部で疼く劣情が大きくうねる。
 淡く震える花弁の間から、とぷりと愛液が溢れ出す。
「ああ、キラキラ光っていてすごく綺麗で妖艶です……。まさに朝露に濡れたバラのようだ……この濃厚な甘い香りも……たまらない」
(ああ、そんなこと……)
 微細な描写を添えた賞賛の言葉が却って羞恥心を煽る。
「しっかり見て、細部の形状を正しく理解してくださいね……。とても繊細な場所ですし、ここにペニスを奥深く挿入して、受精させるのですから……」
 故意に具体的な言葉を使って説明するが、その時、「奥深く、挿入……受精……」とジュリアスがつぶやき、こくりと小さく唾を飲む音が聞こえた。そして燭台をテーブルに戻すと、さらにピアの脚の間に深く顔を潜り込ませた。心なしか、股間にかかる息がさっきよりも熱くなっている気がする。
(あ……、もしかして、挿入とか受精という言葉に反応してしまった?)
 一般論を説いたつもりだったが、聞き様によっては先を促していると思われても仕方がない。迂闊さに気づいて後悔したその瞬間、敏感な粘膜に、ぬるりとした感触が走った。
「はあんっ」
 ピアは喉を鳴らし、身震いした。
「あっ、……舐めるのはまだ早……っ、あっ、ああんっ」
 ピアがうろたえるのにもかまわず、ジュリアスは素早く舌を使って花弁全体を舐めてくる。突然股間から生じた甘い性感に、ピアは腿をぎゅっと内側に寄せた。柔らかなジュリアスの髪が内腿に擦れ、体が小刻みにわななく。
「だ、だめですっ、やめて……、あん、あああん」
 だが抵抗する声はか弱く、媚びるような響きを含んでしまう。花弁の間で濡れた舌が生み出す甘美な心地に陶酔していると、肉芽の先端をチロチロとくすぐられた。
「はんっ」
 鋭い性感が背筋を貫き、ピアは小さくのけぞった。思わずバランスを崩しそうになり、秘裂を広げていた右手もとっさに座面に着いた。
「あっ、だめっ、そこは……、殿下……んくっ、あん、あっ……」
 喘ぎから余裕が失われ、声が甘く濡れていく。絶え間無く襲う快感の波が頭の芯を痺れさせ、体がひっきりなしに痙攣した。
(あ……この舌の動き……乱暴だけど、すごく気持ちいい……)
 まだ作法を知らないジュリアスが、ピチャピチャと音を立てながら一心不乱に舌を秘裂の間で蠢かしている。その荒削りな愛撫は、もどかしくも、焦らされているような気分にさせられ、ピアの性感を一気に高めていく。
「ああ、なんて美味しい蜜なんだ……」
 ジュリアスは再び全体を舐めてから、花弁に吸い付き、溢れる愛蜜を音を立てて啜り飲んだ。ジュル、ジュルルッっという音が、彼女の羞恥心を掻き立て、劣情を煽る。
(殿下が私の蜜を飲んでいる……。年下の殿下にここまでされて……)
 羞恥のもたらす官能が理性を溶かし、頭の中が桃色に染まっていく。全身に絡みつくような悦楽は、一度味わうと病みつきになることは、アンソニーとの情事を通じて体が知り過ぎるほど知っていた。そして、ジュリアスのぎこちない愛撫にこれだけ感じてしまう自分は、この初日ばかりでなく、この先もますます彼との行為に溺れてしまうのでは、という恐ろしさを覚えずにはいられない。だがその背徳感が却って彼女を昂らせる。
「先生の普段の毅然とした顔も好きですけど、今の表情は特に好きです。潤んだ目とか、赤い頰とかすごく綺麗だ……」
 ふと顔を上げたジュリアスはそう言って微笑んだ。蜜にまみれた唇、そして欲望の光を湛えた瞳がろうそくの光に艶めいている。端正な顔に蠱惑な表情を浮かべたジュリアスの賛美は、それだけでピアの心を一層かき乱した。
「綺麗だなんて……」
 本心からの褒め言葉に胸がときめくも、素直に喜びを示すには抵抗があった。『教える側は相手にのまれてはいけない』これがアンソニーの教えなのだ。
「あの……、いくら舐めても、こんなに濡れているのは……大丈夫ですか? 何か間違っていますか?」
 その言葉に、ピアは全身をさらに火照らせた。ジュリアスが舐めれば舐めるほど、その気持ち良さに蜜を滴らせてしまう、とはいえずにピアは必死で首を横に振った。
「いえ……、大丈夫。間違っていませんよ。これはペニスをスムーズに挿入させるために女性器、つまりヴァギナがその準備をしているのです。気持ちの良い場所を愛撫されれば、自然と粘液が出てくるものなのです」
