僕の秘密を知った自称勇者が聖剣を寄越せと言ってきたので渡してみた

黒木メイ

文字の大きさ
10 / 21

しおりを挟む
王城の会議室に秘密裏に緊急招集がかけられた。声がかかったのは国王バルドゥルの腹心たちと『レンと沙織失踪事件』に関わる者達。緊迫した空気が流れる中、最初に口を開いたのは他でもないバルドゥルだった。

「二人が消えた……というのは本当なんだね?」

バルドゥルの問いかけに、クリスティーヌが立ち上がってはっきりと答える。

「間違いありませんわ! 山の中を騎士達に総がかりで探させましたが見つからなかったんですもの!」

クリスティーヌの意見を肯定するように、トビアスが頷く。黙って報告を聞いていたマンフレートが鋭い視線をトビアスに向ける。

「二人の姿を最後に見たのはおまえか?」

下手な誤魔化しはできないと直感したトビアスはゴクリと息を呑む。あの時、トビアスはクリスティーヌの護衛についていて現場にはいなかった。そのことを堂々と言うのは憚れる。けれど、嘘はつけない。アメリアも知っているのだから。
悩んだ末、トビアスは一つ咳ばらいをしてペーターに視線を送った。慌ててぺーターが口を開く。
トビアスは万が一の時の為にペーターを連れてきておいてよかった、と内心ホッとした。

「レン様とサオリ様を最後に見たのは私です。サオリ様が少し山の中を歩いてみたいということでしたので、レン様が護衛としてついて行かれました」
「二人だけでいかせたのか?」
「は、はい。ご存じの通りあの山には強い魔物はいません。ゴブリンの集団は出ましたが、それもすぐに制圧しました。その後は魔物の気配すらありませんでしたので安全だと判断しました。それに……レン様でしたらどんな魔物でも対処できるだろう……と」

尻つぼみになるペーター。マンフレートはトントンと机を叩く。

「その結果、二人は消えたのか」
「は、はい! わ、私の判断ミスです。申し訳ありませんでした!」

ペーターは深く頭を下げた。マンフレートは眉頭を摘まみながら唸る。

「いや、その場に俺がいたとしても同じ判断をしたかもしれん。レンならたいていの魔物なら一人で処理できるだろう。……血痕などはなかったというし、おそらく二人とも無事だとは思うが……足跡は残っていなかったのか?」
「残念ながら山の中ということもあり、足跡らしきものは確認できず……申し訳ありません」

トビアスの答えに、マンフレートが険しい表情のまま思案する。

「もしかして……レン様はサオリ様を連れて逃げたのではないかしら」

そう呟いたのはクリスティーヌ。皆が注目する中、クリスティーヌは悲痛な表情を浮かべた。

「元々レン様は勇者としての立場を望んではいませんでしたわ。私のことも嫌っていたようですし。はやくこの国から逃げ出したかったのでは……。最近では魔物討伐もユウキ様に任せていたくらいですし、『真の勇者』と謳われるユウキ様が現れた今なら逃げても支障はないと判断したのかもしれません。そして、サオリ様もまたこの国に居づらくて一緒についていったのではないかしら。あの二人は仲がよろしかったようですし」

ちらりと、確認するようにアメリアを見るクリスティーヌ。けれど、答えたのは勇気だった。

「ありえない。沙織が俺に何も言わずにどこかへ行くわけがない! ましてや、あんなガキについていったなんて」

怒りを抑え込むように拳を握る勇気。そんな勇気を見てクリスティーヌは一瞬気にくわないというように顔をしかめたが、すぐに悲し気な顔を浮かべ、勇気の手を握った。

「ユウキ様がそうおっしゃるのなら、そうかもしれませんわね」
「ああ、きっとあのガキが沙織を攫ったんだ。絶対に許さねえ」

どうやら勇気の中では一つの仮説が出来上がってしまったらしい。
しかし、そこにアメリアが横やりを入れる。

「落ち着いてください」

じっと勇気を見つめる。無表情のアメリアはまるで精巧な人形のようだ。聖女特有の金色の瞳は心の中まで見透かしてきそうで勇気は堪らず視線を逸らした。
皆が黙っている中、アメリアは言葉を続ける。

「今わかっている事実は一つだけですわ。『レンとサオリが消えた』ただ、それだけ。憶測を語るには早すぎる」

反論したい様子の者達もいたが、アメリアの言っていることは間違っていないので黙るしかない。誰も反論しないのを見て、アメリアはニッコリ微笑んだ。

「ひとまず、二人が失踪したことは公表せずに内密に捜索しましょう。そのうちひょっこり顔を出すかもしれないでしょう?」

先程までの深刻さは消え、楽観視しているようにさえ聞こえる口調。
確かにその策が今の段階ではいいのかもしれない。けれど、万が一何かあったら……と思うと簡単には賛同できない。と、複雑な表情を浮かべる面々。
けれど、意外にもクリスティーヌがアメリアの提案を支持した。

