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第七話

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 走ること五分。優香の背中を視認することが出来た。俺はラストスパートだと考え、残る力を尽くして走った。



「おい、優香、待て! 携帯電話忘れて行っているぞ!」



 俺のそんな声は無我夢中で走っている優香に届くことなく、彼女は走り続けた。ストライドは俺の方が大きく、ピッチも俺の方が速い。なのに簡単に追いつくことが出来ない。酸欠の頭でこれが世界の違う者の差なのかと考えてしまった。



 俺のような一般人と彼女のような有名人その溝は大きく、家族になったからって到底埋まるものではない。これが血のつながっている家族だったら別だっただろう。でも俺と優香は違う。俺たちは親の関係からできた関係。親たちは血のつながりと同等以上の繋がりである愛情の繋がりができている。俺たちはあの顔合わせから知り合った関係。最近は仲良くでき始めているように感じている。だがそれは本当の家族とは異なる。そうじゃないって、この半年で変わったって俺自身がそう思っているのに、でも何故かこの時ばかりは思ってしまった。



 長く拡張された時間から引き戻された俺は再び前を向く。その視界には歩いている優香に向かって突進している車の姿があった。そのすぐ後ろには膝を擦りむいた子供が泣きながらうずくまっている。車道で転けた子供を避けるために歩道に上がってしまったのだろう。しかも子供を避けたことで安堵した運転手は優花を轢こうとしていることに気づかない。



「優香! 危ない! 走れ!」



 俺の言葉を聞いて俺の方を向く。汗だくになりながら走っている俺の姿を見て、立ち止まる。



 違う、俺の方を向くんじゃない! 早く走れ!



 俺はラストスパートをかけたはずの肉体を更に酷使する。優花を助けるために。



 あと五歩。それは一瞬が生死を分ける今この場面では致命的な距離。だが一気に体が軽くなって、距離が一瞬で詰まる。いつもでは出来ないような走る速度。遅くなっている車や世界。まるで今までの体にかかっていた封印を一気に五つぐらい解除したかのようなその感覚。

 だが残りわずか足りない。それを加速する思考の中で判断した俺は着地のことを考えないで飛び込む。



「なんな、きゃっ!」

「うおおお!」



 到底間に合わなかったはずだった。だが実際には間に合った。俺は今にも轢かれそうになっている優花の背中を押す。運転手もそれにようやく気づいたようにハンドルを切る。俺が押したことと、運転手がハンドルを切ったことにより、優香は轢かれずに済む。

 だが俺は違う。車と衝突した俺は肺の空気をすべて吐き出された。ぶつかったことで俺は宙を舞う。地面に衝突するその直前、急ブレーキを踏んでいた車に再度轢かれる。速度が出ていないことが悪かった。街路樹に足が当たるが、そのまま進もうとするため、足が変な方向に曲がる。そして車が止まったことで俺は地面へと投げ出される。



「痛いわねぇ……へっ? 恭介、恭介!」 
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