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3章
26 王太子殿下と令嬢騎士 ①
しおりを挟む「私と殿下は学院時代からの知り合いなんです」
「学院……ですか?」
温かい紅茶とお菓子を用意してもらい、椅子に座る。
一息つくと、ルーゼが話し始めた。
「はい。アレストリアには15歳から18歳までの若者が通える、王立学院が存在します。殿下と私、それからハランもそこの卒業生です」
なるほど。学院時代からの仲と言われれば、三人が親しいことも納得ができる。
「とある学科の課題で、私は古代魔法について調べておりました。何千年も昔、魔法が一般的に使われていたことは、シェラ様もご存じかと思います」
それは一般的な知識として、誰もが知っていることだ。
かつてこの世界には、魔力と言われる原動力を操れる魔術師が数多くいたと言われている。しかし時が経つにつれて魔術師は減っていき、現代の今では魔法を使えるものはいなくなってしまった。
故に、魔法自体が古代の遺産とされている。
「私は主に戦闘魔法について調べていたのですが、そのために利用した学院の図書室で出会ったのが、殿下です。あちらも同じ課題で利用していたようですが、殿下が調べていたのは古代呪術についてでした」
ルディオとルーゼは同学年のようだし、同じ課題が出されていてもおかしくはない。
一口紅茶をすすって、話の続きを待った。
「何度か顔を合わせるうちに自然と話すようになったのですが、調べていくうちに、呪術と言われているものが魔法の一種だと言うことが分かったのです。私が調べていた戦闘魔法の中にも、呪いによる戦闘術というものが存在していました」
そこまで話して、ルーゼは『おっと』と言葉を切る。
それから申し訳なさそうな顔で言った。
「すみません、余計な話が混ざりましたね。つい懐かしくて……」
「いえ、ルディオ様のことならなんでも知りたいので、昔の話を聞けるのは嬉しいです」
正直、自分の知らないルディオをルーゼが知っていることに、羨ましさを感じる。
だが、一緒に過ごしてきた時間が違いすぎるのだ。ここは彼の新しい情報を得る機会と思って、話の続きを促した。
「呪術が魔法の一種だと分かってから、殿下とよく話すようになりました。お互いに資料を貸し合い、ともに行動することが増えたのです。あくまでも友人関係だったのですが、周りからは付き合っているように見えたようで……」
苦笑を浮かべて、ルーゼは続けた。
「いつの間にか私たちが婚約関係にあるのでは、なんて噂が流れていました。確かに私の実家はそれなりの名家でありますし、実は幼い頃から王太子の婚約者候補だなどと言われていたこともあって、噂が加速したようなのです」
確かに王太子と二人で親しく話していたら、そう思われても仕方がないだろう。その噂が流れることは、ある意味必然だと思えた。
「ですが、私は最初から婚約者にはならないと決めていました。シェラ様の前で言うのは失礼ですが、王妃にはなりたくなかったのです。ああいうめんどうくさい仕事は、私には合わないので」
気持ちはシェラにもわかる。
王妃という立場は、権力と引き換えにある程度の自由も奪われる。ルーゼの性格からしても、たしかに性に合わなそうだ。
「それは噂が立ち始めた頃に殿下にも話し、納得してもらっていました。そもそも殿下自身も私をそういう対象には、全く見ていなかったようです。この話をしたとき、殿下はなんて言ったと思います?」
今度は眉を寄せて、ルーゼは少し怒りを滲ませた表情をする。
「『おまえは私の好みじゃないからありえん』って言いやがったんですよ! さすがに酷いと思いませんか!? 私だって、あんな綺麗すぎる顔の男は好きじゃないって言ってやりましたよ!」
なんというかお互いに好みじゃないと言いながら、ものすごく気は合っている気がする。
思わずつっこみそうになったが、ルーゼの顔が怖すぎたのでやめておいた。
そのかわり、別のことを指摘する。
「ルーゼさんも、とてもお綺麗だと思うのですが……」
シェラはどちらかと言うと童顔なので、ルーゼのように大人の色気のある顔立ちは、羨ましいと思ってしまう。
「ええ、それは自分でもわかっております。ですが、殿下はこの顔も好みではないと言っていました」
本当の美人同士は言うことが違うなと思いながら、シェラは浮かんでしまった疑問を口にする。
「ルディオ様は……どういった女性がお好きなんでしょうか?」
にやりと笑いながら、ルーゼは答えた。
「気になりますか? いま私の目の前にいらっしゃるような、可愛らしいお嬢様が好みだと思いますよ」
「え……え?」
思わず自分を指差して固まる。
うんうんと頷きながら、ルーゼは浮かべた笑みを濃くした。
「はい。ですので、シェラ様が心配されるようなことは一切ございません。メイドたちが言っていたことについても、もともと殿下との噂が立っていたところに私がハランと婚約してしまったので、世間的に都合の良いように解釈されて、殿下が私をふったということになってしまっただけなのです」
なんとなく、事情はわかった。
何故ルーゼではなくルディオがふったことになったのか、疑問が残るところではあるが、一般的に王族との婚約を令嬢側が破棄するとは考えにくい。
結局は噂が独り立ちして、変に尾ひれがついた結果、収まるところに収まったと言うことだろう。
そして、ここまでの話の流れで気になった点がひとつあった。
ルーゼに向き直って問いかける。
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