「ええ、そうですわね。彼らがいなくとも特に問題はありませんし」
「でもっ!」

焦ったように反論しようとした勇気に待ったをかける。

「ユウキ様。捜索自体は続けるのですから、きっと大丈夫ですわ。ねえ、トビアス?」
「もちろんです。二人が消えたのは総指揮を任されていた私の責任でもありますので、全力で捜索にあたらせてもらいます」
「よろしくね。ユウキ様、大丈夫。きっと、すぐ見つかりますわ。ね?」

そう言って、クリスティーヌは慰めるように握った手に力を入れる。勇気はその手を握り返して頷いた。
アメリアはそんな二人を白けた目で見つめていたが、黙ってバルドゥルに視線を移す。
バルドゥルは何とも言えない顔で深く息を吐くと言った。

「ひとまず、アメリアとクリスティーヌの意見を採用するとしよう。対外的にはレンとサオリ様は今まで通り教会にいることにする。第三部隊には極秘任務として二人の捜索を命じる。他の者達は決してこのことを誰にもバラさないように」
「はっ」

緊急会議が終わり、クリスティーヌは勇気と共に出て行く。どうやら、もう実の父親の前でも隠すつもりはないらしい。次々と人が出て行き、アメリアも退出する。バルドゥルの方はチラリとも見なかった。慣れているとはいえ、『世の女性を皆愛している』と公言しているバルドゥルとしては苦笑するしかない。いつまで経っても正妃との距離は縮まりそうにない。

部屋の中に残されたのはバルドゥル、ベンノ、ギュンター、マンフレート……まあいつものメンバーだ。
バルドゥルが相好を崩して呻き声を上げる。

「ねえ~あの二人絶対出来てるよね~」
「おまえ、今気になるのがそこかよ。もっと他にあるだろう?!」
「言いたいことはわかるけどさ~親としては複雑な気分なんだよ~……あの浮かれよう……大丈夫かなあ」
「さすがにあいつだって自分の立場はわかっているだろう。まさか、この曖昧な状況下で一線は超えないさ」
「うーん」

マンフレートの言葉に中々頷けない様子のバルドゥル。ベンノがフンッと鼻で笑い、冷たく言い放つ。

「自分の子供だからこそ、信用ならないんでしょう」
「ああ……なるほど。確かにマルクスもだしな」
「うぐぐ。とにかく! レン達を早く見つけないとだね!」

――――あの二人が暴走する前に。

という言葉を呑み込んでバルドゥルは話を纏めようとした……のだが、ずっと黙っていたギュンターが思いもよらないことを呟く。

「私としてはユウキ様を推したいところですけどねえ」

「は?」と固まる面々。ギュンターの独特な思考を誰よりも理解しているベンノがいちはやくその言葉の意味に辿り着いた。溜息を吐き、睨みつける。
「ユウキ様はあなたの知識欲を満たす玩具じゃないんですよ」
「……ふふ」
「わらってごまかすな!」

無意味な言い争いが行われる中、バルドゥルはやれやれと頭を振る。
――――いっそのこと、ユウキが本当に勇者なら……。
そんなことをつい考えてしまった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

幼馴染パーティーから追放された冒険者~所持していたユニークスキルは限界突破でした~レベル1から始まる成り上がりストーリー

すもも太郎
ファンタジー
 この世界は個人ごとにレベルの上限が決まっていて、それが本人の資質として死ぬまで変えられません。(伝説の勇者でレベル65)  主人公テイジンは能力を封印されて生まれた。それはレベルキャップ1という特大のハンデだったが、それ故に幼馴染パーティーとの冒険によって莫大な経験値を積み上げる事が出来ていた。(ギャップボーナス最大化状態)  しかし、レベルは1から一切上がらないまま、免許の更新期限が過ぎてギルドを首になり絶望する。  命を投げ出す決意で訪れた死と再生の洞窟でテイジンの封印が解け、ユニークスキル”限界突破”を手にする。その後、自分の力を知らず知らずに発揮していき、周囲を驚かせながらも一人旅をつづけようとするが‥‥ ※1話1500文字くらいで書いております

