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4 知ってたよ

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*** 

「は?」
 
 午後1時。
 バイト用のトートを脇にコンビニから出た――ら、変な声が出た。
 出入り口のすぐそばにあるゴミ箱。
 その横に、白いコートの紗柚が立っていた。
 
「あ。ハルちゃんすっぴん? じゃないね、眉毛あるし。髪もしばってるーなんか見慣れないね? でもいいんじゃないけっこう」
 
 マンガみたいに口を開けたまま固まった私のすぐ前まで来て、紗柚は顔をまじまじと見てくる。
 
「来ちゃった、とか言ってみよっか」
 
 いつもの上目遣いで、舌べろを出しながら「テヘペロ」とか言っている。
 間違いなく紗柚だ。
 
「え、は? なんで? え、ここうちの地元だよね? 部活は? てかなんでここ? え、なんでいんの」
「ハルちゃんハルちゃん色々もれてる」
 
 頭がおいつかない。
 なんで紗柚がここにいるの。
 紗柚の家は高校から自転車で15分くらいの、駅近で栄えてるとこにある。
 1年の時何回か通ったことあるけど、けっこうでかくて庭に犬とかいたような、まあまあ金持ちっぽい家だった。
 私の地元の話なんて「田舎」くらいしか話したことないし、知るわけがないのに。
 しかもなんでウチのマンションじゃなくて私のバイト先に?
 
「ハルちゃんこのへんに話せるとこない?」
「え」
「話したいって言うから、来たよ」
「……紗柚」
 
 聞きたい事はたくさんある。
 でもとりあえず、確認したかった。
 
「紗柚、知ってたの」
「……去年から知ってたよ」
 
 紗柚はそう言って、ちょっと寂しそうに笑った。


 コンビニから、歩いて5分にある小さな公園。
 近所のマンションやアパートに住んでるらしい小学生がちらほら遊んでいるだけで、あんまり人がいない。
 まだお昼すぎっていうこともあって、今日はあまり寒くない。テント傘みたいな屋根がついたベンチがあって、日よけにもなるし風よけにもなる。

「ゴメンここでいい?」
 
 紗柚に一応断る。
 寒くないとはいえ、どっかカフェとかに入れたら1番いいことはわかってる。財布も持ってるしお金は問題ない。ただ、私がちょっとカフェに入れる状態じゃない。
 紗柚はジッと私を見た。頭のてっぺんから足の先までみて、納得したみたいに頷いた。
 
「ん、いいよ。ハルちゃんそのかっこじゃカフェはヤでしょ」
「……さすが」
「当然」
 
 コートというか厚手のパーカーだけは普通だけど、問題は中。
 バイト用にしているスウェット地のパンツに地味なカットソー。顔だって眉毛しか書いてない。学校にしていくメイクはほとんどしてないってくらい薄いけど、友達と出掛ける時はそれでも駅ビルの化粧室でメイク直しするくらい気をつけてる。
 一方の紗柚は、膝までの襟付き白コートからエンジ色のタイツが見えていて、足元はショートブーツ。
 多分中はワンピースだ。色まではわからないけど、去年の冬も着回してた紗柚のお気に入りコーデだから、予想は出来る。
 いくら地元の田舎だからって、この差がある友達と一緒にカフェに行くのは嫌だった。
 少し離れた自動販売機でココアを2つ買って、先に座ってもらった紗柚に手渡す。

「え、いいの?」
「わざわざ来てもらったし。……バス代かかったっしょ」
 
 私には定期があるけど、紗柚はない。
 
「あーそれね! ぶっちゃけびっくりした、片道こんなかかったことないよバスで!」
「でしょ」
「じゃーもらうね。いただきます」
 
 紗柚は綺麗に伸ばした爪が割れないよう気を遣いながらも、カシっと音を立てて缶を開ける。
 私はその隣に座った。
 ココアを飲む音と、向こう側で走り回る小学生たちの声だけがする。
 
「………」
「………」
 
 話したいと言ったのは私だし、話さなきゃいけないのも私なのはわかってるけど。
 いきなり来ちゃったって現れたことと、普通に話が出来ていることに、調子が狂って改まった話をする勇気が出てこない。
 とりあえず本題より先に、もう1回確認しようと思った。
 
「えっと、さ、バイト」
「うん?」
「去年から知ってたって」
「あー。去年の夏にさ、このへん通ったの」
「なんか用があって?」
「や、偶然? 家族旅行に出てちょっとしたら腹減ったって弟が言い出して。んで近場にあったコンビニ寄ってさ」
「……で、あそこ?」
「そ。あたしは買うものなかったからママと車で待ってた。で、なんとなーく店内見てたらレジにハルちゃんがいて」
「………」
「ウチってバイト禁止じゃん?」
 
 細いココアの缶を、紗柚の小さな手がぎゅっとにぎる。
 

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