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1 秘密と嘘の違い

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「はい、終了です。後ろから回してください」
 
 試験終了の合図と一緒に、教卓にいるせっちゃんは教室を見回す。
 室内のあちこちからはシャーペンを投げ捨てるような音がして、ギシギシと椅子を揺らす音やため息が漏れていた。
 
「俺今回はあかんわ」
「ハァ? おめーは今回も、だろ?」
「てかさぁ試験時間短いよせっちゃーん」
「そうだよせっちゃーん」
 
 目立つ男子グループが次々に絡みにいくのもいつものことで、せっちゃんもため息交じりに返す。
 
「時間は皆に平等です。あとせっちゃんはやめなさい」
「わりーわりーせっちゃん!」
 
 あいつらが言うことなんて聞くわけないのに、毎回毎回たしなめるせっちゃんに私は感心する。
 内心「クソガキ」くらい思ってないのかな。
 ムカつく客を心の中でバーコードメガネって私が思ったのと同じように。
 
「おい、はるか
 
 後ろから思いきり肩を叩かれて振り向く。
 私より後ろ3人分のプリントを持ってヒラヒラさせながら、呆れ顔のユキがいた。
 
「さっきから呼んでんだけど。早く受け取れよ」
「あーごめんユキちゃん」
「その呼び方はやめろわざとか」
「よくわかってんじゃん」
「おいテメ」
 
 いつものようにギャーギャーうるさくなりそうなユキをシカトしてプリントをさっさと受け取り、前の席の最上もがみさんへと渡す。
 最上さんはちゃんと私の方へ振り向いて待っていてくれていた。
 
「はい最上さん」
「うん。ありがと」
 
 小さいことの積み重ねで人の印象って出来上がっていく。
 あんまり喋ったことがないからますますそうなる。
 1番目立つグループじゃないけどまあまあ目立ち気味に入るように頑張ってる私と、ちょっとオタク入ってるグループにいるけど気にしてない感じの最上さん。
 試験の時くらいしか喋ったことないけど、きっといい子だ。眼鏡じゃなくてコンタクトにしてマスカラつけたら可愛くなるかもしれない。眉毛は綺麗にしてるし薄めのリップしてるし、元は悪くないし。
 とか考えている事を最上さんに知られたら多分、嫌われそうだけど。

「きりーつ」
 
 委員の声でクラスメイト達はだるそうに立ち上がる。
 
「れーい」
「はい、お疲れ様でした」
 
 真面目に礼なんてほとんどしてない私たちにも、せっちゃんは毎回こう言う。
 集まった答案用紙の角をトンと教卓に立たせて合わせ、いつも持っている抹茶みたいな色のファイルに挟んで教室を出ていった。
 
「あーダル」
「終わったーーーーー」
「フリーだーー!」
「あー肩イッテェ」
「どうする? 帰りどっか寄ってく?」
 
 途端に騒がしくなる教室の窓際で、私はシャーペンを筆箱にしまいながら窓の外を見る。
 2学期の期末が終わった。2者面談が待っている。


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