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2章
24 【閑話】二度寝から目覚めると
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※こちらのお話は、個人的に書きたかったけれど、本編にうまく入れ込むことができなかったものです。
そのため閑話という形で置くことにしました。
※前回のお話と時系列が前後しております。
シェラが川に落ちた翌日、もう一度寝入ってから起きたあとのお話となっております。
-------------------------------------------------------
温かい紅茶を飲みながらほっと一息つく。
川に落ちた翌日、シェラが二度寝から目覚めると時刻はすでに正午近くだった。
先ほど昼食を済ませ、今はベッドに腰掛けながら一休みしている。
「たくさん召し上がりましたね」
「寝過ぎたからか、すごくお腹が空いていて……」
「体調も良くなられたようで、安心しました」
ほほ笑みながらルーゼが食器を片付け始める。
カラになったカップを手渡したところで、扉をノックする音が聞こえた。
「私だ。入ってもいいか?」
扉の向こう側から聞こえてきたのは、ルディオの声だった。
ルーゼが視線で問いかけてきたので、小さく頷く。
「いいわよ」
返事をするとルディオが室内へと入ってきた。その顔色は、なんだか少しだけ青白く見える。
「シェラ……起きてたのか」
彼はベッドに座るシェラを目に留めると、安心したように優しくほほ笑んだ。
「ルーゼ、少し二人にしてくれるか」
「はいはい、ごゆっくり」
食器を持ったルーゼが退室すると、ルディオは早足で近くまで歩いてくる。
そのままの勢いで膝からベッドに乗り上げ、長い腕でシェラを抱きしめた。
「よかったっ……」
震える声でぽつりとこぼし、シェラの前髪に頬を寄せる。
突然の抱擁に驚いていると、彼は熱のこもった吐息を吐き出しながら、さらに腕の力を強めた。
「本当に……よかった」
どうやら相当心配をかけてしまったらしい。あの状況では仕方のないことだが、彼が身を案じてくれたことが素直に嬉しかった。
聞きたいことはいろいろあるが、今は彼の温もりを感じていてもいいだろう。
そう思い、しばらくされるがままに広い胸に埋もれていると、突然ずしりと重みを感じた。
ルディオが急に体重をかけて、シェラにもたれてきたのだ。そのまま押し倒されるようにして、仰向けにベッドに沈む。
「ルディオ様……?」
目を白黒させながら驚いていると、彼が苦しそうに息を吐く音が聞こえてきた。
どうしたのかと、シェラの肩口に埋めていた彼の顔を覗き込む。
顔にかかる長い金色の髪を除けると、あらわになった頬が僅かに紅潮していた。
肩を上下させながら荒い息を繰り返すその様子を見て、まさかと思い指先で頬に触れる。
途端、彼がびくりと身体を揺らした。
冷たいシェラの指が触れたことに驚いたようだ。冷え切った指先に、彼の熱すぎる体温がじわじわと染み込んでくる。
この状態は、どう考えても……
「すごい熱だわ……ルーゼさん!」
大きな声で呼ぶと、すぐにルーゼが戻ってきてくれた。
彼女は扉を開けて開口一番に叫ぶ。
「どうしま……ルディ!? あなたこんな時に何やってるの!?」
シェラに覆い被さるようにしてベッドに倒れているルディオを見て、何やら別の方向に勘違いしたらしい。怒鳴りながら二人のもとまで駆けてくる。
「違うんです! ルディオ様、熱があるみたいで……!」
「……熱?」
一瞬きょとんとした表情を見せてから、ルーゼは慌ててルディオを抱え起こす。
女性と言えど、さすがは騎士だ。上手く体重をかけて、彼をベッドの上に仰向けに寝かせた一連の動作は、とても鮮やかだった。
「本当にすごい熱だわ。あぁもうだから言ったのに……ここで寝かせるわけにも行かないので、ハランを呼んできます。シェラ様、戻るまで殿下をお願いします」
「はっはい」
再び二人きりになった部屋で、彼は薄っすらと目を開ける。
まぶたの下から現れた緑の瞳は少し潤んでいて、見た者の心臓を跳ねさせるような色香を放っていた。シェラももちろんその一人で、こんな時に不謹慎だと思いながらも鼓動は早まるばかりだ。
「シェラ……」
彼はおもむろにシェラの手首を掴んで引き寄せる。
何をするのかと見守っていると、冷たいシェラの手を己の頬にあてがって、ほっと息を吐き出した。
「冷たい……」
もともと手足の先が冷たくなる体質なのだが、今回はそれが幸いしたらしい。
冷えた指先が気持ちいいらしく、彼はルーゼが戻ってくるまでずっと手を握っていた。
