ELYSIUM

久保 ちはろ

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Part 11-3

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 一方のまどかはまどかで、また一段と熱が上がった気がしていた。
 頬が特に熱い。そして、獅子王の声が何故か低く、甘く脳に直に響く。
 薬を飲めと言われた時に、『飲ませて』と甘えたのは、普段から自分を「鳳乱の腰巾着」のように内心思っているのがわかっていたし、たまに見下した態度を暗にちらつかせるこの男を、少し困らせたいが故に起こった悪戯心からだった。
 それでも、思いも寄らず彼の胸に抱きしめられた時には、甘い旋律が体を走り抜けた。そして耳にかかる彼の息と頭を撫でる手の動きに、下腹がジンと疼いた。
 そして、もっと、もっと彼に近くに来て欲しかった。
 だから、今度は悪戯心ではなく、本当に「おねがい」してみたのだった。
 ただ、彼に触れたい一心で。
 獅子王の唇は温かく、柔らかかった。薬を飲んだ後、相手が身を引く気配を感じ、まどかは素早く彼の頬を手の平で包み、彼を引き止めた。
『まだ。まだちゃんと味わってないの』
 頭の奥の方で声がした。
 自分の声。でも、自分じゃないみたい。それともこれが自分の本音?
 そんなこと、どうでもいい。
 もっと、もっと欲しい。
 体は熱く、何かに取り憑かれたように、獅子王が欲しかった。彼の八重歯は普通のそれよりもやや大きく、先が鋭い。牙のようで、その先端を舌の先で擦ると、そこからじんじんと快感がダイレクトに頭に伝わってきた。そして、獅子王の舌が口内に侵入してきた。しばらく十分にお互いの舌を貪る。
 まどかの呼吸はだんだん乱れ、苦しさから思わずその身を離した。獅子王の少し開いた唇は、まどかの唾液で光っていた。
 視界がぼんやりしていたが、彼の顔も上気しているようだった。
「ちゃんとベッドに上がって?」
 まどかは上目で獅子王を見る。彼は大人しくその言葉に従う。
 それに気を良く、ベッドの上に脚を投げ出している獅子王の上に股がった。彼女の脚の間に、彼の熱くて硬い物が当たった。
 獅子王は黙ったまま、まどかの次の指示を待っていた。彼女は彼のTシャツの裾に手をかけ、ゆっくりと捲り上げた。
「動いちゃダメ。ね、私の言うことだけ聞くの。私に『手を出すな』って鳳乱に言われたでしょ?」
「どうしてそれを……」
「彼のことだもの。そうかな、って……」
 まだ薬は効いていないのだろうか。手は、自分の手ではないようにふわふわ動く。獅子王がゆっくりと腕を上げると、まどかはTシャツを脱がしてしまった。
 獅子王の裸の上半身は鳳乱の細身のしなやかなそれよりも少し厚めで、付くべき場所に見える筋肉の柔らかなカーブは美しかった。
「綺麗」
 小さくため息をつき、まどかは人差し指で胸から腹の筋肉の丘隆をなぞった。そして顔を近づけて、そのなぞった後に舌を這わせた。
 はっと、獅子王の息を飲むのが聞こえ、同時に体がぴくっと小さく震えた。
 まどかは臍の周りを、猫のようにくるくると舐めつつ、手はズボンのボタンを外し、ファスナーを下げていった。
 獅子王は、その様子を微動だにせずただ見ているだけだった。時折、体震わせながら。
 彼女がズボンと下着を下ろす時は腰を浮かせたが、それ以外は指一本動かさなかった。
 彼の昂りは既に硬く、熱く、臍に届くくらいまで反り返っていた。血管が浮かび上がる脈打つものを見て、まどかは深いため息をつく。

 *

 獅子王は、既に考えることを放棄していた。
 今この二人の間で行われている行為がいいとか悪いとか、全く決めようがなかった。
 考えたくもなかった。ただ、まどかの好きなようにさせたかった。
 彼女の望むものを、全て捧げたいと思った。
 ただそれだけだった。
 主導権はまどかにある。
 それだけは、はっきりしていた。

