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悪役令嬢は『選ばれし者』達と作戦を練る
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チシャ村に戻るとレオンはすぐに『選ばれし者』達を食堂に集めた。
待機組はレオンの表情を見てあまり良い報告ではないと悟る。
緊張感が漂う中、レオンは全員の顔を見渡して口を開いた。
「今から話す内容は国家機密に関わることだ。それを踏まえた上で聞いて欲しい」
皆がコクリと頷くのを確かめるとレオンは話し始めた。
「オーク達が隠していたのは洞窟だ。正確にはその洞窟の奥にある巨大な黒曜石。……その黒曜石の中には魔王が封印されている」
魔王という言葉にアンネとユーリを除く面々が反応する。
皆チシャ村の近くに『魔王の森』があることは知っていたが、その森がなぜ『魔王の森』と呼ばれているかまでは知らないということに気づく。
今回の事で勘の良いエーリヒやダニエルは国の上層部が情報操作をしていたのだろうというところまで推測できた。
ダニエルはふとあることが気になった。
「魔王の森に入る冒険者や騎士達もそのことを知らないのですか? もし、知らずに封印を解いたりしたら大変なことになるのでは……」
レオンは首を横に振って答えた。
「大聖女が施した封印だ。そう簡単に解けることはない。それに、あの洞窟まで辿り着ける者は限られている」
なるほどとダニエルは頷く。
魔王の森にいる魔物達は魔王を守るように、魔王の復活を待ち望むように常にそこにいる。
冒険者や騎士達は人間に害になりそうな魔物を倒すので精一杯。奥まで探索する余裕はない。
万が一そこに到達した者がいたとして、それ程の実力者を国が放置するというのもありえない。
「なおのことあそこにいた人間達が洞窟に出入りしていた理由が気になるな」
腕を組みながら呟くノイ。その内容に皆は目を見開く。
「あの」
パートが声を上げた。自ずと皆の視線がパートに集まる。
「僕、彼らに見覚え、というか匂い覚えがあります」
「本当か?!」
レオンに聞かれ、パートはノイをちらりと見た。ノイが同意するように頷く。
パートはレオンの目を真っすぐに見返した。
「彼らの中に獣人国とゲーデル王国を陥れようとした者と同じ匂いの者がいました」
その言葉を聞いてレオンの眉間に皺が寄った。
「彼らがどこの国の者なのか、何を企んでいるのかを早急に知らべる必要があるな」
「夜にあの洞窟に忍び込んでやつらを捕縛して聞き出すのはどうですか?」
カイが手を上げて提案する。
それにレオンが答える前にノイが追加の情報を出した。
「外の見張りや中の人間をどうにかするのは可能だろう。だが、あの奥からは人間に混じってオークの匂いもあった。そちらをどうするかが問題だ」
「あの洞窟の中で人間とオークが共存しているというのか?!」
前のめりになって尋ねるエーリヒ。その反応にノイは『なんだこいつ』と顔をしかめ、レオンを見た。レオンは苦笑しつつも首を横に振る。
ノイはその反応からエーリヒには関わらない方がいいと判断した。
エーリヒとは違う理由ではあるがユーリもあの狂暴なオーク達が人間の出入りを許しているというのは気になっていた。
皆が口を閉ざして思案している中、一人の声が響く。
「彼らは隣国の者です」
皆の視線がアンネに集まった。その視線にアンネはビクリと身体を揺らす。
言葉に詰まっていると机の下でユーリの指がアンネの手の甲をノックした。
ちらりとユーリを見る。ユーリはアンネを見て頷いた。
不思議とそれだけで安心する。
アンネは姿勢を正して再び口を開いた。
「彼らは隣国、アズールの者です。アズールの上層部は魔王を復活させようと企んでいます」
その言葉に皆の顔が一気に険しくなった。
「それは本当か?」
レオンは真偽を確かめようとアンネの顔をジッと見つめる。
現在、ゲーテル王国は隣国とは少なくとも表面上は敵対していない。確かな情報で無ければ動けない。下手をしたら戦争になる。
