ELYSIUM

久保 ちはろ

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Part 5-3

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 握られていた手はそのまま指を絡められ、ベッドに縫い付けられてしまう。彼はまどかの体を組み敷いたまま髪に顔を埋め、深く息を吸った。
「まどかの香りだ。たまらない……こんなに近くにいたら……」
 耳元で彼は囁く。息が耳にかかり、くすぐったくてつい首をすくめてしまう。そんなまどかを、彼は体を少し起こして正面から見つめる。
「だから、なるべく避けようとしていたんだ。近づけばこうなってしまうことは分かっていたから……」
 ごめん。と、もう一度彼は耳元で吐息混じりに囁いた。
 それだけで、全てが蕩けそうだ。
 こんなに近くで見る鳳乱。
「近づくな」って言われていたから、いつも遠目から見るしかなかった。長い前髪の隙間から覗く淡い緑の瞳が、今、まどかを映している。
 まどかだけを映している。すっきりとした顔の輪郭。うなじに沿って流れる、シルバーアシュに光る柔らかな髪。シャープな鼻梁。一文字に結ばれた美しい口元からは、これからどんな言葉を紡ぎだすのだろう。
「そんなにじっと見られると、先に進みにくい……」
 彼は苦笑する。
「だって……始めてでしょ。鳳乱の顔をこんなに近くで見るのが……なんか……本当に綺麗。王子様みたい」
 安易な言葉だと思ったけれど、それ以外に彼の容姿を形容する表現が、すでに思考停止した頭には浮かばなかった。
 彼が笑みをこぼす。
「王子なんて、僕はそんなに大人しいものじゃない。今はまどかの全てが欲しくて気が狂いそうだ。顔なんていつでも見られるだろ。だから、もう……僕に身を任せて……嫌と言っても、止めない」
 ゆっくりと鳳乱の顔が再び近づく。
 唇に、彼の唇が触れる。思わず手に力が入ってしまう。すると、鳳乱もきゅっと手を握り返して応じた。
 唇が深く重なり、そっとお互いの舌を求め合い、絡まり合う。少し息苦しさを感じるのは、舌を追いかける、彼のキスがだんだん激しさを増していくから。ずっと探していたものに、やっと逢えた。彼の体温、重なる手の平の感触。肌をくすぐる吐息。全部、ずっと欲しかった。
「あふ……」
 彼が上唇を舐め、吸い上げる。わざとゆっくり歯茎を往復し、まどかの舌を避け、焦らす。その間に絡めていた指はほどかれ、左手はTシャツの下で円を描くようにゆっくりと胸の上を動いていた。
 くすぐったいと同時に、甘い官能の予感がぞくりと全身を駆け抜ける。
 湿った音を立てながら、熱いキスがまだ続く。角度を変えながら、もっと、もっと深く……。
 体の重みを受けながら、解放された手を彼の柔らかな髪の間に差し込み、弄る。まどかも彼の舌を捕らえ、その柔らかく、熱く濡れた、甘い舌を吸ったり、甘噛みしたりと、今までの思いを伝えようとした。彼も応えるように強くまどかの舌を吸う。そして、名残惜しそうに唇が離れる。
 細い糸が二つの唇を一瞬繋ぎ、消えた。
「キスだけで、自分を見失いそうになる……」
 顔を少し上気させた彼が言う。
「わ、私は、ただ鳳乱が欲しくて……すごく、好きで……」
 キスのせいで息があがってしまっている。ぼうっとして、上手く言葉にならない。
 そんなこと言われたら……と、彼は苦笑し、瞼に唇を押し付けた。
「僕は全部、まどかのものだよ。僕も、まどかの全てが欲しい」
 彼は体を起こしてまどかのTシャツを丁寧に脱がせ、下着も腕から抜き取った。二つの柔らかな膨らみが露わになり、その頂には小さな突起がぷくりと張り詰めていた。
