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■14.昇り龍①

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星吾と見た昨日の花火大会を思い出し、ルンルン気分で働く私。


「やぁ。るあちゃん。
また来たよ。頑張ってるね。」


その声にギョッとする…。



海の家にやって来た二人組のお客さん。


実は、この二人組……。
バイト初日に声をかけられ、
片方の男性に名前と自宅の電話番号を教えてしまっていたんです。
(アホです。私。)


教えてしまったのは理由がありまして……。


……その日はバイト初日とあって、全然大人の男の人の対処に慣れてなかった…っていうのもあったし、なんといっても彼らの『風貌』が恐ろしくて断ることが出来なかったのです。


声をかけてきた二人組の一人、『谷口』と名乗る20代後半くらいの男性は、背中全面と腕にかけて鮮やかな昇り龍が刻まれていた!
もう一人の人は、記憶にあまりないけれど、この人も背中に模様が入っていたと思う。



谷口さんは、龍さえなければ、ごく普通の青年の様にも見えるが……
物凄く落ち着いた穏やかな話し方で、機知に富んだ会話のセンスから、頭の回転の良い人なんだろうなという印象。

優しい笑みを浮かべる……でもその奥に何かあるような。アチラの業界の方らしい独特な雰囲気を漂わせていた。


お店で横暴な態度をとったことはない。
気前が良いし、良客である。


だけど、私は話しかけられるのが怖かった。彼らがとても苦手だった。


そりゃそうだ。
高校生だもの。
背中に龍なんて怖いに決まってるよね…… 。


「最近、家に帰ってないんだって?」


背中に龍を背負っている谷口さんは、私にそう言った。


谷口さんは、私が教えた自宅の番号に
電話をかけてきていた。


度々電話があり、その都度『今いない』と家族に居留守を使ってもらっていたのです。


「何か家に帰りたくない事情があるの?
俺で良ければ相談に乗るから話してみな。」


嘘をついている事を、この人に悟られてはならない。
下手な言い訳は言えず、返答に困り 

「いえ、心配して下さってありがとうございます。大丈夫です。」

ただ引きつった作り笑顔を向けていた。

だが、きっと彼は気付いていた。
私が居留守を使っている事。
それを咎めないのが怖い。なんだかのまれそう。
谷口さんの雰囲気に。



谷口さんは口を開く。

「いつも、るあちゃんがここで一生懸命働いている姿を見るのが、自分の励みになるよ。
たまには息抜きに一緒に旅行でもどうかな?」

何故か大変、谷口さんに気に入られてしまっている。

「旅行」という言葉にサ​──ッと青ざめる。

どうやったら穏便に断われるのか、未熟な私には言葉が浮かばず、、、


困っていた所に、「おーい!オネェちゃんオーダー!」と、タイミング良く他のお客さんに呼ばれたので、谷口さんに会釈をして、逃げる様にその場を去った。



注文を受け、オーダーを入れに厨房に入ると


「スゲ~。流石ぁ~!モテんじゃんw
なんだって?カワイイって言われたの?」
 

同じくオーダーを入れに来た金髪チャラ男、光くんに、谷口さんと私とのやり取りを空気読めない感じで茶化された。
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