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終 いらない恋は大事にまるめて

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 ガシャリと大きな音がしたと思ったら、斜め前にユキが立っている。
 揺らしたブランコから飛び降りたらしい。やっぱり器用だ。
 
「悠」
 
 私を呼んで、ユキは前にしゃがみこんだ。
 視線が合う。
 ユキの口から白い息がこぼれて、それが太陽に反射していた。
 その細かい光のかけらが眩しくて、私は目を眇める。
 
「……何」
「本当に言わなくていいわけ」
「何を?」
「だから……せっちゃんに」
 
 私の手の上からブランコの鎖を掴んだユキの顔。
 目の前にあるのに表情が分からないのは、眩しいからだ。
 手のひらで陽の光を遮ろうと思っても、ユキの手が重なっているせいで手が鎖から離せない。離してと言えば話してくれるだろうけど、そうする気になれなかった。
 
「もしかして……告らなくていいのかってこと?」
 
 ちょっと気まずそうにしながらもユキは頷く。
 
「あのねぇ」
 
 大きくため息を吐きながら、今度は迷わず右手を鎖から離した。何の抵抗もなくユキも手を離してくれることも、知ってた。
 
「おりゃ」
 
 そのまま、思いきりデコピンしてみせる。
 イデッと叫んでおでこを抑えるユキの唇をムニュリと人差し指で抑えると、いつかの私みたいにユキの顔が真っ赤になっていった。
 思わず吹き出してしまう。
 だって、ユキがしてきた時はキザッたらしくて変に似合ってたのに。

「なんだ。やるのは平気でやられんのはダメなんだ」
「その言い方やめろ!」
「今さらだけどおかえしってことで」
 
 柔らかかった唇の感触に動揺しまくっていることを必死に気付かれないようにしながら、私は俯く。
 
「……言わなくていい『好き』ってあるんだよ」
「悠」
「誰も幸せにしない『好き』って、あるんだよ」
「………」
 
 ユキは答えない。
 ブーツの爪先で薄い雪に覆われた地面に、でたらめな画を描いた。ハートでも涙でもない不細工な楕円をひたすらに描いていくうちに、涙が出てきた。
 ずっとずっと考えている。
 自分のものにしたいわけでもない「好き」っていうのは、一体どこにいけばいいんだろう。
 誰よりも幸せになってほしい大事な人と一緒に居ることを選んだ、大好きな人。大好きだった人。
 ガシャッと音がして、また手を重ねられる。
 
「……おまえが言わないって決めたなら、俺はもう何も言わないけどさ」
 
 頭の上から低い低いユキの声が降ってきた。
 
「誰も幸せにしないとか言うな」
「……は?」
 
 顔を上げると、一瞬鏡でも見てるんじゃないかって思うくらい、きっと今の私と同じ顔をしたユキがいて。


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