アンネもそのことはわかっているのだろう。
震える拳を握りしめながら、それでもレオンの目を真っすぐに見つめ返して言った。
「予言で知った情報です。……証拠を提示しろと言われたら難しいですがあの洞窟を調べていただけたら何かしらの物証は出てくると思います」
そうかとレオンは頷きアンネから視線を逸らす。ホッとしてアンネは小さく息を漏らした。
それにしてもとノイは呟く。
「アズールは魔王を復活させてどうするつもりなのだ。被害をこうむるのはアズールも一緒だろうに」
ノイが理解に苦しむと唸っているとアンネがその答えをさらりと口にした。
「それは、彼らが魔王を操れると思っているからですね」
「何?」
厳しい視線がアンネに向けられる。アンネは微かに震えながらも視線を逸らさずに答えた。
「彼らは独自に魔物を操る技術を編み出しています」
「なるほど。それで、オーク達は彼らを襲わないのか」
エーリヒのつぶやきにアンネはコクコクと頷く。
「魔物が操れるから魔王も操れると思ったのか」
ノイの言葉にアンネは頷く。
「愚かな」
ノイが喉の奥から唸り声を上げた。ビクリとアンネの身体が揺れる。
「どちらにしろ早急に彼らを捕縛する必要があるな」
ぽつりとレオンが呟く。
その言葉を聞いてアンネは肩の力を抜いた。
『聖女の予言』を信じてもらえるか不安だったが、なんとかあの洞窟に行かせることはできそうだ。
半信半疑の人達もいるだろうが、それでもかまわない。
あの洞窟に行かせることができれば。
「と、なると。やはり、オークが邪魔だな」
ユーリのつぶやきにアンネが応えた。
「それなんだけど、私に一つアイデアがあるわ」
アンネはユーリにだけ言ったつもりだったのだが、皆からの視線を浴びて思わず言葉に詰まる。
皆アンネのアイデアとやらを待っている。
アンネは仕方なく皆にも話すことにした。男性陣から視線をそっと逸らして。
「その……チシャ村には害獣を自分達で狩って食べる習慣があるの」
可憐なアンネから出た言葉にカイは目を見開く。
一方でユーリやレオンはなるほどと頷いて話の先を促す。
「生け捕りにすることも多いんだけど、そういう時は眠り玉を使うの。この森にいる害獣は魔の影響を受けているものばかりだから市販のものではなく、私達が調合した特別な眠り玉を。その害獣に効く眠り玉ならオークにも効くと思う。もちろん、オーク用にさらに強力なものに調合する必要はあるけど」
なるほどとユーリは呟く。乙女ゲームの知識があるアンネが言うのならば使えるのだろう。
「チシャ村出身で、聖女であるアンネが作ったものなら効き目は期待できるな」
ユーリの一言がダメ押しとなり、アンネ特性眠り玉を使った作戦を試すことになった。
粗方の作戦は決まり、早速アンネは調合するために自宅に帰ることになった。
ユーリは手伝いをかってでた。カイも名乗りを上げたが、男性を部屋に入れるのはちょっととアンネに断られてガクリと肩を落とした。
――――――――
「狭い家だけどどうぞ」
「お邪魔します」
ユーリはアンネの家へと足を踏み入れた。
確かに狭いが綺麗に整理されている。
アンネらしい家だなと感心していいると調合室へと入った途端ユーリは圧倒された。
整理はされているものの、室内は材料や器具で満たされている。
見渡す限りの光景にユーリの好奇心が刺激された。
「これはすごいな」
「そうでしょ。こうみえて私は薬師としても優秀なのよ」
アンネ曰く、子供の頃から村の薬師達から教えこまれてきたらしい。
特にアンネの光魔法は薬との相性が良く。アンネが作った薬は通常のものより効果が高いそうだ。
ユーリはその話を興味深げに聞いていたが、話の途中でふとあることを思いついた。
アンネはユーリの提案に目を瞬かせ、思案し、頷く。
その顔には笑みが浮かんでいる。
それから二人は数時間部屋にこもった。
「でき、た」
「完成、か?」
「ええ!」
二人は顔を合わせて笑みを見せる。アンネは感極まったようにユーリに抱きついた。
