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悪役令嬢は頭を悩ませる
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人に聞かれたくない話ならば、とユーリが作り出した亜空間にアンネはあんぐりと口を開け固まった。己の魔法がどれほど異質なものかを理解していないユーリにアンネが呆れ顔を向ける。
「ほんと、ユーリってチートもいいとこよね」
「なんのことだ?」
「だってコレ、闇魔法の中でも特上級のじゃない。しかも、展開している間は魔力が消費され続ける実用的じゃないヤツ」
「そうか? 結構重宝しているが……まぁ、確かにこの魔法を扱えるようになるまでは苦労したな。自分を追い込む為に何度ブラックタイガーの群れに飛び込んだことか」
懐かしい思い出に浸り、目を細め頷くユーリは気付かなかった。引き攣った顔のアンネが少しずつ距離をあけている事に。
「話が脱線してしまったな。すまない。話の続きを……って、やけに遠くないか?」
「そ、そんなことないわよ?! 話、そう話ね!」
アンネは前世の記憶を思い出しながら重要となる点のみをかいつまんで話し始めた。ユーリは時折相槌を打つだけで、質問はせずに黙って耳を傾けた。アンネが一通り話し終わると、確認を始める。
「つまり、その乙女ゲームでは『逆ハールート』というのを選択すると最後に魔王討伐イベントが発生するんだな。しかも、攻略対象者全員の好感度がMAXに達していないとバッドエンドで魔王討伐は失敗し、皆が死ぬと」
「そう。最初は逆ハールートがある事を知ってみんな喜んでいたんだけど……好感度MAXじゃないとクリア出来ないとか鬼畜仕様すぎってゲーム会社にクレームもあったみたい。まぁ、その分一人だけを攻略するのはすごく簡単だったんだけど。」
「ふーん……ん?」
首を傾けたユーリにアンネはどうしたのかと尋ねた。
「そういえば、アンネはその逆ハーレムとやらを狙っていたんだよな?」
「最初はね」
「魔王が復活すると知っていたのにか?」
「……正直、楽勝だと思っていたのよ。前世で何度もクリアしていたし……魔王討伐のイベントには抜け道があってね、魔王討伐にはついて行かずに誰か一人を選んで王都に残るっていう選択肢もあったんだよね。だから、最終的に好感度がMAXにできなかったら王都に残ろうかなーなんて……今はもう考えてないですから! オ、オホホホ」
ユーリの侮蔑した視線とぶつかりアンネは慌てて視線を逸らし、空笑いを零した。
それにしても、とユーリは考える。アンネの記憶によると、その乙女ゲームでは学園卒業間際に魔王討伐イベントが発生し、その前兆として中級以上の魔物達が増え始めるいう描写があったらしい。
この世界がその乙女ゲームそのものだとは思わないが、近しい世界だということは理解した。ということは、魔王の復活もありえるということだ。
もし、その時期が早まっているのだとしたら……。
「今、魔王が復活したとすると、どうなると思う?」
「……正直、バッドエンドしか思い浮かばない。今の私についてきてくれる人なんていないでしょうし」
「私も参加するつもりだがそれでも?」
「ユーリがいたら確率は上がるでしょうけど、それでも二人でなんて無謀もいいところ」
「そうか……」
「でも、ほら。魔王が復活し始めてる、っていうのはあくまで私の考えだし。杞憂かもしれないし」
「それならそれでいい。だが、魔王が復活する可能性を否定出来ない以上、備えはあった方がいいだろう。私は引き続きギルドで情報集めをする。アンネは出来るだけ攻略対象者達の好感度をあげていてほしい。私も協力するから」
アンネと今後についてを確認しあった後、亜空間を解除して、その場で解散した。ユーリはアンネの背中を見送りながら、今のうちにレオンにも話を通して味方に引き込んでおいた方が良いかもしれないと考えていた。
アンネが短期間で用心深いレオンの好感度をMAXに出来るとは思えない。他メンバーについてはレオンの一言があれば討伐にはついてきてくれるだろう。
討伐の旅が始まってしまえばこちらのものだ。その旅の途中で攻略者達のレベルを叩き上げてしまえばいいのだから。
「とりあえず、レオンに会いにいくか」
レオンがこの時間どこにいるのか、あたりを付けながら歩き始めた。
レオンはどうやらすでに寮へ戻ってしまったらしい。ちょうど通りかかった生徒に頼んで手紙を渡してもらうことにした。
即席で書き上げた手紙は到底己の婚約者に渡すような代物ではなかった。後日二人で話す時間が欲しいという内容だけを端的に記した手紙だ。
しかし、ユーリが率先して手紙を書き、あまつさえ、わざわざ二人で話したいなんて書いてあるのだ、おそらくすぐにレオンは何かあると気づくだろう。
案の定、手紙を出した翌日には返事があった。次の休みの日に二人で出かけないかというお誘いと共に。離れた席から二人の会話を聞いていたアンネは「何仲睦まじくやってんだよ。ああん?」というジトっとした目をユーリへと送る。
視線に気づき、アンネとレオンの仲を取り持つという約束をしていたことを思い出したユーリは、スマホ代わりのピアスを通じて、慌てて理由を話した。
アンネはぷりぷりと怒りながらもしぶしぶ了承する。アンネ自身も今すぐに好感度を上げるのは無理だと考えていたのだろう。魔王討伐の旅中に急接近を狙うことにしたらしい。「今のうちに女磨きをしておかなくちゃ!」と弾んだ声が聞こえてきて、ユーリは思わず口元を押さえて笑った。隣のレオンから訝しまれたが、何でもないと首を振る。
通信が切れて、ユーリは小さく息を吐いた。