 それを知ってか知らないでか、獅子王が息を殺している間、彼女は脚からズボンを抜き、すっかり裸にしてしまった。
 そして再び獅子王に股がり、ぐっと体を寄せて彼に囁く。彼女の胸の柔らかな温もりが、獅子王の胸に伝わった。
「ねえ、私の裸も見たい?」
 彼の喉頭が大きく上下し、ごくりと唾液を嚥下する音がまどかに聞こえないはずは無かった。
 獅子王はゆっくり頷いた。
 まどかはパジャマのボタンを一つずつ丁寧に時間をかけて外していった。
 白いふっくらと盛り上がる二つの膨らみが現れる。その中心の小さなピンクの突起は既に硬く張りつめている。
 早くそれらを口に含んで吸い上げてやらないと、破裂してしまうのではないか。
 獅子王はそんな風に思った。
 それから彼女は膝で立ち、腰を浮かせると、下着とズボンをゆっくりとずらした。
 二、三日食事をしなかったせいで、すっかり肉の落ちたぺたんとした白い腹は、体のくびれを余計に強調していた。
 面積の狭い、黒々とした草むらが濃い影になっている。彼女がさらに下着を下げた時、一筋の糸が光ったのは気のせいだろうか。
 彼女も裸になってしまうと、獅子王から目を離さずに再び、ゆったりとした動作で脚の上に落ち着いた。
 獅子王のそれは、先ほどよりもさらに熱く、これ以上ないほど張り詰めている。
 まどかは体を徐々に下にずらし、とうとう鼻先を彼の熱いものに押し付けた。
 そして潤んだ目で獅子王を見ながら「これ……、食べちゃってもいいでしょう?」と、小首を傾げた。
 獅子王が黙って頷くと、彼女は大切そうに両手で包み、膨らんだ先端を赤い舌でペロペロと舐め始めた。
「はあっ!」
 予想もしなかったその、峻烈な快感に獅子王は思わず声を漏らした。あの小さな舌からどうやったらこんな凄まじい刺激が生み出せるのか。
 まどかは白く丸い尻を高く突き上げ、獅子王の体の中心に顔を埋めていた。
 そして、脈打つ屹立きつりつに一心に舌を這わせる。根元から、先端まで。充血し、鈍く光る先端まで舌全体で幹を盛んに撫で上げる。
 そのざらつく表面と、湿り気のある温かいその愛撫によって、それはひときわ存在を誇示した。
 まどかは片手を幹に添え、柔らかく手首を上下させると同時に、もう片方の手で袋を包み込む。
 そして先端の亀裂部分に舌を捩じ込み、くすぐった。
「うっ……ふうっ……」
 食いしばった歯の間から、押し殺した声が漏れる。そんな獅子王にまどかは下から視線を投げるが、動きを止めようとはしない。
 先端のくびれをくるくると舐め、唇を押し付け、強く吸い上げる。
「ああっ!」
 稲妻が体を貫き、獅子王の腰がビクッと跳ねた。その勢いで、先端がまどかの口内に姿を消した。まどかは口に含んだペニスを、舌と口蓋を使って丹念に愛撫する。奥まで飲み込み、歯を立てないように、口をすぼめて出し入れする。
 唾液と、獅子王の粘液が混ざり合ったものを音を立てて啜る。口の中も、熱のせいか焼けるように熱かった。
 「はっ……まどか……いい、すごくいい……」
 獅子王は固く目を閉じ、まどかのどんな些細な愛撫も逃さず受けようと、意識をそこだけに集中させる。
 腰にはすでにじんわりと絡みつく快感の渦で痺れ、じわじわと体を浸食しようとしている。まどかは舌を幹に絡ませながら、頭を上下させた。
 リズミカルなその動きに、獅子王の意識が大きく揺らぐ。
「ああ……はぁ……っ」
 獅子王の呼吸が浅く、乱れていく。
「ま……まどか……オレ、もう……」