突然のことだったがユーリはなんなく抱きとめる。
嬉しそうに頬を染めて笑顔を浮かべるアンネの頭をユーリは撫でた。
「アンネのおかげだ。ありがとう」
「どういたしま、し……て」
「どうした?」
突然様子のおかしくなったアンネの顔をユーリが覗き込む。
ユーリの腕の中でアンネは固まった。その顔はまるで熱が出たかのように真っ赤だ。
ユーリは心配になって手を伸ばした。
アンネは心臓が止まるかと思った。
長い睫毛から覗く紫色の瞳に吸い込まれそうでアンネは目が離せない。
間近で見るユーリの美貌にクラクラする。————柔らかそうなユーリの唇がうっすらと開いた。
その瞬間をアンネはじっと見つめていた。
ガンッと音がした。
二人がほぼ同時に音の鳴った方を見るとそこには険しい表情のレオンがいた。その後ろにはカイもいる。
ユーリは二人の並ならない雰囲気に首を傾げた。
「何かあったのか?」
「何かあっただと貴様っ」
カイが唸り声を上げながら部屋に入ろうとする。
「入らないで!」
アンネの鋭い声が響いた。ぴたりとカイの足が止まる。
ギロリとアンネはカイとレオンに鋭い視線を向ける。
「勝手に家に入ってこないでください! しかも、この部屋は調合部屋なんですよ。貴重な材料がたくさんあるんです。そことか、そことか!」
アンネが指さした先。入口付近に吊るされた草花、籠、どれもカイにはただのゴミにしか見えない。
アンネに注意されなければ気にせず押し入って、貴重な材料を本当のゴミにしてしまっていたかもしれない。
そうなった時のことを想像してカイは青褪めた。
安易に足を踏み入れようとしたことを反省する。
けれど、何故ユーリはいいのかと不満も募った。
それに先程のただならぬ雰囲気はなんだったんだ。カイは無言でユーリを睨みつけた。
せめて文句の一つでも言おうと口を開いたがそれより先にレオンが動いた。
「ユーリ、話がある。こい」
「わかった」
「勝手に入ってすまなかったな」
レオンはアンネに謝罪するとユーリを連れて部屋を出た。
二人の後姿をアンネが複雑そうな表情で見送る。カイはそんなアンネを見て唇を噛んだ。
待機組はレオンの表情を見てあまり良い報告ではないと悟る。
緊張感が漂う中、レオンは全員の顔を見渡して口を開いた。
「今から話す内容は国家機密に関わることだ。それを踏まえた上で聞いて欲しい」
皆がコクリと頷くのを確かめるとレオンは話し始めた。
「オーク達が隠していたのは洞窟だ。正確にはその洞窟の奥にある巨大な黒曜石。……その黒曜石の中には魔王が封印されている」
魔王という言葉にアンネとユーリを除く面々が反応する。
皆チシャ村の近くに『魔王の森』があることは知っていたが、その森がなぜ『魔王の森』と呼ばれているかまでは知らないということに気づく。
今回の事で勘の良いエーリヒやダニエルは国の上層部が情報操作をしていたのだろうというところまで推測できた。
ダニエルはふとあることが気になった。
「魔王の森に入る冒険者や騎士達もそのことを知らないのですか? もし、知らずに封印を解いたりしたら大変なことになるのでは……」
レオンは首を横に振って答えた。
「大聖女が施した封印だ。そう簡単に解けることはない。それに、あの洞窟まで辿り着ける者は限られている」
なるほどとダニエルは頷く。
魔王の森にいる魔物達は魔王を守るように、魔王の復活を待ち望むように常にそこにいる。
冒険者や騎士達は人間に害になりそうな魔物を倒すので精一杯。奥まで探索する余裕はない。
万が一そこに到達した者がいたとして、それ程の実力者を国が放置するというのもありえない。
「なおのことあそこにいた人間達が洞窟に出入りしていた理由が気になるな」
腕を組みながら呟くノイ。その内容に皆は目を見開く。
「あの」
パートが声を上げた。自ずと皆の視線がパートに集まる。
「僕、彼らに見覚え、というか匂い覚えがあります」
「本当か?!」
レオンに聞かれ、パートはノイをちらりと見た。ノイが同意するように頷く。
