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7 チートスレイヤー(1)

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「ウンバラバラバラ、ウンバラバラ。悪魔よ、我が声を聞き届けたまえー……、憎き我が敵を滅ぼしたまえー……、ウンバラバラ……ウンバラバラ……」

 漆黒の闇に包まれる部屋。
 床に描かれた六芒星の魔法陣。
 図書館で借りた黒魔術の本を片手に、私は魔法陣の上で呪文を唱える。

「ウンバラバランバ……、悪魔よ、我が声を聞き届けたまえー……」

 私は目を閉じた。
 そして、悪魔のささやきを待って、じっと耳をすませた。

 やがて、声は聞こえてきた。

(ちょっと、ダメだって……)
(いいだろ。俺達もう付き合って三ヶ月なんだしさ)
(ええー。でも、こんなところじゃ、隣に聞こえちゃうよ……)
(隣? 誰かいたっけ?)
(知らなーい。でも、たまに物音が聞こえるから誰か――ちょっと!)
(あはは。隙ありっ)
(もーう……、マーくんったらー……)

 それは、隣の部屋から聞こえてくる、雄犬と雌犬の交尾前の会話だった。
 壁の近くに近寄る私。

「ウンバラバラバラ! ウンバラバラバラ! ウンバラバラバラ!」

(えっ、何!? なんなのこの声!)

「ウンバラバラバラ! ウンバラバラバラ! ウンバラバラバラ!」

(ちょ、やべぇって。いったん出るぞ!)
 隣室を出ていくカップル達。

 八つ当たりを終えてすっきりした私は、魔法陣の横にある白いベッドへと倒れるように寝転んだ。そして、ベッドの脇にある本の山を眺める。

 黒魔術、呪術、禁術……。
 物理攻撃によるマーティの殺害が不可能だと悟った私は、オカルトパワーを試してみることにした――が、結果はわかりきっていた。
 マーティやヒーロー達がこの世界で魔法を使えるなら、原理原則から言って仕組みさえ理解すれば私にも扱えなければおかしいと思った。

 しかし結果は……、である。

 最近特に●●●●化しているこの世界の創造主のことを考えれば、全てがご都合主義ということも十分ありうる。魔法に関する設定など、あまり深くは考えていないのかも知れない。
 だがそうなると、ますますマーティを殺す手段がなくなってくる。

 唯一の救いは、巨乳好きのマーティがセージョにあまり関心をもっていないことだった。けれど、どうしてマーティはヒーローだというのにも関わらず、ヒロインのセージョにフラグを立てようとしないのか。それは、物語の流れから言ってきわめておかしな話だった。

(いっそのこと、セージョを連れて遠くへ逃げるのもいいかもしれない……。けど、どこへ……? マーティがスキルとやらを使えば、簡単に私達を追ってくるかもしれない)

 私はベッドに横たわりながら考え続ける。

 この世界のどこへ逃げたって同じだ。
 物語はどこまでもヒロインであるセージョを追ってくる。
 彼女がヒーローと結ばれて結婚するというバッドエンドを迎えるか、あるいは彼女自身が死ぬというバッドエンドを迎えるか……、セージョにはバッドエンド以外の結末が用意されていないのだ。

 私は思わず溜め息をついた。

 マーティに完敗してからというもの、私は緊張の糸が切れかかっていた。
 色々と考え事をしようとしているうちに、やがて私はうとうとし始め、ついまぶたを閉じた時にそのまま眠り込んでしまった。
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