捨てられ聖女は、王太子殿下の契約花嫁。彼の呪いを解けるのは、わたしだけでした。

鷹凪きら

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4章

39 お友達

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「さすがにあそこに乗り込むのは失礼よ、セレナ」
「でもスーリア、こんな機会はめったにないじゃない?」
「そうだけど……ってちょっとっ!」

 声のした方を見ると、シェラたちのいるガゼボへと歩いてくる、二人の女性の姿が見えた。
 それは、見覚えのある――

「王太子殿下、妃殿下、ごきげんよう。お二人でお楽しみのところ申し訳ありませんが、少しお時間をいただけませんか?」

 そう言って、淡い色の長い金髪の女性が、きれいなカーテシーをした。
 彼女は第三王子の妃である、セレナ。
 そしてその隣に並んだのは、第二王子の妃であるスーリアだ。タークブラウンの髪をさらりと揺らしながら、こちらもきれいな挨拶をする。

 二人ともほとんど話したことはなかったが、何度か顔を合わせたことはある。
 そんな王子妃たちが突然話しかけてくるなど、いったいどんな用があるというのか。もしかしたら王太子であるルディオに、何か言いたいことがあるのかもしれない。

 疑問符を浮かべていると、一歩前へ出たセレナが、シェラを見て言った。

「シェラ様、どうか私と……お友達になってください!」
「…………は、い?」

 思わず疑問形で答える。
 状況がのみ込めていないシェラの心情を表すように、その場が静まり返った。

「――ちょっとセレナ!? さすがにそれは直球すぎるわよ!」
「だって、あなたが回りくどい言い方はやめてって言ったんじゃいない、スーリア」
「それは、私のときはやたらと前振りが長かったからよ! 極端すぎるわ」

 なにやら言い合いを始めた二人を茫然と見守る。
 仲がいいのか悪いのか、いやこれは間違いなく仲が良いのだろう。気兼ねなく言い合える間柄というものが、少し羨ましく感じた。

 隣で状況を見守っていたルディオが、くすくすと笑いながら二人に声をかける。

「二人とも、シェラが困っているから喧嘩はその辺にしてもらえないか?」
「すっすみません!」
「謝る必要はない。言いたいことは分かったから、あとはシェラとゆっくり話してくれ」

 そういって、ルディオは立ち上がる。

「私は先に戻るから、あとは……がんばれ」
「え……」

 彼は苦笑しながらシェラの肩をぽんっと叩いて、ガゼボの外へと歩いて行った。

 何をどう頑張るというのか。
 言われた内容は理解できるが、なぜそういう話になったのかが全くわからない。

 一人残されたシェラのもとに二人はやってきて、近くの椅子に腰を下ろした。

「あの、どういうことでしょうか……?」

 素直に疑問を投げかけると、金髪の女性が口を開く。

「突然すみませんでした。私がハスール国から嫁いできたのは、シェラ様もご存じかと思います。他国から身一つで来たゆえ、お友達と呼べる方が少なくて……」
「それで、私にも突然声をかけてきたのよね。あの時は驚いたわ……今じゃいい思い出だけど」

 苦笑しながらスーリアが言った。

「声をかけたのは突然だけど、私はずっとあなたを気にしていたのよ、スーリア。よく庭園で見かけていたから」
「そうだったの?……って今は私たちのことはいいのよ、セレナ」
「そうだったわ……それで、私はもっとお友達がほしくて。せっかく同じ王城で生活しているのだし、シェラ様ともお友達になりたいと思いまして、声をお掛けいたしました」

 状況は理解できた。
 シェラもセレナとは似たような状況であるし、二人が友達になってくれるのであれば、それは願ってもないことだ。

「わたくしも友達と呼べる方がおりませんので、お二人の申し出はとてもありがたいです。こちらこそ、よろしくお願い致します」

 小さくお辞儀をしながら言うと、セレナはとても嬉しそうな笑顔を浮かべた。

「よかったわ! それじゃあ、今度三人でお茶会をしましょう! もちろん、王妃様たちには内緒で」
「そうね、王妃様お二人がいると、ゆっくり話せないもの」

 現在の第一王妃と第二王妃はとても仲が良く、二人が主催するお茶会を頻繁に開催しているらしい。シェラはまだ参加したことはないが、きっとこの二人は何度もお呼ばれしているのだろう。

「わかりました、楽しみにしています」

 笑顔で返すと、スーリアがパンッと手を叩いて言う。

「もうお友達になったのだから、敬語はなしね。名前も呼び捨てで」
「そうね。よろしく、シェラ」

 スーリアの言葉に続くように、セレナが笑いかけた。
 同年代の女性の――というより、友達という存在自体がほぼ初めてできたシェラは、少し戸惑いを感じた。

 しかし、せっかくの機会だ。
 思いきって、ぎこちなく返事をする。

「よろしく。セレナ、スーリア」

 シェラの言葉に、二人は笑顔で返してくれた。

 それから昼食の時間まで他愛ない話をした。
 こんな幸せな時間が、いつまでも続けばいいと思った。

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