転生魔竜~異世界ライフを謳歌してたら世界最強最悪の覇者となってた?~

アズドラ

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第146話

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「奥様急いでください!」
 黒い鎧の兵士が女性と少年を急いで馬車へと乗せる。夜に突如巨大な火柱が上がったのだ、危険を感じ主を安全な場所へと非難させるのは当然の務めである。
「どこに行けばいいんだよ……」
 別の兵士が呟いた。
「……とにかく奥様の父上の領地へ行くぞ、そこしかない!!」
 兵士達は各々馬に跨り奥様達の馬車を囲むように位置取り走り出す。
「まったくっ! 何なのですかこれは!!」
「奥様落ち着いてください、今は逃げましょう……」
 焦りで奥様の顔は歪んでいる、無理もない。今頃外と内側から騒動が起きてあの街は大混乱に陥りその間に領主は死にその正妻である奥様がこの裕福な土地を支配する計画だった、そのための下準備は万全だった。
「こんなはずでは……」
 万全、のはずだった……しかし騒動が起こるどころか街に入る前に難民を先導した部隊が居る当りに火柱が上がり街の方も何事もないかのように静かだった。
「速度を上げるぞ、何としても奥様を安全な場所へ……なっ!?」
 一行が速度を上げ、逃走を謀ったその時突風が吹き風とは思えない衝撃と共に先頭を走っていた兵が馬ごと消えさったのだ。
「うぁっ!? 馬がっ」
「落ち着け! 馬を落ち着かせるんだ!」
 突然の出来事に馬達はパニックとなりその場で暴れだした、それを落ち着かせようと立ち往生することになってしまった。
「た、隊長っ!」
「どうした?」
「右側の兵士が見当たりませんっ」
「なにっ? 状況を確認しろ!」
「……」
 隊長はすぐさま指示を飛ばした、しかし返事は返ってこなかった。
「どうした? 返事をっ……!?」
 兵士の方を向いたその時そこには漆黒の翼を広げこっちを睨みつける獅子の体をもつ鷲の怪物、グリフォンが居た……こいつは上空から音もなく高速で降下してきたのだろう、その足元には鋭い爪に貫かれ血を流し真上から潰されたであろう黒い鎧と馬が転がっていた。
「ひっ……ひぃぃぃ!?」
「どうした!? ……これは」
 他の兵士の悲鳴に周囲を見渡し、やっと状況が理解できた。
「これは……無理だな……」
 正面には馬の首を噛み砕き咥えた状態の巨大な白狼、その横には黒いグリフォン、更に周囲には八つの眼を光らせて狙いを定める大きな蜘蛛、その背後では巨大な虫が馬と兵士を大顎で掴みメキメキと何か硬いものが砕けている音が聞こえた。馬はもう恐怖で動かない、護衛対象を守ることすらもう無理だろう……なにせあの黒竜の鱗で作られた強力な装備だったはずなのにそれが呆気なく潰されている、装備による有利なんてない。
「とにかく馬車を守れ!」
 馬を降り、剣を抜いて馬車を中心に囲むように集まる。
「最後まで諦めるな……行くぞ……」
 隊長は必死に声を絞り出す、全員諦めがにじみでているのはわかっている。それでも兵士として戦うしかない、敗北が確定していてもだ……まったく、乗る船を間違えたものだ。
「行くぞ!! 帝国に栄光あれぇぇ!!!」
「「「うおぉぉぉぉ!!」」」
 彼らは立ちはだかる怪物達に剣を向け、最後の一人になるまで戦い抜いたのだった。
「ひぃぃぃぃ!?」
 女性の悲鳴が響き、馬車がクワガタの顎に挟まれバキバキと音を立てて砕けていく。女性達を守っていた兵士は一人残らず地に伏した、最後に残ったのは馬の居ない馬車だった。しかし、その馬車もたった今破壊されるとこだ。
「母上っ!」
「逃げますよ!」
 馬車に乗っていた二人は完全に破壊される前にどうにか這いだし逃げようとする、まぁもちろん囲まれてるんだけどね。
「残念でしたね元夫人」
 そう言いながらイリオとルーフェが歩み寄ってきた。
「貴様らぁ……」
 ボロボロの衣服で這いずる情けない姿を晒しながらもギリギリと睨みつけてくる。
「残念ながら貴女の狙いは全て阻止させていただきましたよ」
「醜い化け物の癖に……」
「貴様の方がよっぽど醜いですよ」
「裏切り者のルーフェリアス……お前は何をしているのだ!!」
「何って最愛の旦那様を愛する妻ですよ?」
 二番目ですがと小声でボソッと悔しそうに呟いたのを聞きイリオはちょっと困ったよう笑った。
「さてと、話を戻しましょうか。」
「くっ……」
「この状況からもう察してるとは思いますけどここで終わりですよ」
「ま、まてっ! 息子は? 息子にはっ!?」
 一応母親ではあるようだ、自分の子供を守ろうという気持ちはあるらしい。
「わかっています。しかし間違いなくこの後主様がすべてを背負ってしまう」
「それだけは嫌なのです、ご主人様は優しいお方です。私達のためなら平気で命を投げ出す程ですからね……」
「お前達は何を言っている!?」
 確かにこの人には理解できないだろう、なにせ結果は既に決まっているのだから。
「恨んでくれて構いませんよ、それに子供の時の記憶って怖いんですよ……特に恐怖、憎しみなど負の感情は特に」
 イリオの眼は冷たかった。息子の方に視線を向けるとその子は涙を流していた、しかしその奥には恐怖、憎しみ、復讐を誓った決意のような物がにじみでている……元々帝国の思想を教え込まれ人以外は全て奴隷、下等生物という考えが基盤となっているのもあるだろうがこの状況だ、誰だろうと恨むのは当然だろう。それが自分達の撒いた火種だろうと……
「だから、恨んでもらって構いません」
 その瞬間彼女達は怒りと恐怖に顔を歪ませる。
「この化け物がぁ!!」
「貴方達も立派な化け物ですよ……さようなら」
 そうつぶっやきイリオをナイフを振り抜いた。あまり後味の良い結果ではないだろう、しかし人の欲望、感情とはどうしようもない事なのだろう……こうしてバンダール領で起きた騒動は幕を閉じたのだった。
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