「あ……あんまり見ないで……」
 まどかは恥ずかしさに目を閉じ、シーツに顔を埋める。衣擦れの音がして鳳乱の裸の上半身がまどかを包んだ。熱い……。彼の背に腕を回す。
「まどか……好きだ。同じ言葉しか繰り返せないけど……好きだ」
 鳳乱は首筋にキスを落としながら、切なく囁き続けた。
 唇を鎖骨へと、滑らせていく。まどかは胸が苦しくて何も言えずに、ただ彼を抱いている手に力を込めた。
 ちり、とその時、鎖骨の下に痺れを感じた。鳳乱はまどかと目が合うと、悪戯っぽく片目を瞑る。
「僕の印、付けたから。いや、もっと付けるんだけど」
 宣言し、すぐに胸に顔を埋める。そして乳房のその丘の麓でまた強く吸った。
「ああっ」
 小さく肌を吸われるたびに、すごく感じてしまう。
 鳳乱は傷を舐めたときと同じ丁寧さで、乳房を下から上へ舐め続ける。何度も、何度も。両手は、その舌の動きに合わせて、やさしく乳房を揉みしだいている。とうとうその濡れた舌が、すでに固くなっている突起に這わされると、全身に電流が走った。彼はそのまま舌でくるくると転がし、音を立てて強く吸い上げる。
「はあぁっ」
 もう片方の乳首を指でつままれ、押し潰される。
「まどかの胸、すごく柔らかくて、指が肌に吸い付く……夢と一緒だ」
(あの夢……)
 一瞬、おぼろげに記憶が脳裏に浮かんだが、その時、胸を強く揉まれ、記憶は現実となって蘇った。
 彼の手の中でそれは、彼の意のままに形を歪ませる。乳首がツンと、さらにその存在を強調する。
 鳳乱の柔らかな髪が胸をくすぐった。彼は胸の突起を口内で転がし、存分に味わっている。
 左右交互に、平等に。ざらざらとした舌、塗り付けられる唾液そして時折歯を立てて……その変化する刺激が、まどかを一層高みへ引き上げる。
「ああ……あんっ」
 思わず鳳乱の頭を胸に抱え込んだ。
 その間に彼はまどかのパンツのホックを外し、下ろす。
 腕の中にあった頭が下へ移動していく。肌を熱い息でくすぐりながら、濡れた舌で体の中心をなぞり、臍を通り過ぎた。
 その動きと連動しながら温かい手は体のカーブを滑り、残った下着をゆっくりと脱がす。身につけているものが全て取り去られる。彼は体を起こし、眩しそうにまどかを見下ろした。
「やっぱり……すごく綺麗な体だ……あの制服は体の線が出すぎるね。獅子に見せたくなかった」
 まどかは恥ずかしさのあまり、胸を隠そうと手を宙に浮かせた。
「だめ」
 鳳乱はその手をとり、引き寄せてまどかを抱き締めた。
「僕のも、脱がせて」
 頭の上から低い掠れ声がこぼれる。まどかは、膝立ちになった彼のウェストに手をかけ、ゆっくりとイージーパンツを下ろした。下着が現れ、既に前が盛り上がり、その存在を誇示していた。
「全部」
 彼の両手がそっとまどかの頭に添えられ、優しく髪を梳く。繰り返されるその愛撫からは彼の愛情が十分伝わってくる。下着を膝まで完全に下ろすと、彼のペニスは腹に付かんばかりに屹立していた。まどかは思わず高ぶりに触れてみる。
「硬い……」
 彼はまどかの頬に優しく両手を添え、顔を上げさせると、もう一度唇を重ねた。
「まどかが、こんなにしたんだろ」
 彼は目だけで笑う。まどかを再びベッドへ押し倒し、服を全て脱いだ。覆いかぶさり、顔を覗き込む。
「まどか、まさか初めてじゃないよな……」
「ち、違うわよ」
「じゃあ、なんでそんなに可愛いの?」
 『可愛い』と言われて、まるで少女のように胸がときめく。
「すごく……どきどきする……嬉しくて……。こんな気持ちになるのは、初めて」