パートはレオンの目を真っすぐに見返した。
「彼らの中に獣人国とゲーデル王国を陥れようとした者と同じ匂いの者がいました」
その言葉を聞いてレオンの眉間に皺が寄った。
「彼らがどこの国の者なのか、何を企んでいるのかを早急に知らべる必要があるな」
「夜にあの洞窟に忍び込んでやつらを捕縛して聞き出すのはどうですか?」
カイが手を上げて提案する。
それにレオンが答える前にノイが追加の情報を出した。
「外の見張りや中の人間をどうにかするのは可能だろう。だが、あの奥からは人間に混じってオークの匂いもあった。そちらをどうするかが問題だ」
「あの洞窟の中で人間とオークが共存しているというのか?!」
前のめりになって尋ねるエーリヒ。その反応にノイは『なんだこいつ』と顔をしかめ、レオンを見た。レオンは苦笑しつつも首を横に振る。
ノイはその反応からエーリヒには関わらない方がいいと判断した。
エーリヒとは違う理由ではあるがユーリもあの狂暴なオーク達が人間の出入りを許しているというのは気になっていた。
皆が口を閉ざして思案している中、一人の声が響く。
「彼らは隣国の者です」
皆の視線がアンネに集まった。その視線にアンネはビクリと身体を揺らす。
言葉に詰まっていると机の下でユーリの指がアンネの手の甲をノックした。
ちらりとユーリを見る。ユーリはアンネを見て頷いた。
不思議とそれだけで安心する。
アンネは姿勢を正して再び口を開いた。
「彼らは隣国、アズールの者です。アズールの上層部は魔王を復活させようと企んでいます」
その言葉に皆の顔が一気に険しくなった。
「それは本当か?」
レオンは真偽を確かめようとアンネの顔をジッと見つめる。
現在、ゲーテル王国は隣国とは少なくとも表面上は敵対していない。確かな情報で無ければ動けない。下手をしたら戦争になる。
アンネもそのことはわかっているのだろう。
震える拳を握りしめながら、それでもレオンの目を真っすぐに見つめ返して言った。
「予言で知った情報です。……証拠を提示しろと言われたら難しいですがあの洞窟を調べていただけたら何かしらの物証は出てくると思います」
そうかとレオンは頷きアンネから視線を逸らす。ホッとしてアンネは小さく息を漏らした。
それにしてもとノイは呟く。
「アズールは魔王を復活させてどうするつもりなのだ。被害をこうむるのはアズールも一緒だろうに」
ノイが理解に苦しむと唸っているとアンネがその答えをさらりと口にした。
「それは、彼らが魔王を操れると思っているからですね」
「何?」
厳しい視線がアンネに向けられる。アンネは微かに震えながらも視線を逸らさずに答えた。
「彼らは独自に魔物を操る技術を編み出しています」
「なるほど。それで、オーク達は彼らを襲わないのか」
エーリヒのつぶやきにアンネはコクコクと頷く。
「魔物が操れるから魔王も操れると思ったのか」
ノイの言葉にアンネは頷く。
「愚かな」
ノイが喉の奥から唸り声を上げた。ビクリとアンネの身体が揺れる。
「どちらにしろ早急に彼らを捕縛する必要があるな」
ぽつりとレオンが呟く。
その言葉を聞いてアンネは肩の力を抜いた。
『聖女の予言』を信じてもらえるか不安だったが、なんとかあの洞窟に行かせることはできそうだ。
半信半疑の人達もいるだろうが、それでもかまわない。
あの洞窟に行かせることができれば。
「と、なると。やはり、オークが邪魔だな」
ユーリのつぶやきにアンネが応えた。
「それなんだけど、私に一つアイデアがあるわ」
アンネはユーリにだけ言ったつもりだったのだが、皆からの視線を浴びて思わず言葉に詰まる。
皆アンネのアイデアとやらを待っている。
アンネは仕方なく皆にも話すことにした。男性陣から視線をそっと逸らして。
「その……チシャ村には害獣を自分達で狩って食べる習慣があるの」
可憐なアンネから出た言葉にカイは目を見開く。
一方でユーリやレオンはなるほどと頷いて話の先を促す。
