記憶喪失で過去の記憶を失ってしまった双子の姉…妹のことさえも忘れてしまったのは私のせい？

記憶喪失で過去の記憶を失ってしまった双子の姉…妹のことさえも忘れてしまったのはなぜ？

「記憶喪失？姉が、記憶喪失だって言うんですか！？」
「ええ、過去の記憶をすべて失っている状態です」
「そんな！」医師にそう伝えられた私は、ベッドの上に目を閉じて、横たわる姉の美しい寝顔を見つめた。
今にも起き上がり、「おはよう」と挨拶をしてきそうなその顔に、記憶をすべて失ってしまったなど信じられなかった。
「私のことも忘れてしまったのかしら…」
そう思うと、とても悲しくなってしまう。

私たち姉妹の両親は、事故で早くに他界している。
親戚も遠い存在となっていた私たちは、施設で手に手をとり、助け合って生きてきた。
周囲はその姿に感心したものだ。

そんな年頃になった妹の私に、素敵な男性との出会いがあった。
「結婚しよう」付き合って3ヶ月目でいきなりのプロポーズ。
「この人と結婚することになったの」と姉に彼氏を紹介した。
「そう、よかったわね」自分のことのように、姉が喜んでくれたことが嬉しかった。

そんな仲の良い姉妹の関係が音を立てて崩れたのは、今から10年前のことだ。
トイレに入ったとき、ふと棚の上に目を向ければ、そこには姉の携帯が置いてあった。
「お姉さんったら、こんな大事なものをこんなところに置いて…届けなくては」そう思って携帯を手にとった時、画面が点灯した。
「はっ！！」その画面を見て、ひどく取り乱してしまう。
携帯の画面には、姉と婚約者が楽しそうにキスをしている姿が写っていた。
その画面に驚いた私は、床に携帯を落としてしまい、慌てて拾うと画面は割れていた。
割れたままの状態でトイレの棚に置き、足早に去る。
「いや、嫌よ！私はなにも見てないんだわ」そう自分に言い聞かせるようにして、自分の部屋に入った。
そして、ベッドの上へと泣き崩れた。
後から後から涙が溢れ出てくるのだから嫌になる。
「見なかったことにすればいいんだわ…」先ほど見た携帯の待ち受け画面を見なかったことにすればいい。
自分の中で、なにも見なかったことにしてしまえばいいのだ。
この世でたった二人きりの血を分けた姉妹なのだからと思うようにして、ことを荒立てないようにしよう。

そう思ったとき、「ただいまー」姉が元気よく帰ってきた。
「ねえ、いないのー？麻衣の好きなお菓子を買ってきてあげたのよ。一緒に食べましょうよ」どこか上機嫌の話し方にイラついてしまう。
「一人で食べて…」
「ここにいたのね。ねえ、お菓子を買ってきたの。高かったんだから。早く食べなさいよ」上から目線の姉の言葉に、眠っていた怒りの感情が溢れ出す。
「頼んでない！あたし、スイーツなんか頼んでないわ！それに、それに」
「なに？どうしたのよ、そんなに取り乱しちゃって」
「あたしの婚約者に手を出したでしょ！？知ってるんだから、携帯の待ち受け画面になんかにしてね」
「手を出しただなんて人聞き悪いわね、手を出してきたのはあの人よ。ま、あたしの方があなたよりも魅力的なのかしらね。アッハハ」

ドンッ！！
「な、なにをするのよ！！痛いじゃないの！」人の婚約者を奪っておいて、開き直る態度が許せなかった私は、姉を思い切り壁に打ちつけてやった。
「どうして？どうしてなの？今まで私の大切なものを奪ったことなんてないのに、どうして婚約者を奪いとったのよ！」
「だから、あたしは奪い取ってないって、あの人が私を押し倒して、強引にキスをしてきたのよ」
バシンッ
「それ以上言ったら、この手でお姉さんを、お姉さんを殺めてしまうかもしれない」
「ふん、そんなのごめんだわ。あたし、朝が早いから、もう寝なくちゃ」

背中を向ける姉に「待ちなさいよ！」生まれて初めて大きな声で叫ぶ私だった。