 鳳乱は鼻と鼻を軽く擦り合わせた。
「それなら僕も、……いや、絶対もっと嬉しい」
 彼の熱く硬いものが下腹に当たり、落ち着かない。早く彼と一つになりたい。体の中心は、彼と肌を合わせているだけで、既にうずいている。
 鳳乱はもう一度、ぎゅっとまどかを抱きしめると、顎から首、肩、胸とキスの雨を降らせながら、中心へ近づいていく。
 まどかはキスをされる度に身を捩(よじ)り、次々と湧き起こる快感の波から浮き上がろうと、頭を仰け反らせた。
「んっ……はぁ……」
 鳳乱が両手で膝を折り、ゆっくり脚を開かせる。そして体を割り込ませた。まどかはシーツを掴む。
 吐息が茂みにかかったと思うと、舌がそっと秘裂を割った。
「はぁん」
 とろりと溢れた蜜が、尻まで伝わる。舌がそれをすくい取る。そのまま舌は花弁の間で蠢き、甘い刺激を与え続けた。その滑らかな舌の動きに、ため息が漏れる。
「どんどん、溢れてくる……」
「やぁ……」
 まどかは身じろぎした。
 しかしすぐに引き戻され、彼は再び、秘部に唇を押し付けた。両手は、太股を触れるか触れないかのもどかしい手つきで、内股を彷徨う。全身に、ぞくぞくと快感が駆け抜けた。
 ふと、彼が身を引く気配を感じ、なんだか急に淋しくなる。それもつかの間、今度は彼の長い指が滑らかに侵入した。
「あん」
 粘膜を擦られる、ぬるりとした感触に思わず腰が浮いてしまう。しかし、すぐに腰に腕が回され、強引に引き寄せられたその拍子に、指がさらに奥に進み入る。鳳乱はまどかの耳たぶを口に含んで、囁いた。
「すごく濡れてる……。音、聞こえる?」
 彼は、わざと卑猥な水音をたて、さらに増やした指で蜜を掻き出すように大胆に動かす。泉は嬉々としてその指を迎え入れ、媚肉は優しく指に絡み付く。
「いや……言わないで……」
 まどかは顔を背け、その音から逃れたい一心で瞼を閉じた。しかし、視界が閉ざされた分だけ中を掻き回す指の存在をより敏感に感じ、蜜の音が脳の中で大きく響いてさらに劣情が煽られた。
「中が、僕を締め付けている……すごく可愛い」
「そ、そんな………っ、ぁああっ……!」
 彼の親指が、敏感な蕾を弾いた。そのまま、そこへ溢れる蜜をリズミカルな動きで塗り付ける。
「んっ、んっ……ふ……っ……」
 まどかは彼の頭を抱えながら、小さく喘いだ。愛撫されている場所から、すでに、体がとろけ始めている。
 体を侵食し始める快感から逃れようと、または追いかけるかのように、彼に抱かれた腰が指の動きに合わせて踊る。
 じゅぷ……という音とともに、急に指が抜かれた。
 一気に広がる空虚。
「いや……鳳乱……」
 小さな声で彼を呼ぶ。思わず涙声になっていた。
「大丈夫……もっと気持ちよくしてあげるから」
 彼は再び大きく脚を開かせ、しとどに濡れた秘部に再び顔を寄せる。唇を媚肉に押し付けては、音をたてて蜜を吸い、舌を深く奥へ割り込ませる。繰り返し繰り返し、たっぷり溢れたそこを攻めるが、まだ蕾には触れようとしない。指とは違う生々しい感触が粘膜を刺激するたびに、まどかはは腰をくねらせ、痛いほどに疼いている欲望の塊に彼を導こうとした。しかし、彼は腿をしっかり押さえて動きを封じる。
「どうして欲しいのか、言ってくれなきゃわからないよ」
 鳳乱は顔を上げて、悪戯っぽく笑った。その唇が妖艶に光っている。視線が熱い。まどかは羞恥に目を伏せた。
「分かっているくせに……」
 それだけ言うのが精一杯だ。
「まどかが、ちゃんと言って」
 潤んだ瞳でまっすぐ彼を見る。
「舐めて、欲しい……」
「どこを?」
 彼は内股の柔らかい場所へ、思わせぶりに歯をたてた。それだけで、快感で肌が痺れる。
