見つけた、いこう

かないみのる

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「相変わらず不用心だねー可那人くんは」



まとわりつくような不快な低音。

聞き覚えのある声だ。

瞼をこじ開け、顔を確認する。



ああ、お前か。川田五大。



立っていた男は木の棒を投げ捨てて、足元に置いていた五リットルの焼酎のペットボトルを手にした。



「透が世話になったな」



トオル?

あの公園にいた『トオル』のことを言っているのか?

なぜ川田がトオルの名前を知っているのか。

打撃を受けた脳では考えが及ばない。



「透はな───俺の姉ちゃんの子どもだよ」



トオルが甥?


川田はペットボトルの水を俺にかけた。

冷たい水に身体がビクリと反応する。

大きなペットボトルから出る水は、俺の身体を反応させるには十分の量だった。



「おお、本当に透明になるんだな。おもしれえ。透のおかげでお前が水を嫌ってた理由がわかったわー」



───トオルのおかげ?

「お前がどれくらい水を嫌いなのか確かめるためにさ、透にはちょっと悪かったけど、俺が投げた紙飛行機を追っかけさせて池に落ちてもらった。そしたら案の定お前が駆けつけて透を助けに池に飛び込んだ。遠くから見てたけど驚いたぜ?」



川田は持っていたペットボトルを俺に投げつけ、俺の衣服をはぎ取った。

抵抗しようと動いたが、すぐに殴られ、脱力してしまう。

靴や下着も奪われた。

周囲からは、俺の姿は映らない。



「これで誰にも気づかれないな。あ、ネックレスなんて着けてんのかよ。ま、いいか。めんどくせえし」



川田は「お、この靴プラダじゃん!」と言って俺の靴を履いた。

やめろ、それは奈菜からもらったクリスマスプレゼントだ!

やめろ!

しかし身体が動かない。

俺の靴を履いて、俺の衣類を抱えて、川田は去ろうとした。

追いかけたいが身体が言う事を聞かない。



「あ、それとな、いいこと教えてやるよ」


川田は振り返り、不快な笑みを浮かべて言った。



「奈菜は、俺の元カノだ。俺はこれから奈菜のところに行くから。じゃあな、臆病可那人クン」



奈菜?

元カノ?



身体は重くまだ動けない。

頭が正常に働かない。

気ばかり焦る。


奈菜が危ない。奈菜。奈菜。



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