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3章
25 新しい生活
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ひとり静かな廊下を進む。
窓の外に見える広い庭園はよく整備されていて、真冬だというのに鮮やかに彩られていた。
ヴェータとは違い雪はほとんど降らないらしく、真冬に咲く花々を楽しめるようにしているそうだ。
ここは大国アレストリア。
人々が平和に住まう王都の中心にある、大きなお城。
その王城の廊下を、シェラは一人で歩いていた。
ヴェータを出発してから20日と少し、無事にアレストリアの王城へと到着した。
無事に、という言葉には多少語弊はあるが、国境を越えてからは特に問題のない道のりだった。
ルディオとシェラの体調を考慮して緩やかな進行となったが、大幅にずれ込むこともなく、予定より数日長いくらいの日数で帰城できたようだ。
王城に到着してからしばらくは、目まぐるしい日々が続いた。
事前に連絡はしていたようだが、隣国へと出向いた王太子が妃を連れて帰ってきたのだ。それはもう王城内は大混乱で、シェラ自身も挨拶やらなんやらで様々な場所に出向くことになった。
一番緊張したのは、もちろん現アレストリア国王と王妃との面談である。
敵国ともいえるヴェータから突然王女が嫁いできたのだ。しかも、持参金も何もなく。
当然いい顔はされないだろうと思っていたのだが、それは思い過ごしだった。身ひとつでやってきたシェラを、二人は笑顔で歓迎してくれたのだ。
二人と会う前に、ルディオは両親と話してくると言っていた。
彼が先に事情を説明してくれたのかもしれないが、不安で胸がいっぱいだったシェラは心から胸を撫で下ろした。
用意されていた部屋はルディオの私室の隣で、彼と続き部屋になっていた。
しかし、部屋は近いのに、彼とはもう二週間ほどまとも顔を合わせていない。
それというのも二か月近く城を空けていたせいで、王太子としての務めや政務関係の仕事が山ほどたまっているらしい。
すでに国王としての仕事を、父親からほとんど引き継いでいるからだとも言っていた。
寝る時間も惜しんで捌いているせいか、夜はシェラが寝た後に部屋に戻り、朝はシェラが起きる前に部屋を出ているようだ。
全く顔を見る機会もなく、押しかけても邪魔になるだけなので、大人しくアレストリアの生活に慣れることにした。
今日は普段着や夜会用のドレス、それから日常で必要な生活品などを揃えるために、商人を王城に呼んでいた。
ヴェータから服は何着か持ってきていたのだが、あまり多くの荷物を運べないということで、荷造りは最低限にしていたのだ。
この先ずっと生活するにはさすがに不便なので、まとめて注文するらしい。
ルーゼに付きあってもらい、必要なものを買い揃えたところで、シェラは先に部屋へ戻ることにした。ルーゼは商人と話すことがあるらしく、残っていくみたいだ。
ちなみに、侍女はまだいない。
敵国であるヴェータから嫁いだ王女ということで、侍女の選定は慎重に行っているとルディオが言っていた。不便かもしれないが、しばらくはルーゼが付くので我慢してほしいとのことだった。
シェラとしては初めてきた場所で知らない人間がそばにいるよりは、ルーゼがいてくれたほうが良かったので、特に問題はなかった。
必要最低限のことは自分でできるし、分からないことはメイドに聞けばいい。
最初は広い王城内を歩く際、何度も迷いかけたが、現在はだいたい把握できている。
今も、自室への道のりを一人で歩いていた。
予定していた時間よりも早く終わったので、今日はこれから何をしようかと考えを巡らせているうちに、自室の前に到着する。
扉を開けようとノブに手をかけたところで、中から話し声が聞こえてきた。
「ヴェータの王女様っていうからどんな怖い人がくるのかと思ってたけど、優しそうな人でよかったわぁ」
「ほんとね! 何かと言いがかりをつけて、苛められたらどうしようかと思ってたもの」
どうやら早く戻りすぎたらしく、メイドがまだ部屋の掃除をしている最中のようだ。
ヴェータの王女と言う肩書は、他人からすると相当衝撃が大きいらしく、初めてシェラを見た者は皆委縮してしまう。特に使用人やメイドたちの反応は顕著だったのだが、最近はだいぶ打ち解けてきていた。
「それにしても、あのルーゼ様をふって誰と結婚するのかと思ってたら、まさかヴェータの王女様を連れてくるなんてねぇ」
「まだ19歳でしょ? やっぱり政略結婚かしら」
聞き捨てならない言葉が聞こえた。
ルーゼをふった……?