「あっ……私の……熱いところ………」
「いいよ……」
 彼は満足げに口角を上げると、再び顔を脚の間に伏せた。そして、ずっと待ち焦がれていた場所にそっと舌を這わせた。
「はぁーーっ……」
 期待をはるかに上回る快感に、声が上擦る。彼は敏感になった陰核を弾き、舌で転がし、押しつけ、擦る。緩急をつけたそのリズムに、腰が合わせて浮き上がる。下腹から生まれる甘美な電流が、幾度も体を貫いていく。
 ぴちゃぴちゃと、彼はわざと音を響かせ、執拗に蕾を辱めた。
「あ……ああっ……ああっ……」
「もっと、声を聞かせて。ものすごく興奮する……」
「気持ちよくて……私……、変になっちゃう……」
 鳳乱は返事の代わりに、ずずっと音をたてて蕾を吸い上げた。
「ひゃんっ」
 駆け抜ける峻烈な快楽に、まどかは思わず腿で彼の顔を挟んだ。彼はそれをもう一度押し広げ、ぐっと上半身を起こした。まどかの唇を求め、舌を押し込む。まどかは彼の頬を両手で引き寄せ、さらに深く、深く舌を貪る。吐息ごと、淫らな音を立てて唾液を吸い合う。
「はぁ……」
 唇が離れ、二人の熱い視線が交わる。
「もう、我慢出来ない……まどかの中に入りたい。……いい?」
「私も……鳳乱が……欲しい、鳳乱でいっぱいにして…………」
 彼は耳の下にキスをした。
「そんなこと言われたら……壊してしまいそうだ」
 彼はまどかの膝を開き、腰をぐっと引き寄せて、熱い屹立を泉の中心に押し当てた。ゆっくりと腰を繰り出す。
 既に濡れそぼっているそこは、難なく彼をのみ込んでいく。
「きつ……。まどか、締め付けすぎ……」
「だって……」
(早く一つになりたい……)
 鳳乱に指摘され、さらに頬が熱くなった。
「温かい……まどかの中……すごく……気持ちがいい」
 彼は瞼を閉じ、彼の全てがすっかり埋まった。まどかの胸も感動で満たされ、震えた。
「動くよ……」
 彼はまどかの腰に手を添えたまま、腰を前後に揺らした。すぐに動きは速くなり、快感の波となって打ち寄せる。
「ん……ふぅん」
 中が掻き回される。ペニスと媚肉を擦り、ぬちゃぬちゃと水音がたつ。彼は入り口ぎりぎりまで己を引き、そして再び奥に打ち付ける。
 何度も、何度も。浅く、深く、深く、浅く。
「あん、ああん……あっ……」
 屹立が、最奥を穿つたびに、声にならない声が押し出される。
「まどか、きつっ……」
「だって……こんな…………気持ちいい……」
「僕も……すごく……はあ……ぁあ……」
 見下ろす瞳に切なさが揺れている。
「あっ……抱いて……鳳乱……強く……」
 体は彼でいっぱいに満たされているのに、二人の距離が淋しくてつい甘えてしまう。
 鳳乱はすぐに覆いかぶさり、強い腕で抱きしめた。まどかも彼の背にしっかりと腕を回す。
 彼が深く、さらに深く突き上げる。激しく揺さぶる。じわじわと波が湧き上がってきた。彼は乳房に歯をたて、乳首に強く吸い付く。熱い舌が乳房を縦横無尽に舐め回す。
「ああっ」
 二人の体は隙間無く重なり、その重みが愛おしく、涙が頬を伝った。彼は腰をさらに激しく打ち続け、擦りつけた。彼の喉からくぐもった声が聞こえる。胸に掛かる熱い息がますます乱れた。
「ああ、いいよ……まどか……」
 名を呼ばれ、何かが、大きな何かが体の中で急激に広がる。
「私……もうっ、いい……っ……」
 強烈な戦慄が全身を駆け抜け、意識が白く散った。
 鳳乱がぐっと最も深い場所を貫いた。
「ああっ!」
「くっ……」
 胸の上でうめき声がして、中で彼が震え、そして弾けた。
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