些細なことでも、自分を求めてくれたのが嬉しい。
こんな時間がいつまでも続けばいいのにと、そう願わずにはいられなかった。
そのため閑話という形で置くことにしました。
※前回のお話と時系列が前後しております。
シェラが川に落ちた翌日、もう一度寝入ってから起きたあとのお話となっております。
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温かい紅茶を飲みながらほっと一息つく。
川に落ちた翌日、シェラが二度寝から目覚めると時刻はすでに正午近くだった。
先ほど昼食を済ませ、今はベッドに腰掛けながら一休みしている。
「たくさん召し上がりましたね」
「寝過ぎたからか、すごくお腹が空いていて……」
「体調も良くなられたようで、安心しました」
ほほ笑みながらルーゼが食器を片付け始める。
カラになったカップを手渡したところで、扉をノックする音が聞こえた。
「私だ。入ってもいいか?」
扉の向こう側から聞こえてきたのは、ルディオの声だった。
ルーゼが視線で問いかけてきたので、小さく頷く。
「いいわよ」
返事をするとルディオが室内へと入ってきた。その顔色は、なんだか少しだけ青白く見える。
「シェラ……起きてたのか」
彼はベッドに座るシェラを目に留めると、安心したように優しくほほ笑んだ。
「ルーゼ、少し二人にしてくれるか」
「はいはい、ごゆっくり」
食器を持ったルーゼが退室すると、ルディオは早足で近くまで歩いてくる。
そのままの勢いで膝からベッドに乗り上げ、長い腕でシェラを抱きしめた。
「よかったっ……」
震える声でぽつりとこぼし、シェラの前髪に頬を寄せる。
突然の抱擁に驚いていると、彼は熱のこもった吐息を吐き出しながら、さらに腕の力を強めた。
「本当に……よかった」
どうやら相当心配をかけてしまったらしい。あの状況では仕方のないことだが、彼が身を案じてくれたことが素直に嬉しかった。
聞きたいことはいろいろあるが、今は彼の温もりを感じていてもいいだろう。
そう思い、しばらくされるがままに広い胸に埋もれていると、突然ずしりと重みを感じた。
ルディオが急に体重をかけて、シェラにもたれてきたのだ。そのまま押し倒されるようにして、仰向けにベッドに沈む。
「ルディオ様……?」
目を白黒させながら驚いていると、彼が苦しそうに息を吐く音が聞こえてきた。
どうしたのかと、シェラの肩口に埋めていた彼の顔を覗き込む。
顔にかかる長い金色の髪を除けると、あらわになった頬が僅かに紅潮していた。
肩を上下させながら荒い息を繰り返すその様子を見て、まさかと思い指先で頬に触れる。
途端、彼がびくりと身体を揺らした。
冷たいシェラの指が触れたことに驚いたようだ。冷え切った指先に、彼の熱すぎる体温がじわじわと染み込んでくる。
この状態は、どう考えても……
「すごい熱だわ……ルーゼさん!」
大きな声で呼ぶと、すぐにルーゼが戻ってきてくれた。
彼女は扉を開けて開口一番に叫ぶ。
「どうしま……ルディ!? あなたこんな時に何やってるの!?」
シェラに覆い被さるようにしてベッドに倒れているルディオを見て、何やら別の方向に勘違いしたらしい。怒鳴りながら二人のもとまで駆けてくる。
「違うんです! ルディオ様、熱があるみたいで……!」
「……熱?」
一瞬きょとんとした表情を見せてから、ルーゼは慌ててルディオを抱え起こす。
女性と言えど、さすがは騎士だ。上手く体重をかけて、彼をベッドの上に仰向けに寝かせた一連の動作は、とても鮮やかだった。
「本当にすごい熱だわ。あぁもうだから言ったのに……ここで寝かせるわけにも行かないので、ハランを呼んできます。シェラ様、戻るまで殿下をお願いします」
「はっはい」
再び二人きりになった部屋で、彼は薄っすらと目を開ける。
まぶたの下から現れた緑の瞳は少し潤んでいて、見た者の心臓を跳ねさせるような色香を放っていた。シェラももちろんその一人で、こんな時に不謹慎だと思いながらも鼓動は早まるばかりだ。
「シェラ……」
彼はおもむろにシェラの手首を掴んで引き寄せる。
何をするのかと見守っていると、冷たいシェラの手を己の頬にあてがって、ほっと息を吐き出した。
「冷たい……」
もともと手足の先が冷たくなる体質なのだが、今回はそれが幸いしたらしい。
冷えた指先が気持ちいいらしく、彼はルーゼが戻ってくるまでずっと手を握っていた。
些細なことでも、自分を求めてくれたのが嬉しい。
こんな時間がいつまでも続けばいいのにと、そう願わずにはいられなかった。
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