「生け捕りにすることも多いんだけど、そういう時は眠り玉を使うの。この森にいる害獣は魔の影響を受けているものばかりだから市販のものではなく、私達が調合した特別な眠り玉を。その害獣に効く眠り玉ならオークにも効くと思う。もちろん、オーク用にさらに強力なものに調合する必要はあるけど」
なるほどとユーリは呟く。乙女ゲームの知識があるアンネが言うのならば使えるのだろう。
「チシャ村出身で、聖女であるアンネが作ったものなら効き目は期待できるな」
ユーリの一言がダメ押しとなり、アンネ特性眠り玉を使った作戦を試すことになった。
粗方の作戦は決まり、早速アンネは調合するために自宅に帰ることになった。
ユーリは手伝いをかってでた。カイも名乗りを上げたが、男性を部屋に入れるのはちょっととアンネに断られてガクリと肩を落とした。
――――――――
「狭い家だけどどうぞ」
「お邪魔します」
ユーリはアンネの家へと足を踏み入れた。
確かに狭いが綺麗に整理されている。
アンネらしい家だなと感心していいると調合室へと入った途端ユーリは圧倒された。
整理はされているものの、室内は材料や器具で満たされている。
見渡す限りの光景にユーリの好奇心が刺激された。
「これはすごいな」
「そうでしょ。こうみえて私は薬師としても優秀なのよ」
アンネ曰く、子供の頃から村の薬師達から教えこまれてきたらしい。
特にアンネの光魔法は薬との相性が良く。アンネが作った薬は通常のものより効果が高いそうだ。
ユーリはその話を興味深げに聞いていたが、話の途中でふとあることを思いついた。
アンネはユーリの提案に目を瞬かせ、思案し、頷く。
その顔には笑みが浮かんでいる。
それから二人は数時間部屋にこもった。
「でき、た」
「完成、か?」
「ええ!」
二人は顔を合わせて笑みを見せる。アンネは感極まったようにユーリに抱きついた。
突然のことだったがユーリはなんなく抱きとめる。
嬉しそうに頬を染めて笑顔を浮かべるアンネの頭をユーリは撫でた。
「アンネのおかげだ。ありがとう」
「どういたしま、し……て」
「どうした?」
突然様子のおかしくなったアンネの顔をユーリが覗き込む。
ユーリの腕の中でアンネは固まった。その顔はまるで熱が出たかのように真っ赤だ。
ユーリは心配になって手を伸ばした。
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長い睫毛から覗く紫色の瞳に吸い込まれそうでアンネは目が離せない。
間近で見るユーリの美貌にクラクラする。————柔らかそうなユーリの唇がうっすらと開いた。
その瞬間をアンネはじっと見つめていた。
ガンッと音がした。
二人がほぼ同時に音の鳴った方を見るとそこには険しい表情のレオンがいた。その後ろにはカイもいる。
ユーリは二人の並ならない雰囲気に首を傾げた。
「何かあったのか?」
「何かあっただと貴様っ」
カイが唸り声を上げながら部屋に入ろうとする。
「入らないで!」
アンネの鋭い声が響いた。ぴたりとカイの足が止まる。
ギロリとアンネはカイとレオンに鋭い視線を向ける。
「勝手に家に入ってこないでください! しかも、この部屋は調合部屋なんですよ。貴重な材料がたくさんあるんです。そことか、そことか!」
アンネが指さした先。入口付近に吊るされた草花、籠、どれもカイにはただのゴミにしか見えない。
アンネに注意されなければ気にせず押し入って、貴重な材料を本当のゴミにしてしまっていたかもしれない。
そうなった時のことを想像してカイは青褪めた。
安易に足を踏み入れようとしたことを反省する。
けれど、何故ユーリはいいのかと不満も募った。
それに先程のただならぬ雰囲気はなんだったんだ。カイは無言でユーリを睨みつけた。
せめて文句の一つでも言おうと口を開いたがそれより先にレオンが動いた。
「ユーリ、話がある。こい」
「わかった」
「勝手に入ってすまなかったな」
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