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7 しろいゆき

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 12月に入ると、あっという間に陽が落ちる。
 節電だとかで、使用していない教室や廊下の電気は消えている。暗い廊下を歩いていくのは少し不気味なくらいで、1年の時に友達と話してた学校怪談を思い出しかけて必死に首を振りながら早足で教室へ向かった。
 教室にだって誰も居ないから、真っ暗なのは変わらない。
 でも、点ける気にもならなかった。
 だってもしもせっちゃんが追いかけてくるような事があったら、教室に居るってバレるから。
 
「電気点けろよ。こえぇわ」
 
 だから、その声がしたと同時にパッと教室が明るくなって、本当にびっくりした。
 窓際の……佐上委員長の席の机に座って、窓の外を眺めていた私は振り返る。誰なのかなんて、声だけでわかっていたけど。
 
「何その顔。せっちゃんとでも思った?」
 
 ユキがそんな風に意地悪く言うのだって、いつもなら笑ってかわせていた。
 でも今は出来ない。
 
「……思ってないし」
「そー? 期待してたって顔してるけど」
「………」
 
 黙ったまま、窓の外に視線を戻す。
 冗談とも本気とも思えないユキの言葉に、どうやって返していいかわからない。ユキとこんな風になるのは嫌で色んなことを誤魔化してきたのに、今まで普通に会話をしていたことが不思議なくらい、ユキとの話し方を忘れてしまった。
 後ろから歩いてくる音がする。
 少し遅れて、紙が揺れる音がした。

「悠。忘れもの」
 
 左肩にヒラリと置かれた紙につられて、また振り返る。
 目の前に『進路希望調査表』と書かれた白紙の用紙が突き出されていた。そのまま受け取る。
 ユキは両手に腰を当ててため息を吐いた。
 
「……せっちゃん、心配してたぞ」
「……うん」
「マジで決めてねーの? せめて進学か就職かくらいさー」
「…………」
 
 家を出ることが出来るんだったら、どっちだっていい。
 それは本音だった。でもそれ以上の理由もある。
 
「……ユキちゃんは」
「は?」
「……ユキは、決めてんの」
「は? 俺? 俺はまー……うん」
「……そっか」
 
 ユキは得意科目がハッキリしてるし、進学でも就職でも自分でちゃんと見つけられる気はしていた。
 
「どっちか気になんねーの?」
「ユキちゃんが言いたいなら聞くけど」
「ひどくね? そんな興味ない?」
「や、そゆことじゃなくて……進路って、軽く聞いていいことじゃないかなって思って」
 
 さっき、最上さんが言ってたことを思い出す。
 選択することで自分の道が少なからず2択のうちに決まっちゃう感じとか、そういうのが怖いって言っていた。私もそう思う。
 興味があるってだけでそっちに進んで、もし後悔したら?
 後戻りはできるの?
 黙って俯くと、髪をグシャグシャにかき回された。

「な、ユキちゃん」
「悠はなー、変なとこクソ真面目だからな」
「ちょっと髪っ、ぐちゃぐちゃになるって」
「頭ん中だけで考え込んでどっかに吐き出すとかってことしねーから、苦しくなるだけだと思うんだけど」
 
 手を掴んで髪から剥がそうとしたけど、ユキの力には敵わない。
 結局されるがまま髪をしばらくの間ボサボサにされて、ようやく解放される。文句を言おうと口を開きかけると、そこにユキの人差し指が置かれた。
 唇に、ユキの、人差し指。シィッてされてるみたいな。
 突然のことで今度は身体が固まった。
 ユキはといえば、二ヒヒと悪戯っぽく笑っている。
 
「顔真っ赤ー。すっげえ」
 
 楽しそうに言ったと思ったら、指を離してもう1回笑った。
 今度はあの目をして、でも口元は笑っている。
 
「声に出して言葉にするだけで、少しは苦しくなくなるって。俺はそうだった」
 
 ……ユキが言っているのは進路のことじゃない。
 
「よく言うじゃんか。言わずに後悔より言って後悔。あ? やらずにだっけ?」
「軽く言わないでよ……」
「え? なに」
「簡単に言わないでよ。言えるわけじゃんバッカじゃないの? 結婚すんだよ?」
 
 我慢できなくて、ユキの声を遮る。
 両手に力がこもった。握りすぎて手のひらが痛いことに気付いてたけど今はどうでもよかった。



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