 あくまで生理学的に説明をするピアの言葉に、ジュリアスは真剣に耳を傾けている。だが、その眼は片時も彼女の秘部から離れない。再び、彼は顔を伏せた。まだ続けるつもりなのだ。彼の息が敏感になった花弁をくすぐり、ピアはぞくりと肌を粟立たせる。
「では、もっと舐めていいんですね。教えてください、先生の気持ちいいところ……」
(そ、そんな……、自分で言うなんて……)
 しかし、それが自分の務めなのだと思い出す。ジュリアスは妻に娶った者を喜ばせ、その心も体も完全に僕にする。それが王であるための一つの義務でもある。性技の乏しい男は大抵陰口を叩かれ、尊敬を失って行く。もっとひどい場合は、近臣や護衛の騎士と関係し、謀反を企むこともある。反面、相手を虜にさせれば、自ずと崇拝される存在となる。単純だが女心を支配するには快楽を身体に深く刻み込み、それなしではいられないほど全てを支配してしまうのが一番効果的なのだ。アンソニーの教えを頭で反芻し、故にこの授業はジュリアスの未来の成功を約束するに必要不可欠なのだと言い聞かせる。
 そして、恥ずかしさで全身を火照らせながらも、ピアは再び右手で花弁を開いて淫芽をむき出した。
「ここを……クリトリス、って言いますが、優しく舐めたり、転がしたり……吸うと、大抵喜ばれます……もちろん、好みは分かれますが」
「つまり先生は、お好きなんですね? このクリトリスが」
 真摯な瞳で念を押され、心を見透かされた恥ずかしさに頰を染めながらも、こくりと頷く。
「わかりました……優しく、ですね」
 にっこりと微笑んだジュリアスが陰核を再び責めてくる。先ほどとは違い、慈しむような穏やかな舌遣いで花芯を根元から刺激してくる。充血して肥大した愛芽を舌で上下左右に嬲び、さらに彼は、同時に指二本を熱く蕩けた膣に挿入して前後させ始めた。たちまち秘部からくちゅくちゅと卑猥な音が鳴る。
「で、殿下……どうし、て? 指……?」
 まだそこまで教えていない。ピアは驚いて声を上げた。
「あ……ここがずっとヒクヒクしていて……、指を入れたら治るかと思ったのですが、気持ちよくないですか? この行為はダメですか」
(ダメ、と言うか……気持ち良すぎてダメ……このままじゃ……)
 隘路の指の存在に、背筋をぞくぞくと駆け上る快感に心を揺さぶられ、つい正直な言葉が口をついた。
「あ……、気持ち、いいです……。えっと、正解……です」
「では、続けますね……中、ヌルヌルしてあったかくて、僕の指も気持ちいいです。本当に、女性は神秘ですね……もっともっと勉強しないと」
 そう熱心に言いながら、再び舌を蕾に押し付けた。指は中を探求するようにそっと一定のリズムで出し入れされている。その鮮烈な愛撫は愉悦を相乗させ、あまりの気持ちよさにピアは身悶えた。頭の奥で白い閃光が走りだす。
「あんっ、そんな……あ、あ、指……だめ、奥……あっ、ああん……」
 必死の思いで制止を訴えるも、甘い声の響きが無垢な少年の劣情を掻き立てるのか、さらに愛撫に拍車がかかる。ジュリアスは舌先で転がし舐めていた先端を、今度は優しく吸ってきた。その繊細な振動に性感が倍増し、ピアの腰はまるで相手の口に押し付けるように浮き上がった。
(はしたない声が出ちゃう……。聞かないで……)
 こみ上げる羞恥に、とっさに右手を口元に持っていった。
 眉根を寄せて、声を殺しながらピアはジュリアスの愛撫をひたすら受け入れる。体を支えているの片腕が震えてきた。もう、限界が近いかもしれない。
「先生、どうしたんですか? 気持ちよくないですか? 涙をためて……痛いですか?」
 ジュリアスは秘部から顔を上げ、指の動きを止めて表情を曇らせた。
 教える側の自分がこれほど翻弄されているなんて知られたら、それこそ家庭教師失格だ。年上で経験者というプライドもある。ピアは努めて平静を装い、苦し紛れに言い訳をした。
「いえ、気持ちいい……のですが、あの……、気持ちよくなり過ぎると、すぐにお終いになってしまいますから、長引かせてもう少し殿下には学習していただかないと、と思いまして」
「そうなんですか……。これがお終いになるのは僕も嫌です。……。ああ、見てください、指がこんな奥まで入る」