二人は付きあっていた過去があるのだろうか。
彼女はハランシュカと結婚しているし、そのハランシュカはルディオの腹心の部下だ。
何とも言えない三角関係に、ひっそりと眉を寄せた。
その時、後ろから声をかけられる。
「シェラ様」
思わずびくりと肩を震わせて振り返ると、話題に上っていた人物がそこにいた。
「ルーゼさん……」
「今の、聞いちゃいましたよね?」
彼女はシェラと同じように、眉間にしわを寄せていた。
無言で頷くと、小さく息を吐いてそのままシェラの横を通り過ぎて、扉を開ける。
「あなた達、いつまでやってるの。お喋りしているだけなら、とっとと出て行きなさい」
「ルーゼ様!? すっすみません……」
突然現れたルーゼの声に、メイド二人は驚いた様子を見せ顔色を変えた。一礼して、そのままそそくさと部屋から出て行く。
廊下にきたところでシェラがいることに気付き、さらに顔を青くしていた。
「メイドたちの不手際については、後ほど殿下に報告しておきます」
「い、いえ、わたくしは気にしておりませんので……」
慌てて否定するも、ルーゼはシェラの内心を読んだかのように言う。
「気にしていない、という顔ではないですよ。まあ、シェラ様に免じて、殿下には黙っておきますが」
どうやらはっきりと顔に出ていたらしい。
自分で思っているよりもずっと、メイドが言っていたことが気になっているようだ。
「シェラ様、少しお話をしましょうか」
「はい……」
ちょうどティータイムの時刻と言うことで、ルーゼは別のメイドを呼び、お茶の準備を始めた。
窓の外に見える広い庭園はよく整備されていて、真冬だというのに鮮やかに彩られていた。
ヴェータとは違い雪はほとんど降らないらしく、真冬に咲く花々を楽しめるようにしているそうだ。
ここは大国アレストリア。
人々が平和に住まう王都の中心にある、大きなお城。
その王城の廊下を、シェラは一人で歩いていた。
ヴェータを出発してから20日と少し、無事にアレストリアの王城へと到着した。
無事に、という言葉には多少語弊はあるが、国境を越えてからは特に問題のない道のりだった。
ルディオとシェラの体調を考慮して緩やかな進行となったが、大幅にずれ込むこともなく、予定より数日長いくらいの日数で帰城できたようだ。
王城に到着してからしばらくは、目まぐるしい日々が続いた。
事前に連絡はしていたようだが、隣国へと出向いた王太子が妃を連れて帰ってきたのだ。それはもう王城内は大混乱で、シェラ自身も挨拶やらなんやらで様々な場所に出向くことになった。
一番緊張したのは、もちろん現アレストリア国王と王妃との面談である。
敵国ともいえるヴェータから突然王女が嫁いできたのだ。しかも、持参金も何もなく。
当然いい顔はされないだろうと思っていたのだが、それは思い過ごしだった。身ひとつでやってきたシェラを、二人は笑顔で歓迎してくれたのだ。
二人と会う前に、ルディオは両親と話してくると言っていた。
彼が先に事情を説明してくれたのかもしれないが、不安で胸がいっぱいだったシェラは心から胸を撫で下ろした。
用意されていた部屋はルディオの私室の隣で、彼と続き部屋になっていた。
しかし、部屋は近いのに、彼とはもう二週間ほどまとも顔を合わせていない。
それというのも二か月近く城を空けていたせいで、王太子としての務めや政務関係の仕事が山ほどたまっているらしい。
すでに国王としての仕事を、父親からほとんど引き継いでいるからだとも言っていた。
寝る時間も惜しんで捌いているせいか、夜はシェラが寝た後に部屋に戻り、朝はシェラが起きる前に部屋を出ているようだ。
全く顔を見る機会もなく、押しかけても邪魔になるだけなので、大人しくアレストリアの生活に慣れることにした。