神眼の鑑定師~女勇者に追放されてからの成り上がり~大地の精霊に気に入られてアイテム作りで無双します

すもも太郎
ファンタジー
 伝説級勇者パーティーを首になったニースは、ギルドからも放逐されて傷心の旅に出る。  その途中で大地の精霊と運命の邂逅を果たし、精霊に認められて加護を得る。  出会った友人たちと共に成り上がり、いつの日にか国家の運命を変えるほどの傑物となって行く。  そんなニースの大活躍を知った元のパーティーが追いかけてくるが、彼らはみじめに落ちぶれて行きあっという間に立場が逆転してしまう。  大精霊の力を得た鑑定師の神眼で、透視してモンスター軍団や敵国を翻弄したり、創り出した究極のアイテムで一般兵が超人化したりします。  今にも踏み潰されそうな弱小国が超大国に打ち勝っていくサクセスストーリーです。  ※ハッピーエンドです

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

【完結】魔王を倒してスキルを失ったら「用済み」と国を追放された勇者、数年後に里帰りしてみると既に祖国が滅んでいた

きなこもちこ
ファンタジー
🌟某小説投稿サイトにて月間3位(異ファン)獲得しました! 「勇者カナタよ、お前はもう用済みだ。この国から追放する」 魔王討伐後一年振りに目を覚ますと、突然王にそう告げられた。 魔王を倒したことで、俺は「勇者」のスキルを失っていた。 信頼していたパーティメンバーには蔑まれ、二度と国の土を踏まないように察知魔法までかけられた。 悔しさをバネに隣国で再起すること十数年……俺は結婚して妻子を持ち、大臣にまで昇り詰めた。 かつてのパーティメンバー達に「スキルが無くても幸せになった姿」を見せるため、里帰りした俺は……祖国の惨状を目にすることになる。 ※ハピエン・善人しか書いたことのない作者が、「追放」をテーマにして実験的に書いてみた作品です。普段の作風とは異なります。 ※小説家になろう、カクヨムさんで同一名義にて掲載予定です

勇者パーティーに追放された支援術士、実はとんでもない回復能力を持っていた~極めて幅広い回復術を生かしてなんでも屋で成り上がる~

名無し
ファンタジー
 突如、幼馴染の【勇者】から追放処分を言い渡される【支援術士】のグレイス。確かになんでもできるが、中途半端で物足りないという理不尽な理由だった。  自分はパーティーの要として頑張ってきたから納得できないと食い下がるグレイスに対し、【勇者】はその代わりに【治癒術士】と【補助術士】を入れたのでもうお前は一切必要ないと宣言する。  もう一人の幼馴染である【魔術士】の少女を頼むと言い残し、グレイスはパーティーから立ち去ることに。  だが、グレイスの【支援術士】としての腕は【勇者】の想像を遥かに超えるものであり、ありとあらゆるものを回復する能力を秘めていた。  グレイスがその卓越した技術を生かし、【なんでも屋】で生計を立てて評判を高めていく一方、勇者パーティーはグレイスが去った影響で歯車が狂い始め、何をやっても上手くいかなくなる。  人脈を広げていったグレイスの周りにはいつしか賞賛する人々で溢れ、落ちぶれていく【勇者】とは対照的に地位や名声をどんどん高めていくのだった。

俺が死んでから始まる物語

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていたポーター(荷物運び)のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもないことは自分でも解っていた。 だが、それでもセレスはパーティに残りたかったので土下座までしてリヒトに情けなくもしがみついた。 余りにしつこいセレスに頭に来たリヒトはつい剣の柄でセレスを殴った…そして、セレスは亡くなった。 そこからこの話は始まる。 セレスには誰にも言った事が無い『秘密』があり、その秘密のせいで、死ぬことは怖く無かった…死から始まるファンタジー此処に開幕

タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。

渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。 しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。 「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」 ※※※ 虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。 ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

収納魔法を極めた魔術師ですが、勇者パーティを追放されました。ところで俺の追放理由って “どれ” ですか?

木塚麻弥
ファンタジー
収納魔法を活かして勇者パーティーの荷物持ちをしていたケイトはある日、パーティーを追放されてしまった。 追放される理由はよく分からなかった。 彼はパーティーを追放されても文句の言えない理由を無数に抱えていたからだ。 結局どれが本当の追放理由なのかはよく分からなかったが、勇者から追放すると強く言われたのでケイトはそれに従う。 しかし彼は、追放されてもなお仲間たちのことが好きだった。 たった四人で強大な魔王軍に立ち向かおうとするかつての仲間たち。 ケイトは彼らを失いたくなかった。 勇者たちとまた一緒に食事がしたかった。 しばらくひとりで悩んでいたケイトは気づいてしまう。 「追放されたってことは、俺の行動を制限する奴もいないってことだよな?」 これは収納魔法しか使えない魔術師が、仲間のために陰で奮闘する物語。

処理中です...