 思わず目をやると、指が秘裂の間で大きく前後に動かされる。ぬぷっぬぷっと音を立てながら隘路の入り口から奥まで満遍なく擦る卑猥な様子にピアはますます昂り、思わず目を閉じた。
 指の関節を噛み、ジュリアスの指の動きによってますます増幅する愉悦に対抗する。
 だが、ジュリアスの指はちょうど感じるところを擦り上げ、確実に快感を引きずり出してゆく。必死で耐える体が震え、歯の間から吐息が漏れてしまう。彼は、初めての性行為に対し、好奇心に突き動かされているだけなのだ。だが、そのあまりに熱心な愛撫に、自分も知らない淫らな本性をいまにも暴かれてしまうのではと、追い詰められるような焦燥を覚え、さらに興奮を煽られた。だが、快感に陥落してしまうのは、指導者として早すぎる。ピアは必死で耐えた。
「先生のクリトリス、ぷっくり膨らんで可愛いです。花の蕾と一緒ですね。心を込めて愛でれば、喜んでくれる」
 見上げた彼の目元が嬉しそうに綻ぶ。
(喜んでいるなんて……でも、嬉しいのは本当……)
 胸中を見透かされたような言葉に、頰が熱くなる。
「先生、わかりやすいですよ。本当に素直な人だ……。もっと可愛がりたくなる」
 そう言ってジュリアスはまたも舌先で先端をくすぐってくる。鋭い性感が四肢に広がり、ピアは大きく身悶えた。それから転がすように舌を使われ、甘美な刺激が腰をじんと痺れさせた。
「あ、それ……とても、いいです……、同時に……あっ、気持ちいい……そのまま……」
「このままですね……ああ、その声も淫らで可愛い……もっと舐めてあげますから、声をもっと聞かせて……」
 性感が全身をがんじがらめにし、彼女を翻弄する。断続的に押し寄せる愉悦の波によってもはや理性は蕩け、まぶたに光が明滅する。
「あ、だめ……いっちゃう、あ、も……殿下、私……あ、あん、あっ……」
「いっちゃう……?」
 ジュリアスが澄んだ瞳で見上げてくる。隘路を擦っていた動きがやや緩んだので、ピアは喘ぎながら答えた。
「気をやってしまう……こと、です……気持ち、良すぎて……」
「ああ、そうなんですね。では、存分にいってください……僕の稚拙な愛撫で」
 哀願の響きを含む言葉に、胸の奥が甘く締め付けられ、渦巻いていた性感が一気に頂点寸前まで押し上げられた。ジュリアスは執拗に膣を擦り、先端を唇に含んで揺さぶりをかけてくる。
「あ、ぁあ、あ、あっ……」
 絶頂の予兆を感じ取り、身を強張らせたませたその時、ジュリアスが一層強く淫芽を吸った。
「はあ……、くぅ……んっ!」
 背が弓なり、一瞬頭が白くなり痙攣が体を襲う。ドレスを腰に乱れさせたたま昇り詰めた。
(殿下……殿下に……気をやらされてしまった……)
 至福に包まれながら、羞恥心を噛みしめる。そして、ジュリアスの愛撫と情熱は、アンソニーのそれをも凌駕していると気がついてしまった。もちろん、そんなジュリアの虜になりつつある自分の心と体も……。
 絶頂感が引くと、ピアはぐったりと全身を弛緩させて胸を大きく喘がせた。視点が合わず、視界がまだぼやけている。
「先生のいっているところ、とっても綺麗でした。悩ましくも恍惚とした表情や桃色に染まった肌とか、声にならない声とか……全てに心を奪われました。先生が女神と言われても、僕は決して疑わないでしょう」
 純粋な賛美の声に、霧散した理性が再び姿を成していく。無防備な姿をジュリアスの面前に晒している羞恥に、たちまち頰が火照った。
(そんな……、ずっと見られていたの?)
 再びジュリアスに追い詰められているような気持ちに、胸がざわめく。
(とんでもないことになってしまったけれど、これで終わりだわ……)
 閨の手ほどきを与えるはずが、いつのまにか立場は逆転してしまった。これ以上続けてはいけないと、頭の後ろで警告の声が聞こえる。
「そ、それでは殿下、そろそろ……」
 ピアが身を起こそうとしたその時、不意にジュリアスが長椅子の上で膝立ちになった。
「そろそろ、大事なことを教えてくれますよね……僕、中途半端で授業を終わらせるのが嫌いなんです。ご存知かと思いますが……」
 ハッとなってジュリアスに目をやると、いつのまにかズボンの前をくつろげた彼がピアの脚の間に割り込み、ペニスの先端を泉に宛てがっていた。
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