今日は普段着や夜会用のドレス、それから日常で必要な生活品などを揃えるために、商人を王城に呼んでいた。
ヴェータから服は何着か持ってきていたのだが、あまり多くの荷物を運べないということで、荷造りは最低限にしていたのだ。
この先ずっと生活するにはさすがに不便なので、まとめて注文するらしい。
ルーゼに付きあってもらい、必要なものを買い揃えたところで、シェラは先に部屋へ戻ることにした。ルーゼは商人と話すことがあるらしく、残っていくみたいだ。
ちなみに、侍女はまだいない。
敵国であるヴェータから嫁いだ王女ということで、侍女の選定は慎重に行っているとルディオが言っていた。不便かもしれないが、しばらくはルーゼが付くので我慢してほしいとのことだった。
シェラとしては初めてきた場所で知らない人間がそばにいるよりは、ルーゼがいてくれたほうが良かったので、特に問題はなかった。
必要最低限のことは自分でできるし、分からないことはメイドに聞けばいい。
最初は広い王城内を歩く際、何度も迷いかけたが、現在はだいたい把握できている。
今も、自室への道のりを一人で歩いていた。
予定していた時間よりも早く終わったので、今日はこれから何をしようかと考えを巡らせているうちに、自室の前に到着する。
扉を開けようとノブに手をかけたところで、中から話し声が聞こえてきた。
「ヴェータの王女様っていうからどんな怖い人がくるのかと思ってたけど、優しそうな人でよかったわぁ」
「ほんとね! 何かと言いがかりをつけて、苛められたらどうしようかと思ってたもの」
どうやら早く戻りすぎたらしく、メイドがまだ部屋の掃除をしている最中のようだ。
ヴェータの王女と言う肩書は、他人からすると相当衝撃が大きいらしく、初めてシェラを見た者は皆委縮してしまう。特に使用人やメイドたちの反応は顕著だったのだが、最近はだいぶ打ち解けてきていた。
「それにしても、あのルーゼ様をふって誰と結婚するのかと思ってたら、まさかヴェータの王女様を連れてくるなんてねぇ」
「まだ19歳でしょ? やっぱり政略結婚かしら」
聞き捨てならない言葉が聞こえた。
ルーゼをふった……?
二人は付きあっていた過去があるのだろうか。
彼女はハランシュカと結婚しているし、そのハランシュカはルディオの腹心の部下だ。
何とも言えない三角関係に、ひっそりと眉を寄せた。
その時、後ろから声をかけられる。
「シェラ様」
思わずびくりと肩を震わせて振り返ると、話題に上っていた人物がそこにいた。
「ルーゼさん……」
「今の、聞いちゃいましたよね?」
彼女はシェラと同じように、眉間にしわを寄せていた。
無言で頷くと、小さく息を吐いてそのままシェラの横を通り過ぎて、扉を開ける。
「あなた達、いつまでやってるの。お喋りしているだけなら、とっとと出て行きなさい」
「ルーゼ様!? すっすみません……」
突然現れたルーゼの声に、メイド二人は驚いた様子を見せ顔色を変えた。一礼して、そのままそそくさと部屋から出て行く。
廊下にきたところでシェラがいることに気付き、さらに顔を青くしていた。
「メイドたちの不手際については、後ほど殿下に報告しておきます」
「い、いえ、わたくしは気にしておりませんので……」
慌てて否定するも、ルーゼはシェラの内心を読んだかのように言う。
「気にしていない、という顔ではないですよ。まあ、シェラ様に免じて、殿下には黙っておきますが」
どうやらはっきりと顔に出ていたらしい。
自分で思っているよりもずっと、メイドが言っていたことが気になっているようだ。
「シェラ様、少しお話をしましょうか」
「はい……」
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