 獅子王は、無心に愛撫を続けるまどかの頭に無意識に片手を伸ばした。
 艶やかな髪を、快感を紛らわすかのように遠慮がちに撫でてみる。
 だが、本当はそれどころではない。彼はすでに官能のうねりにのまれようとしていた。そしてこのまま走り抜けば……。
 まどかの、根元を握る手にぎゅっと力がこもった。
「くうっ!」
 さらに緊張したペニスが細かく震えると同時に、彼はまどかの頭をそこに押し付けていた。
 『ダメだ』と理性の片鱗が頭の片隅で叫んだが、すでに腰が猛烈に動いていた。ぐちゅぐちゅと、熱く、湿った口内を執拗に犯し続けた。
「んん……んっ!」
 まどかが喉の奥で唸ったのが、先端から直に伝わった。そして、ついに獅子王の腰の動きが止まった。
「く…………はぁっ!」
 ペニスが膨らみ、痙攣した直後、まどかの口の端から白く濁ったものが溢れ出た。
「けほっ、こほっ……」
 まどかは苦しそうに咽せながらも、まだ亀裂から滴る露に、震える舌を這わせる。
 彼女は、やや勢いの弱くなった幹を両手でやさしく支え、もう一度深くくわえ込んだ。
 そして最後の一滴を絞り出すように唇で愛撫しながら、啜り、嚥下えんげする。
 涙目で獅子王を見上げつつ、まだ懸命にペニスに舌を這わせるまどかをぼうっと見つめ、獅子王は壮絶な快感の余韻に浸っていた。
 腰に鈍いうずきが残り、全身の筋肉が弛緩したような気だるさがあった。
「おまえ……めちゃめちゃ可愛いヤツだな……」
 まどかの頭を撫でながら、獅子王はそう言わずにはいられなかった。
 まどかは、嬉しそうにふわりと微笑んだ。しかしその直後、糸がぷつりと切れたように彼女の体が獅子王の脚の上に崩折れた。
 獅子王は驚き、慌ててまどかの肩を揺すった。
「お、おい! 大丈夫か?!」
「ん……」
 閉じられた瞼の長いまつげが震えたが、起きる気配はなかった。
 額に手をやると、心持ちか熱が下がっている気がする。
(……薬が効いてきたのか?)
 そう思っているうちに、彼女の穏やかな寝息が獅子王の耳に届いた。
(寝ちゃったのかよ……)
 安堵と落胆が混ざった複雑な気持ちになる。 
 彼はそろそろと注意深くまどかの下から脚を抜くと、湿らせたタオルを持って、部屋に戻った。
 自分のもので汚れたまどかの口元を丹念に拭う。それからペニスを何度かタオルで撫でると、抜け殻のようなズボンの中のショーツを引き抜き、履いた。
 そして、自分のズボンに重なっているーー自分とまどかの体は重なることはないーーまどかのパジャマを元通り着せた。
 その、しっとりと指の吸い付く柔肌に、自分を埋め込みたい衝動と闘いながら。
 彼女の温かい体を抱きかかえて部屋を出ると、鳳乱のベッドへ横たえた。そっと毛布をその上にかける。
「あいつの匂いがするとこで寝た方が、いいだろ」
 獅子王はベッドサイドに膝をつき、すうすう寝息を立てるまどかの顔を覗き込んだ。
 そして彼女の少し開いた口元に引き込まれる様に身を屈めたその時ーー、
 パン!
 パパパパン!
 乾いた破裂音がして、連続してあがる花火の音が部屋に届いた。
 獅子王は小さくため息をつくと身を起こし、人差し指でふっくらとした唇の輪郭をゆっくりとなぞった。
 彼が静かに部屋のドアを閉めるとき、ブラインドの隙間から花火の赤や緑の鮮やかな光が入り込み、花びらのように床に散った。
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