「事の深刻さをアンネは気づいていないのだろうな。……さて、レオンを引き込むにはどう説明するのが良いか」
ユーリは黒板を真っすぐに見つめるレオンの横顔をチラリとみて、頭を悩ませるのであった。
「ほんと、ユーリってチートもいいとこよね」
「なんのことだ?」
「だってコレ、闇魔法の中でも特上級のじゃない。しかも、展開している間は魔力が消費され続ける実用的じゃないヤツ」
「そうか? 結構重宝しているが……まぁ、確かにこの魔法を扱えるようになるまでは苦労したな。自分を追い込む為に何度ブラックタイガーの群れに飛び込んだことか」
懐かしい思い出に浸り、目を細め頷くユーリは気付かなかった。引き攣った顔のアンネが少しずつ距離をあけている事に。
「話が脱線してしまったな。すまない。話の続きを……って、やけに遠くないか?」
「そ、そんなことないわよ?! 話、そう話ね!」
アンネは前世の記憶を思い出しながら重要となる点のみをかいつまんで話し始めた。ユーリは時折相槌を打つだけで、質問はせずに黙って耳を傾けた。アンネが一通り話し終わると、確認を始める。
「つまり、その乙女ゲームでは『逆ハールート』というのを選択すると最後に魔王討伐イベントが発生するんだな。しかも、攻略対象者全員の好感度がMAXに達していないとバッドエンドで魔王討伐は失敗し、皆が死ぬと」
「そう。最初は逆ハールートがある事を知ってみんな喜んでいたんだけど……好感度MAXじゃないとクリア出来ないとか鬼畜仕様すぎってゲーム会社にクレームもあったみたい。まぁ、その分一人だけを攻略するのはすごく簡単だったんだけど。」
「ふーん……ん?」
首を傾けたユーリにアンネはどうしたのかと尋ねた。
「そういえば、アンネはその逆ハーレムとやらを狙っていたんだよな?」
「最初はね」
「魔王が復活すると知っていたのにか?」
「……正直、楽勝だと思っていたのよ。前世で何度もクリアしていたし……魔王討伐のイベントには抜け道があってね、魔王討伐にはついて行かずに誰か一人を選んで王都に残るっていう選択肢もあったんだよね。だから、最終的に好感度がMAXにできなかったら王都に残ろうかなーなんて……今はもう考えてないですから! オ、オホホホ」
ユーリの侮蔑した視線とぶつかりアンネは慌てて視線を逸らし、空笑いを零した。
それにしても、とユーリは考える。アンネの記憶によると、その乙女ゲームでは学園卒業間際に魔王討伐イベントが発生し、その前兆として中級以上の魔物達が増え始めるいう描写があったらしい。
この世界がその乙女ゲームそのものだとは思わないが、近しい世界だということは理解した。ということは、魔王の復活もありえるということだ。
もし、その時期が早まっているのだとしたら……。
「今、魔王が復活したとすると、どうなると思う?」
「……正直、バッドエンドしか思い浮かばない。今の私についてきてくれる人なんていないでしょうし」
「私も参加するつもりだがそれでも?」
「ユーリがいたら確率は上がるでしょうけど、それでも二人でなんて無謀もいいところ」
「そうか……」
「でも、ほら。魔王が復活し始めてる、っていうのはあくまで私の考えだし。杞憂かもしれないし」
「それならそれでいい。だが、魔王が復活する可能性を否定出来ない以上、備えはあった方がいいだろう。私は引き続きギルドで情報集めをする。アンネは出来るだけ攻略対象者達の好感度をあげていてほしい。私も協力するから」
アンネと今後についてを確認しあった後、亜空間を解除して、その場で解散した。ユーリはアンネの背中を見送りながら、今のうちにレオンにも話を通して味方に引き込んでおいた方が良いかもしれないと考えていた。
アンネが短期間で用心深いレオンの好感度をMAXに出来るとは思えない。他メンバーについてはレオンの一言があれば討伐にはついてきてくれるだろう。
討伐の旅が始まってしまえばこちらのものだ。その旅の途中で攻略者達のレベルを叩き上げてしまえばいいのだから。
「とりあえず、レオンに会いにいくか」
レオンがこの時間どこにいるのか、あたりを付けながら歩き始めた。
レオンはどうやらすでに寮へ戻ってしまったらしい。ちょうど通りかかった生徒に頼んで手紙を渡してもらうことにした。
即席で書き上げた手紙は到底己の婚約者に渡すような代物ではなかった。後日二人で話す時間が欲しいという内容だけを端的に記した手紙だ。
しかし、ユーリが率先して手紙を書き、あまつさえ、わざわざ二人で話したいなんて書いてあるのだ、おそらくすぐにレオンは何かあると気づくだろう。
案の定、手紙を出した翌日には返事があった。次の休みの日に二人で出かけないかというお誘いと共に。離れた席から二人の会話を聞いていたアンネは「何仲睦まじくやってんだよ。ああん?」というジトっとした目をユーリへと送る。
視線に気づき、アンネとレオンの仲を取り持つという約束をしていたことを思い出したユーリは、スマホ代わりのピアスを通じて、慌てて理由を話した。
アンネはぷりぷりと怒りながらもしぶしぶ了承する。アンネ自身も今すぐに好感度を上げるのは無理だと考えていたのだろう。魔王討伐の旅中に急接近を狙うことにしたらしい。「今のうちに女磨きをしておかなくちゃ!」と弾んだ声が聞こえてきて、ユーリは思わず口元を押さえて笑った。隣のレオンから訝しまれたが、何でもないと首を振る。
通信が切れて、ユーリは小さく息を吐いた。
「事の深刻さをアンネは気づいていないのだろうな。……さて、レオンを引き込むにはどう説明するのが良いか」
ユーリは黒板を真っすぐに見つめるレオンの横顔をチラリとみて、頭を悩ませるのであった。
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