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1 義理の兄が出来ました。
しおりを挟む『ごめん。』
『俺は、あの子のことが好きだから。』
『ごめん。』
初恋だった。
たかが小学生の恋だと、言われるかもしれない。
それでも。それでも。
確かに私は、精一杯の恋をしていた。
高校生になった今も引きずっているくらいには。
『もう、恋なんてしない』と。
思ってしまうくらいには。
あれは、私の全てだったのかもしれない。
彼女を知る人は、きっとこういうだろう。
『漫画の主人公』のようだと。
セミロングの艶やかな黒髪は緩く巻かれている。
黒目がちの瞳は黒曜石のよう。
くるくると変わる表情。
誰に対しても惜しげも無く優しさを与え。
どんな時も笑顔で。
彼女の周りには人が集まる。
それが、佐久間美麗という人間だ。
けれど。
『美麗。』
『俺、お前のこと好きだよ。付き合って。』
「ごめんね。」
明るく笑う彼女は。
どんなに仲の良い男子からの告白でも
どんなに人気な男子からの告白でも
1度も付き合ったことは無い。
「ただいま。」
彼女を迎える声はない。
いつもの事だ。
そして、私は『佐久間美麗』という皮を脱ぐ。
それは私の作り上げた理想。
本当の私は全然そんなものでは無い。
「分かってる。分かってるよ。」
校舎を優しく夕日が照らす。
握りしめるスカートは皺になってしまっている。
精一杯の想いを少女は伝える。
長い、とても長い沈黙。
『ごめん。』
『おれは、あの子のことが好きだから。』
『ごめん。』
少女は、その時初めて知ったのだった。
ああ、私はどうして。
現実を見ていなかったんだろう。
私は、私は。
自分も『主人公』のようになれると思っていた。
ずっと好きでいれば、いつか。
好きな人と両思いになれるものだと。
でもそれは、違ったみたいだ。
漫画の主人公は、良い人ばかりで。
最初から可愛くて。
優しくて。
面白くて。
人の心を掴む人間だった。
元々、叶うはずなかったのに。
もしかしたらと、夢を見ていたことも。
笑いかけてくれることに一喜一憂してたことも。
告白をしてしまったことも。
全部。全部。
恥ずかしい。
恥ずかしい。
恥ずかしい。
惨めで、恥ずかしくて、悲しくて。
馬鹿だなあ。
所詮は、『主人公の友達』のポジションなのに。
主人公のお助け役でしかないのに。
「あの子」は。
私の親友だ。
あの子こそ『主人公』の人間だと思う。
可愛くて、面白くて、自慢の親友。
とても大切な親友。
身の程も、『モブ』としてわきまえなければ。
なのに。
どうして。
どうして。
どうして。
どうして!
あの子ばかり!
私の方が、好きなのに!
生まれたどす黒い感情は、止まらない。
飲み込まれてしまいそうだった。
「聞いてくれて、ありがとう!」
少女は、わらう。
そんなこと思ってすらいないくせに。
それでも、嫌な自分を見せたくなくて。
親友に対して嫉妬する醜い自分を隠したくて。
好きな人には、良いところだけを見せたかった。
だから必死にわらった。
少女の中にあるのは
『親友への醜い嫉妬と。』
『初めての失恋での痛み。』
何度も。
何度も。
あの頃の自分を思い出しては。
その愚かさに。
無邪気すぎるその思いに。
じくじくとした痛みはやまない。
その記憶は美しいものとして風化してくれない。
それは高校生になった今でも。
たとえ見目を良くしても。
良い人であろうと努力しても。
他人から『主人公』として認められたとしても。
醜く愚かな自分を絞め殺すかのように。
現れるのだ。
そして、戒めのようにこう言うのだ。
『自惚れるな』と。
「美麗、あのね。」
「お母さん、再婚をしようと思ってるの。良い?」
久々に見た母は、すごく幸せそうで。
私の答えはすぐに決まった。
「もちろん!!」
「あとね、息子さんがいて。」
「息子!?弟?お兄ちゃん?!」
「ふふ、お兄ちゃん!」
嬉しい……嬉しい。
憧れた、家族。
1人で私をくれた母には感謝しているし
たくさんの愛を貰った。
それでも、1人で待つ家は寂しくて。
おかえりと言ってくれる家族が欲しかった。
そして、初めての顔合わせの日
『はじめまして。詩丘 理人です。』
そう、爽やかな笑顔で言う私の兄は。
私の。
初恋の人だった。
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内容を変えました。
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